最後に残った壊れかけの青の聖杯に【異形術・竜】で作り出した竜頭を伸ばして集中攻撃させることで破壊し、魔法陣で出来たクターニッドが一際大きく蠢く。
『世界が変わり果てようと根幹は揺るがず、されば人は星の海を未だ泳ぐのか……』
ミレィさん曰く、僕達が今立っている世界、もしくは星は神代の人々がかつて暮らしていたものとは別物らしい。
詳しいことまで聞いた訳では無いが、つまりきっとこのクターニッドはその「別の星」の時代の後にあった「バハムートが人類を乗せて星の海を泳いでいた」時代から人類と共に在ったのだ。
クターニッドにとって、開拓者を相手にしているときに口にする口上は果たして過去に思いを馳せているのか、未来を憂いているのか……みたいな話である。
『遠く、遠く、遠くまで来た。私は彼女の故郷を知らない。私の故郷は星の海と同胞と彼女の笑みであった』
ほらね。
……ああ、そうか、きっと彼女というのは先程城で見たクリスタル像の元になった人のことなのだろう。
こんな超生物……?のようななにかをどうやって生み出したんだよみたいな疑問とあーやっぱ過去に想いを馳せてるらしいねみたいな考えを一旦横に置き、杖弓を構える。
『この世に在りて、されどこの世に在らざるもの。我が身に肉はなく、我が身に骨はなく、我が身に血は流れぬ』
この戦闘の最初に行われた問答にて間違いなく「僕」個人に向けられていた疑問(お前はなぜ一人でも戦う?的なニュアンスのアレ)を除けば、ここまでの口上は全て前回までの挑戦で聞いたモノと全く同じ。
さて、聖杯を破壊している最中ぐらいからずーーーーーっと感じていることがある。
『であれば、私は妄想を事実とし、幻想として生じ、空想より出でて想像とならん。故にこそ、故にこそ仮想となりて我血肉を求む』
蛸の外見を形作っていた魔法陣が闘技場の中心に収束し、ブラックホールが生み出される。
変わりと言わんばかりに外周部に理外の大きさの魔法陣が広がりはじめ、クターニッドが「仲間を呼ぶ」コマンドを打つ準備が整えられていく。ん?むしろ今はコマンド打ってる最中か?
さて、話を戻そう。そう。この戦い以来感じていることについてだ。
「クターニッド」
『…………命脈の波濤に抗え』
「僕を、見ろ!!!!!」
ずっと、ずっと、ずーーーーーっと、この戦闘中、あの問答以降、このユニークモンスターは僕を見ていない。凝視しているようで1ミリも見ていない。僕だけを見ていない。
理由は分からない、いやなんとなく想像は付くけれど。
この闘技場の僕以外の全てを凝視することで、間接的に僕を見ているのだ。
『闘争こそが命の本質故に』
目を逸らされている。
睨め付けるような視線を感じる。僕の周囲の空気を凝視して、僕をわざわざ見ないようにしているのを感じる。
完全に肌感覚と勘によるものだが、今クターニッドがブラックホールになり「仲間」に代わりに戦わせる形態に至ったことで戦闘のために僕を把握する必要がなくなったからか、余計に先程までの異常な感覚を自覚している。
「だから、無理やりにでも見せてやる」
最後の言葉とともに魔法陣から無数の海棲モンスター達が呼び出され、明らかに一人で捌き切ることを想定していないような数のモンスターが僕に向けて動き出した。
至金の歯車・密をドンと叩き、歯車が回る。
杖弓に雷が装填された。
事前にセットしておいた【魔法待機】を解除した。
闘技場に雷が張り巡らされた。
思いっきり引いた杖弓に、装填された雷は形を変え、獣の頭部が現れる。
一瞬、魔法陣の奥に目を見開いたクターニッドが見えた気がした。
魔法陣が収束し、吐き出され終えた魔法陣が消えていく。
クターニッドが「吸い込む」コマンドを起動し、それこそブラックホールのようにモンスター達が中心に吸い寄せ「【暴虐の雷獣】」られ、それよりも先に杖弓から過剰に強化を受けた最高の魔法が放たれる。
雷鳴が響き、世界は金色に染まった。
◆◆◆
「まぁ挑戦3回目だし……多分一人で挑む場合は難度調整かなんかあったんだろうね、アトランティス・レプノルカみたいな大物もほぼいなかったし」
特殊効果「金化」と異常な範囲に広がった雷により金へと変質した闘技場の真ん中で、シュテルメアはクターニッドがいる黒い穴を睨む。
「……とはいえどうだい、こっちを見る気にはなったかよクターニッド」
『人よ、遍く生まれ広がる一つ目の奇跡よ。人よ、前へ進み暗闇を照らす二つ目の奇跡よ。』
「………………ダメか」
やはり聞き覚えのある口上。
5秒で仮想体を終わらせればさすがにこっちに向くかと思ったんだけれど。
優雅な見た目とは裏腹に水面下で全力で足を漕ぎ浮かぶ鳥の姿を脳内に過ぎらせつつ、「至金の歯車・密」はもうこの戦闘では使わない/使えないだろうと判断しアクセサリーを「試験管ポーチ」へと変更、モーションカットを利用してMPポーションを連打し、MPを回復する。
『お前たちは何を成す、何を為した。示せ、示せ、示せ。』
まだ「お前たち」なんだよな。僕は一人で戦ってるんですけれど今。
『天より撒かれし種よ、お前たちは根を伸ばしたのか。』
『私は倶なる天を戴く者、私は深き淵より世界を見遣る者、偉大なる軌跡の残照を知る者。』
「まぁそうか、故郷への想いも親への執着も大切なものだよね」
『示せ、命の価値を。彼らの、彼女の願いは果たして叶ったのかを。』
油断なく杖弓を構え、ブラックホールの先からクターニッドが現れるのを待つ。
穴の縁に肉々しい指をかけ、蛸のような頭部を持った人型に近いクターニッドが現世へと現れた。
後部に担いだ円についた8つの聖杯が輝く。
「まだ足りない……まぁ当然。ここまでなんて今までの挑戦でもやってきたことだし。誰も見せたことのないような輝きを見せて、やっと僕の望みに辿り着くんだろう」
『闘争こそが命の本質故に、されば汝……証明せよ!』
「!」
『───Analysis.』
聖杯より放たれた光が僕の頭上で輝き、身体を解析する。一つ、二つ、三つ、四つ……いや、八つ。
今までは聖杯一つにつき挑戦者からランダムで一人を参照した戦法をクターニッドがコピーするものだった。だが僕が一人でここに来たゆえか、あるいは他の理由があるのか、参照のための聖杯が全て僕に向けられている。
「…………まぁそっちの動きなんてココからは関係ないんだけど」
杖弓をチェストリアへと戻し、代わりに海の化身より得た「深海の短杖」を取り出した。同時にコンソールを操作していくつかのアクセサリーを変更する。……魔法強化はもう必要ない。
HP、MP、共にほぼ全快。
『───Reflexus.』
僕を解析し終えた聖杯がクターニッドの元で輝き、クターニッドの手に杖弓らしき武器が浮かび上がる。
んー、オルケストラとネタ被ってない?
「……今までは、意識的に使わないようにしてたんだ。切り札だって以上に、僕が簡単に使っていいような力ではない気がして」
「深海の短杖」の固有スキル。
海中でしか使えないはずのそれは、このクターニッドの力によって歪められた闘技場の上でも使用可能であるらしい。
「でも、輝く必要がある。クターニッドが目を逸らせないほどに、僕を見たくなるように」
倶に天を戴いている。
開拓者とユニークモンスターとして。似ている存在としてか、異なる存在としてかは分からないが、クターニッドはいつまで経っても僕を、僕個人を見てくれない。
……何回か僕個人にちょっかいをかけていたような気もするけれど、それは……気まぐれか、あるいは気休めのつもりだったんだろう。それこそココに来るプレイヤーのみを退屈の慰めとしている延長線上だったのだろう。今までは?
「だから、悪いけど起きて力を貸してくれ……!!!」
強く杖を握りしめて、掲げる。
僕の想いに呼応するかのように灯籠としての役割を与えられたその杖はさらに強く輝き、僕の叫びを待った。
『──────』
「【海の化身ここにあり】!!!!!!!!!」
周囲が先程の【暴虐の雷獣】とは異なる輝きにより埋め尽くされ、肉体が軋み始めた。
筋肉は肥大化し、収縮し、より力強く。
魔力はうねり、混沌と秩序を繰り返した後より強大に。
魂が悲鳴を上げて、僕という存在を目の前のユニークモンスターと「戦闘」を成立させ得る段階にまで押し上げていく。
力が、力が、人間に与えるには余りにも強大に過ぎる力が僕という個人に宿っている。
『─────それは』
ようやく僕を見て、目を見開いて、構えていた杖弓を下ろしたクターニッドが口を開いた。
「使い方も分かる……!!!!!!」
海の法則と陸の法則を持ったこの闘技場で、海の法則を強く利用して僕の身体を宙へと浮かばせる。
あるはずのない水流が巻き起こり、力の鼓動に合わせて力強くクターニッドを打ち付けんと暴れている。
『…………海そのものであっても、諸海の王達を下せるというわけではない』
「……………?」
暴れる力を押さえつけることはしない。
なんとかクターニッドの言葉を聞き取り、強大となった肉体にすら留めて置けないほどの溢れ出た力を手のひらの上に球状で浮かばせて、僕は前を見た。
聞き取った言葉をゆっくりと咀嚼する。
筋肉の肥大化を加味しても、僕の身長はほとんど大きくなっていない。だが直前よりも余りにも小さく見えてしまうクターニッドに眉をしかめ、そして、
「海の……………王………達……?」
海そのものでも勝てない。……いや、そこは良い。今はいい。クターニッドは今僕個人を見ている。だが、だからこそ釈然としない言葉だ。なぜ今そんなことを言う?なぜ、
一瞬の思考の空白。
なにかを削るような音が数秒し、直後にガラスが割れたような音が背後から響いた。
「な、ん、なんだ……!?!?!?!? ドラゴン!?!?」
「ようやく見つけたぞ海の化身……!!!!!!!!! ギャハハハハハハ、何が海そのもの!!!!! 俺こそが!俺こそが!!!全ての海を支配する竜の王だ!!!!!」
青い明らかに海棲の……色竜!!?!?
いつか見た先々代色竜、異形化を引き起こしていた死体を思い出させるような見た目のソレが、闘技場の周囲にあったらしい結界を貫き、その巨大な腕を振り上げ結界の破片を蹴散らしながら突進してきている。
1秒、自身の溢れ出る力の奔流を使用する暇もなく、僕に詰め寄った巨体はその腕でヘッドロックのように頭を抱え込み、そのままの勢いでクターニッドへと突進を継続する。
『─────────』
「は!!!!! あのクソ龍王は死んだ!!! アレと同格のお前もそろそろ良いだろう、海の王!!? なぁ!!! クターニッド!!!!」
クターニッドがなにか言った。聞き取れない、これ、何がどうなって……!?!?
ていうか耳元で色竜がうるせぇ!! 鼓膜が逝く……!!
「この竜王エルドランザ様が二匹とも纏めて殺してやるよ!!!! 海の藻屑になれば本望だろう!!!! ギャハハハ!!!!!!!」
『青竜エルドランザの肉体が、怨敵達を眼前に蠢く』
『危険!災害状態!!!!』
「色竜はノワルリンド以外ジークヴルム戦で全滅しているはず……!!!!!!」
ミレィさんからの情報だ、間違いない……!!
「ていうかそもそも災害状態って……最初っから本気ってか!?!?」
有り余る力を行使し、エルドランザを引き剥がそうとするが……元が魔法職だった僕が使う【海の化身ここにあり】じゃあさすがに筋力不足らしい……!!
さらに強い力によりねじ伏せられ、クターニッドすら捕らえたエルドランザは闘技場を破壊、飛び出す。
魔力……クソッ、速い、揺れる、強い、ウザい……!!
「早くしねぇと奴らも来るからな!!! とっとと行こうぜ!!!!! 深海へ!! 俺の領域へ!!!!!!!」
エルドランザの肉体が蠢き、力がより増していく……!!!!
「ぐ……いや待て奴らってなんだよまだ増えるのか!?!?!?」
無理やり作り出した雷が何故か霧散した、エルドランザと殴り合いながらでは詠唱する隙もない、生み出された深海へと引きずり込まんとする海流を上書きすることもできない、これだけの力があって!!! まだ足りない……!!!
『不味い……!!!!!!』
クターニッドが明らかに感情に塗れた叫びを上げ、僕の感覚器官も更なる強者がコチラへと猛進していることを知らせている……!!
そして、状況はさらに“最悪”へと進んでいく。
・【海の化身ここにあり】
フレーバーテキストにはこのスキルの副作用しか書かれていない。つまり……強化について。
実際のこのスキルの主な効果は海棲の強者に対する「挑発」である。
海の化身に関するユニークシナリオを読み込めば自ずと見えてくるとかいうクソ仕様。
・色竜エルドランザ
7話「世界は移りゆく。彼を置いて。」にてキョージュが述べた新大陸前線拠点に向かっている色竜の中に緑がいない。
19話「一定のラインを超えると突然装備が一点物ばかりになるやつ」にて龍災後、原作であれば緑に対して大立ち回りをしたことでラビッツに招待され引きこもっているはずのイムロンがまだビィラックに会えていない。
この二つがこのユニバースにて未だに青竜が生存している伏線()でした。5回ぐらい先に書きそうになった。あぶねぇ。
コチラのユニバースでは「貪る大赤依」に緑の色竜が殺され、取り込まれた状態でサンラクパーティーと戦闘を行いました。恐らくですが海棲のエルドランザを取り込んで陸で戦っていたときの数倍強かったはず。
また、エルドランザ自身は「海の化身」捜索を優先したことで三強の必殺ビームを喰らわなかった形です。
・クターニッド
やばい。
次回の更新日は未定ですが、3日後になるのではないかと思われます。頑張ります……!