本番だ!!!!!!!!
フユネ=77と前衛職……オウギンガと言うプレイヤーネームの男、そして聖杯を全て砕かれたクターニッドだけが残された決戦の舞台にて、クターニッドの独白は始まる。
『闘争こそが命の本質。なればこそ……足りぬ』
「完全否定:なにが本質、なにが闘争、彼はそんなものでは……!」
まだ駄目だ、と、クターニッドの言葉に己の主人の望みはまたも隔たれたかとフユネ=77は苦悶の感情に支配される。
できればこの命の全てを使っても眼の前の存在を打倒し、主人の心を救いたい。……だが、当の主人こそが自分の命が消費されることを望まないだろうと判断したフユネ=77は巨大な触手の闘技場への薙ぎ払いにより最後の開拓者がリスポーンした時点で、ブースターを起動してルルイアスを飛び出した。
『……………まだお前達は何も成していない。』
前回と同様に、悲しげな雰囲気を纏ってルルイアスが反転されていく。
それこそ、何事もなかったかのように。
クターニッドの攻略失敗。
ライブラリの情報操作
ミレィによるオルケストラ攻略
サンラクの隠遁
転移までしてきた他プレイヤーの助けを断るライブラリの懐刀の様子を移した映像証拠
黒狼のプレイヤー達による「2度もルルイアス攻略に失敗したプレイヤー」への糾弾
そもそもライブラリの人選がおかしいという声
傾きかけていた世論は完全にライブラリを悪と決めつけ、その矛先はより鋭くシュテルメアへと向かった。
なんとかその流れを押し留めようとするライブラリの情報操作は尽く裏目に出、最終的に行き着いた先は……
「はぁ!? シュテルメア君が諸悪の根源……!?」
……彼にさらなる試練を与える。
ミレィがあり得ないと叫ぶが、既に世論がそうなってしまったのだとキョージュが悲しげに首を横にふった。
ミレィやシロミ魚達がせめてライブラリに矛先を向けようと行った情報操作は、アーサー・ペンシルゴンのより巧みな情報操作により「ライブラリは真の悪を匿おうとしている」という形で世に受け取られた。
ここまでは、そう、まだここまでは良かった。
だが事態はここから現在までの間により最悪へと転がった。
……ルルイアス攻略失敗から3日目のことだ。
攻略が終わってから日数が経ったにも関わらずシュテルメアが一切表に出てきていないことはその世論に拍車をかけ、つまり……クターニッドに勝てなかったことでライブラリに見限られたのだと受け止められたのだ。
「うふふ、ここまでうまくいくともはや申し訳なくなってくるねぇ」
「嘘つけ」
「嘘じゃないよ。シュテルメア君にも細々とであればシャンフロを楽しんでほしいと思ってるし、ネ?」
どこかで高笑いをしている女帝、アーサー・ペンシルゴンの狙いは簡単かつ徹底している。
ライブラリを責めすぎず、ライブラリの情報源を削る。
その目論見は見事に成功し、シュテルメアはシャングリラ・フロンティアの世界を去ろうとしている。
ミレィの横にも並べず、世間から向けられる悪意を一心に背負い、海の化身の被害にあった者達の恨みを背負い、愛するモンスターとの仲を引き裂かれて。
「大変申し訳ないが……しばらく彼には身を隠してもらうしかないだろうね」
「そんな、そんなことは!!」
自分達のせいでシュテルメアは辛い想いをしているのに?というシロミ魚の問いにキョージュは答えず、眉間に寄った皺を揉む。
彼自身もここ数日の心的疲労が効いているのだろう。
「………ッ!」
唇を噛むことしかできない。どうすれば良かったのか?どうするべきだったのか?そんな巡る想いに見切りをつけ、シロミ魚は少しでも状況を変えようと未来へと思考を回す。
「クソッ、ゴミすぎる。なにが英雄、なにが情報、なにが考古学、なにが世論!! どれがあっても友達一人さえ救えない!」
嘆きの声がクランハウスに響く。誰もがどうしようもないと項垂れて、毎日行っている業務に戻ろうとして……余りにも聞き覚えのある存在感のある声が彼等の鼓膜を揺らした。
「やぁやぁ、ライブラリの皆さん! このペンシルゴンちゃんとオイカッツォ君が助けに来ましたよ!」
「……………………………………は?」
あり得ない、あり得ない、まさに今もっとも自分達に恨まれている人物の登場。ミレィとシロミ魚が反射で武器を手に取り、キョージュに宥められてその動きを止めた。
「シュテルメア氏が心配なんだよね、分かるよ〜?」
「うーわお前、人に護衛させといて初手煽りから入るの辞めなよ」
「無理だね!」
「……何をしにきたんだね?」
情報操作を行いライブラリに攻撃した張本人。もちろん決定的な証拠はないのだが、その悪辣な手腕からライブラリの誰もが彼女の犯行だと疑っていない。
その人物の言葉は、あまりにも彼等の理性を刺激する。
「いやだから、助けに来たんだよ〜、私と契約を結べば助けてあげるって」
「………………………………契約内容と、助けるという言葉の詳細の説明を求めよう」
「キョージュ!?」
仇敵に助けを求めるのかと悲鳴のような咎める声をライブラリのリーダーは無視して商談室へと彼女らを案内する。
「私らからの要求はシュテルメアにルルイアスへの挑戦権を永久に与えないこと! 対価は世論の操作になるかしら?」
真紅のコートに身を包んだアーサー・ペンシルゴンは堂々と一切の悪びれなしに宣う。
「あぁもちろん、多額の報酬金は頂くけどねー♡」
「……………しばらく考えさせてくれ」
「期限はこの場に決まってるでしょお? それ以降はより苛烈になるかもネ? 何がとは言わないけれど」
────シュテルメアのルルイアス挑戦権の永久剥奪と多額の報酬金の支払いは、この交渉の翌日に行われ……彼女の言葉通り事態はゆっくりと収束していった。
「シュテルメアとかってプレイヤーのメンタルに出来るだけ多くのダメージを与えてかつ、ライブラリが蜂起しないギリギリのタイミング……悪辣過ぎでしょお前」
護衛ということで連れて行かれたオイカッツォが、帰り道にドン引きした様子で呟いた。
「聞こえないなー」
……上機嫌なアーサー・ペンシルゴンには聞こえなかったようだが。
ライブラリのクランハウスに、机に拳を叩きつける音が虚しく響いた。
◆
夜、誰もいないイレベンダル付近の海辺にて。
投げたそこらに落ちていた石を海に投げた。チャポンと緩い音が虚しく響き、隣のナナさんがゆっくりと僕の背を撫でた。
クターニッドとの決戦から12日。
久しぶりにログインしたのだが……どうやら最近僕への攻撃は鳴りを潜めているらしい。
何を思ったのだろうか。
メール欄を開けば、ライブラリからの「クターニッドへの挑戦権の永久剥奪」を知らせるモノが一通だけ。
「僕は……僕は……」
その文言からクリーオー・クティーラに会う機会が永久に失われたのだと理解するのに大した時間はかからない。かかるわけもない。
「全部、全部だ……全部取りこぼして……僕の選択は何一つ正しくなかった!!」
掴んだ石を思いっきり投げる。
もう辞めよう。海を見ても辛さしか浮かんでこない。僕はこの世界にいないほうが良い存在なのだと突き付けられた。
もう、もう、自分がここで生きる理由はない。
「否定:
ナナさんが慰めの言葉をかけてくれようとするが、僕が海に飛び込んだことで結局聞くことなく終わった。
水中呼吸用ポーションも魔法も使わず、暗い暗い海の底をゆっくりと眺め、水を掻き分けてどこかへと進む。
『ゴボッ……ガ……!!』
すぐに呼吸の限界が来るが、水面には上がらない。
最後まで海中に広がる孤独な世界を見つめて……リスポーンする直前、フユネ=77によって引き上げられた。
「言ったはずです!
「……………………でも」
「伝えてきたはずです!!
「………。」
「貴方は、あなたは!! なにもわかってない!!全部背負って、自分のせいだって言って!!!」
フユネ=77が息を荒らして叫ぶ。全霊の想いを込めて。自分が契約したいと思った人間はこんなものではないと。
「…………………………ごめん」
「赦しません!!! 今貴方は、自分で命を絶とうとしたから! それは、いくら生き返る開拓者だと言っても、それは!!!」
「…………ごめん」
フユネ=77は拳を血が出そうなほどに握りしめて、叫ぶ。
届け、届いて、届いて、気付いて、当機は貴方が、
「シュテルメア様が力尽きた後、
「………………なぜ?」
それは、どうして倒さなかったのか?という疑問と、どうして投げ売ってまで倒そうとしたのか?という疑問が合わさった言葉。そしてその複雑で単純な疑問に対する答えは、
「貴方が悲しむと思ったから!!! どちらにせよ悲しむだろうけれど!
「……当たり前、だよ」
なら何故、とフユネ=77は、いや、ナナさんと呼ばれる征服人形は悲痛に叫ぶ。
「どうして貴方も
「!!!」
驚いたような顔、ゴクリと唾を飲んだシュテルメアが、悲痛な表情のままに謝る。
「その……本当にごめん。動転してた」
「えぇ、えぇ。赦しませんけれど!!」
悲痛な表情、だが少しだけ笑顔が戻った二人は、ゆっくりと抱き合う。お互いを慰めあうように。辛さを分かち合うように。
「───!!! ミレィさん、やっぱりここにいた!」
「ですよねぇ!!」
「「!?!?」」
抱き合う二人がパッと離れ、声のした方向を見ると、そちらには全速力と言った勢いで急な坂を駆け下りるシロミ魚とミレィがいた。
「フレンド欄がログイン中になっていたのでぇ……! ここにいるかと思いましたぁ!」
そう、ここは「海の化身」を倒すためにミレィと二人で小舟を漕ぎ出した場所。
それはあるいは、見つけてほしいというシュテルメアの無意識の想いかもしれない。
「なにしに……」
自分はライブラリに見限られたのだろうと悲しげな表情が少し戻ったシュテルメアがつぶやく。
「僕はミレィさんに並べなかった。……その、ごめん」
「そんなことは良いんですよ! それで、シュテルメア君はこれからどうするんですかぁ!?」
「そんなことって……………引退はしないよ。ナナさんとノンビリ深海探索でもしようかなと思ってる」
「海の化身」のこともあるし、と続いたシュテルメアの言葉にナナはホッとしたような表情をするが、対象的にミレィは怒りの溢れた表情を見せた。
「クリオネちゃんのことはどうするんです」
「……………………………僕はルルイアスから永久追放。会えないならどうしようもないよ」
小さく肩を竦めて吐き出されたその言葉は、誰にも届かないような小さな悲鳴が混じっていて。
パシ、と乾いた音が海辺に響き、頬にダメージ判定が入った。ナナさんが怒るのではと思い彼女を止めようとするが、そちらに目を向けても銃口を向けるような様子はない。ホッとしたような拍子の抜けたような気分でミレィさんの方へ向き直ると、彼女は僕の胸ぐらを掴み、その細い目を見開いて叫んだ。
「あなたは! シュテルメア君は!」
「………うん」
「そんな、普通の人間じゃないはず! 全プレイヤーの怒りを買うことになっても! 誰もそれを望まなくとも! それでもあの子に会いに行くような、面白い人間だったはずでしょう!」
「でも、」
「今のあなたなんて、面白くもなんともない!」
「…………うん」
「邪魔者なんて全部ぶっ飛ばして! 好きな子に会いに行きなさい!!!」
命令するような口調。
だがゆっくりとシュテルメアの目に光が戻っていく。
そうだ、と彼が呟いた。
「全部失ってなんていない。……僕は、僕は」
二人の女性が彼を正面と後ろから見守る中、シュテルメアは自分だけの、自分のための性癖を叫ぶことにした。
「クリオネちゃんに会いたい……!!!!!!」
全部救う。