今回はアリス奪還組のお話です
「うおぉぉお!……あっやばい死ぬぅ!」
「前に出過ぎないでお姉ちゃん!」
ゲーム開発部を筆頭としたアリス奪還組と、調月リオの操る真アバンギャルド君と総勢一万五千七百八十二のAMASの戦いは……絶望的な戦力差にも関わらず、意外な事に少し劣勢程度で抑えられていた。
理由は至極単純……いくら数が多くても、こちらは少数。狙う先が少ないが故に、全てのAMASが攻撃に参加できる訳ではなく、大半は後方で待機する他ない。
数が多く圧こそあれど、実際に戦いに参加できるのは極一部のみである為、何とか戦いの体を取ることが出来ている……と言うのが、今の現状であった。
さらに嬉しい誤算と言うべきか。依然の廃墟での戦闘と比べて銃撃の火力が随分と高くなっているモモイと、彼女と共に戦う妹のミドリ、同部のユズの三名による連携はかなりの物で……それこそ、ミレニアムの戦闘集団であるC&Cにも引けを取らない。
(……だけど、この状況が何時までも続くとは限らな……いや、ありえない)
先生は指揮を取りながらも思考する。……彼女は理解している、今辛うじて戦えているのは、リオの温情によるものであることを。
(言い方は悪いけど、相手は幾らでも量産可能なドローンの類い……味方の損傷を考えずに撃ち込んできても何らおかしくはないし、何なら自爆っていう手だって取れるはず)
……でも、その様な素振りは見せてこない。飽くまでも削られた分を補充してくるだけで、先程から相手する数は一定数から増えていない。……減る事も、無いのだが。
リオの言葉通りなら、今はこちら側を"試している"ということなのだろう。……アリスのヘイローを破壊しようとしている彼女たちが、何故?
(……やっぱり、ネルやユウカが言ってたようになにか別の目的があるのかな)
そこまで考えて、先生は頭を振る。……今は目の前のこと以外に意識を割いている余裕はない。
(にしても、これはこれで厄介だね……いつ終わるかも分からないし、延々と繰り返される戦闘は皆の精神を確実に蝕んでく。……何よりも)
ちらりと目を向けた先には、AMASの後方で鎮座する、一際異彩を放つ奇怪なロボット。
(見た目はちょっとアレだけど、あの真アバンギャルド君とかいう奴が参戦してきたら……辛うじて成り立ってるこの均衡は、一気に崩される)
……故に、一刻も早くこの現状を打開する必要がある。
『先生!このままじゃジリ貧です……!こうなったらもうわたしが制御権を「ストップアロナ」……!』
「気持ちは嬉しいし、本当ならそれが一番手っ取り早いんだろうけど……それじゃきっと、ダメなんだ」
今この場を切り抜けるという一点だけを見るなら、ハッキングなり何なりで制御件を奪うというのは選択肢としては十分にありだ。それこそアロナの力を借りてしまえば、この場を切り抜ける事くらい容易だろう。
……しかしそれでは結局のところ、"先生やカオナシがいないときにアリスが暴走したとしても、止めることができる"という事を、リオに証明することはできない。……やるなら、
故に今先生が出来るのは……先生に許されているのは、"実力を発揮しきれるように奪還組を指揮し、崩れないようにサポートする"ことのみ。
『であればここは、超天才病弱美少女ハッカーであるこの私の出番、という訳ですね♪』
ガシャガシャガシャンッ!!!
「「「えっ……!?」」」
"なにが、起きた?"と、先生たちの脳内を疑問符が埋め尽くす。先生たちの視線の先──数多無数のAMASの、特に近くで攻め立てて来ていた機体が一斉に機能を停止し、地に落ちる。
エンジニア部やヴェリタスの皆……ではない。最初は少し前にAMASの操作権を奪った装置を使って機能を停止させたのかとも思ったが、あれは一度限りしか使えないと聞いているし、何よりも、皆一様に驚いている様子を見る限り、彼女たちではない。
「……!もしかして!」
◇◇◇◇◇
ハレが何かに気づいた様子を見せるのと同時刻、戦場をモニター越しに観ていたリオの目は、乱入者の姿を捉えていた。
「……来たわね」
◇◇◇◇◇
「『──
ハレの視線の先、ホログラムにて投射されたるは……ヴェリタスの元部長であり、現特異現象捜査部部長、ミレニアムにて史上三人しか存在せぬ『全知』の学位を冠する者。人は彼女をこう呼ぶ──
「超天さ以下略でいいよね、長いし」
『エイミ!?肝心な私の名前が呼ばれていないのですが!?』
「さっき会長に呼ばれてたから良くない?」
『良くな──』
〜
『……ふふっ、こうして面と向かってお会いするのは初めましてですね、先生』
「あ、うん……はじめ、まして?」
先程までの緊迫した空気は何処へやら。平常時であれば思わず笑ってしまいそうなやり取りを急に見せられ、そのお陰なのかそれともまた別の理由があるのか……一時休戦と言わんばかりに相手側も一旦動きを止めたことによって少しの間だが生徒たちが休む時間が生まれる。
……いつ再開するか分からないため気を抜くことはできないが、この時間はとても貴重なもの。……聞きたいことは山ほどあるが、聞けることは限られている。最優先で聞くべきなのはやはり、先程見せたようにAMASの動きを止めることが出来る──……
「……ねぇ、ヒマリちゃん」
『はい、なんでしょう』
「……君は、二人の本当の目的を知ってるの?」
……口をついて出た言葉は、現状の打開策として頼っていいのかというものでは無く──もっと先、或いはもっと前、ずぅっと前から気になっていたこと。
アリスの奪還を阻むリオ達にとってはまたとない機会のはずなのに、手を止め静観している今の現状。それは先生の、アリスを連れ去られたその時から抱き、ネルやユウカとの会話で膨れ上がった疑念を確信へと変えていた。
──"リオたちには、アリスのヘイローを破壊すること以外の目的がある"
故にもし、目の前の少女が知っているのであれば……聞かなければ、知らなければならないと、先生は思っていた。
『……ええ、知っています。ですが、先生にもこれはお教えすることはできません』
「……それは、どうして?」
『そういう
どこか不満気な表情を浮かべながらも告げられた"契約"という言葉。彼女とリオ、もしくはリンとの間にどのような約束事があったのかは知らないが、これ以上深堀して聞くことは出来ないのだろう。
……場の雰囲気が、再び張り詰め始めた。僅かな休憩時間はもう終わり。──間もなく、戦闘は再開する。
『……ですが、そうですね』
リロードを済ませ銃を構える生徒たちの背を見ながら、ヒマリは告げる。……"このくらいであれば、契約内容には抵触しないでしょう"と前置いて。先生だけではなく、ゲーム開発部を筆頭としたこの場の全員に聴こえるように、はっきりと。
『もし、みなさんがこの場で力を示すことが出来なければ──』
──"アリスのヘイローは破壊される"
『……これは、疑いようの無い事実です』
『私とエイミも、ミレニアムの生徒ですので力をお貸しすることは可能です』
『契約の都合上、この戦いが始まってからハッキングを始めることになりましたので全てのAMASの機能を停止させる事は………出来なくはありませんが』
「出来なくはないんだ」
『ええ、何せ私は超天才病弱美少女ハッカーですので』
『……ですが、幾つかのブロック毎で別々のセキュリティ設定がなされているようですので、"一度に全てを"と言うのは難しいでしょう』
『後はそうですね、命令系統が書き換えられた瞬間に強制的に稼働が止まるようにハード面での改良が施されているようです。……その辺りのプログラムの書き換えも出来なくは無いですが、ハッキングして戦力に加えると言うのは時間的にも現実的では無い、ということをご理解下さい』
「……そうだね」
圧倒的な迄の戦力差があることには変わりないが、ずっとずっと先だったはずの、この戦いの終わりがグッと近づいたのはかなり大きい。
視線の先で、多腕のロボットが遂に動き出す。……ここからが本番、先ずはこの戦いに勝てなければ───アリスを助ける事は不可能だ。
生徒達ばかりに負担を掛けてしまう事を不甲斐なく思いながらも、先生は彼女達の負担を少しでも減らせるように、些細な変化も見逃さないように戦場を見渡す。
「アロナ、サポートお願いね」
『お任せ下さい、先生!』
リオ達が何をしようとしているのかは気になるが、それは一旦後回し。……訊ねるのは、この戦いを無事に切り抜けアリスを取り戻してからでいい。
「行くよみんな!」
「「「
"必ず連れ戻す"──改めて心をひとつにした彼女達は、目の前の軍勢に向かって駆け出した。
◇◇◇◇◇
立ち込める煙の中で、瓦礫に身を預ける人影が一つ。……度重なる銃撃、爆撃により最早怪我をしていないところを探す事のが難しかった。
激しい戦闘によって切ってしまったのだろう、頭部から血を流す彼女の、意識は──……
ヒマリの言葉には一部嘘が混ざっています。……しかし、力を示せなければアリスのヘイローが破壊されるという言葉に嘘はありません。