さて……悲しい話、勝ち目が一個も見えない。
リスポーン地点のベッドから飛び起きた僕は、タラルトスクズが待ち構えているであろう封塔を睨みつけながら考える。
「まじか、ビームは即死か」
全然一発攻略ぐらいのつもりで行ったんだが、(知ってたけど)僕の物理防御が貧弱過ぎたらしい。
速度も貧弱なので全ての攻撃に対して手札を切らないと対応できないし、攻撃力も貧弱なのでアレに対してしっかりとダメージを入れられるかもわからない。
「んー、毒攻撃で耐久するぐらいのイメージだったけど、毒持ちモンスターに毒が効くか怪しい上に耐久するのも難しいな」
本当に心の底から前衛が欲しい。他の封将は遠距離無効聖杯でも近距離での大火力魔術で一発でかたをつけられるから問題ないんだが、タラルトスクズはそうもいかない。
というかクリオネちゃんは物理防御力があまり高くないからこそ僕でもなんとかなりそうな気配があったのだが、こちらは……どうにかなるかなぁ……?
クターニッド(お義父さん)の悪意を感じる。僕単体で攻略させるつもりないでしょこれ。
さて。
実際のところ、どうすれば勝てるのだろうか?という問題についてなのだが、色々と考えを巡らせてみたものの、答えは既に分かりきっている。
「攻撃範囲、威力、モーションに慣れるまでひたすら突撃かな!」
……くそ……クリオネちゃん相手ならご褒美なのに……!
ボッコボコにしてやんよー、と意気込み、リスポーン地点に設定した小屋を出た僕はとりあえず十回封塔へ突撃することにした。
「よっしゃゾンビ戦法のなんたるかを教えてやるぜー」
あえて気の抜けた声色で宣言しつつ、封塔を見上げる。
くそぉ……クリオネちゃんならさぁ……!!!!!!!
・挑戦1回目
毒を撒かれる事自体は魔術なしには対処できない。まずはビームの溜め間隔と範囲を確認することを意識して────とか考えながら塔の最上階に踏み入れた瞬間に口の中で溜められていたビームが見えた。死んだ。
「いやおい必殺技をチャージしてから敵に挑むのはプレイヤー側の特権でしょうが!!!」
・挑戦2回目
初っ端のビームを回避するため足を踏み入れると同時に【爆水】毒は撒かれた。飛び上がった所に顔を向けられるビームチャージ、1秒、にびょ……
・挑戦3回目
即死攻撃が2秒ちょいで溜められるんですけど……まじですかぁ……?
初っ端【爆水】起動、初撃回避、毒を撒かれた、あっ反射で魔術使おうとしちゃっ───
・挑戦4回目
凡ミスは頂けない。初撃回避【爆水】、二撃目回避のためにもっかい【爆水】ギリギリで頭から地面に激突して死ぬのは回避したけど体力ほぼない、毒喰らった。こっち向いた、あっ
・挑戦5回目
初撃回避のための【爆水】、えっ、チャージしてたビーム撃たない、空を吹き飛ぶ僕に照準いやそれはダメだろいや無理無理【爆水】、あこれミスった頭から地面にぶべあ
・挑戦6回目
最上階に入ると同時にタラルトスクズに向かって全力疾走、奴は一瞬初撃ビームに迷った、その分がコチラに良い方に傾いている、撃ってきた、ヘッドスライディング、かすった、えいちぴーはんぶんきった、けど、でも、まだ……!!!
【爆水】起動、地面から跳ね飛ばされるように真上へ、僕が直前までいた場所をビームが貫き、ついでのようにフィールドに毒が散布される。いやまだ情報引き出したい!!
「解禁!【異形術・深淵覗き】!!」
デバフを食らったタラルトスクズはうっとおしそうに地面を踏みしめ、封塔が揺れる。その体重は人類が近接戦闘を行う相手としては不適格な重さを誇っているが、揺れも体重も空中にいる今の僕には関係ない、身動ぎにより水が揺れる、スリップダメージ入れられてる、HP2割、毒以外にもスリップダメージ持ってるのか……!?!!!!
【爆水】起動、タラルトスクズから距離を取ることで水揺れによるスリップダメージ範囲から離れいやびーむが───────
・挑戦7回目
【爆水】起動。
初っ端からビームを放つタラルトスクズに対して、正面から6回目の全力疾走よりもさらに速い速度で進む、スライディングでビームの下を潜り、ついでにタラルトスクズの腹の下を潜り切った。四足歩行生物の真後ろは、斜め後ろや真上とはわけが違う。頭を動かしただけではビームは当てられない。奴の横にデカく重厚な体型では完全に後ろを向くには一瞬時間がかかる!
よっしゃ来た【異形術・蛇】!!! モーションショートカットアクセサリーの試験管ポーチ様々だ!!
腕が3本の蛇に変質し、タラルトスクズの背中に噛みつきを敢行する。毒は撒かれている。HPはゴリゴリと削れ続け、既に5割を切っているが関係ない。毒攻撃が通るのか、及び僕の物理攻撃が通るのかを確認する必要がある。
少し身体を方向転換したタラルトスクズがその頭部をこちらに向けている。
ビームが来る、蛇牙は3匹の内柔らかそうな部位に攻撃した1匹のみ刺さっている。毒は……!!かかってない!!!
ビームを食らった。
「いやーまじか。毒は通らないか。結構キツイな……」
コチラは毒を受けるのもキツイ。
無限に挑戦して試す形での攻略法と、ひたすら準備を要求する【異形術】の相性はあまり良くない。ここルルイアスで異形化ポーションの材料が取れるか分からない以上、タラルトスクズ相手に手札を全解放するわけにも行かないわけで……まだ切っていない手札達を含めてもなお難しい相手である。
「どこまで解禁するか……正直飽和気味の蛇、蛸、鰻、鮫あたりはチャンスを掴むためなら雑に使っても良いとして……毒の散布がビーム攻撃よりなんなら厄介だな……15秒でHPの半分を持ってかれる毒なんてあっていいのか……?」
と、言うわけで仕方ない。解禁する手札を1枚増やすことにする。
「デデーン、異形化ポーション・毒酔の海月」
これを使った【異形術・毒酔】では、使用者の頭部がクラゲへと変貌する。この異形化で主にできることは水中呼吸とあまり強くない毒攻撃(触手があまり長くない上、毒ダメージもそれほど高くない)なのだが、そもそもこのポーションの元になったモンスターの特性として、エラ呼吸によって取り込んだ毒のダメージを受けないというものがある。
※接触によるダメージは受ける
今回までの挑戦の間に散布される毒の検証もしていたのだが、息を止めている間は毒によるスリップダメージが始まらないことが確認できた。逆に言うと一度でも吸い込むと効果時間の間は継続してダメージを受け続けることになるのだが。
「ユニークモンスターでもレイドモンスターでもない以上、ステータスも特殊能力も全部強いとは行かないよね」
タラルトスクズは近接戦闘能力にも遠距離戦闘能力にも秀でた上で魔術無効を強いてきているようにも見えるが、目を凝らせば節約とでも言うかのように……そう、リソースを削られている部分が見え隠れしている。
「と、いうわけで」
・挑戦8回目
毒酔のポーションはあまり数多く持ってきていないため、今回は使用するがそれ以降は一端討伐の目処が立つまでは温存する方向性で行くことにする。
また、一応の一応解毒のポーションも持っているのだが、解毒した直後に毒を吸い込んでしまうと意味をなさないことから、タラルトスクズ相手には使えないだろうと考察している。
【異形術・毒酔】を使用。最上階へ踏み込むと同時に放たれるビームに対して、斜め前方向に進むように【爆水】を起動することで避けながら次の攻撃の準備をする。
「異形の蛇じゃダメージは通らなかったが、こっちには反応してたよな……! 【異形術・深淵覗き】!」
毒が散布されるが、体力に変動はない。考察が当たっていたことにガッツポーズしたくなる気持ちを抑え、次のビームを避ける準備をしつつ、水揺れのスリップダメージが入らないギリギリの範囲に立つ。ダメージの受け方からして恐らく水揺れの効果範囲はタラルトスクズの周囲2メートル程度だ。
こちらは威力(魔法職を簡単に殺せるとは言え恐らく近接職に対してはカスダメ程度だと思われる)と範囲を削ってリソースを確保しているらしい。
横っ腹側に抜けた僕と向き合うように方向転換をしながら、タラルトスクズは前足を勢いよく振り上げ、降ろす。
攻撃そのものはなんとか避けたが、弾け飛んだ石の床が散乱し、僕に微妙なダメージを与えている。
水揺れで微妙に削られたこともあり残りHPは6割と少し、【深淵覗き】のデバフにより明らかに動きが鈍い、デバフ耐性のリソースも削ったのかな???
「GrurrruuuuuuuuuuGGgggOOOggggGOOO!!!!!!!!!!!」
コチラを睨むタラルトスクズを正面から見つめる。既にビームは溜まっているが、今放っても【爆水】で避けられて更なるデバフを付けられると考えているのか、撃ってこない。いや待って、まだ溜めてるまだ溜めてる!それ溜めすぎるとどうなるの?爆発?範囲は????
口から緑の光が漏れる、明らかに口が吹き飛びかけてる、溜めれるだけ溜めて避けようなくしようてきな、いやまってぼくまだはちかいしか挑んでないよ。自棄になるには早いっ「待っっっっっ」
・挑戦9回目
リスポーン地点を出て、最速で封将の元へ向かう。
走り、走り、走る。自爆ビームはタラルトスクズにとってもかなりの痛手になっているはず。ダメージ据え置きで挑めるのならばこのまま勝てる可能性もある。
「来い来い来い来いこい!!!!!」
封塔を登りきり、最上階に踏み込む、タラルトスクズの頭部を確認するとそこには……!!!!!!
「でっすよね」
──────ダメージなど一切感じられない状態のタラルトスクズがいた。
反転されとる……。
てかこれ自爆ビームラーニングさせただけでは……????
呆ける僕に放たれたビームは容赦なく襲いかかり、僕は再度リスポーンした。
A:無限に挑んで弱点を全部暴きましょう
Q(クターニッド):じゃあ反転するね……