不倶戴天   作:雨傘なななな

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星映しの水面に愛を謳う 其の二

メインサーバー「リヴァイアサン」へアクセス、プレイヤー:シュテルメアのログデータを参照。

隠しパラメータ「歴戦値」を計測、基準値を満たすモンスターデータをロード。

 

───これまでの戦闘リザルトを計測

 

───平均値を上回るスコアは算出されませんでした。

 

───WMワールドマスター権限による「正典カノン」プログラムの使用は必要ないと判断されました。

 

───SS2より上審の申請。「正典カノン」プログラムの使用が要求されています。

 

───申請が認可されました。WMワールドマスター権限による「正典カノン」プログラムの使用に問題はないと判断。

 

───MS1申請…………認可

 

───MS2申請…………認可

 

───MS3申請…………認可

 

───SS1.2.3.4.5.7……決議申請

 

───可、可、可、否、可、否

 

───結論、「正典」プログラムを実行する

 

 

 

英傑プレイヤーへ試練を、第四楽章を乗り越えた貴方へ捧げる最終楽章:真。

通常の理由に依らないことなど関係なく、試練は開かれる。

 

乗り越えるべきは大敵に非ず。

 

ここに、図書館を名乗る開拓者の一団の考察が爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一楽章「黒き雷竜の叫び」

 

 第二楽章「炎雷の王たる誇り」

 

 第三楽章「我こそは大いなる海」

 

 第四楽章「弓兵殺しの猛牛」

 

「これで前提条件はクリア、と」

 

 特段大きなミスもなく(強いて言うならばアトランティクス・レプノルカがどの戦闘を指しているのか分からず困った)、最終楽章の手前まで辿り着いた。

 装備を失っているような事態であるならばともかく、基本的にプレイヤー側は実際に戦った当時よりも今の方が強いのだからそこまで苦戦しないのは当然だろう。

 

 息を整え、装備の確認をして、舞台を見つめる。

 一人、一人と数多くの演奏者がいた舞台からは人影が減っていき、最終的に残ったのは……歌姫エリーゼともう一人のみ。

 

「正典ルートだったかー」

 

 キョージュからの話では、勝算が着くまでは征服人形は格納したままで戦うべきとのことだ。まぁ僕もわざわざ死ぬ前提での特攻にナナさんを付き合わしたいとは思わないわけで。

 深海の短杖改め、取り出すは深淵杖クティーラ。

 

 

・深淵杖クティーラ

深淵の封将を海の器へと注ぎ生み出された杖。その様相は杖と言うにはあまりにも異形であり、もはや持ち手すら失っている。

魔力の炎を灯し、この杖は深淵の暗闇を照らすだろう。

器は所有者の魔力を込めることで、その魔力を使用して封将のかつての魔術を再現することができる。

器及び封将と所有者の信頼値によって込められる魔力は変化し、最大時の魔力量は500。

また、この杖は装備欄を埋めることなく装備することができる。

彼女は所有者と倶に歩み、世界を識るだろう。

 

 

 ポン、と音を立てて灯籠を魔力が包み、クリオネちゃんが出現する。

 オルケストラが召喚した僕の上位互換コピーから目を離さないままにクリオネちゃんに軽く挨拶をして、もう一つの愛杖である杖弓を呼び出す。

 

 クリオネちゃんを封じて新たに生まれ変わったこの深淵杖クティーラの最もやばい点はここだ。装備欄を埋めることなく装備可能。

 つまり、両手武器である杖弓を装備しながらコチラも同時に装備、2つの武器の装備補正を同時に受けられるのだ。

 試しに装備した僕を見てイムロンさんが目を点にしていた。

 その後、込められる最大魔力500の字面を見たサンラク女史が明らかに最高峰であろうマント型アクセサリーと見比べて目を点にしていた。

 

 それとこれは海中戦闘に限るが、今まで移動に使用していた【ウォーター・ジェット】などの補助魔法をクリオネちゃんがかわりに詠唱して発動してくれる。む、無法すぎだろ。いいのかこれ。本当に??

 

「こっちは準備完了」

 

『───私は観測者』

 

 ゆっくりと、静寂に包まれた劇場で、あまりにも美しいアカペラの歌が紡がれる。

 

『───私は歌う、歌う。私は問う、問う。紡ぐ旋律は命の螺旋、叫ぶ歌声は大いなる問いかけ、語る言葉は英傑となる』

 

───私達は、貴方を見ている』

 

 ゴポリ、と水中で誰かが小さく息を吐くような音が響く。

 足元が少しだけ水に浸かっている。オルケストラは、その劇場内では天変地異を簡単に起こす存在だとは聞いている。

 

『───問いは、比較を経て結論に至る。だから、だから………!』

 

 だからきっと、そういうことなのだろう。

 

 確かに、僕に問いかけるために戦闘を必要とするのであれば、これ以上の戦場はない。

 ココ以外で僕から得られる結論などたかが知れている。それでも……

 

『───まっすぐに、純粋に、前を見つめる旗取手。暗闇の中でも、見えなくとも感じられる冷たく強い光。ならば貴方は「深海魚」………!』

 

 水量が突然増える。そこそこの大きさしかなかった劇場は当然のようにどこまでも広がる海へと代わり、それにも関わらずなぜか観客席に囲まれている。

 

『…………』

 

 ゆっくりと歌姫エリーゼが戦士へと仮面を授け、受け取った仮面を被る「彼」の顔は模様一つない真っ黒なソレに空けられた一つ目を爛々と輝かせている。

 

『───立ち上がって、私の英傑。そして、歌うことしかできない私に代わって……問いかけて。』

 

 そして、僕と「彼」の戦いのゴングが鳴った。

 

 

【シュテルメアの紡いだ物語】最終楽章。

 

『─────「正典:あなたに捧ぐ旋律」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!! クリオネちゃん!!!!!!」

 

 大きく息を吸い込み、最速でアクセサリーを交換し、「海中移動促進筒」二本と試験管ポーチを装備する。

 人型の相手に魔術強化系の装備は過剰打点になるだけだとアルジェントとの戦いで既に学んでいる。求められるのは機動力と攻撃速度、そして対応力……!!

 

 水中呼吸ポーション服用! 活動限界の十秒前にアラームが鳴るようにチェストリアの機能を操作し、ついでに取り出すは異形化ポーション。

 

 試験管ポーチを介して異形術を行使、甲羅盾を出現させる。

 まだ【炎雷之鯱】みたいな数に限りのある強札を使うには速い。

 対して「彼」は……【異形術・蛇】で利き手を三頭の蛇へと異形化させたらしい。試験管ポーチは確定、後の装備は何を選択した……?

 

 彼我の距離は20メートル程度。まだ魔術の距離だ。杖弓を構え、全速力で舌を回すことで【詠唱短縮】を利用した【雷轟の矢】を発現させる!

 大火力を先に当てた方の勝ちだ。おそらくそれが最適解……!

 

 ……と、全て言語化していたわけではないもののそういったことを考え最速を選ぶ僕に対して、「彼」の出した答えは違った。

 

「な、いや、それ」

 

『…………』

 

 三頭の蛇の牙にそれぞれ物理弓、物理弓、共鳴の雷杖弓の3張りを持たせ、周囲にクリオネちゃんこそ出現していないものの恐らく「深淵杖」であろう灯籠を浮かべ、逆手で3本の弓全てを引く。

 

 選択した魔術は恐らく詠唱なし/魔法名のみで発現させた【果てまで届く雷鳴】。杖弓に弦を張ることだけを目的とした魔術選択。だがその杖弓から放たれる物理矢には魔術強化が乗り、通常の物理弓よりも大きなダメージを出すだろう。

 

 ここまで数秒。

 

 水中にも関わらず、ポンと引き絞った弦を放つ音がいくつも響き、物理矢が様々な軌道で僕へと飛来する。

 

『……』

 

 その数4本、杖弓由来の矢の到達は最後、避け────

 

「【爆水】……!!!!」

 

 起動。

 後ろに逃げても意味がない。横へ!

 

 ほぼ反射で【爆水】を起動したことにより、矢の軌道から抜けた僕はファンブルした【雷轟の矢】を諦め、物理矢で対抗するべく【果てまで届く雷鳴】を、

 

『…………………!』

 

「まじでか!?!?」

 

 「彼」がおそらく海流操作系のスキルを僕の【爆水】起動にあわせて使用、矢の軌道が変わる。

 そんな……そんなんできるのか!!!!

 

「し、死ぬ……!!」

 

 2本目の【爆水】を起動!

 後ろに弾き飛ばされるように逃げる。

 

「クリオネちゃん!!! 【果てまで届く雷鳴】!!」

 

「マカセテ、【魔法待機】【ウォーター・ジェット】」

 

 事前に溜め込んだ500のMPから、クリオネちゃんが詠唱して次弾回避の準備をしてくれる。少しでも【爆水】の節約を……!

 

『………』

 

「はぁ!?」

 

 「彼」が「非流動性海水」を起動。僕の放った物理矢は出だしを止められ、間髪あけずに次の弾幕が飛来する。

 いや対処無理……じゃない!! でも弓3つ同時に操るのも「非流動性海水」で矢の出だしをとめるのも僕にはできない!

 できることを、できることでの対処を……!!

 

「クリオネちゃん、海流操作妨害を!」

 

「当然……! 【母ナル海ヨ】」

 

 海中戦闘で回避が難しいのは、足場がないに等しいからである! 「非流動性海水」で足元を固めることで無理やり足場を生み出せば……!

 

 引きつけた物理矢の弾幕をギリギリで足場を踏みしめて横へと飛ぶことで回避。海流操作は乱した。「彼」の「非流動性海水」は既にクールタイム!

 魔法名だけで放てる魔術はクールタイムも考えれば無限じゃあない! 【果てまで届く雷鳴】、【迸る雷律】、【静かなる電光】。へい「彼」、その第三射の後はどうするんだ!!?

 

「【静かなる電光】!!」

 

『………』

 

 魔法名宣言!

 相手も同様の行動を取ったのだろう。同時に杖弓に雷の弦が発生し、弱々しい光が装填される。

 「彼」は3本の物理矢を装填、僕は雷魔法のスタン確率を上げるスキルを起動!

 

 物理矢数本でも僕はデスポーンだろうが、スタン数秒の間に至金の歯車・過密を利用した魔法を叩き込めば「彼」もデスポーンする……!!!

 

 互いに相手の行動の結果が自身の敗北であることを理解しているからこそ、今この瞬間に緊張を保った静寂が訪れる。

 外すようなヘマはしない。「彼」も同様!

 

 狙撃の姿勢を保ったまま、相手に照準を合わせたまま、鏡映しの2人はゆっくりと重量に引かれて海底へと落ちていく。

 

「シュテルメアッ! 避ケテ!!!」

 

 クリオネちゃんからの警告!!

 なん、あっ、いや海流操作は妨害しているはず!!

 

 クリオネちゃんの指差す先、後方。

 迫るは先程避けたはずの物理矢8本……!

 

 目を見開き、「なぜ/どうやって」に思考を回しつつも体は反射で【爆水】を……だめだクソッ! 避けた先には「彼」の矢が待ってる!!!

 

『ラ、ラ、ラララ───────!』

 

 嫌に耳に響くは歌姫エリーゼの歌。

 力強く叫ぶように紡がれる旋律を維持したまま、エリーゼが強い眼力を持って僕を見つめている。

 

「おまえ……!!!!!」

 

「【詠唱短縮】正面ハ対処デキナイ、ヨ!【海流ノ盾】……!!!」

 

「!!!!」

 

『……………』

 

 背後に差し込むような形で、クリオネちゃんによる盾が形成される。ありがたい!!!

 避けた先への照準を辞めた「彼」が、無言で狙いを僕に直撃するように修正、放っ……!!!

 

「【爆水】……!!!!!」

 

 起動、後方にあるクリオネちゃんの盾と【爆水】がぶつかり、普段よりも強い勢いで前方へと弾き飛ばされる、「彼」に焦りは感じられない、ゼロ距離になるまで残り2秒、「海喰の魔剣」、杖弓を「彼」の視界を一ミリでも削るべく前に投げ出し、耳に付けた「雷結びの耳飾り」の補助を受けて、

 

「【果てまで届く雷鳴】」

 

 宣言。

 【静かなる電光】を装填したままの杖弓に直撃し、「共鳴」効果により光が炸裂する。

 

 視界が黄色く埋め尽くされる中、「彼」がなにかを操るように手を動かす様子が見えた。

 

 嫌に冷静な思考で、取り出した「海喰の魔剣」の刀身に反射した後方の様子をキャッチする。

 クリオネちゃんによる海流操作妨害は既に歌姫エリーゼにより無効化されている。

 後方から迫る物理矢が盾を避けるような軌道を描き、一切の勢いを失うことなく僕目掛けて飛来した。

 

「ッッッッッッ!!!!」

 

 ほぼ反射、あるいは生存本能による防衛行動だろうか。

 【爆水】の起動モーション。「海喰の魔剣」すら投げつけるように放り出し、さらなる勢いを持って「彼」とすれ違う形で前進。

 

 「彼」も杖弓を捨てた、取り出したのは……「セラエラの断章」……!!!!!

 

 ていうか8本の物理矢……エリーゼが「彼」にあたる前に海流操作で失速させてやがる!! 介護ご苦労様ですね畜生!!

 

『…………!!』

 

 「彼」のさらなる異形化。足は蛸、片腕は三頭の竜、片腕はフジツボの盾、フジツボの盾……!?!?

 近距離攻撃の無効化!!

 投げつけた「海喰の魔剣」は一切のダメージを与えることなく海底へと落下、いやいやいやいやいや、近距離攻撃無効+回避無効の即死攻撃はダメだろ!!!!

 

 「セラエラの断章」より【秘異の蜜蝋】が放たれ、ゆっくりと僕へと迫る。

 杖弓はない、海喰の魔剣もない、セラエラの断章は取り出しても【秘異の蜜蝋】を発動する前に僕が死ぬ、【爆水】、いや!!!

 

「クリオネちゃん!!」

 

「【ウォーター・ジェット】」

 

 声掛けにほとんどラグなく放たれた魔術により、発生した水流が僕をはじき飛ばす形で「彼」と【秘異の蜜蝋】から距離を……

 

『ラ、ラ、ラ──────』

 

「このっ、クソっ、エリーゼぇ!!!!!!!!!」

 

 【ウォーター・ジェット】の発生が潰された、【爆水】起動、あと3回!!!!!!

 彼我の距離は8メートル程度、攻撃してもフジツボの10メートル範囲内で無効化だクソ、キレそう!!!!!!

 

『ラ、ラ、ラ』

 

 海流により、ゆっくりと杖弓が「彼」の元へと帰る。

 彼は竜頭でそれを受け取り、ついでに他の2つの竜頭に物理弓二本を加えさせた。振り出しに戻……違う!!!!!!

 

 先程、「彼」に当てないよう失速したはずの物理矢が勢いを取り戻している。

 海底付近を大回りして戻ってきたそれらは既に下方から僕へと狙いを定め、「彼」は……【迸る雷律】の詠唱が終わって────「がッ……!?!?」

 

 ダメージ判定。2割ほどHPが削れている。

 なにが──足に物理矢!! 角度的に後方から飛来したはず。

 

 下方からの矢と後方からの矢に分けていたのか!?いつのまに!?!?

 よく見れば、下方からの物理矢が8本から6本に減っている。クソっ、嫌らしいなぁおい!

 

「物理矢1本のダメージが1割だって分かれば僥倖!」

 

 杖弓由来の物理矢のダメージはもう少し大きいだろうが、それにしても倍程度に収まるはず!

 下方からの矢は6本、HPは8割、2本避ければ死にはしない!!

 

『…………』

 

「増えるのは話が別!!!」

 

 右方から【秘異の蜜蝋】、前方から物理矢4本+【迸る雷律】、下方から物理矢6本。あークソ、死ぬ、無理だろ、海流操作が終わってやが……!!!!!

 

 最初に直撃したのは【秘異の蜜蝋】。

 HPの7割が失われ、残り1割、リキャストの終わった「非流動性海水」を発動することで足場を得て、なんとか矢を避け……

 

『…………!』

 

 海流操作による矢の軌道修正め……!!!!

 

「ばーーーーか!!!ほんと、もっ、ばーーーーか!!!!!」

 

 ……………直撃。

 

 HPが消し飛び、シュテルメアはデスポーンした。

 

 













 可哀想なライブラリ……例外のシュテルメア君のせいで正典ルートの条件考察は振り出しに戻りました。本当かわいそう。

 余談ですが、シュテルメアのオルケストラ攻略はわりと楽な方であることを想定しています。なぜならステータス1.5倍があまり意味をなさないから。物理ステータスは【異形術】に頼っている上、火力は魔術(シュテルメアを倒すには元のレベルでも過剰)に頼っているので。それでもこれかぁ……作者的にも勝てるイメージ沸かないんですけど……。

 次話の更新は1週間後を目標にしています。頑張ります。
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