【異形術・雷電亜竜】の効果時間が終わる、気合いで削って現在タラルトスクズのHPは残り6割、角に残った全エネルギーを全力で放出することで動きを止め、最速で体勢を整える。
電気に耐えかねるように悲鳴とも咆哮とも取れる叫び声と共に、改めて戦場に毒が散布される。
……時間経過と共に毒の濃度は上がって来ている。僕は【毒酔】のおかげで無効化出来ているが、通常ならば戦闘時間も限られるタイプのボスモンスターだったらしい。
微妙に僕メタ型のモンスターからズレる能力に首を傾げながらも、【毒酔】継続のための異形化ポーションに加えて新しく【闘牛】の異形化という手札を切る。
あーそうか、ルルイアスでは今まで一回も【毒酔】使ってなかったからプレイログでも参照してない限り対策できないのか……そう考えると手札の枚数が準備量に応じて増えるあたり便利だな【異形術】。
「ふーっ……【異形術・闘牛】」
深く息を吐き出した。
ポーションの使用と共に僕の足部の筋肉が音を立てて肥大化する。よーしよしよし、【毒酔】との競合はなし。【炎雷之鯱】とかいうじゃじゃ馬のせいで新しい組み合わせを試すたびに緊張するんだよな。今急に【毒酔】が切れたら速攻リスポーンだ。
異形化ポーション【闘牛】は名前の通りミノタウロス系のモンスター素材から作成したもので、僕の手持ちにしては珍しい地上に生息するモンスターへと異形化する。……【雷電亜竜】もか。意外とあるな……。
遥か昔の弓兵部隊を葬ったこのモンスターから引き継がれる特性は単純明快、直進移動への高倍率バフスキル!
蹄で地面を数度掻き、電撃から解放されコチラを警戒するように睨むタラルトスクズと向き合う。
ビームは既に溜められている、だが放出するだけのその動作よりもさらに僕の直進が、「はやい!!!!」
叫ぶや否やの突進、ビームが元々僕の頭があった辺りを貫いた。まーだヘッドショット狙ってんのか戦法更新足りてないんじゃない!? 一撃必殺狙いばっかじゃそりゃ読まれる!!
「【異形術・魂魄撃】!!」
一瞬でタラルトスクズの顎下まで到達した足と身体に遅れて効果の残っていた蛇頭に異形化した腕が遅れて追いついた、ココで切る手札はまたまた初出! 【自切】!!
体力の1割と引き換えに即異形化を解除できるぞ!
正直いつ使うんだと思ってた!
「GgggoOOgaaaaaAAAaaaawoooo!!!!!!!?」
【魂魄撃】により顎下を撃ち抜かれた直後に自切された蛇頭がタラルトスクズの視界を埋めた。一瞬の躊躇すらなく行われた咆哮によるスタンと水揺れによる範囲攻撃にHPがガリガリと削られるのを見ながら、闘牛の足もついでに【自切】することでスタン時間の短縮と水揺れの範囲から抜け出した、よぉーしコチラの残りHP3割、向こうは4割!
「いや待て、さっきより【魂魄撃】のダメージ低くない!?」
全速力の後ろ飛びで距離を開けるコチラに対してタラルトスクズは蛇頭と闘牛の足を吹き飛ばし、グワ、と開かれたその口にはビームのチャージが始まっている。1秒、2秒、発射のタイミングと共に体を横に投げ出すも、奴はなぜか静止している。いや待って待って、ここにきて新モーション!? 体力5割切ったら動き変わるタイプのボスですか!? いや水揺れの効果範囲が倍になる時点で想定しておくべきだったか!!
「くっ………!!!!!………ん?」
……毒散布?
知らぬ間にコチラの【毒酔】が切れていて、それに対して毒攻撃を選んだのかとも思ったが、そんなことはない。後2分は持続する。ではなぜ?
思考を回しながら、削られたHPを試験管ポーチのモーションカットを利用して7割ラインまで回復する。
タラルトスクズはかなり強い思考ルーチンをしている。こちらが切った手札を初見でも予想されるし、その予想に適した行動をかなりの精度で行ってくる。【自切】にスタン短縮と少しの目眩まししかないことも瞬時に気づかれたようだし、コチラが今タラルトスクズのビームモーションに慣れてきていることも気づかれている。
「この毒に攻撃以外の意味が……?」
口にビームを溜めたままのタラルトスクズによる突進攻撃をなんとか回避して……突進+自爆ビーム!?
無理やり閉じられた口から光が漏れる、彼我の距離は2メートル、タラルトスクズが振り向けば僕のすぐそこに頭が来るような位置関係、また毒が振りまかれ、タラルトスクズが尻尾による回転攻撃を利用して頭部をコチラに向けた。
ギリギリで差し込みクールタイムの終わる「瞬刻視界」の思考連打にスキルが応え、視界がスローモーションへと移る。よっしゃセーフこっから僕の脳みそが1秒以内に自爆ビームを回避する妙策を思いつくというか思い出す数日前に食らった時に考えたなんとなくの対策をおもいだせうおおおおお
1、【爆水】
2、打たせない
3、「非流動性海水」での攻撃中止誘導
4、【異形術】でなんとかする
2、4は無理、思考操作で「非流動性海水」起動!口と僕の間に壁を作る、手は【爆水】の起動モーションを最速で、タラルトスクズの口部が吹き飛ぶ様子を鮮明に確認しながらも、身体は【爆水】によって後方へ吹き飛ばされていく!
「まに………あった!!!!!!!!!」
視界一面に緑の閃光が広がり、ギャリギャリと回復したHPが削られていく、HPバーは一瞬で青色から黄色へ、そして赤色へと変わり、残り1割に満たないところで止まった。緑の閃光は消えて、タラルトスクズのドロドロに溶けた口部に思考を─────そうだこれ着地ミスったら死ぬ!1割残ったか……じゃねぇ!!!
「く…………【爆水】!!」
残り2つしかないストックの内一つを追加で消費し、毒を更に散布しつつ咆哮を上げるタラルトスクズへと突進する。
自爆ビームにより奴の残りHPは3割を切った、こちらはまだ回復ポーションには余裕がある!
「アドバンテージは!コチラにある!!」
瞬刻視界の効果時間は残り18秒!
試験管ポーチを酷使して【異形術・蛇】を起動、腕から生えた三頭に合金を喰らわせることで【金喰らい】を、さらに異形化ポーションを重ねて【異形術・鼯鼠】を起動!
瞬刻視界、スキルの連続起動に便利〜〜〜〜〜
タラルトスクズが身体を震わせて、水揺れによるダメージ結界を発動させる。
「回復の時間を与えるつもりはない!」
効果範囲4メートルギリギリで止まるように鼯鼠……ムササビ系統の異形化により腕と胴体の間に現れた膜のような特性を使い減速……!
タラルトスクズが水揺れの効果範囲に入れようと突進攻撃をすることを予測し、さらに一歩下が……?
水が揺れた。毒が揺れた。地が揺れた。
身体から再度吹き出した毒が水揺れの範囲内に留まり、さらに濃度を上げる。毒霧に隠密することで奇襲でも狙ってくるのかとも考えたが、その巨体は隠しきれていない。では……?
先程までスタンは掛け特とでも言わんばかりに咆哮を乱発していたとは思えないほどの静けさの中、更にタラルトスクズが身体を震わせて2度目の水揺れがタラルトスクズを中心に広がる……!!!
「積層攻撃、的な……ッ!?」
外側の水揺れが広がり、間にあった濃度の高い毒が広がる。
内側の水揺れも広がり、タラルトスクズが毒を噴き出した。4メートルだった水揺れの効果範囲は既に5メートル程に広がっている。
「おいよいよい……それは……まじで?」
頭部が破損したことでおそらくビーム攻撃という手札を失ったのだろう。コチラが警戒しつつゆっくりと距離を置くという隙だらけであろうモーションを見せているにも関わらず、タラルトスクズがビームを溜め始める様子はない。
だが、濃度の高まった毒を挟むように三層目の水揺れが展開される。1メートルずつその攻撃範囲は広がっている。このまま部屋いっぱいにダメージ結界を広げて削り殺す算段なのか? 本当にそれを実現できるリソースを持っているのか? あるいはこのモーションすら次の攻撃あるいは形態への手段なのか……?
「魔法攻撃無効で近距離対策に特化しちゃ駄目でしょ……っと」
試しにいくつかのスキルを重ねた矢を放つも、水揺れのダメージ結界に阻まれ、意味を成さない。伸ばした蛇頭も砕かれ、コチラのHPを若干削っただけに留まった。
「クソボスかよ! こんなトンデモない攻撃に対して僕に打てる手札なんて……
不気味なほどに静寂を保ち、1メートルずつ広がっていくダメージ結界からある程度距離を取る。
ポーションによる体力回復と【毒酔】更新に加えて、効果の終わった瞬刻視界のリキャストタイムを視界の端で確認し、海月頭から垂れる後ろ髪をかき上げる。
一応の備えとしていつでも【爆水】による緊急回避を行えるようにしながら、「セラエラの断章」を魔術書ホルダーから取り出し、開いた。
「よっしゃ目にもの見せてやるぜ……!!」
シュテルメアのモーションにあわせて「セラエラの断章」が輝きを放ち、出番を待ち侘びていたことを示すかのように震えた。
それは、魔法ではない。
その存在が禁忌とされる術の更に隠された秘術により生み出されしモノ。
彼は手を振るい、その現状彼だけが行使可能なユニークスキルの名を宣言した。
「【秘異の蜜蝋】」
輝く書の文字列より一滴の異様な存在感を放つ蜜蝋が浮かび上がる。
悪意に満ちた叫び声がどこからともなく響き、影が蠢きのっぺりとした無数の手へと形を変えた。
手は当の蜜蝋へと伸び、発動者たるシュテルメアにすら蝕むように襲い掛かる。
「悪意を持った異形を引き寄せる最悪の一滴だ……受け取れ!」
手をタラルトスクズに向けて蜜蝋を押し出すようにすれば、そのモーションにあわせて蜜蝋がゆっくりと動く。
自爆ビーム以降、今の今まで不気味なほどに感情を見せず水揺れの結界を広げていたタラルトスクズが目を見開き、水揺れによる迎撃を試みるが……蜜蝋の進みを止めることはできない。
困惑の咆哮はしかしてその動きを妨げず、ついには……蜜蝋がその肉体に触れた。
悪意の声が響き、タラルトスクズが今までの咆哮目的ではない純粋な悲鳴を上げ、シュテルメアの笑い声が世界に広がる。
「うはははは! とはいえこう表現されると闇落ちしたみたいだな! してないですよーっと」
────影が変質した無数の手達がタラルトスクズを襲い、その心臓を掴み取ることにより残り少ないHPを刈り取った。
・【秘異の蜜蝋】
そこそこの確定ダメージを与えるスキル。
生み出された蜜蝋は設定した敵をゆっくりとホーミングし、当たった時点から数秒後にダメージを与える。
早い敵には当たらない、発動までの数秒で身代わりなどを発動できればスカせる、装備が固定される。ダメージは高い。
・タラルトスクズの水揺れ結界
一見無敵に見えるが、ある程度体力が高い開拓者であれば無視できる範囲。毒対策は必須。
一定以上の威力(お義父さんによりギリギリシュテルメアの弓火力では抜けない程度に調整されている)であれば弓などの遠距離攻撃も有効。
・プレイヤーログ
見られた上で一応攻略可能に作られている。
そりゃあ元のストーリーとは違うことをしようとしてるんだから難度を高くする当然でしょう。
次回の更新は1時間後の予定です。よろしくお願いします。