ライブラリというクランは、基本的にビジネスライクで成り立っている。
それはつまり、何らかの明かせない理由のある情報を除いたほぼ全ての情報を金を積みさえすれば得られるということだ。
このため、ライブラリのクラン拠点には情報を売り買いするための窓口があり……重要な情報だと窓口員が判断された時点で奥の個室でより上位のクランメンバーと商談をすることになる。
「…………それで?」
「未発見、未クリアのユニークシナリオと、クターニッドの参加権を交換したいわけです」
「ふむ」
ライブラリクラン拠点の一室。
シュテルメアと……キョージュと言う名のプレイヤーが向かい合って座っている。
あまりにもミスマッチなゴスロリと渋い声に笑いを堪えながらも、シュテルメアは思考を回す。
ライブラリの料金情報は既に閲覧済み。
クターニッドがまだ3回しか挑まれていないため、挑戦権の明確な金額が分からないのが難点ではあるが……未発見のユニークシナリオ、それも神に関係するような考察のしがいのありそうな情報であれば等価になり得ると考えていた。
「まず、一つ確認したいのだが」
「?」
「何故クターニッドなのかね? ジークヴルムとの決戦が始まろうとしている今、そちらこそ欲されると思うのだが」
「あーーーーー」
当然と言えば当然。
まだ倒されていないユニークモンスターと、もう既に3度倒されたユニークモンスターでは、前者に挑みたい人間の方が多いだろう。
ここで性癖の話をするべきか? という、交渉の場に似つかわしくない悩みにシュテルメアは首を傾ける。
「んーーー、仕方ないか。」
「あぁいや、強制したいわけではないよ。これは純粋な疑問であり……君の持っているユニークシナリオに挑戦権と同等の価値があると判断すれば、問題なく商談は成立する。」
「む。」
懐深ぇ〜〜〜、と、未だ若造と呼ばれるような年齢であるシュテルメアは思う。いやまぁ……等価であれば交換するというのは当たり前の話なのだろうが。
「ミレィ、というプレイヤーがライブラリにはいますよね」
「ん……? ぁあ、いるが……ソレがなにか?」
キョージュが、突然出されたこの場に一切関係のないプレイヤーネームに困惑する。
「その人がSNSに投稿した……クリオネのモンスターのイラスト、僕はアレに感銘を受けてこのゲームをはじめました」
「ほう……それはあの娘も喜ぶだろうね」
「ユニークシナリオの捜索も、レベル上げも、装備の新調も、全ては……あの感動を生で味わうため。あのクリオネちゃんに一目会うために……僕はクターニッドに挑みたい。」
「……………えぇ」
ドン引きである。
うむ。まぁそりゃ交渉の場で分かりやすく性癖に従ってユニークモンスターに挑もうとしています!とか言われればドン引きする。
もしも、もしもではあるが……もしシュテルメアとサンラクが出会った場合、シュテルメアの扱いは確実に(程度の差はあれど)サバイバアルやヤシロバード、エターナルゼロ側であるだろう。
「ま、まぁ良い。こちらとしては未発見のユニークシナリオが本当にあるのならば交渉に乗っても良いと考える。今はジークヴルムとの戦いの直前、交渉に長々と時間を取る余裕もないからね」
その言葉に、シュテルメアが拳を握りしめて喜びを表す。
「…………ッシ」
その様子にキョージュがニコリと微笑んで、机から1枚の紙を取り出した。
「うむ。では……契約書を」
◆◆◆
差し出された契約書の内容を読む。
「…………今のうちに連絡しておこうか。悪いが、少し席を外させてもらうよ」
「分かりました」
ふむふむ、コチラはユニークシナリオの詳細、もとい発生条件を話して……アチラはクターニッドの挑戦権を売る、と。
プラス余りにもユニークシナリオが対価に見合わない場合、及びそのユニークシナリオが発見済みだった場合はクターニッドの挑戦権は売れない訳ね。
問題なし、と。
逸る気持ちを抑えながら、渡されたペンでサインを……よし。
「戻ったよ。サインは……問題ないな。では、契約成立だ」
「はい。ありがとうございます」
グッと差し出された手を握った。
「あ、そうだ。忘れかけていたが……この契約を破った場合、そこそこのペナルティが課される。気をつけたまえよ」
「大丈夫ですよ、破る気はありません」
「それなら何よりだよ」
ニコリと笑顔を見せるキョージュに、声と顔のギャップがさぁ〜、と心の中でツッコミながら、自分の思考を整理するようにユニークシナリオの詳細を話しはじめる。
シナリオ発生地点。
海の化身を祀る一週間後の祭りについて
前提シナリオ『不穏調査』
海底にある神殿
神と呼ばれるモンスター、「海の化身」
ユニークシナリオ「偽りの神へ、ただ純粋な敬意を」
シナリオ受注と共に獲得した「朽ちた海の盃」
「ふむ」
「…………以上ですね。」
時折感心したような声を漏らすキョージュに微妙に怯えながら説明し終えた。
「良くまとめられているし、内容も面白い。合格点をあげよう。」
「はぁ……」
思わず出た困惑の声をなんとか誤魔化して、次の言葉を待つ。気分は大学で研究発表を終えた生徒である。嫌な思い出だ……。
「ただ、シナリオクリアまでの手伝いは今のライブラリには少し難しいと言わざるを得ないだろうね」
「あ、あー、あんまり期待してなかったんですケド……やっぱり?」
「うむ。君が知っているかは知らないが、聖女の予言通り赤、白、黒の色竜が新大陸前線拠点に向かっているという情報がある」
聖女とやらがめちゃくちゃ胡散臭いなーとか思いながら攻略情報眺めてたんだよな……。実際ちゃんと当たってるあたり、ゲーム的にどういう存在なのか気になってくるところだ。
「一応僕もそこまでは知ってますね」
「ふむ、まぁ我々としてはもっと新大陸の開拓が終わってからだと考えていたのだが……いやはや、考察だけで未来が読めるわけがないのだが、これは少々……おっと、話が逸れたか」
「あー、まぁでもそうですね。決戦予定日と丸被りですもんねー」
「うむ。ソレに加えて、我々ライブラリも明日新大陸へと立つ予定だからね」
ジークヴルム。クターニッド以外のユニークモンスターに興味があまりない僕としても、さすがに挑んでみたいと思わされるモンスターだ。僕のレベルで新大陸に行くのはとてもじゃないが難しいけれど。
「では、クターニッドの挑戦権についてですけれど……」
「そちらは問題ないよ。手配しておこう」
「ありがとうございます!」
来た来た来た来たッ!
クリオネちゃんまで後数歩!!
興奮を隠しきれないながらも、もう一度キョージュと握手をし、フレンド申請を受諾する。
「こちらこそ良い取引になったよ。どうせジークヴルムのせいでクターニッドに今すぐ挑みたいプレイヤーは不足しているからね……日程は後にメールで送ろう。」
「まぁ……そうだろうと思ってユニークシナリオクリアよりもコチラの取引を先にしにきたかいがありました」
いや本当に。全てが上手く行っている。全てが。
もはや不安になるくらいだ。
「……おっと、忘れるところだった」
「?」
「ライブラリの中でもジークヴルムに挑まないプレイヤーの中に、紹介しておきたい者がいるんだ」
「はぁ」
「彼女に君のユニークシナリオについてもアドバイスを求めてみると良いよ」
「分かりました」
僕にわざわざ紹介するようなプレイヤー……?
「君が先程話していた……クリーオ・クティーラのイラストを書いたプレイヤーだよ。入って来なさい」
「…………!?」
………………えっ、まじで!?!?
次話で登場するミレィさんですが、顔合わせだけになる可能性があります。(ジークヴルムに挑ませるべきか迷ってるところなので)その場合、コチラの話も少し改変させていただきます。
シナリオにライブラリを絡ませると話がサクサク進みすぎそうなので……