第3回ルルイアス攻略最終日。
今日明日は1週間前から色々と調節して2連休を確保しているため、それほど焦って何かをする必要はない。
仕事がある日と同様に早朝に目を覚まし、朝風呂、簡単な朝食を口にする。うーんお味噌汁美味い。
秋も終わりがけ、油断すればすぐに風邪を引いてしまうような季節だ。暖房をつけるほどではないが、ログイン後に気にならないよう楽かつ暖かい格好に着替えた。つまり寝間着。
「わ、ミレィさん達から激励の連絡来てる」
1週間前に立ち上げたクランチャットにはそれぞれらしいチャットが届けられ、ついでにゲーム内にしか存在しない船長やコルトさんなどの仲間たちからの伝言まで入っている。
「……皆で挑みたかったなー」
皆、思い思いの時間を過ごしているようだ。
あ、ミレィさんとリベリオスは海岸で凱旋を出迎えてくれるんだ。まじで? わざわざ?
「ふふ、申し訳ないなぁ」
数ヶ月前、仕事のない日など死んだ目でSNSを見るしかなかったことがまるで夢かなにかのようである。
したいこと、やりたいこと、全てクリオネちゃんの……ひいてはミレィさんのお陰である。
ミレィさんの許可を得て写真ホルダーに保存したクリオネちゃんのイラストを見つめる。何度見ても美しくて、可愛くて、力強くて、魅力的だ。惹きつけられるような、引きずり込まれるような絵だと思う。
「………………よし」
気合いなど入れれば入れるほど良い。改めて頬を思いっきり叩く。
食器の片付けや部屋の掃除を簡単に終わらせて、掲示板で少しだけシャンフロ内の様子を見た。へ、へー、クリスマス前後に戦争が……今はその準備期間と。ウチのクランはどう動くことになるんだろうか……?
机に置いてあるVR機を手に取り、装着して……ログインボタンを押す。
「よっしゃ勝負だクターニッド。クリオネちゃんは僕が貰う……!!!!!!」
件名:Re:頑張ってくださいね〜
差出人:シュテルメア
宛先:ミレィ
本文:
ちゃんと船代は確保できたし、次は倍デカい船を買ってクランの皆で来たいな。
(ヘッタクソな“愛する人へ”の船首のイラストが備え付けられている)
◆◆◆
ログイン。前日、タラルトスクズの討伐後に少しだけ夜更かしをして移動と物資収集、錬金を行ったことで、現在のリスポーン地点はルルイアス城の真下にある家屋のベッドだ。
装備を確認し、部屋を出てみればすぐ目の前には巨大な城が聳え立っている。
「クターニッドとの戦闘開始までのギミックは何度挑んでも変わらない。楽で助かると言うべきか三度も挑むには単調で飽きると言うべきか……」
ミレィさん曰く、そもそもクターニッドは何度も失敗するような想定で作られていないらしいが……よほど頭が良いプレイヤーでなければ妄想体の時点で挑んでしまったり、封将を3体しか倒していなかったり、勝利条件が分からなかったりで何度かは失敗すると思うんだよね。
実例は僕。タラルトスクズに50回! いやぁ、強敵でしたね……!!!
ルルイアス城へと足を踏み入れる。
準備万端、なんなら最上階にいるモンスターを討伐して得られる王冠も(タラルトスクズに挑み続けるのに飽きた時に気晴らしに来て)回収済みだ。
「はい最上階」
軽やかに階段を駆け上り、人型のクリスタルの待つ玉座の間に到達した。
既にそこそこ見慣れて……はないな。他のやつが先に挑んでたこともあったし、まだ2回目の対面である。当の2回目のクリスタル像を少しの間だけ眺めた後、埋め込まれている宝石をささっと回収していく。
「王冠載せて宝石嵌めればいいんだっけ」
実際ここで挑まずにこのクリスタル像と宝石を持ち帰ればかなりのマニーが手に入るのだろうかという無粋な思考が過るが、この像はクターニッドにとって大切なものなのだと言う話をライブラリから聞いたことがある。まぁ……見るからにと言う感じではあるけれど。クターニッドの力の大きさを考えれば、持ち帰ろうとした時点で手加減抜きにズタズタにされてしまいそうである。
もちろんそんなことをするつもりはないのだが、その戦いに罷り間違って勝った日には特別報酬的なアイテムがあったりするんだろうか……?と変な想像をしてしまった。聖杯全部手に入るとか反転スキルを得られるとか。【海の化身ここにあり】なんてスキルを設定してしまう世界だし、あり得そうだ。
考え事をしながらも手を誤るようなことはなく、ゆっくりと最後の宝石を王冠へと嵌める。
前回までは近くにリベリオスがいたり、皆で封将と戦っている最中だったりで良い意味悪い意味共に騒がしい中の決戦開始だったが、今回は1人である。
静寂な世界が数秒続き……そして、
「来た」
ガタン、とルルイアス全体に振動が広がる。急いで玉座を掴み体勢を整えたのも意味をなさず、更なる揺れが襲う。
「…………くっっそ、寂しい!!!!!」
皆でボス戦前のワクワクしながら声を掛け合う感じ、めちゃくちゃ好きなのに!! 一人でもそりゃあ戦う! みんなの想いも背負えてる! でも寂しい!!!
揺れる、揺れる。一瞬だけ揺れが止まっ
「た! 行くぞー! クターニッド、覚悟ー!!」
グルリ、と天地がひっくり変える。上は下に、下は上に、横は横に……!
「姿勢制御!!! 余裕!!」
上へと落とされる浮遊感、いつも通りの感覚だ!
僕にとってはなんの異常でもない。水の中を落ちるのは慣れている……!!
戦場となる円形闘技場に3回転しつつもなんとか生きて着地し、バッと顔を見上げる。先制攻撃が今来たら死ねる……!
そんな僕の思考に反して、見上げた先の夜空に浮かぶ巨大な八芒星の魔法陣から生えた目玉がコチラを見定めるかのように凝視し、触手が揺れている。
『ユニークモンスター「深淵のクターニッド」に遭遇しました。』
……深淵は今ここに、再び倶なる天を戴いた。
不倶戴天。
言わずと知れたその言葉の意味に、彼らはようやく私情を見出す。前へと進み続ける歩みに、その歩みの先に世界でも、なんでもない明日でもなく、紛れもない自分達がいるのだと気づいてしまったが故に。
そして、深き海の底で盟主として君臨していたそれは相対を決意する。
“彼”が同じ天に存在することすら許容できぬ憎悪を、お互いが弾かれることを跳ね除け、自分にその理を反転させるにふさわしい存在なのかを推し量るために。
深淵のクターニッドが、開拓者という存在に向けてではなく、たった一人の人間に向けて言葉を紡ぐ。
『矮小な身でありながら、そこまでしてなぜたった独り我に挑む?』
聞いたことのない言葉。一瞬だけ目を見開いたシュテルメアは、
「────愛するモンスターと共に生きるため」
なんの躊躇いもなく、その本懐を応える。
友の、仲間の想いを背負っている。皆が応援してくれている。
『見事だ』
クターニッドが呟く。その微塵も揺らがない意志に敬意を表して……触手の先に握りしめられた聖杯が全て同時に輝き、地面へと叩きつけられる。
そして、戦いの火蓋が切って落とされた。
決戦だー!!!!
次回の更新日は未定ですが、3日後ぐらいを想定しております。
筆が乗っている……!!!