小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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崩れゆく、平和な日常

 ミレニアムで人知れず行われた会談からまたしばらくの時が経った頃、アビドス対策委員会の部室に向かう道中で赤飛リンのスマホが通知音を響かせる。

 

 彼は手に取り、電話をかけてきた相手の名を確認する。……画面には、同盟相手である調月リオの名が表示されていた。

 

 嫌な予感を覚えた彼は道中で合流していたユメとホシノに断りを入れると、応答ボタンを押してスマホを耳元へと近づけ──"もしもし"と言う間もなく告げられた言葉に、彼は目を見開く。

 

 

 

『落ち着いて聞いてちょうだい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──アリスが、暴走したわ』

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──時は遡ること一日前、ヴェリタスから"変わったものを見つけたから来て欲しい"と呼び出しを受けた先生はミレニアムへと足を運んでいた。

 

 そうして部室の前に辿り着くと……そこには、ゲーム開発部の少女たちの姿が。

 

 ……どうやら彼女たちも、同級生である"小塗マキ"から面白いものを見つけたという連絡を受け、"ゲーム開発におけるいいインスピレーションを貰えるかも"という考えの元でやって来たらしい。

 

 

 

「なるほどね。……それじゃあ皆を待たせるのも悪いし、そろそろ入ろっか」

 

 

 

 "コンコンコン"と、先生が扉をノックすると……程なくして、部室の扉が開かれる。

 

 マキに出迎えられた先生たちは挨拶もそこそこに、早速彼女たちが見つけたという"変わったもの"を見せてもらうことに。

 

 "ああ、それなら"と、ハレの指さした先を見る先生たちの視線の先──

 

 

 

「これは……」

 

 

 

 ……そこにはこれまでに見たことの無いような、奇妙な形をしたロボットが置かれていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──奇妙かつどこか不気味な、まるで深海魚のような見た目のロボット。……よく見渡すと、それは部室のあちこちに──計五体も置かれている。

 

 どうやらこれらのロボットは全てミレニアム学区の郊外で発見されたものらしく、更に付け加えて言うならまだあと20体以上はあったとの事。

 

 ……その中には何故か強い衝撃を受けて凹んだ様な跡が付いているものもあったらしく……比較的綺麗なものを選んで持ち帰ったのが、この部屋に置かれているものらしかった。

 

 

 

「な、なんか想像してたのと全然違うんだけど!?コメディー映画だと思って見てたら急にホラーになったみたいな……なにこれ!」

 

 

 

 果たしてこれは、本当にミレニアムで作られたロボットなのだろうか……あまりにも奇怪で不気味な、何処か本能的な恐怖を感じさせるようなこれらはいったい何なのか。

 

 ミドリからの"起動させたりすることは出来るのだろうか"と言う問いに対して……ヴェリタスの少女たちは残念そうに首を左右に振った。

 

 

 

「比較的綺麗な物を選んできたから、私たちの方でも起動出来ないかなって思ってたんだけど……結局、何も見つけられなかったんだよねー……」

 

 

 

 調べた結果曰く、電源ボタンはおろか接続ポートすら見つからない。

 

 ……それ以前に表面に継ぎ目すら見つからず、開けることが出来ないために起動しない理由がハードなのかソフトなのか……そもそも本当に故障なのかも分からない。

 

 それ故に、"もし危険物だったらシャーレに協力してもらおう"という事で、今回先生に声をかけたとのことであった。

 

 

 

「そっか……そういう事なら、リン……あー、カオナシにも声をかけておいた方が良かったかもね」

 

「そうだね。……それを踏まえると、ゲーム開発部を呼んだのはちょっと違ったかも」

 

「あははっ。……まぁ、ついでってことで!こういうのはみんなで見た方が面白いし!」

 

 

 

 "それで、先生にはこれが何か検討ついたりする?"……そう問われるが、当然この様なものは目にしたことは無い。

 

 首を横に振る先生の姿に、"やっぱ部長に聞くしかないのかなぁ"と呟くマキ。……どうやらその部長というのは、オカルトとかそういうのが好きな人物らしかった。

 

 

 

「もしくは副部長とか?あー、副部長なら情報とか見つけてきてくれそうなのにな〜!」

 

「……今ここに居ない人の話をしても仕方ないですよ」

 

「ここに居ないっていうか、部長はそもそも全然来てないし」

 

 

 

 さてどうしたものかと頭を悩ませるヴェリタスの少女たち。……その裏で、誰に気づかれることもなくロボットの方へと近付いていた一人の少女が唐突に、"……あ"と、小さく声をこぼす。

 

 ──声の主は、ゲーム開発部のアリス。"どうかしたのか?"とモモイが問うと……驚くべき言葉が返ってきた。

 

 

 

「アリス……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ、見たことがあります

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「「「……え?」」」

 

 

 

 アリスの口から飛び出した"眼前の正体不明のロボットを知っている"という言葉に、この場にいる全員が驚きを露わにする。……特に、先生とゲーム開発部の驚愕は大きかった。

 

 ……アリスが記憶喪失であることを知っている彼女たちの胸中を占める驚愕の気持ちは、計り知れなかった。

 

 一体全体、どういう事なのか……彼女はいったい、この奇怪なロボットの何を知っているというのか。

 

 そんな疑問が飛び出すよりも前に、まるで吸い寄せられるかのように近付いていたアリスが手を触れる。

 

 ──直後、つい先程までうんともすんとも言わなかったはずのロボットが唐突に、紅い光を灯しだす。

 

 

 

 ──否

 

 ──変化は、それだけではなかった。

 

 

 

《ピピピピッ》

 

「この音……お姉ちゃんのゲーム機から?」

 

「え?……あ、本当だ。今まで起動しなかったのに、どうしてだろ?」

 

 

 

 まるでロボットに共鳴するように……唐突に起動した自身が手に持つゲーム機に対して、モモイは不思議そうに首を傾げる。

 

 

 

 ──変化は、まだ終わらない。

 

 

 

 ロボットに触れてからというものの、どこか様子のおかしいアリスに気がついたユズが不安そうに声をかけるが……アリスは黙ったまま動かず、返事をしない。

 

 その様子はまるで、嵐の前の静けさのようであり……そしてその認識は、決して間違いではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《私の大切な…………よ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………起動開始」

 

 ──事態は、大きく動きだす。

 

 

 

 アリスの言葉に呼応するように、部室内にある計五体のロボット……その全てが起動する。

 

 ……ただ事ではないと、この場にいる全員の本能が警鐘を激しく鳴らし──

 

 

 

「コードネーム──AL-1S、起動完了」

 

「プロトコル──ATRAHASISを実行します」

 

 

 

 ──正体不明のロボットは、先生たちへと牙を剥いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 襲いかかってきたロボットは、明確な攻撃意思を持って躊躇いなく爆発──ヴェリタスの部室を瓦礫の山と化す。……何とか凌いだものの、彼女たちの脳内は困惑に支配されていた。

 

 ……しかし、それも仕方の無いことだろう。

 

 何せロボットに対して攻撃命令を出していたのは──仲間であるはずの"天童アリス"その人なのだから。

 

 

 

「……有機生命体の生存を確認、プロトコルを再実行します」

 

 

 

 普段とは違う、冷たく赤いその瞳は……先生たちが無事である事を確認をすると、更に追い討ちをかけるようにレールガンの充電を始める。

 

 このままでは皆無事ではすまない、何とかして止めなければと先生は指示を出し、一番近くにいたマキがアリスの行動を妨害する。

 

 

 

「妨害を確認、充電失敗」

 

「よし!止ま「妨害要素を排除します」──え?」

 

 

 

 "止まった!"……と、歓喜の声を上げようとしたマキの姿を、無機質な赤い目が捉える。……抱いた嫌な予感は直後、実体を伴った脅威となってマキへと襲い掛かった。

 

 ──200kgもの重量を誇るレールガンが、マキの身体を打ち据える。

 

 不意に訪れた衝撃、防ぐ間もなくまともに食らってしまった彼女は勢いそのままに殴り飛ばされ、瓦礫の山にその身を埋める。

 

 

 

「マキッ!!?」

 

「障害を排除、プロトコルを再実行します。武器のリロード開始」

 

 

 

 殴り飛ばしたマキには目もくれず、アリスはレールガンの充電を再開する。……同じゲーム開発部の仲間であるはずのユズやミドリがどれだけ声をかけても気に留めることなく、ただ淡々と発射準備を整えていく。

 

 ……そうして今度は邪魔されることなく充電を終えた彼女は照準を定め、引き金に手をかける。

 

 最早絶体絶命としか言いようのない状況……しかし天は、まだ先生たちを見放してはいなかった。

 

 

 

「おいチビ、そこまでだ」

 

 

 

 アリスと正体不明のロボット。その全ての監視網を掻い潜り、背後に忍び寄っていた人物──"美甘ネル"が当身を食らわせる。

 

 突如として襲いかかって来た衝撃にアリスは目を見開き……そのまま為す術なく、意識を奪われた。

 

 

 

「大人しく寝てろ。……ったく、何がどうなってやがる」

 

 

 

 壁が壊され、空が見えるほどに荒れ果てたヴェリタスの部室と……主が沈黙してもなお攻撃の意志を収める気配の無いロボットを見渡し、ネルは苛立つ感情を隠すことなく舌を打つ。

 

 ……しかし、流石はミレニアムが誇るエージェントC&Cのリーダーと言うべきか。彼女はすぐ様意識を切り替えると、共にやって来ていた他のC&Cメンバーへと指示を出し……主を失った烏合(奇怪なロボット)の殲滅へと駆り出したのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「……んで、何があったんだ?」

 

 

 

 ──類稀な連携能力と高い身体スペック、豊富な戦闘経験でもって難なくロボットを殲滅したC&C。他に残党も居ないことを確認したネルは状況把握の為にそう問うが、先生は首を左右に振るのみであった。

 

 ……しかし、それも仕方のないことだろう。

 

 何せ先生自身も……否、この場にいる誰一人として──何が起こったのか、何故アリスが急に自分達に攻撃してきたのか理解出来ていないのだから。

 

 唯一わかっている事としては、あの奇怪なロボットに触れてからアリスの様子がおかしくなった事くらいか……

 

 何はともあれ、ネルたちのおかげで一旦は落ち着きを取り戻すことが出来た。先生は一言礼を言うと、すぐさまヴェリタスとゲーム開発部の安否を確認する。

 

 

 

「うえぇぇ……内臓飛び出ちゃうかと思ったぁ……」

 

 

 

 一番直接的な被害を受けていたマキも、殴られた場所を抑えながら軽口を叩けるくらいには無事な様子であった。その事を確認した先生は"それなら良かった"と安堵の息を吐きかけた、その時──

 

 

 

「先生……!先生!」

 

「あ、ああ……モ、モモイ……」

 

 

 

 ……と、ゲーム開発部のミドリとユズの悲痛な声が聞こえてきた。

 

 "何かあったのか"……嫌な予感を覚えた先生はすぐさま彼女たちの方へと振り向き──息を飲む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモイちゃんッ!!?」

 

 

 

 先生の視線の先、ミドリとユズの傍には……普段の元気ハツラツとした様子とは打って変わった、頭部から血を流してぐったりと横たわるモモイの姿が。

 

 こうして、突如として訪れたアリスの暴走は……軽傷者多数、意識不明の重傷者一人を出し、事態は一時収束を迎えたのであった。




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