不倶戴天   作:雨傘なななな

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基礎訓練、あるいは八つ当たり。

「教訓:射撃の基礎はシュテルメア様もご存知の通り、構えと力の抜き具合ですの」

 

「うん」

 

 杖弓を弓使いギルドで習った通りの動きで構え、バランスだけで弓を構える。

 アーチェリー選手が撃ち終わった後にクルリと弓を回すのはわざとではなく、力を抜いて弓を構えた結果ああなるという話だ。杖弓は雷の弦を使うため撃ち終わっても回らないが、回すぐらいの意識で構えなくてはならない。

 

「ですが実戦ではどの敵を撃つべきか、そして、どの部位を撃つのか、もっと言うならば相手に次どういう動きをして欲しいのかを踏まえて撃たなくてはなりませんわ」

 

「うん」

 

 装填された【迸る雷律】を放ち、無数に湧く魚達の先頭にいる個体を撃ち抜いた。回復アイテムにならなかっただいぶ嫌われてただろうなこの魚。……なってるけど嫌われてるか。

 

「注意:今のシュテルメア様も魚群の到達タイミングを少しでも遅くしようと安易に先頭の魚を狙われましたわ。当機であればもう少し後ろに撃つことで先頭の魚と後方の魚を分離させます」

 

「なるほど……? でもそれって結果論になり得る話じゃない?」

 

「肯定:ですが毎回先頭狙いはいけませんの。色々な視点を理解した上であえて先頭を狙うという形にしなければ」

 

 大きく頷きつつも【迸る雷律】と呟くことで次弾を装填、言われた通りちょうど三分の一のところで魚群を分離させるべく撃つ。

 

「……こういうこと?」

 

「称賛:お見事ですの」

 

 上手く出来たらしい。確かに分離は出来たし後方の魚群はコチラに向かう意思を少しなくしたようだが、もう次弾が間に合わないぐらいの速度で先頭集団が突っ込んでくるんだけど……至金の歯車・密案件かな?

 

「追加(めっ):シュテルメア様はお持ちの火力にかまけてとりあえずぶっ放す癖があります。そこも矯正の必要があるかと思われますわね」

 

「それはそうだね」

 

 歯車を起動しようとした手を軽く押さえたナナさんが前に出て、ガトリングをぶっ放して魚群を殲滅した。ナナさんそれ人のこと言えな……なんでもないです。

 

「歓喜:以心伝心ですわね」

 

「まさか表情見てないのに心読まれるとは思わなかった」

 

 魚群殲滅した勢いのままコチラに銃口向けるの勘弁願いたい。そんな大仰なやつじゃなくてもハンドガンで殺せるよ僕ぐらい。

 

「君達二人は何をしてるんだ……?」

 

 さて僕とナナさんの現在地はクリオネちゃんの封塔から少し離れた家屋の少ない広場。

 ルルイアスに来てから3日が経ったが、初日以降はクターニッドとの戦いに向けてひたすら戦闘訓練をしている所だ。

 

 ことの発端は昨日ログインした時に、ナナさんが放った「シュテルメア様はもう少し基礎訓練をするべきかと考えますの」という言葉だ。

 僕のステータスならあのタツノオトシゴ男にもう少し楽に勝てた、と。

 僕もまぁそれは間違いないなと思ったため、それ以降ナナさんに射撃の基礎を教えて貰ったり魔法の勉強をしたり異形術の蛇頭を上手く動かす訓練をしたりしているわけである。

 

「回想は終わったかい? じゃあ僕の話を聞いてもらおうかシュテルメア」

 

「あーうん。何さ」

 

 というわけで今話しかけてきているのはルルイアスに来る直前に知り合ったリベリオス。

 声のする方向を一瞥すらせず杖弓に新たな【迸る雷律】を装填し、性懲りもなく突進を敢行してくる魚群の先頭から2番目の魚に向けて放つ。

 

「それで、シュテルメアはどうして突然そんな基礎訓練を?」

 

「基礎訓練は基礎訓練でしょ……毎日したら技術が伸びるんだよ」

 

「ゲーム内の、ね」

 

 少し馬鹿にしたようなその物言いにハンと鼻を鳴らすことで馬鹿にし返す。そこを線引するから君は黒狼を纏めきれないんだよ。野心も能力も熱意も申し分ないから最高峰クランに入れたんだろうに。

 

「……なんだよ?」

 

 鼻で笑われたことに気付いたリベリオスの機嫌が少し悪くなり、言動が荒れてきた。分っかりやすいやつだねぇ。

 

「別に。ゲームだから本気でやらないって言って後悔したくないからやってるんだよ。……【迸る雷律】」

 

 バチバチと音を立てて雷が魚群を貫き、ついでに起動した「スローダウン・アロー」の効果により当たった魚達の動きが急激に悪くなる。

 これは割と隊列乱すのに役立つな……。

 装填しては姿勢を確認、力の入れ具合や番える雷の位置を調整しつつ放ち、装填してはまた同じように確認と調整を。ひたすら繰り返して身体に染み込ませていく。

 

 ……不機嫌そうにしばらく黙ってその光景を見ていたリベリオスだが、彼なりに色々と思う所があるらしい。

 

「……ゲームごときと見下している節はあったかもしれない。すまないね」

 

 珍しく……は彼に少し失礼か。まぁとは言えやはり珍しく自分の否を認めたリベリオスのせいで動揺が出た。

 メイドのような立ち回りで僕がナナさん以外と真面目な話をしているときは直立不動を貫くナナさんだが、今回は違うらしい。

 集中しろと僕の頭をハリセンで叩いた。地味に痛い。

 

「ふ。どうせ回復アイテムは必要になる。僕も混ぜてもらう」

 

「……パーティーメンバーはどうしたのさ」

 

「今日は集まりが悪いから別行動」

 

 何故か吐き捨てるように言った彼が試すように剣を振るい、冷気がばら撒かれて魚が止まる。

 おい辞めろよナナさんが訓練の邪魔だって怒るだろ。

 

「……剣筋の矯正からか……? いやでも……」

 

 と、思ったのだが彼も基礎訓練のつもりらしい。繰り返し試行錯誤を重ねて剣を振るその姿に、無表情で掲げられたハリセンを持った右手がゆっくりと降ろされ、嵐は去った。

 

「注意喚起:シュテルメア様、魔力の枯渇が見られます」

 

「おっと、ありがとう」

 

「提言:シュテルメア様には言うまでもないかもしれませんが、矢のバリュエーションも一つの手段ですの。」

 

「うん。でもそれ詠唱時間の兼ね合いで難しいんだよな」

 

「否定:雷を番えている状態であれば通状の矢も番えられるというのが当機の予想ですわ」

 

「……へ?」

 

 【迸る雷律】発動。杖弓に雷で出来た弦と矢が出現したのを確認し、「王国弓兵部隊の矢筒」から矢を一本取り出して恐る恐る弦に……え!?!?番えれるけど!?!?

 

「まじか……!」

 

 でも別に分けて撃てるわけでもないし少量のダメージ増加にしか……違うな、実態のある矢を雷の中に隠せるのは中々エグい隠し玉でしょコレ。駆け引きの一つとしても使える気がする。

 

「肯定:加えて追尾効果のある魔法であれば軌道をある程度操作することで直進する矢と曲がって対象を追う雷に分裂し、より高度な射撃となり得ると思われますの」

 

「うん。ナチュラルに心読むの辞めよう!」

 

「……ふ」

 

 おい笑うなよリベリオス、バレてるぞ剣筋ブレてるもん。

 

「シュテルメアはわりと考えていることがわかりやすいぞ。あとナナさんでしたか? 少し剣についてのアドバイスもいただきたく」

 

「…………受諾:やはり構えだと思われますわ。開拓者の方々はそれらしい構えで満足していることが多いので」

 

「なるほど」

 

「提言:次の動きを決め、そこに繋げるための構えを模索されては」

 

 例えばこう、と直剣を取り出したナナさんが構えを見せて、リベリオスがしっくりこないと首を傾げる。まぁリベリオスが使っている武器は両手持ちの直剣だけどナナさんが持ってるの片刃で長めの暗殺剣だし……。

 

「うーんリアルでも両手剣の構えを漁ってみるか」

 

「僕もアーチェリーの勉強したよ。けどリアルで使われてる技術は人間の体力とか筋力を前提にしてるから参考になるけど最終的にはちょっとズレるんだよな」

 

「へぇーえ。弓なんてあんまり身体能力の影響なさそうなのにな」

 

「わっかる。それが違うんだよ」

 

 

 

 いつもよりどこか暗い海の底で、彼等は戦いに備えて自分を見つめ直している。

 いざというとき自分を信じられるように。今を生きている自分のことを信じるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー忘れてた。そろそろ封将攻略進めるからシュテルメアの意思を聞きに来たんだった」

 

「なるほどね!!!!」









アニメでサンラクの二刀流の構えを始めて見た時に感動したんですよね。
めちゃくちゃ合理的に構えてるなって。こう、片方が攻撃で片方が防御と分けられてるというか。攻撃してきたヴォーパルバニーの包丁を防御しつつ首に剣を当てて倒したやつです。

前も話した気がしますが、ゲームでもそうじゃないものでも上に行けば上に行くほど初心者が考えもしないような部分に工夫が凝らされていて、そのちょっとずつの差の積み重ねでボコボコにされるんですよね。
長くなりましたが今回の話はそういうやつです。
つまりリベリオス君が上と戦うための一歩目を踏み出したかもしれないってこと。
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