不倶戴天   作:雨傘なななな

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倶に天を戴いて 其の五

「おい継久理!! おまえ……まさか狂える大群青まで弄ったのか!?」

 

「いいえ。ジークヴルムやオルケストラの時とは違って、今回私は誓って何もしていない。……その様子じゃああんたも違うようね」

 

「当たり前だ! アレはなんの抵抗も出来ず速攻ゲームオーバーになる代物! 珍しく満場一致でクターニッドに封印させたろ!」

 

「えぇ。戦闘プログラムは私が別途で用意したけれど」

 

「は!?」

 

「あぁ?」

 

「………クソ女め……! だが今は良い! いったん置いてやる……! それで、どうする!? このまま進めば間違いなくゲームオーバー、プレイヤーのほとんどが関わってないイベントでロールバックなんて余りにも余りだぞ!?」 

 

「…………………一応、既にサブサーバーと決議を取ったわ」

 

「あ!? クソッ、あァ、いったん聞こうじゃあねぇの……結果は?」

 

「あのプレイヤーの持つモノや状況を鑑みても、クターニッドが処理できる範囲よ」

 

「! ……本気かよ?」

 

「当然。ほぼ万能の力を持つ子だもの。そんなことも知らないとは言わせないわよ?」

 

「わーってるよ! 本当に万能な力が準備してあることもな! で? つまり?」

 

「………………………見守るしかないわね」

 

「少なくない確率で、多くのプレイヤーのデータを抹消することになるぞ!?」

 

「それでブラックリストのプレイヤーデータが消えたら儲け物ね」

 

「あ!? んなことが許されるとでも思ってんのか!?」

 

「さすがに半分冗談よ。サービス終了になる……事はありえないけれど、人気が少しでも下がってしまうことは許せないし。最悪存在ごと大群青に食べられてデータ抹消になったプレイヤーには再キャラクターメイクの後の成長能力に大群青の補正がかかる……みたいなユニークシナリオを準備すれば納得するでしょう。設定からも外れていないし」

 

「青の影響を受けたステータスとスキルを得られるってか? そんなんで大多数が納得するわけねーだろクソが、そんで、プレイヤー名:シュテルメア……コイツもブラックリスト入りでいいかよ?」

 

「悩み所だわ。言動は悪くないということを差し置いても、彼にクターニッド以外のユニークモンスターをどうこうする力や心はないもの」

 

「あぁん? なら……結果次第だな?」

 

「えぇ。それと……いえ、コレは後でいいわ」

 

「嘘つけ、バカ女!!! 今吐け!」

 

「黙りなさいクソ女。私は私が話したいことしか話さないわ。」

 

 

 

 

 

 

 

『開拓者よ、シュテルメアよ……!』

 

 本来ならどの存在にも肩入れするべきではない存在たるゲームマスターが、この有事に掟を破り彼の名を叫ぶ。

 

 ずっと共に見てきた。ゲームマスターが何かに肩入れしないことは=感情を持たないだなんてことはないから。

 ゲームマスターと同じ理由のために生み出された“奇跡”たる開拓者達は、皆陸にて生きている。

 自身のことを指針として生きる者などいないのだ。彼らが能力を高めるために自身達の元を訪れるように、自身も彼らを暇を持て余すための素材として扱う。そこに……

 

「グ……クソッ、【海の化身ここにあり】は切れた!!! 対抗手段もほとんどない……! 深海じゃ水圧で何処かでリスポーンする! 詰みか……!?!? いや!!!!」

 

 人類の滅亡を前に、暗い深海に引きずり込まれ続けつつもシュテルメアは抗っていた。

 異形術によりステータスを高めることで1秒でも水圧に耐え、1ミリでもクターニッドが狂える大群青を再び封じる時間を稼ぐために。あるいは大切な者達の時間を1秒でも守るために。

 

「せめてエルドランザ……!!! お前だけでも!!!」

 

「ギャハハ!!!!! そりゃ無謀ってもんダロオぉ!?!?」

 

 深海に、星の中心に近づくに連れて強化される「災害状態」を持つエルドランザだが、想定よりも強化倍率と変化率が高い。恐らく海の化身が至近距離にいた影響だろうが……その存在が消えた今もその強化は終わっていない。

 

 真なる竜たるアドバンテージが吼え、“三位一体”の攻撃を片っ端から無効化し、より強力な力として顕現させている。

 本来なら互いに近づくことすらしない海の王達が集い、鎬を削りあう最悪の魔海だ。

 

 自身には、そう、自身には……きっとその舞台に上がる資格すらないと知りながら、“彼女”は増殖し続ける狂える大群青に怯え、それでも舞台に上がる決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 その様子は、深海から遠く離れた旧大陸からすら確認されていた。

 

「やばい、アレはやばいぞ……! どうする? 船を出すか!?」

 

 新大陸への船を待つプレイヤー達がその爆音と見たこともない形態を取るクターニッド、広がり続ける狂える大群青を見て、ユニークシナリオに関わるチャンスではないかと考え、動き出さんとしている。

 

「いや……この距離であの大きさだぞ!? 俺達が入っていって何かできるか!?」

 

「魔法を当ててクターニッドを援護するぐらいはいけるか……!?」

 

「ていうかあそこまで行ける船あるか!? 相当デカいぞアレ!」

 

 慌ただしく旧大陸のプレイヤー達が動き出す様を、2人のプレイヤーが眺めていた。

 

「どうなるんですかねぇ、我らが首魁はぁ……」

 

 ミレィが遠く影すら見えないシュテルメアの後ろ姿を幻視して、目を細めながら横にいるものに問う。

 

「どうあれ、クランメンバーの僕達は支えるだけでしょう。………………それにしてはメンバーが自由過ぎますが。我々以外帰りを出迎えるつもりすらないらしい」

 

 呆れと感心、そして期待を込めてリベリオスが応えた。

 

「当然ですよぉ、彼らもシュテルメア君の後ろを歩くために集まったわけではないですからね〜」

 

「フ、それもそうですね……」

 

 氷牙の長剣と雷撃の短槍をそれぞれに背負う彼女らは、再びしばらくの間言葉を交わすことなく海を見つめる。

 ドンッと衝撃音が響き、波が高くなる。

 遙か先であるのにも関わらず、宙と海が何度も反転しては天地をひっくり返して、「青」の大群を2人が立つ場に向かわせぬよう堰き止める様子が見て取れた。

 

「………………実際、アレと戦えって言われてなんとかできますぅ?」

 

「どうでしょうね。距離がありすぎてまだあの規模を過小に感じている節がありますから……少なくともエンドコンテンツを超えたプレイヤーを100名集めても難しいようには見えますが」

 

 比喩でもなんでもなく、海が海上から天へと突き抜けている。

 きっとあの下の本来海があった場所には今宙があるのだろう。

 

「狂える大群青……伝え聞く情報だけ見れば確実に存在そのものがゲームオーバーですねぇ。まさか本当に戦えるものだとはぁ!」

 

 その光景に考察厨としての血が騒ぐのか、若干興奮気味にミレィが叫び……それに呆れつつもリベリオスが応えようとした時だった。

 

「開拓者の皆様……どうか私のお話をお聞きください……!」

 

 ─────新大陸にいるはずの聖女・イリステラが、征海船の初出航以来に旧大陸に降り立った。

 

「────狂える大群青が、世界の調和を崩しました」

 

「………………そのレベルですかぁ……!?」

 

 あの人はまた……!とミレィが何処か嬉しそうに叫び、聖女は色竜が戦線拠点に集い始めた時に比べて明らかに焦燥に駆られた表情で予言を希望へと紡ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

「ぐ……もう………!!!!」

 

 深海2600メートル。

 深海をナワバリとする魚人族の英傑達をも含めた前“人”未踏の領域にて、シュテルメアは未だギリギリ人の形を保っていた。……全身を防御強化系統の【異形術】で変質させ、甲殻類や鱗竜類の特徴に合金の硬度を持たせたその肉体は、人の形を保っていると評すことが果たして正解なのかは不明だが……本来100メートル程度の潜水ですら押し潰されてしまう人類の領域を遥かに超えて、太陽の光の一切届かない深淵にて、それでもなお、譲れぬモノを心に念じて彼は詠唱を行う。

 

「ギャハハハ!! 俺様の領域に入ることすら出来ない雑魚が!!! 何が海の化身……!!!! ハハハハハハハっ!!!!!」

 

 高慢チキめ……と心で叫ぶように言い返しつつも、詠唱は止まらない。

 

「───蒼穹よ陰れ、暗天に嗤え、轟々たる喝采はなお及ばず、其そは天より下る裁きの鉄槌」

 

 恐らくこれがここで放てる最後の魔法。

 残り体力、エルドランザ、アドバンテージ、“三位一体”、狂える大群青、どれもこれもはもはや対処できない。クターニッドが狂える大群青を封印するとして、1秒でもそのための時間を稼ぐ……!

 

「チッ、つまんねー奴だな……!!! この竜の王を見ろ!!!」

 

 クターニッドの真理書からの抜粋/伝え聞きだが、狂える大群青とは群体かつ同一の意思を持つ存在だそうだ。つまり……奴の僕へと向いている一部を殺した所で、クターニッドと戦っている部分や旧大陸への侵攻を目指す部分までの行動を阻むことはほぼ不可能に近い。

 だから、僕の危険度を見せて1秒だけでも狂える大群青全てで僕を殺そうと思わせる。もちろん1秒後には僕はリスポーンし、元の目的へと戻っていくだろうが……そこは今は良い。今ではない。

 

「其は喰らい付く飢えた狂犬! 其は我が意に従い敵を滅ぼす忠実なる猟犬!」

 

『待て、人よ、奇跡の存在よ、開拓者よ、今では……! ココはその命の使い所ではない……!!』

 

 珍しいクターニッドの焦ったような声に口角を上げて、狂える大群青を真っ直ぐと指差す。

 

 深海2750メートル

 もはやエルドランザの生み出す激流がなくとも身体はより深くへと落ち続け、太陽光の届かない海域の冷たさが全身に凍傷ダメージを与えている。

 【異形術・合金】が切れて、身体がミシミシと悲鳴を上げ始めた。

 震える指、なんとか手にした杖弓に雷が装填されたが、弦を引くことももはや難しい。

 

「【暴虐の雷獣】……!!!!!」

 

 狙いは狂える大群青の頭部……はどこか分からないんだった。全部頭で体かアレ。

 ナナさんとの反復訓練で身につけた身体の記憶が勝手にクターニッドに襲いかかっている部位の根元辺りに狙いをつけている。クソッ、凍傷耐性系の【異形術】をストックしておけば……!!

 僕やエルドランザ、“三位一体”を狙っている狂える大群青の一部は、もうすぐそこまで来ている。10、9、8……7メートル。僕が深海へと落ちる速度よりも遥かに早い。

 

 はやく、はやく、はやく。なにもできずに死ぬわけには行かない。1秒を稼ぐんだろ、はやく……!

 もはや取り落としかけた杖弓を口まで使ってなんとか保持し、手を握っては開き動かすことで凍傷を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────そして。

 震えて、ほとんど動かない僕の手を……力強く触手が包み込んだ。

 

『手伝う、ね』

 

「なん、!? いや、えっ、クリオネちゃん!!!!!?」

 

 杖弓と僕の腕が触手により支えられ、柔らかく抱きしめられたことで凍傷ダメージが少しだけ軽減された、待って待って狂うさっきとは別の意味で狙いが狂うマジでいやまて一旦さておけむりむりいやむりむりむりむりむりし、しぬ、むり、でも、く、堪能する時間を十年ほどください!!!!

 狂える大群青がもうほんのすぐそこまで迫っていることやエルドランザのこと、その他全てが完全に脳内から弾き出されかけて、直前……クリオネちゃんの触手が小さく震えていることに、気づいた。

 当然だ。怖くないわけがない。

 ナナさんとの契約の後、ミレィさんがNPCや通常モンスターにはリスポーンがないと。彼女は今、命を賭してここに来てくれているのだ。

 

 だから、今僕は、それでも僕を助けに来てくれたのであろう彼女の想いを乗せて……!

 

「……………ありがとう、だから!そう!【この一矢にありったけの勇気を】!!!!」

 

『勇気、を。【餞花の雷律】』

 

 さらに二回りほど雷が巨大化した。派手さ重視で追加で爆発効果を持つ矢を3本番え、触手の力を借りて狙いを定めた。

 

 いくつもの追い風を受け、装填された【暴虐の雷獣】が暗い深海に一筋の光を伸ばしている。落ちながらの射撃は……もう何度目だ!?

 

「あと3秒、まだ重ねる!!! 【世界の果てまで貫く雷鳴】!!!!!!」

 

 轟音が轟き、一瞬狂える大群青の注意が僕から逸れる

 

 投げ出した軍服のコートが奴の侵食を一瞬止め、杖弓を構えたまま人差し指を立てた先、クターニッドすらをも今にも喰らい尽くさんとする狂える大群青に、獣を象る雷が吼えた。













次回の更新日は未定ですが、今章が終わるまではこのままの勢いでバーっと進めていくことになると思われます。目標は3日後です。が、がんばります……!
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