「まぁ〜〜大体うまく行ったかな? 先に自爆されたのと当然全部勝つのが理想ではあったけれども」
そりゃあガチで行くならカッツォ君とゼロちゃんを護衛にして攻めに京極ちゃんとサンラク君使うしなんなら船での戦いになる前に京極ちゃんに強襲させるよねー、とリスポーンしたばかりのペンシルゴンは宣う。
そもそも彼女が本気で勝とうと思っていたのならば、開拓者が個人で保有する征海船の中で最も強力な兵器、ブリュバスを使っていたという話なのだ。……そもそも現じてんでは征海船を個人で保有している者など1人しかいないのだろうが。
「うん、うん、特にあの雷魔法なんて想定より強かったし、あそこで壊滅させて私への恨みで敵として戦争参加されるよりはここで負けた方が最終的な損は減りそうかも」
現王に弓を引こうとしている女の二足の草鞋は終焉を迎かえ、彼女の本来の道へと戻っていった。
ここからシュテルメアは一週間かけてクターニッドを攻略する。
現在11月の末である以上、12月の初頭に帰還したにしてもここでリソースを使い切った彼らに次はなく、なんなら海賊まがいの行為をしてまで奪ったユニークシナリオを攻略失敗した場合のつけまで払わねばならない可能性もある。
「つまり大局的には私の勝ちってワケ」
「へー、負け犬の遠吠えがうまいね」
「君ぃ!」
一連の言葉を聞いていたジト目のオイカッツォに目を逸らしていた現実部分を突かれて、ペンシルゴンはもう一度槍を握った。
「対人戦延長だー!」
「はぁ!? ここまちなか……!!!」
◆
「……行っちゃいましたねぇ」
愛する人の元へと沈んでいくシュテルメアの背中と、オルケストラに挑むサンラクの背中が重なって、ブレて分かれる。
思い出すは配信にて自由かつ大胆に鏡写しの己と戦うサンラクの姿と、隣で力と意志の限りを尽くすシュテルメアの姿である。
既に海戦区域からは抜け出し、事前に準備してチェストリアの中に入れていたボー卜の上でミレィは物思いに耽っていた。
「私、こんなんばっかだなぁ」
シュテルメアを励ますため、あるいは自分の力で欲しいものを勝ち取るために挑んだオルケストラで、彼女はそもそも役者が違うのだという事実を突きつけられた。
必死で戦おうと、どう鍛えようと、どう想おうと、サンラクと自分ではそもそも決戦の舞台から違うのだ。
……過去の自分であれば自力でなにかを勝ち取ることへの執着などほとんどなかったに違いないが、好きに生き続けるシュテルメアの後ろ姿を見て、その原動力に自分がいると教えてもらって、それで。
「シュテルメア君なら正典ルートなんでしょうかぁ?」
背中を押した、彼の力になりたくて。
背中を押した、自由を捨てようとする彼を見たくなくて。
背中を押した、せっかく自分の絵を原動力に進んでくれている彼に変わってほしくなくて。
背中を押した、けれど彼の行く末には彼の愛するモンスターがいる。
「………………………ナナさんはいいんですー?」
このままの思考を続けるのを嫌って、ミレィは横に立つ征服人形に話しかけた。
「肯定:当機は───────」
「そうですか、うん。……そうですよねぇ〜」
「奮起:彼に少しでも追い風を送りたいと思いますの」
「そっかー、がんばってね」
私はどうしようか、とミレィは海を見つめる。
その先にいる彼が、望みを果たせることを祈って……
偽典の人魚とオルケストラの声が鼓膜の奥に残っている。
『気持ち良く自分だけで歌って楽しいかい?』
これは大まかに要約した言葉だが……悪趣味なユニークシナリオもあったものである。
「…………楽しいですけど?」
それからログアウトするまでの数時間、彼女はひたすら海を眺め続けた。もしかすると、海の先にいるシュテルメアの背中を見ていたのかもしれない。
◆
なにか柔らかいものに包まれているような、もしくはなにか人間よりも大きな生物に捕食されている途中のような、水っぽさを含んだ温かい感触に包まれた状態で、気絶判定が切れた。
「ぅ……」
「!」
「こ、ここは……?」
ゆっくりと目をあけると、なにやらすぐ近くにいたらしいクリオネちゃんがバッと勢い良く飛び退く。
「あ、う、ごめん。それと……ありがとう……?」
気絶によりあまり事態を把握していないが、周囲を見渡せばもはや見慣れたルルイアスの反転世界と金化して船としての機能を失ったクライニングデリバリー号が沈没している。……サルベージしたらマーニになるだろうか?
「──────」
ふよ、ふよ、とクリオネちゃんが少しずつ離れていく。
ミレィさんの「勢いよすぎると怖がられますよ〜?」と言う助言を思い出して、ゆっくりと警戒させないように距離を縮めようとするが……
「待っ……」
ふよ、ふよ、とクリオネちゃんは逃げるように揺れて、建物の影へと消えていった。あっ、手だけ出して振ってる。かわいい!
「────」
手が引っ込むと同時に走って追いかけるも、既に建物の裏側にもクリオネちゃんはいない。
……バイバイってことだったのだろうか。
恐らく、というか確実に溺死しかけた僕を彼女が助けてくれたのだろう。
「…………ありがとう。」
改めて一言感謝の言葉を虚空に放った後、大きな伸びをした。
「あっ、あー、杖弓がない。どっかに落ちてんだろうな」
正直探すのは面倒だがメインウエポンを失うわけにも行かない。クリオネちゃんへの未練をなんとか一旦頭の片隅に追いやって、空を泳ぐモンスター達に見つからないよう近くにあった家屋に転がり込んだ。
うん、そう、うん、後で封塔に行けば会えるのだ。それで一旦良しとしようではないか。
「そうだナナさん、ここからのプランについてなん、だけど……え?」
ついいつもの癖で相棒に声をかけようとして、彼女がどこにもいないことに気づく。チェストリアには……いない。
まさかユニークシナリオを開始したのが僕だけだったからルルイアスに来れていない……?
「まーじか」
通信機器もノイズが入って通じない、テレパシーも飛んでこない。どうやら完全に遮断されてしまったらしい。
リスポーン地点に設定した家屋の屋根に登り、美しく広がる深淵を見上げる。1人で戦うのは随分と久しぶりな気がする。
しばらくぼんやりしていると、今までのルルイアスよりも強い静寂の中に遠くで巨大モンスターが暴れる音が聞こえてきた。
「このままここにいても襲われてリスポーンするだけ、か」
チェストリアから深海の単杖を取り出し、いくつかの装備を変更して、軍服についた埃を払った。屋根から水による優しい浮力を受けてゆっくりと地面へとこの足をつける。
「なんのしがらみもなくクリオネちゃんに挑み続けられる……か」
とは言え今のままでは封塔に辿り着く前に殺されるだろうな。
肩を竦めて軍帽を少し深めに被って、杖弓の探索に向かうことにした。
「誰か……お助けキャラがいるもんじゃないのかこういうときって」
どうやら敵モンスターに発見されたらしい。
少し離れた所にいた魚群がコチラへと突進を始めた。杖弓があれば楽に処理できるんだけれど、今行使可能な手札って水系統の魔法と異形術だけなんだよね。いや雑魚戦闘だけなら充分なんだけど。
「【異形術・呑鯨】……!」
チェストリアから取り出したポーションを飲み、頭部を巨大な鯨のそれへと異形化させる。
「……!!!」
ぐあ、と巨大な口を開けて……小規模だったとは言え魚群を丸ごと呑み込んだ。
【暴虐の雷獣】と至金の歯車・密のときも思ったけれど、この規模と威力は許されるんだろうか……?
「海中での雑魚狩りに便利すぎるんだよなコレ」
威力と規模の代わりに持続時間を十秒以下まで削った鯨呑の効果時間が終わり、頭部が人間のそれへと巻き戻って行く。
バラバラと散らばる大量のドロップアイテムを拾い集めながら、彼は最後に小さく溜息をついた。
◆
────遠く、だが雄大で偉大な海の中では比較的近いとすら言えるどこかでとある竜が吼えている。
“海の化身よ! 全ての母たる海そのものを身に宿す者よ!”
曰く、傲慢が過ぎるのではないか?
海が揺れて、静寂を取り戻して、揺れた。
時は近い。
リミッティングファクター内シュテルメアへの感情の重さダービー、トップにミレィが踊りだしたー!
最下位は船長。奴はどちらかというとキリキリ舞いに重い。