不倶戴天   作:雨傘なななな

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哀しき深海よ、我こそは海の化身
いかに温厚な私とて……×8人


「よし、じゃあルルイアスに向かう船沈めちゃいましょうかぁ」

 

「いや待って待って率直すぎる」

 

 ……さてここは旧大陸にある錬金術師ギルドの地下室。

 「禁忌の終着点」と同じく許可を得たプレイヤーのみにしか入れないエリアなのだが、何故かその許可を出す人間がシロミ魚さんであるらしい。いやおいいつのまにそんな権力者になったんだ。

 

 と、いうのは置いておきまして、広めの古びた書斎と言った雰囲気のこの部屋(密会にちょうど良すぎた)に現在集まっているのは僕ことシュテルメア、ナナさん、ミレィさん、シロミ魚さんの4人。

 ちなみに開口一番で爆弾発言をしたのがミレィさんで止めたのが僕だ。

 

「えー、でも普通に考えて、もうルルイアスに向かうメンバーが決まっている以上……その船沈めて勝手に行くしかなくないですかぁ?」

 

「いやPKになるんだけど……?」

 

「私はいいですよぉ!」

 

「肯定:当機も問題ありません」

 

「自分は問題あるから実行犯はパスだな。裏工作と攻略開始タイミング報告は任せてくれ」

 

「うーん終わってんね」

 

 あはは、と冗談っぽく笑ってみたものの、誰の目も笑っていない。……え、まじで?

 

「要は殺さなければ良いんですよ。船に穴開けて航海不可にするでも、海賊船用意して正面衝突させて粉砕するでも」

 

「…………その、魚人族の伝で連れて行ってもらうとかは?」

 

「なしですねぇ、魚人族が定期的にルルイアスにいるのは入り方を知っているからではなく招かれているからなのでぇ」

 

「なるほど」

 

 さて、実際ユニークモンスター討伐へと乗り出そうとしている者達の船を沈めてまでクリオネちゃんに会いたいかどうかなのだが……まぁ会いたいよね普通に。

 ただやはり無関係の人に迷惑をかけるというのが足を引っ張っている。船を沈められたくなければ僕もルルイアスの攻略に混ぜろとライブラリを脅すとか……黒幕の真紅のコートの女を闇討ちするとか……あんま変わんないか。

 

「実際、シュテルメア君が他のプレイヤーへの迷惑云々考える必要はありませんよぉ、そもそも無関係のシュテルメア君をゴタゴタに巻き込んだのも赤の他人ですし、色々と勝手な憶測を話しているのも赤の他人ですので〜」

 

「ミレィさん実はめちゃくちゃ怒ってるよね」

 

「当然ですよ〜」

 

「は??自分もバチ切れてるんだが?」

 

 シロミ魚君はかなり前からシュテルメア君を心配して色々奔走してましたからね、結果がこれじゃそりゃバチ切れます、とニヤニヤと笑いながら追加するミレィさんの口をシロミ魚さんがなんとか止めて、話をもとに戻した。

 

「それで、どうする?」

 

 あーいや戻しちゃ駄目だ。その前に、

 

「……色々、ありがとう」

 

「どういたしまして〜」「うん。友達だから同然だろ?」

 

 二人とコツンと拳を軽くぶつけ合い、再びこれからの動きについて思考を送る。

 確認のためナナさんの方を見れば、ニコリともせずにお辞儀をされてしまった。うん、これは好きにしろって感じだろうな。

 

「よし。じゃあ……沈めることにしよう。鬱憤晴らしだ」

 

「やっほい!」

 

「派手に頼むぞ」

 

「肯定:ついでに黒幕にも船をぶつけましょう」

 

「さて。方向が決まった所で……プレイヤー十五人相手に僕とミレィさんとナナさんだけじゃ勝ち目が薄いよね」

 

「ですねぇ」

 

「だからちょっと助っ人を呼ぼうかなと」

 

「いや自分達以外に助っ人なんて…………まさか皆でやるのか!? それは……自分も実行犯になるだけの価値があるな……!?」

 

 そう、第一回ルルイアス攻略パーティーの皆の力を借りる方向性で行こうと思う訳だ。

 落ち込んだすぐ後だしたくさんの人に迷惑をかけるわけだが、それを踏まえても流石にワクワクしてきた。

 

「キリキリ舞いさんと臥竜点睛さん、船長。あぁー、あとリベリオスにも連絡取れる?」

 

「え? あの人も呼ぶんですかぁ……?」

 

「もちろん。アイツも……友達だからね」

 

「しっかたないですねぇ〜」

 

 これで8人。あとは……あれ、僕はここまでの道のりでたくさんの縁を得てきたと思っていたけれど、意外と使える手は少ないらしい。おっかしいなー……あと仲良い人ってコルトさんぐらいか?

 

「うん、他に誘いたい人いる?」

 

「私はレミィちゃん連れていきますよぉ」

 

 おっと忘れてた。9人か……まぁこれだけいれば船を沈めるぐらいはできるのではないだろうか?多分。

 

「恐らくだが今回の挑戦メンバーは形振り構わないフルメンバーで来る」

 

「…………それ前回も言ってませんでしたぁ?」

 

 結果来たのはリベリオスさんなんですけど〜と、ミレィさんが愚痴る。嫌われてるなアイツ……可哀想に。

 似たような愚痴や相談が少しの間続いた後、各自の今後の動きを決め、解散の運びになった。

 最後にミレィさんがすっと拳を突き出して……戻してしまう。

 

「円陣みたいなことをしとこうかと思ったんですけどー、皆集まってからのほうが良さそうですねぇ」

 

「いーや、ミレィさん」

 

「?」

 

「こういうのは何回やったって良いんだよ。仲間の証だから」

 

「同意:全員集まった後もう一度行えば良いと思われますの」

 

 僕がゆっくりと拳を突き出せば、横でナナさんやシロミ魚さんも同じようにしていた。

 

「あーもう、仕方ないですねぇ。じゃあシュテルメア君は音頭をお願いしますよぉ」

 

 音頭……音頭……まぁ言う事なんて決まってるか。

 

「派手な花火を上げるぞ!」

 

「「「おう!!!」」」

 

 ──ライブラリが導線をひき、真紅の騎士が油を注ぎ、世界が火を着けた。その結果を世界が知る日は近い。

 

 双王戦争の後に纏められたシャングリラ・フロンティア伝記に最悪の事件として記述されることになる「旧大陸海戦」が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 夜空に瞬く流星群に紛れて、星の海を泳ぐように隼が飛び、各地でそれぞれの望みを果たそうと生きる者達の元へと手紙が届けられる。

 

 新大陸樹海に。

 

 新大陸のとある浜辺にある墓地に。

 

 一人を除いて誰もいなくなった新大陸元黒狼拠点に。

 

 ──勇魚は見た、彼が立ち上がるその姿を。

 オルケストラの会場で既にサンラクとミレィという2名の英傑に攻略された歌姫が流星群に向けた歌を歌い、深淵ではクターニッドが水面に映る星々の流れに目を細めて揺蕩い、海の底では魚人族達がその美しい光景を肴に宴会を始めた。

 

 数名の手紙を受け取った者達がその内容を見て愉快そうに笑い、文字通り世界をひっくり返そうとする友人の助けとなるべく動き出した。

 

 誰かが呟いた、シュテルメアと共に戦うのは勇気を分けて貰えるのだと。

 高みに手を届けられていない自分達が、それでも望みのために進んで良いと思わされるのだと。

 

「俺だってあの雑魚がこの世界で有名になってないのは疑問だったんだよ! なんなら今の方がしっくりくるぜ」

 

「今はまだ悪評だろ? 俺達がそれを好評に……は無理か。なんかユニークシナリオに挑もうとするやつを皆殺しにするみたいだし」

 

「………………いやそんなこと書いてなかったろ脳筋!」

 

 彼と戦った誰もが幻視する。彼が率いるクランで自分が自由に生きる様を!

 

「奴もようやく人を率いるつもりになったらしい」

 

 ククク、と臥竜点睛と悪態をついていたキリキリ舞いは嬉しそうに言った。

 

「で、どうやって行くんだ? 旧大陸」

 

「なんかライブラリが色々根回ししてるみたいだな」

 

「………………大丈夫かよ?」

 

 臥竜点睛の脳裏に浮かぶのはシュテルメアが責められる元凶となったクランの姿。まだなにかするつもりかと警戒を強めるが……

 

「ま、ライブラリと言ってもシロミ魚とシュテルメアの友達らしい。大丈夫そうだろ」

 

「…………まぁそうか。シロミ魚も色々頑張ってるらしいしな」

 

「おう」

 

 彼等の現在地から遠く離れた黒狼拠点で一人の男が氷河の剣を握って立ち上がり、母の墓に手を合わせていたトリコーンを被っている青年が船舶道具を持ち出す。

 

 楽しみだな、とキリキリ舞いは言い、臥竜点睛が笑いながら同意した。

 

 それぞれが武器をその手に握り、イレベンダルの錬金術師ギルドへと集っていく。










ライブラリはシュテルメアへの慰謝料的なものとしてディープスローターへの転移依頼費用を肩代わりしてる。そんな資金どっから来てるんですかね。
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