投稿安定させたいです。
ルルイアス行きの船が出るまで残り1日。
そもそも動き出したのが二日前だったこともあり、めでたくクランメンバーとなった友人達は忙しく動き回っている。(船はなんとか買えたらしい)
武器の調達や船の操作感に慣れるための試走など……特に忙しくしているのはシロミ魚さんだ。
彼は昨日からひたすら船の出るタイミングをコチラの都合の良いタイミングにズラそうと戦ってくれているらしい。
行き先が分からないのはリベリオスぐらいだろうか? いやマジでアイツどこで何してるんだろうか。
「ま、とりあえず僕等も仕事に取り掛かるとしようか」
「了承:急な戦闘が予想されますの。気を引き締めて行きましょう」
「もちろん」
さて、今回ルルイアスへの挑戦権を奪うに当たって一番大きな問題は何だろうか?
「そう、僕を監視してるタツノオトシゴ男君だ」
恐らくキリキリ舞いさんやリベリオスであれば正面から一対一で戦えば完封に近いレベルで勝利を得られるのだろうが、今回はそもそも海上戦闘。当日の僕やナナさんが他のことに気を回さねばならない以上、今日の内に彼の説得を終わらせなければならない、というわけだ。
「疑問提起:どう呼び出すつもりなのでしょう?」
「叫ぶ」
「…………忠告:名前を……知らないのでは……?」
「…………!?」
タツノオトシゴ男が名前なんだと思ってた……。
言い忘れていたためついでの補足なのだが、僕は決行当日まで姿を見られたくないってことで仮面のアクセサリーを着けた上で軍服の種類を微妙に変えて、なおかつ人のほとんど来ないイレベンダル付近の海辺での行動のみ自由、という事になっている。コルトさんに挨拶に行くのも駄目らしい。
「────タツノオトシゴの魚人族!!!!!!!」
「…………………」
「話したい事がある!!! 出てきてくれ!」
共鳴の雷杖弓と深海の単杖を地へと置き、戦闘の意思がないことを示しつつタツノオトシゴ男が表れるのをジッと待つ。ちなみにナナさんは僕の安全確保のため武装している。本末転倒じゃん。
……いつのまにか監視に飽きてどこかへ消えたのだろうかと思ってしまう程の時が流れ、
「…………なんの用だ」
突然、タツノオトシゴ男がなにもないところから空気を脱ぎ捨てるように表れた。その手法が杖弓を使って戦う身としては気になりすぎるぐらい気になるのだが……アイテムでどうこうしてるのだろうか?
「明日、明日だ。僕等は傷付けられ、軽んじられたことへの復讐として理不尽と戦う。……海上で」
「はん、ついに海の化身がその正体を表したか?」
ステータスの差故だろうか。その言葉の意味を理解する前には既に首筋に翡翠の剣が突きつけられている。
肩を軽く竦めて、突き付けられた剣を無視して一歩前へと出る。
「…………聞いてくれ。みだりに何かを傷つけたいって話でも、僕そのもの見逃してくれって話でもない。ただ……一週間だけ待って欲しいって話だ。それが終わってから思う存分殺し合いに付き合おう」
それで満足なんだろ?と言いながら、さらに前へと出る。
タツノオトシゴ男が僕を睨み、一歩下がりながら少しだけ剣を降ろした。実際よりもよほど長く感じる数瞬の間見つめあい、彼の口は言葉を紡ぎ始めた。
「……あのな」
「?」
「私が何も考えていないと思うのならば、それはお前の決めつけだ。」
……。
そこまでは考えていない、と言おうと開いた口は再び首筋まで上げられた剣により止められ、彼はゆっくりと続ける。
「私がお前という敵を必要としていると思うのならば、それはお前の傲慢だ」
「……………でも」
「私とて見ている。私とて考えている。私とて進んでいる」
「それはそうだ」
翡翠の剣は水中でもないのに水になって消えて、タツノオトシゴ男が一歩僕へと近づいた。
「…………ただ、やりきれない想いがないわけがない」
目線だけで、「ではどうする?」と問いかけた。
タツノオトシゴ男は肩を竦め、いつのまにか握っていた弓を僕へと差し出してさらに言葉を放っていく。
「一月後。お前がお前の望みを叶えて戻ってきてからだ。お前は海の化身の力を使って私と戦え。それがしばらくお前を襲わない条件だ」
そんなことで本当にいいのか?と聴きたい所だが、今はミレィさんや同じクランの仲間達の想いも乗っているのだ。
そもそも僕の私怨による作戦ではあるが、今は私怨は抑えなくては。なんだ私怨のために私怨を抑えるって。どうなってるんだよ。
「……分かったよ。それで、この弓は?」
色々飲み込み、差し出されたままの弓を指さして聞いてみれば、その答えは端的でありながら理解に苦しむものだった。
曰く、お前にしばらく力を貸してやろう。
「…………まじ?」
◆◆◆
にわかに、海が荒れ始めた。
海の天候をよく知る漁師が、嵐が来ると呟いて、吹き付けた風が船の帆をはためかせる。
見上げた先、自分達の船という響きとこれからの戦いに高揚を隠せない仲間達がそれぞれ穏やかな表情で鼻歌を歌いながら出港準備、戦闘準備を行っている。
今いるのは、実際にルルイアス攻略に向かうメンバーが乗る船のある港からはかなり離れたところにある船長の交渉で開けてもらったと言う小さな漁港だ。
もはやシャングリラ・フロンティアの旧大陸地図にすら乗っていない打ち捨てられたこの漁港は錆に塗れ、数軒あるボロ小屋には人も住んでいない。
そんな滅びてしまった街には今、コルトさんを始めとした今まで皆が関わってきた人達が集まり、船に物資を積み込んだり、戦闘食を作ったりしていた。
「シュテルの兄ちゃん、杖弓直しといたぞ。まぁそんな破損してなかったけどな!」
「ありがとうございます……!」
にっと笑ったコルトさんに頑張れよ、と杖弓を手渡された後に背中を叩かれ、よろめきながらもクリオネを象った船首を持つ船に向かって歩き出す。
「そろそろ出そうだ! 配置につけ!」
錆びれた灯台の上でルルイアス攻略メンバーを監視していたシロミ魚さんが慌てたように灯台から降りて動き出し、あわせて一旦船から降りて思い思いの時間を過ごしていた仲間達も口々に僕へと激励の言葉を掛けながら僕の背中を叩き、僕を追い抜いて船へと乗船していく。
「ブチかまそうぜ雑魚」
「クラン名の発表頼むぞー」
「君はルルイアスに着くことだけを考えて良い。船上での指揮は私が取る」
「激励:シュテルメア様、行きますよ」
「自分も結局参加することにした。よろしく頼む」
「僕の冷気で固めて君の魔法で吹き飛ばせばせっかくの船を壊すことなく収束できると思うんだが……」
「駄目ですねぇ、せっかくなんで派手にぶっ壊さないと〜」
「抗議:だりぃ」
「海の化身らしい所を見せると良いさ」
んー最後の方全然激励じゃないな。なんだコイツラ。
と言うか僕も冷気と雷で潰せばせっかく買った船も残せて万々歳だと思う。高いのに……などという嘆きは一旦ココで終わり。もうウジウジしているつもりはない。
叩かれた背中は熱く、前を見る勇気を与えてくれる。
「皆!!」
……仲間達が船の看板の上から僕を見つめている。
目を閉じて思い浮かべるのは幾つもの失敗の数々だ。想いを背負いすぎ、愛するモンスターを殺され、PKに襲われ、真紅の女にしてやられた!
「もう、敗北の味は知り尽くした!」
そうだそうだと、もうたくさんだと、にこやかな野次が仲間達やたくさんの準備を手伝ってくれた人達から上がる。
「今こそ反撃のときだ! 僕達のクラン名は──」
握り締めた拳を大仰な動作で振り上げれば、皆の表情がより楽しげなものに変わった。
僕はこのゲームを世界として捉えると言った。だがそれは罪を全て受け入れるということではない。ただ、この世界を本気で楽しむということだったはずだ。
最近の僕は楽しんでいたか?……まぁクリオネちゃんに食われたりとかで割と楽しんでたけど……まだ、まだ足りない!!! もっと強欲であって良いのだ!
だから、本気で!! 心から!!
「──“リミッティングファクター”! 誰よりも深い所まで潜る船の名だ!」
キリキリ舞いさんや臥竜点睛さんを始めとしたメンバーが雄叫びを上げ、リベリオスが抜いた剣が幻想的に冷気を降らせる。
ゆっくりと突き上げた拳を握り締めたままにおろし、一歩一歩にたくさんの想いを込めて船に掛けられた橋を超えて、僕は仲間達が待つ船へと乗り込んだ。
「さぁ、出港だ!!!!!」
“愛する人へ”という銘を贈られた船が汽笛を鳴らし、波を掻き分けて動き出す。
船に慣れている者達が帆や舵輪を操り、誰もが水平線の先にいるであろう敵を睨みつけて気を引き締め直した。
港では十人以上もの手伝ってくれた人々が手を降って僕等の無事を祈ってくれている。
風が強く吹き、船が大きく揺れて、冷気はどこかへと飛ばされていった。
「全部奪ってでも、クリオネちゃんに逢いに行く!!!」