感想、お気に入り、しおり、ここ好き、アンケート回答など、めちゃくちゃ励みになっております! ありがとうございます!!!
次話からようやく最終章がはじまります。
ここ1年私的に勉強しているテストが8月頃に終わるため、そこから一気に書き上げたいと思っております。もう少々お待ちいただければ……!(息抜きに投稿する可能性はありますが)
「────狂える大群青が、世界の調和を崩しました」
フィフティシア。
海岸線の港でクターニッドと「青」の戦いの行く末を見つめていた数多の開拓者達に、偉大なる兎の力を借りて単身旧大陸へと出戻ってきた聖女が告げた。
聖女の足元で水音が立つ。つい数分前まで陸地だったはずの場所が海へと塗り替えられていた。
既に海面の高さは通常の満潮時よりも三メートルは高いところにあり、その様はたしかにこの世界の終焉が近いことを開拓者達に嫌でも理解させてしまう。
聖女が何かを待ちわびるような表情でその足を濡らしながらも怪物たちの戦いの趨勢を見つめ、どこか遠くで狼が吠えた。
「狂える大群青が、真なる竜種が、三位一体の怪物が、最強の色竜が、それぞれの望みを果たすために集っています」
「彼らの歩みは、彼らの望みは、世界を滅ぼすことではありません」
「ですが、彼らがその望みを果たすためには、大いなる海ですら小さすぎる」
「世界は海に沈み、人類は滅び、大いなる海の半分は青く染まり、もう半分は血の赤に染まることになります」
「今はクターニッドがその波濤を押しとどめていますが、長くは保ちません」
矢継ぎ早に告げた聖女は今一度開拓者達へと視線を戻し、祈るように両手を握りしめて目を瞑る。
遠く離れているにも関わらず、港にまでクターニッドの咆哮と悲鳴が届いて、そして、世界は……
「聖女様、私達はどうすれば……?」
誰かが不安げに声を上げた。開拓者達が勇気を持って己の武具を握りしめて、しかして誰もが特攻できない威容を海は放っている。
「英傑が必要です。偉大なる7つの最強種、深淵のクターニッドより命運を託された英傑が。」
シュテルメア君……と、ミレィが呟く。
海がさらに世界を侵食している。遠くで空がひっくり返り、星が墜落し、フィフティシアの大地すら揺らし、波は街並みを削り取り始めた。
「未来を見通す私にすら、かの英傑の行く末は……見えません。」
「しかし、だからこそ、彼にしか救えない。」
ズレてしまった道程を、歪んだメインストーリーを、元の場所へ戻すため……聖女の未来視にない存在が、必要とされている。
「深淵へと至る鍵の争奪戦から連なるこの道程は、深淵の英傑の歩みの先、星の海を泳いだ乙女の元で終結へ至ります」
「見る限り最も悲惨な未来の証明は、狂える大群青の海底到達を持って成されるでしょう」
それらのキーワードを受けて、ミレィの脳は高速で運動を始めた。
「リヴァイアサン……勇魚……海底到達の意味は」
口に出した言葉が意味を持つ。
(オルケストラ攻略に際して2つのバハムート内で見た情報群は何を見せたか。そう、海底の先、この星の中心には、サイガ-0とサンラクが勇魚と話したことは、勇魚の愛する人は今、あの肉体の脳の在り処は)
(狂える大群青の性質は万物の吸収と自身の増殖。それが海底に到達するまで続いた先で吸収されるものは、最も悲惨な未来は、)
(だがそれが人類の行動によるものではない以上、その対象は人類には、違う、人類も、シュテルメアも関わっている。なにより、勇魚が2号人類を守る理由を失った時にどういう行動を取るかは一切が不明。希望的観測は意味をなさない。そもそも聖女の未来視が悲惨な未来と言っている以上、想定するべきは最悪)
「リヴァイアサンが敵対する……………?」
最悪の想定に辿り着いたミレィが、普段からは考えられないほど直線の結論を口に出したその時だった。
『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します。』
ユニークモンスターが討伐された時などにのみ行われるワールドアナウンスが世界を揺らした。
『ワールドクエスト「シャングリラ・フロンティア」が一時停止/退行を報告させていただきます。』
『アナザーワールドシナリオ「世界の終わり、希望は潰えて」が発注されました。発注の可否はそれぞれのメニューより選択を願います』
『アナザーワールドシナリオ「世界の終わり、希望は潰えて」を発注しますか? YES NO』
「────かの青き大群を討つため、深淵の英傑が立ちます」
聖女の言葉を聞き、ミレィは一旦自動的に開かれたウィンドウを保留して海の方へと視線を戻した。
既に波際は遥か後方にあり、ずっと続いている大地の揺れは少しずつその勢いを増している。
シャングリラ・フロンティアの世界が終わると言われても、考察的に見ればそのストーリーはまだ中盤も中盤。
全てのユニークモンスターが倒され、その後現れる“ナニカ”を討伐してようやく終わるはずのこの物語が今すぐ終わると言われても、彼女には何の実感も湧いていなかった。
だからこそ目を輝かせてシュテルメアの躍進を見守っていたわけだが……無機質に目の前に現れたウィンドウの「アナザーワールドシナリオ」と言う文面が訴えかけている。
まさか本当に終わるのか、と。
「アナザー……もう一つの終焉ですかぁ……?」
ミレィがそう呟いた直後、その耳が遠くから近づいてくる叫び声を捕らえた。
「ぅぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!」
パッと顔を向けた視線の先、なぜか聞き慣れた声と共に海が割れ、何かが海岸へと飛来している。
「シュテルの兄ちゃん……!!?」
「深淵の英傑とやらの御帰還か!」
すぐ側でシュテルメアの懇意にする鍛冶師と元黒狼のリーダーが叫び、明らかに地面に激突して致命傷を負う速度で迫る彼を受け止めるため、ミレィの近くにいたシロミ魚が魔法を唱えた。
「死ぬ!!!! HP1割切ってる!!! 着地着地着地着地!!!!!!!!!!」
「【エア・バッグ】!」
「う、ぐ、がっ゙、ありがっ、ぐぇッ゙ぇ」
ギリギリで発動された魔法により、苦悶の声を上げながらもなんとかリスポーンすることなく着地した深淵の英傑が、ミレィの目の前で止まり……
「……だ、大丈夫ですかぁー?」
なんとかといった体で倒れ込んだシュテルメアへと心配気に声をかけるミレィに、同じくシュテルメアへと目を向けた聖女が告げる。
「開拓者様。貴女の答えを肯定します。私が見た未来に来たる存在を。新たなる最強種の一角になり得る存在こと────“狂慕のイサナ”、を」
事態は既に急速に終焉へと迫っていると。
◆
聖女の言葉を受け、腕に抱えていた何かを大切そうに仕舞い込んだシュテルメアが顔をあげる。
ミレィには、その後悔と苛立ちが混ざり合った表情がよく見えていた。
「僕のせいだ……」
「シュテルメア君、それはぁ〜……っ」
呟くように零されたその言葉に、できるだけ平静を装いいつも通りの言葉を返そうとするも、それは途中で止まってしまう。
シュテルメアの顔には、クターニッドの呪い、いや印栞を表す紋様が刻まれていて、彼がクターニッドに認められたということを示しているけれど、ミレィにはそれを手放しには喜べなかった。
「僕が海の化身の力を使ったから、その力に憤っていた海の支配者達が押し寄せた」
「待っ」
ミレィの冷静な部分がここで“自分のせいである”という部分を(真偽はどうであれ)暴露することによる世論の傾きという問題を訴えかけている。
しかし、彼女には止められない。
「止めないと。クターニッドは言った。1週間時間を稼ぐって」
「…………!」
彼の、シュテルメアの、全てを背負い進もうとする道程を邪魔したくなくて。
「クリーオー・クティーラも、僕を庇って死にかけて……今も消えかけてる……!」
先ほど彼が大切そうに抱えていたもの……おそらくクリーオー・クティーラの魔力が、彼に差し出されて不安定に点滅した。
いつのまにか、開拓者も、聖女も、フィフティシアの住民達も、彼の言葉に黙って耳を傾けていて、遠くで響いたクターニッドの咆哮や激突音すらその静寂の場面を破ることはできない。
「止めなくちゃ行けない。ゲームなのに、遊びの世界なのに、誰も死にはしないのに!」
聖女が少しだけ悲しそうに顔を歪めるのを気にも留めず、彼はさらなる言葉を紡ぐ。
「それでも!!!!!」
「それでも…………僕はクリオネちゃん達と入られる未来を護りたい……!!」
その時誰かがポツリと呟いた。
「深淵の英傑」、と。
不倶戴天を謳うユニークシナリオに、どこまで行っても彼は寄り添おうと言うのだ。それを捕まえてクターニッドのための英雄だとは、あまりにもお誂向きがすぎる。
「ミレィさん!!!」
「……なんですかぁ?」
ミレィがニコリと笑って応えた。
「僕に力を貸してくれ!!! 全部助けて、全部護って、ハッピーエンドに世界を返したい……!!!!!!!」
彼の叫びに応えるように、クターニッドが一際大きな咆哮を上げる。
彼が英雄たる理由などいくらでも見つかるが、世界を護らなくてはいけないという使命ではなく、護りたいという願いを叫ぶ所がきっと最も“らしい”部分なのだろう。
「──────どうか皆様、世界を頼みます……!」
◆
「ジュリウス……」
旧大陸フィフティシアの街から遠く離れた、大怪獣の決戦場を間に挟んだ新大陸の攻略拠点付近にて、聖女と開拓者の女にその身に秘めた乙女心を暴かれた勇魚が、一切の感情が失われた表情でモニターの先にいる愛する人を見つめていた。