不倶戴天   作:雨傘なななな

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倶に天を戴けど 其の五

 ──悪い夢かと思った

 必死で伸ばした手は届かなくて

 最後に君が僕の方を見た

 

「せめて貴方に───────」

 

 君がポリゴンの塊へと変わってしまう直前、その口がそう呟いた気がして

 世界が真っ暗になって、真っ白になって

 

 自分がどこで何をしているのかも分からなくなりそうだった

 

 

 

 

 

 

 第2回ルルイアス攻略も4日目。

 昨日基礎訓練中にリベリオスから聞いた話によると、封将攻略自体は各パーティーで勝手に行うらしい。このルルイアスに来ているのは僕とライブラリから派遣されたプレイヤーと他3パーティーの計15人(ナナさんは計算外)。

 クターニッドに挑む前日までに封将は倒しておき、最終日にルルイアス中心部に集合する形になったとかなんとか。

 

 ちなみにライブラリのプレイヤーはリベリオスのところとは別のパーティーに入っているらしいのでボッチは僕だけだ。

 

「じゃあ、とりあえずクリオネちゃんの所に行ってくるよ」

 

「肯定:十回まででお願いしますわね」

 

「………………もちろん」

 

 

・本日一回目

 最近はかなりクリオネちゃんと打ち解けてきた。お陰で僕が来る度にあ!みたいな反応をしてくれる。あと食べられる確率も中々増えた。好感度で捕食モーションが増えるとかどんなだよって感じだ。殺し愛的な?

 というわけで本日一回目の回避記録は触手攻撃14発。

 避けて進んだ先に待ち構えていたクリオネちゃんの平手打ちを頂いた。

 実は魔法職はその膂力から平手打ち喰らうと体力が全損するんだよね。

 

 

「驚愕:流れるような死亡ですねぇ」

 

「うん。食べられたかったけども」

 

 

・2回目

 避けた、避け損ねた。

 足元狙いをされるとしんどい。

 

・3回目

 避けて避けて避けて、最後の詰め。

 後ろから迫る触手をしゃがんで避け、さらに平手打ちされる前にさらに一歩前へ、捕食モーション!!!!

 

 

「うーんフェイン卜」

 

 捕食モーションを囮に触手を当てるの、まじで強いな。

 多分僕に対してだけだけどねあれが上手く決まるのは。

 

「次こそは……!」

 

 

・4回目

「好きです!!!!!!」

 今回は塔に入る前から溢れ出すこの想いを叫ぶことにした。なにも戦いながら言う必要はなかったのだ。

 今後は毎回この形式にしても良いかもしれない。

「……!?!」

 何回好きだと叫んでも驚くような反応をしてくれるクリオネちゃん可愛すぎん??と思いながら塔の外に吹き飛ばされた。

 

 

 そうだこれ好きですって言うと吹き飛ばしモーション入るから毎回やるわけにも行かないんだった。

 好きですって言うことより食われることの方が大事だとは言わないけれど、毎回吹き飛ばされるだけなのは余りに辛い。食べられたい。

 

 

・5回目

「ナナさん、あれは通常行動なんです?」

「肯定:残念ながら」

「他の所だけ見たら良い感じのにな」

「肯定:非常に残念ながら」

 

 ちなみに上はリベリオスとナナさんの会話である。小耳に挟んだ。大変腹立たしい。

 ……それはそれとして5回目の挑戦は触手を3回避けた後懐に入ることに成功、滑り込む形で潜り込んだ先には既に魔法が!

 

 ……リスポーン。

 

・6回目

 避ける、避け、あ。

 

・7回目

 さっきは惜しい所まで行った直後で少し気が緩んでしまった。引き締め直していざ。

 

 5本避けた。今回もうまく懐まで入った、捕食モーション、いやこれ、待て待て待て待てまだ耐えるがんばれHP肉体消し飛んでも気合で1残せばそれは生存んんん!!!!

 

 食われた。

 

 

「おぉ……最高……」

 

「怖い」「肯定:真顔になります」

 

 ナナさんはずっと真顔だろ……というツッコミを飲み込んで8回目。

 

 

・8回目。

「僕を食べて欲しい!!」と叫んでから塔に入る作戦を試すときが来た。実際食べて欲しいと叫んだ回は食われる確率が高めだと思われる。

 

「!!?」

 

 触手攻撃が2回。避けた、次撃なし……?

 

「え!」

 

 腕を広げて受け入れるようなモーション。まぁ多分食われる、食われるがそれこそ本望!!

 全速力で前へと走り出した所で突如、世界が反転した。

 

クターニッド(お義父さん)……!?」

 

「おい聞いただろアイツ今絶対ルビがおかしかったぞ!!!!!」

 

「否定:契約者の不名誉に目を閉じるのも当機の使命ですの」

 

「閉じるべきは耳でしょう!」

 

「一理ありますわね」

 

 ねぇよと言う暇もなく、封塔は揺れながら一回転し、広げられた腕に飛び込むこともできずに天井に落ちて頭をぶつけ……HPが全損した。

 

 

「──嘘だろ!!!!!!!」

 

 ガバリとリスポーン地点のベッドから起き上がれば、既に呆れ顔のリベリオスが窓からこちらを覗いていた。

 

「お前に娘はやれんってよ」

 

「うるさいよ!」

 

 吐き捨てつつ起き上がり、クターニッドに邪魔されないような策を練る。

 

「今日の決行可能回数はあと2回。両方食べられるためには……?」

 

 クターニッド、余りにも能力範囲が広すぎると思う。そんな……そんなに娘が大事か!?

 僕も大事だと思います。

 

「何してるのか理解できないが……僕も手伝おうか?」

 

 カチャリと剣を鳴らすリベリオスに必要ないと手を振り、ついでにナナさんに渡してあった深海の短杖を受け取る。

 

「ありがとう」

 

 無言のカーテシーによる一礼が帰ってきた。呆れられてる……?

 

「……案としてはそうだな……魔法は何まで使えるか試したのか?」

 

「……? 試してないけど?」

 

 ただクリオネちゃんの魔法無効はシンプルに発動キャンセル系だったから……あー、【爆水】は使えるのか……そう考えると意外と僕にもできることは多そうだ。【異形術】なんかも事前に使用しておけばステータスを上げた状態で挑めるかも……いや、

 

「否定:異形術は殺される前提では費用がいささか高すぎるかと思われますの」

 

 先に言われた。心読まれてるなー。もはや慣れてきたけれど。部屋へ入ってきたリベリオスを押しのけて色々と考えながら広場へと出る。もう少し封塔に近い場所に設定すれば良かったかな……。

 

「たとえば、シュテルメアはどんな魔法が使えるんだよ?」

 

「……水と雷だけかな」

 

「極端だよな君。それならやはりアクセサリーやアイテムに頼るとうまく行きそうだな。……これとか」

 

 そう言って海底を眺める僕に手渡されたアイテムは首飾りのような……

 

「なにこれ」

 

「3回使ったら壊れる消費アイテム。剣に付与される魔法の威力を底上げする」

 

「ほんまにうまくいくんか!?!?!?」

 

 おっといけませんわね思わず関西弁のツッコミが出てしまいました。昨日のお昼休みに漫才を見たからかもしれません。はたき落とされたアクセサリーを高いんだぞと愚痴りながら拾うリベリオスになんだコイツ、という視線を向けて、封塔の方向へと歩き始めた。

 

 

・9回目

 ──封塔の真下についたときから戦闘音がしていた時点でなんとなくそうではないかと思っていた。知らない誰かの声が聞こえる。

 ……ただ、ずっと目を逸らし続けていた現実を見る時が来てしまっただけだ。

 

「うんまぁ問題ないな。情報通りだ!」

 

 封塔に入ると中では数人の剣士がクリーオー・クティーラーの触手をほとんど切り落とし終えて、その首を取らんとスキルを起動しては攻撃力を上昇させている。

 

「行けリーダー! さっさとトドメを刺そう!」

 

 勢いと反射で取り出した杖弓にはいくら【迸る雷律】を唱えようとなにも装填されない。

 例え撃てたとして僕は何を撃つつもりだったのだろうか? 知りもしない他人を? それとも愛するモンスターを?

 僕の肩を掠めるように矢がどこからか飛来し、お前が「海の化身」だと分かった時点で撃ち殺すと言う脅しが頭を過ぎった。

 

「ま、待て、待ってくれ、せめて……!」

 

 せめて僕に倒させてくれという願いはクリーオー・クティーラーの持つ魔法無効効果によりなんの意味もなさない。彼等もボス格のラストアタックを知らないプレイヤーに譲るつもりなんて欠片もないだろう。

 

 剣が振るわれ、最後の触手が落ちた。

 

 後ろからクリオネちゃんの代わりに斬られようと走り出す僕をリベリオスとナナさんが止めている。

 

 守りたい。守れない。そもそも望まれていない。

 僕の時は反転まで使ったクターニッドは娘が殺されようとしていてもなんの反転も行わず、その剣はクリオネちゃんの首に迫っていく。

 

「あ、ぁあ、あぁ!!!!」

 

 バラリ、と砕けるように彼女の肉体が崩れて、ポリゴンの塊へと変換されていく。手を伸ばしても届かない。届いたとしても僕の手はその崩壊を抑えることすらできない。

 

 とっくにスローモーションだった世界はより遅くなって、より鮮明に僕にその瞬間を見せた。

 

 弾けるような音、ぼやける視界、そして世界は反転して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────僕は不倶戴天の現実を知ったのだ。

 

 感情の制御不可による強制ログアウトの通知、それとクリーオー・クティーラーの最後の表情が脳裏にこびりついた。












知らない他人よりも愛するモンスターの方が遠い。だから倶に生きられない。
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