遠くの港にてシュテルメア達が出立したころ、海の上にて。
嵐近づく大海原を揚々と進む二隻の船があった。
一隻の乗組員は、これから起こることを知らないNPC以外の……プレイヤー達がユニークモンスターへの挑戦を前にして高揚するのを隠しもせず、今か今かとそのときを待ち詫びて水平線を睨みつけている。
「クターニッド……ようやく俺達の番がやってきたな……!」
「おうよ! ジークヴルムのときはほとんど白竜の相手してただけだからな、楽しみだぜ」
そこにいるのは、誰もがどこかで世界を救う戦いを潜り抜けてきたゲーマー達。この戦いに勝ち、世界の秘密に触れるのだと信じている。
「来ませんねー、姉御」
「そんなわけないでしょー? 私が来ると見たんたから来るよ」
「……来てほしくはないですけどね」
「そーれはそうかもね」
……もう一隻、ルルイアス攻略に向かう者達を護衛する部隊として……例の真紅の女の乗る船があった。
ユニークシナリオに組み込まれているNPC達の船とは違い、コチラの乗組員は全てプレイヤー。誰も彼もが周囲を警戒していた。
真紅の女ことアーサー・ペンシルゴンにとって、シュテルメアというプレイヤーは意外にも興味の対象だった。直接会ったことは一度しかない。だが何度心を折られるような事象に遭遇しても翌日には当然のように活動している……消えない炎。彼の動機はありふれて、つまらないものに思えたが……。
「色んな敗北を積み重ねられて、それだけで折れる人間ねらとっくにこの世界にいないと思うんだよね」
「…………ペンシルちゃん、性格悪いよ」
「んー海中引きずり回されたいのかな!?」
赤い鉛筆のロゴを着けた女の言葉にペンシルゴンは笑顔で怒りの言葉を吐き、手慰みのように槍をクルリと回してその時を待った。
◆◆◆
船は進む。船長によると前回の幽霊船とクターニッドの出現ポイントまで港から大体40分。船を動かす要員として船長が数人のNPCを連れてきてくれたこともあり、リミッティングファクターの面々は割と暇を持て余していた。
「…………………で?二人はなにやってんのさ?」
シュテルメアが目をつけたのは看板にて座り込んで紙束を扱う臥竜点睛とキリキリ舞い。
「「フィロジオ」」
「ああ……なんかリヴァイアサンでそこそこ流行ってるカードゲームでしたっけ〜?」
「そうそう、これが面白いんだよ。番人に挑もうと思わなければ」
キリキリ舞いの色竜ウイルスに感染したドラクルス個体が攻撃し、臥竜点睛の突然変異個体がトラッシュされる。
「毎回緊張感ないですねぇ」
「同意:前回より趣味に走っていることが伺えます」
「そーだ、忘れる所だった! シュテルメアも誘おうと思って旧大陸に帰るまでに数箱買ってから来たんだよ!」
ポンとイベントリから取り出されるのは開封するプレイヤーごとに出現するカードが変わるカードパック。それが説明と共にフユネ=77、船長、シュテルメア、シロミ魚に配られる。
「悪い、他の連中はいると思ってなかったからよ」
「いえいえ、そんな低俗なこと僕は参加しませんので」
お前さぁ……と角が立つような言い方をするリベリオスをシュテルメアが咎めるが、本人も他のメンバーも気にも止めずに話を続ける。
「雑魚……いや、シュテルメアのカードとか絶対面白いのでるだろ」
「臥竜点睛さん、別に雑魚のままでも良いよ。とりあえず開けてみるか」
杖弓を床に置いてカードパックを受け取ったシュテルメアを何人かがワクワクしたような顔で囲い、開封の回が始まった。
「────行くよ」
「おう。まぁシュテルメアなら一番のあたりはクターニッドだろうが……どうなるかね?」
びり、と封を破き、そこから出てきたのは……
ライトニングワイバーン
ゴブリン
ヴォーパルバニー
ワンダーシータートル
クリーオー・クティーラー
このカード、そのプレイヤーの遭遇率に応じてレアリティが算出されるのだが……他のカードを投げ捨てるような勢いで、そう、最後の一枚を穴が空くほど見つめる。
「こ、こここ、こ、これ!!!!」
「「「「…………」」」」
誠に残念な話ではあるが、キリキリ舞いを始めとしたプレイヤー達の反応はたった一つ。
「これ!!!!! クリオ、クリオネちゃん!! かわいい!!!!」
(そういやこいつこういうやつなんだった……)
挙動不審になったシュテルメアがカードに頬ずりしたかと思えばキリキリ舞いから受け取ったカードスリープで千の宝石にも勝りそうな慎重さで保護し始め、かと思えばそのカードを掲げて看板中を走り出す始末。
「………………よーし、次誰が開ける?」
「………あれは良いんです?」
「良いんだよ見なかったことにしよう」
見て見ぬふりをしようとした臥竜点睛へリベリオスが現実を見せようとするが、彼以外は誰も現実を見たいと思っていない。シロミ魚による必要ない必要ないという発言でついに全員が彼から目を逸らし、残されたカードパックを見つめ直した。
凄い奴だからクランリーダーとして担ぎ上げたが、ミスったかもしれんな……とキリキリ舞いが呟き、普段であればムッとして発言を訂正させるフユネ=77も溜息をついて自らの契約者から目を逸らして耳をふさいだ。
「ナナに開封させてみようぜ。俺達が知らないモンスターが出るかもしれねぇ」
「…………否定:当機には必要ありませんので、ミレィ様に進呈いたしますの」
「え、まじですかぁ? やったぁ」
しばらくフィロジオのカードをしばきつつ雑談した後、リヴァイアサン、いつか皆でゆっくり遊びに行きたいですねぇというミレィの楽しそうな言葉で束の間のお楽しみ会はお開きとなった。ちなみにこの日一番のあたりはミレィが引き当てたジークヴルムだったらしい。
「皆! 戦闘準備を!」
のんびりとした空気の中に船長の声が響き、汽笛が薄っすらと聞こえた。
既にギリギリ視認できる範囲に敵船は入っている。
「見えた見えた見えた……!」
「おっしゃいくぞぶっ飛ばす」
「ナナさん、シロミ魚、準備は!」
「応答:問題ございませんの!」
「自分も万全だ」
海を切り裂き、二隻の船がはっきりと望遠鏡に移った。
誰もが目を血走らせ、武器を構えてより早く船が進むようにと行動し始めている。
「私は海中から向かう、海の化身もそうすればどうだ」
「もちろんだ」
丁寧な動作でクリオネのカードを仕舞ったシュテルメアとタツノオトシゴの魚人族であるアルジェントが海に入って弓を構え、後衛達が発砲の準備を終えた。
「さぁさぁぶっ飛ばしますよぉ!」
二隻の船の内、より近い船に真紅の女の存在を確認したミレィが槍を構えて海に入る準備を始め、当の真紅の女もついに彼等の存在に気づいた。
「来たよ! 総員構え!!」
真紅の女の船にいた十名のプレイヤーの内5名が詠唱を開始、前衛職の者達も船が近づいた時点で乗り込もうと武器を構えて次のアクションに備える。
ここにいるプレイヤー達は誰もシャングリラ・フロンティアでの海戦を知らない。だからここからどうなるのかを余り理解していなかった。
なんとなく……そう、なんとなく武器を打ち合えると思っていたのだ。
より強くなった風を受けて“愛する人へ”と名付けられた船はさらに勢いを増す。波を切り裂き、誰かが「あれこれどうやって戦う気なんだ」と呟いた。アーサーペンシルゴンがその言葉を受けて目を見開く。
「は!? コレいくらすると思っ─────」
砲撃音!
シロミ魚が錬金術によるアイテム迫撃砲を放ち、フユネ=ナナが申請武装である爆発弾を撒き散らした。
詠唱を終えて撃ち出された色とりどりの魔法と相殺しあって煙を残して消え、その煙すら掻き分けた“愛する人へ”はさらに前へ!
「一旦後ろへッ!」
「どうやって!?」
ペンシルゴンの指示により動き出したプレイヤー達と、もう一隻の船のNPC達が慌ててその突撃を回避しようと動き出し……舵輪があるべき場所を雷と水が貫いた。
今まで溜まった鬱憤を晴らさんとミレィが息を吸い、叫ぶ!
「ユニークシナリオ、頂きますよぉ!!!!」
「マジで来たよ……てか船やっ……!!!!?」
既にペンシルゴンの船は修復作業をしなければ動けないほどの状態になっている。待て、と口は勝手にそう叫ぶが、時間も船も一切その動きを緩めない。
「吹き飛べ!!!!!」
誰かが叫んだ、海中から放たれた雷がペンシルゴンの横にいた赤い鉛筆マークをつけたプレイヤーを貫いた、フユネ=ナナとミレィが海へ飛び込み、そして、
────両船が激突した。
感想欄でもありましたが、真なる竜種の強襲をここに入れ込むかどうかでめちゃくちゃ迷ってたり。
多分ない……こっからの予定狂うし……多分……いやでもプレイヤーだけの海戦よりモンスターいたほうが……でも予定が……みたいな。