リベリオスは見た。
リベリオスは知った。
リベリオスは聞いた。
……リベリオスは、聞いてしまった。
『僕は、友達の隣に胸を張って立つためここにいる……!』
シュテルメアの叫びを、シュテルメアの想いを。
自分はどうだ?
あの決闘でオイカッツォに負けてからの自分はどうだ?
友の隣に胸を張って立てるのか?
そもそも友などいるのか?
共に頂上を目指すと誓いあった仲間からは見捨てられ、自分の力を借りたいなどと宣ったアーサー・ペンシルゴンは自分に爆弾を投げつけた。
「あんたはもう黒狼のリーダーじゃねぇ。能力もなけりゃ作戦もまともに遂行できないんだからな」
このままお前に着いて行っても落ちぶれるだけだとかつての仲間達は言った。
わかっている。自分でも分かっている。
闘技場の隅に蹲り、己の剣を抱えてリベリオスは震える。
クターニッドは最終形態に移った。既に攻略済のプレイヤーがいたことによる影響で、その力はジークヴルムも霞むほどのモノを見せている。
勝てない。誰もが分かっていることだ。例えばここにいるのが自分ではなくサイガ=100であれば話は違っただろうが、実際にいるのは何の役にも立てない自分だ。
だが、そう、聞いてしまったのだ。
友を討つことなどしないと。かつて自分が屈した圧倒的な威圧感を前に、シュテルメアは自分の意思を貫いた。
どの口で自分は彼に「友達だ」などと言ったのか。
他人に嘘をつき、自分に嘘をつく、こんな惨めな人間が……!
「まだ……」
雷鳴が響く、銃声が響く、鉄がぶつかり合う音が響く。
血と死の匂いが鼻腔を擽る。
「まだ……」
「がッ、あぁ、クソ!!!!! 強いんだよあの蛸!!!」
近くまで吹き飛ばされてきたシュテルメアが悪態をつく。
ふとそちらを見れば、彼には既に右足と左手がない。それでは杖弓も弾けないだろうという言葉は声には出ず、表情だけが歪む。
「リベリオス!!!」
「なん、だい……?」
「友達なんだろ! 手伝ってくれ!!! あのクソ蛸ぶっ飛ばす!」
既に自分は折れてしまった。その要請には応えられない。そう伝えようとして……リベリオスはふと一切の動きを止めた。
──シュテルメアは何度折れたのだろうか?
今の彼の目は、ここ最近の自分と同じではないのか?
もう既にシュテルメアは近くにいない。【ウォーター・ジェット】を駆使して水魔法で攻撃しようとクターニッドに接近している。
「君の隣に……立つために」
聞いてしまったその言葉を呟いて、リベリオスは胸に抱いていた愛剣の柄を握ってゆっくりと立ち上がる。
「僕だって……!!」
黒狼のクランリーダーの証が刺繍されたマントを脱ぎ捨て、リベリオスはクターニッドに向けて走り出した。
◆
はい視点代わりまして左手右足失ったシュテルメアです。
クソッたれクターニッドは巨体でプレイヤーコピーしながら聖杯をランダムで一個発動させます。今は僕のコピーで雷魔法を弓から連射して近距離無効の赤聖杯使用中。キレそう。
「どうしろってんだよ……! 【異形術:蛇竜】!!」
異形術により失った左手を竜頭で代用、さらに追加で下半身を蛸足に異形化!
これでアドバンテージはむしろプラス。杖弓を取り出し、3つの竜頭に加えさせつつ前衛のプレイヤー達を蹂躙するクターニッドの動きを観察する。
一定以上の威力の攻撃自体は至金の歯車・密と【轟雷の矢】のコンボで問題ないと思うのだが、強化により聖杯破壊とダメージ以外のクリア条件が追加されている可能性が高いのが問題だ。
「【加算詠唱】……!」
『───Analysis.』
現在待機させているのは【雷撃の道筋】、それと【爆水】のストックが残り二つ。
蛸足でによりそこそこの速度を出してクターニッドに接近、ぶっ飛ばす!
『───Reflexus.』
聖杯が再び輝き性別反転(クターニッドの性別は存在しないためボーナスタイム)+剣士コピーへとクターニッドが変化する。いやこれわっかりやすいチャンスだろ!
クターニッドの背に出現した巨大な魔法陣から飛び出した触手による全体薙ぎ払いを蛸足の移動速度で避け、さらに接近!
「さっきぶつけ損ねたコイツを喰らえ……!」
練習通りの動きでクターニッドが振るった剣は竜頭を絡みつかせるように惑わすことで反らし、さらに蛸足による一歩分前へ! 竜頭ゼロ距離、条件達成!!!
「【異形術:魂魄撃】!!」
竜頭から放たれる波動、クターニッドがよろめき、さらに接近しながらも詠唱して杖弓に装填していていた魔法を弾いていた竜頭の一つが口を開けることで雷が貫く!
「【轟雷の矢】!!!」
頭部へのクリーンヒット、クターニッドの巨体はさらに一歩後ろへ下がり、同時に反動で僕の身体も後ろへと吹き飛ばされる。
蛸足での体勢制御が練習込でもむずい……いや待てお前その体勢で剣振るうなよ避けれるかいや【爆────
「吠えろコキュートス【冷牙の輝き】!!!」
「…………ッ! リベリオス!!!」
氷が剣を捉えて弾いた、一瞬あれば蛸足でも体勢制御可能、今は感謝云々よりも追撃を!!
「【代償詠唱】!!!」
曲芸のような動きをしつつも既にまだ残っている人の手はUIを操作して体力と魔力の回復ポーションを取り出している、ナナさんが聖杯に銃弾を浴びせている、リベリオスは復帰、前線はほとんど崩壊しているが後衛は魔法で牽制中、いやまだ勝機はある!!!!
「礼はいらない、僕は……僕だ!!! 凍て付き迸れ、コキュートスッ!」
……何の話してるんだアイツ……??
ちょっとよく分からないがその冷気はクターニッドを蝕み、たしかにその動きを鈍らせている。いやうん僕も忘れてたけど僕ってば火力職じゃなくてデバフ職なんだったってのは兎も角詠唱完了……!! 狙いは聖杯、全部砕いてから反応を見る!
「──ッシ、【ライトニング】!!!」
雷鳴が響き、冷気が広がり、クターニッドがくぐもった声で愉快そうに笑う。
雷に貫かれた藍色の聖杯が砕、け、
「ガッ……ぁ……!?」
身体から数本の巨大な棘が飛び出た、HPは残り1割、いやおいこれ破壊に反動ダメージ……!?
「まじで言ってんのか!?」
僕から棘が飛び出る光景を見た前衛プレイヤーがモロにクターニッドの剣を喰らってリスポーンした、残りは前衛3人と後衛4人、リベリオスと僕とナナさん……!
「クソッ、きついぞこれ……!」
『───Reflexus.』
聖杯が輝いた。黄色……は、物理、スキルの攻撃無効!
「魔法で攻めろ、物理職は凌ぎと回復!」
「無理無理無理!!!」
クターニッドがコピーしたのは魔法職。コチラの魔術師が放った魔法の数倍の同魔法が放たれ、その明らかな威力さに魔術師の一人が吹き飛ばされてリスポーンした。
「リベリオス! 冷気は魔法職にあんま意味ないだろ! 後衛の防御を頼む!」
「ッ! 頼まれた!」
「ナナさんは頭部への継続攻撃でクターニッドを引き付けてくれ、回避優先! 僕が叩く!」
「了承:おまかせあれ」
「……俺達は!?」
まだ生きているプレイヤー達が、クターニッドと戦いながらもコチラに指示を求めて叫ぶ。
「普通に戦ってくれるやつがいないと戦線は崩壊する! できるだけ死ぬな!」
「クソッ、了解した!!」
ギリギリの戦い。取り出した体力回復薬をガブ飲みするが、回復してなお聖杯破壊の反動ダメージで死ぬ。
後衛5人で5個の聖杯を破壊しても残り一つ……ナナさんに聖杯は狙わせられない、リベリオスも含めればギリ行けるか……!?
「魔法職! リスポーン覚悟で一人一個で聖杯破壊してくれ!」
蛸足で滞空していることを活かして指示をしようと呼びかけようとした……その時には既に火属性の魔法が一つ、赤色の聖杯を貫いていた。
「………ッ、さすが!」
さらに一つ、さらにもう一つ。息を合わせたかのように次々と聖杯が砕かれていく。
「頼むぞ!!」
最後の魔術師がそう叫んで魔法を放った。気持ちは受け取った。答える暇はない、だが必ず倒す……! 残りの味方は僕とリベリオスとナナさんと前衛一人!
後でリスポーンした先で勝鬨でもと心で叫びながら残り二つの聖杯を見据えて友達の名を叫ぶ!
「リベリオス!!」
いつのまに連携したのか、ナナさんのブースターに吹き飛ばされるような形でリベリオスが剣を振り上げながら空中へ飛び出した、
「分かってる! 【氷獣の爪撃】!!」
聖杯の破壊と同時、クターニッドの剣がリベリオスを捉え、反動ダメージと合わせて彼のHPが全損してポリゴンへと変わって消えた、だがまだ!
至金の歯車・密起動! 竜頭はギリギリ形を残しているが蛸足の効果時間が切れた、水に受け止められてゆっくりと地へと墜落しながらも集中力を維持して雷の弦を引き絞る……!
「【轟雷の矢】!!!!」
落ちながらの狙撃には慣れてるんだよと叫んだ、僕が死んでもこのシナリオだけはクリアさせると再度心に誓う、最後の聖杯へと雷が吸い込まれるように水を切り裂いて進み……!
「が、ァ……!!」
……そして僕は、決戦場の舞台から死を持って引きずり降ろされた。