「では私、ミレィさんのスタイルを紹介するぜー」
「わー」
「今から戦うのはユザーパードラゴン!!」
「早速論点からズレたけど……?」
「いや対するは私、ミレィ!って繋がる予定だったんでぇ」
「なるほど」
今から行くのはフィフティシア、イレベンダル間のフィールド。ユザーパードラゴンとはその間にいるフィールドボスである。ちなみに僕は行き道は急いでいたから金を払って他のパーティーに入れてもらった。商人プレイのようなものである。
「とりあえず見せたほうが早いですよねぇ」
そう言いながらミレィさんがアイテムボックスから取り出したのは、短槍。
「おー」
取り出し様にクルリと短槍を回す姿は、かなり様になっており……彼女がかなりの間その武器種を扱ってきたことがうかがえる。
「シュテルメア君は何を使うんです?」
「魔法かな。雷と水」
「じゃあ私が前衛ですねぇ。おまかせあれ〜」
「おまかせします」
ちなみに、ちなみにであるが、今僕達がいる無果落耀の古城骸というフィールドは純魔お断りと呼ばれていて、古城内に出現するモンスターは魔法攻撃を吸収する。
僕が普段使っている戦闘フィールドはここから少し横道にそれた先にある砂浜であり、そちらはそういう訳ではないのだが……まぁ要するにあんまり役に立てないときが多々あるということが伝われば良い。
「じゃあやりますか……」
「シュテルメア君はユザーパードラゴンの動きは把握してますよね?」
「一応してます」
「じゃあこのミレィさんがユザーパードラゴンをなんとか引き付けるのでー」
「最大火力で倒す、と」
「そうなりますねぇ」
既に【魔法待機】は使用済み。
いつでも解放できるように備えた上で、ユザーパードラゴンの登場を待つ。
遠くから響く咆哮が耳を鋭く貫き、それにあわせてその巨体を揺らして、悠々とソイツはやってきた。
自分を見よとばかりに放たれた咆哮は、世界そのものが揺れてるのではないかというほどの雄々しさを携え、俺達の鼓膜を震わせる。
「自分が戦うってだけでこんなに……」
「まぁ私は何回か戦ったことがあるんで、なんとかなりますよー」
「まぁうん。そもそもそんな心配してない。アイツより怖くないし」
海の化身のデカさを思い出せば、コイツなぞただのデカいトカゲである。
余談だがただのデカいトカゲはわりと怖い。
「遠距離必須ですが、威力が低いと効きませんし速度が遅いと魔力を吸収されますよ〜」
「わかってる……魔法待機解除、【雷轟の矢】」
杖を弓に見立てて放った雷が、簒奪の竜を綺麗に貫いた。
今回は威力と速度に勝っている雷系統を中心に戦っていく予定である。
「【加算詠唱】……?」
「いーですねー!」
雷が命中したユザーパードラゴンがその動きを鈍らせ、高度を落とした。え、このレベルの敵に麻痺とか効くのかよ。
即座にミレィさんのスキルによって火力を増した槍がその翼を貫く。
「機動力削いで行きましょ〜!」
こちらにウインクをしながらそう叫ぶミレィさんに親指を立てることで了承の意を示し、同時にユザーパードラゴンが飛び上がりそうな範囲を指定する。
「【魔法範囲拡大】このへんだろ……【エリア・サンダー】ッ!」
槍と痺れを振り払い、飛び上がろうとしたユザーパードラゴンを電気を纏ったフィールドが襲う。
さらに動きを鈍くしたユザーパードラゴンが怒りのままに炎を吐いた。
マジかこれ避けれるか……?
「っ……、【加算詠唱】!」
死を覚悟し、ミレィさんに申し訳ないなどと考えている暇もなく……コチラのフォローをしようと短槍を振り上げたミレィさんが視界に入った。諦めたような様子はない。
……であれば、と、僕もその心意気に呼応するように恐怖を振り払って詠唱を始める。
「おまかせあれ……ッ!」
迫りくる炎をミレィさんが短槍を両手で回転させることで、僕に火の粉の一つ通すことなく防ぎ切る。
僕も応えねばと【加算詠唱】に加えて【魔法待機】を使用、発動寸前だった【雷轟の矢】を待機に入れた上で、さらに【加算詠唱】の開始。
僕を執拗に狙うユザーパードラゴンを、ミレィさんが短槍を振るい守ってくれている。
頭を、顎を、翼を打ち付けられ、貫かれたユザーパードラゴンがさらに怒りを込めて叫び、【エリア・サンダー】の効果が切れた上空へと飛び上がる。
「あっつ……ッ!」
「真上からだと厳しいですねぇ」
「槍投げとかは?」
「継戦〜〜〜」
よし。軽口叩く余裕はある。
詠唱を再開しながら、コンソールを呼び出して装備欄を変更する。今の装備はソロでの戦闘に特化した移動補助などの効果を持っているが……今は必要ない。アクセサリーを取り外し、代わりに雷系統の魔法による麻痺効果を増加させるアクセサリーへ。
炎を飛ばすだけでは防がれると気づいたユザーパードラゴンがその高度と重量を利用した墜落による攻撃を試みるも、ミレィさんの槍が綺麗に弾いた。
「お願いしますよぉ……っと!!」
「【魔法強化】【雷撃の道筋】っし、まかせろ! 魔法待機解除、【雷轟の矢】ッ!!!!」
雷撃が直撃したユザーパードラゴンが悲鳴をあげ、同時にミレィさんが放った槍の一撃がその翼をさらに傷つける。もう高度を保つので精一杯といったその翼を睨みつけて、次の手へ。
【雷撃の道筋】。数秒間効果の残る魔法で、この魔法で定めた範囲内に放たれた雷系統の魔法の効果を増すというモノだ。この魔法による強化、この魔法にかけた強化、その道筋を通る【雷轟の矢】にかけた強化。三重もの強化により放たれた【雷轟の矢】は、レベル99に到達したプレイヤーが放つ魔法に匹敵する。
……しかし、これだけが全てではない。
◆
「───蒼穹よ陰れ、暗天に嗤え、轟々たる喝采はなお及ばず、其は天より下る裁きの鉄槌」
「まさか、」
シュテルメアを守るという役割を一瞬忘れ、ミレィが彼の方を振り向く。
それを気にも止めず、ミレィを信じ切った様子でコンソールを操作しながら暗記してある詠唱文を読み上げ続ける彼の姿に、背中を預けるミレィもまたユザーパードラゴンに向けて愛槍を構え直す。
「……ここは通しませんよぉ」
「詩人は謳う、其は神の威信と、僧侶は説く、其は神よりの天罰と」
その魔力の動きに気づいてだろうか、ユザーパードラゴンが今までとは比にならないほどの勢いでシュテルメアへとその牙を向けるが、それすらも短槍は妨げてみせる。
「真実を告げる、其に義は無く、其に邪も無く、其は純粋にして至極なる暴力」
ユザーパードラゴンが雄叫びをあげる。それは本竜にとっては威嚇を意図したものだったが、他の者にとっては……その生に有終の美を示すものに見えた。
「叫べ、 呵々大笑の鉄槌、大地を叩き万象我が道を塞ぐ敵を打ち砕け」
「最近見ましたがぁ……そう言えばそれは別にユニークとかじゃないですもんね〜」
ミレィが呆れたように肩を竦めてそう言うのを聞き流しながら、この高威力の魔法を発現するためにMPの回復促進としてつけていたアクセサリーを外し、詠唱のはじめに取り替えていた雷系統の魔法の威力を上げるアクセサリーへ変更し直す。
「撃ち砕け雷霆、 其は喰らい付く飢えた狂犬、其は我が意に従い敵を滅ぼす忠実なる猟犬」
詠唱が終わり、魔力が収束する。
同時にシュテルメアがその杖を空へと高く掲げ……
「ナイス時間稼ぎ。最近追加で暗記したんだ。威力試しに付き合ってくれよな。【
かの剣聖が切り札として扱うレベルの魔術。レベル84程度の身空でその境地に至ったのは、剣による戦闘を主とした上で手札の一つとしてこの魔法を扱うその剣聖と違い、彼がただ雷と水の魔法のみを求めたからだが……だからこそ、その威力は剣聖のそれを上回る。
【雷撃の道筋】、【加算詠唱】、アクセサリー、そのすべての恩恵を受けた魔法が……炸裂した。
その竜に容易く勝つ者は多くいるだろう。
しかし、その竜との戦いが英傑への道のりの一つになり得ないという訳では無い。
では、なにをもって偽典とし、なにをもって正典とするのだろうか?