小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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ああ


美甘ネルVS飛鳥馬トキ-決着-

 地を駆け、ぶつかり合い、離れ、撃ち……そして再び、距離を詰める。

 

 飛びそうになる意識を歯を食いしばり縫止め、自らの手に勝利を収めようと試行錯誤を繰り返し、己の持てる全てをもってせめぎ合う。

 

 

「ラァッ!!!」

 

 

 二丁のSMGの片方を相手に向かってぶん投げるという暴挙、分かりやすい予備動作故に予測するのは容易く……しかし、演算結果を過信し過ぎない。

 

 ……アビ・エシュフの未来予測に頼りきることはできないが、まだ使えない訳じゃない。なら、予測出来ない部分は自分で予想すればいい。

 

 ──視線の先で、ネルが手元の鎖を操る。

 

 鎖で繋がれた先の、投げられ躱し、背後へと通り過ぎて行ったSMGが分銅の役割を果たして軌道変換、自身を絡め取ろうとしてくるのをバク宙で回避する。

 

 生じる隙を補うようにBITから、ネルを狙いつつも自身の周囲を囲うようにレーザーを乱射する事で追撃を防ぐ。

 

 ネルの動きを読み切れずとも、トキ自身の動きを読むのは容易い。……エリドゥの演算能力は、まだ十分武器になる。

 

 

(私のネル先輩に対処しようとする思考を、行動を読ませてサポートさせる。……これなら、まだ──)

 

 

「……ッ」

 

 ──炸裂音

 

 

 咄嗟に構えた腕を躱し、ネルの蹴撃がトキの脇腹に突き刺さ……らない。

 

(間一髪、ギリギリ気付けたからアイギスによる防御が間に合いましたが……!)

 

 トキの頬を冷や汗が伝う。……距離が近い、離れなくては。ここは、この超至近距離は──

 

 

「──あたしの間合いだッ!!!」

 

 ズガガガガガガァンッ!!!!!

 

「ぐ、ううぅっ……!」

 

 

 ──ゼロ距離で放たれたダブルSMG(ツイン・ドラゴン)によるフルバースト

 

 ご丁寧に神秘の込められたそれは咄嗟に展開した防御を容易く砕き、トキに銃弾の嵐を浴びせかける。

 

 あまりの衝撃に意識が飛びそうになるのを歯を食いしばり耐え、BITを操作しネルに向けて突撃させる。

 

 

「……っ!?」

 

 

 撃つのではなくそのまま突っ込んできた事に驚きながらも、ネルはトキを蹴りながら後退することで回避する。……弾切れも近かった為、タイミングとしてはちょうど良かったのだが──

 

 

「逃が、しません……!」

 

 

 さらにBITを三機ずつ、自身及び相手の背後から突撃させることにより、自分の方へと押し出させる。……至近距離での戦いが得意な相手に自ら距離を詰め、同時に無理矢理相手に距離を詰めさせるという暴挙により、ネルの意表を突く。

 

 ……神秘の暴発による移動は感覚的にまだ溜まりきっていないから難しく、ならばと迎撃の為に蹴りを放つ──

 

 

 ガンッ!

 

「ッ!?」

 

 

 ──その瞬間、足に何かがぶつかった。反射的にそちらに目を向ければ、そこには小さく展開された半透明のエネルギーシールドが

 

 相手の攻撃から身を守る為ではなく、相手の動作の出だしを潰す様に展開されたそれは、本来あるべき力の向き先を乱し、体勢を崩させる。

 

 ──隙が生じた

 

 

「ッアァアアアアッ!!!!」

 

 

 裂帛の気合、普段の彼女からは考えられないような雄叫びを上げ、固く握りしめ叩き付けられた拳は……"ドゴンッ!!!"と大きな音を響かせ、ネルを殴り飛ばした。

 

 

「痛──ッ」

 

(──てぇな……!んだこの威力、さっきみたいに加速してねぇ筈なのに、さっきよりも重ぇ……!)

 

 

 あまりの衝撃に顔を歪ませながらも、決して見失うまいと目を離さずにいたネルの視界に映るトキは……"してやったり"と言わんばかりの笑みを浮かべていた。

 

 

「……教えて貰ってたのは、ネル先輩だけじゃないですよ」

 

「……!」

 

 

 "教えて貰っていた"……何を?誰に?

 

 ……聞かずとも理解できる。目の前の相手は、飛鳥馬トキは自分と同じように……!

 

 

「神秘操作で固めやがったなテメェ!」

 

 ──カオナシに、神秘の扱い方というものを習っていたのだ!

 

 

 やってくれたな本当に!まさか今の今まで、こんなにもボロボロになるまで隠していたとは──!

 

 内心で悪態を付きながら、口許に垂れた血を雑に拭う。……内心に反し、彼女の口は弧を描いていた。

 

 

「別に、隠していたつもりはありません。……単純に、私の戦い方とは相性が悪くて使う機会がなかっただけですから」

 

「はっ、そうかよ!結果としちゃ効果覿面だったぜオイ!」

 

「……それなら、訓練の合間に教えて貰ったのも無駄では無かったですね」

 

 

 両者共に、その表情に笑みを浮かべながら──地を駆ける。

 

 迎撃の為に放たれたレーザーを、神秘を集中させた右の貫手にて割きながら突き進み、BITの一つを穿ち貫く。──背後を振り返ることなく、左の銃を構え引き金を引く。

 

 ばら蒔いた銃弾が何かにぶつかる音が、瞬きの間に大きくなり、咄嗟にネルがしゃがめば頭上を足刀が通り過ぎ、反転して足払いをかければ跳び躱される。

 

 互いの視線が交差し──直後、首を傾けたトキの顔の真横を通り過ぎるように背後から放たれた一筋のレーザーが、ネルを撃ち抜く。

 

 勢いに逆らわず距離を取れば、直後音もなくトキの姿が掻き消え……頭上に構えた腕に、衝撃が走る。見上げればそこには当然のようにかかと落としを繰り出したトキの姿があり……その場に縫いとめられたネルに向け、四方を囲むBITからレーザーが放たれ──炸裂音と共に離脱し回避のついでに二機ほど破壊しておく。

 

 一瞬見失っていたトキは直ぐさま破砕音のした方へと目を向け、自身に最も近い位置でレーザーを放っていたBITを一機、ガシっと掴むとそのまま振り回す(即席のビームサーベルに)

 

 そのあまりにも雑な扱いに虚をつかれたネルは、横薙ぎに迫り来るレーザーを躱すのは破壊した直後ということもあって間に合わないと判断、着弾点および通過点に神秘を集中させる事で、迫り来る攻撃を凌ぐ……かに思われたが、トキはネルに当たった直後にピタリと振るう腕を止め、そのまま押し込むように距離を詰める。

 

 20m、5m、1mと距離は瞬きの間に縮まり……勢いのまま叩き付け、爆発。

 

 弾かれるようにして距離を離した両sy──"グンッ"と、トキの身体が前方へと引っ張られる。爆発の瞬間に巻き付けられたであろう鎖に引き寄せられ、強制的に爆炎の中を突っ切らされ……眼前へと迫り来る拳との間に、腕を差し込み防御を図る。

 

 ──瞬間、炸裂音と共に勢いを増したネルの拳が、トキの防御を意に返さず殴り飛ばした。

 

 二度、三度と地面を転がり……遂に稼働限界を迎えたアビ・エシュフが解かれてしまう。それでも諦めず、膝を震わせながらも立ち上がるトキの姿を目にしたネルは……度重なる神秘の暴発により限界を迎え震える身体に鞭を打ち、浪費し続け神秘が枯渇しかけた為に朦朧とする意識に喝を入れ……一歩、また一歩と前へと進む。

 

 どちらももう何時倒れてもおかしくない程に満身創痍で、当初の目的であった"足止め"は両者共にとうに果たしている。にも関わらず立ち上がり続けるのは、意地以外の何者でもなく。……"負けてなるものか"、"相手よりも先に膝を着いてなるものか"と、二人は競り合い続ける。

 

 神秘操作による身体強化が行えなくなっても、アビ・エシュフが稼働限界を迎え解かれても、二人は立ち上がり引金を引く。……己の持ちうる全てを総動員して、勝利を己が手に掴み取る為に、拳を振るう。

 

 

「オオォオオオッ!!!」

「アァアアアアッ!!!」

 

 

 ──それでも矢張り、積み重ねられた疲労を誤魔化すことはできなかった。

 

 "ゴッ"と鈍い音を立てながら、両者の頬にお互いの拳が突き立てられ……勢いのまま、背中から倒れ込む。

 

 

「ハァ……ハァ……ハッ…ゴホッゴホッ……!」

 

「ゼヒュー……ゼヒュー……くっ…ぁ……!」

 

 

 疲労と積み重なるダメージで震えながらも、ネルはゆっくりと身体を起こす。対するトキは大の字に倒れ込み、少しでも酸素を取り込もうと胸を大きく上下させており……最早、起き上がる力も残ってない様子であった。

 

 

「ハァ……っこれで、あたしの勝ちだな……ハァ……フゥ……」

 

「……しかた、ありませんね…………ミレニア、ム最強の座…は……ネル先輩に、預けておいてあげましょう……」

 

「バカ言っ、てんじゃねぇよ……預けるも何も、ねェだろぉが……」

 

 

 勝敗は決した。……紙一重ではあったものの、ミレニアムの勝利の象徴が勝ちを掴み取った。時間を置き、ある程度呼吸が整ってきたところで、ネルはトキに対して当初から抱いていた疑問をぶつける。

 

 

「……さぁて、トキ……約束通りあたしが勝ったんだから、お前らの本当の目的を吐いてもらうぞ」

 

「……別に、約束はしてないです」

 

「おま、まだ「って言うのは、冗談です」お前なぁ……!」

 

「教えて上げます。……リオ様からも先程、許可が降りましたので」

 

「……ただ、今から話すことは他の方たちにはまだ伝えないでください。……それが条件です」

 

「……しかたねぇな」

 

 

 不承不承ながらもネルが同意したのを確認すると、トキはぽつりぽつりと語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「おま、なんだそr………はぁ???」

 

 

 ──リオ達の目的、その全貌を聞いたネルの第一声が()()であった。

 

 直後、彼女は気の抜けたようにばたりと背中から倒れ込み……"はぁー……"と大きなため息をつく。

 

 

「なんだよそれ……いや、気を抜いていいことじゃねぇけど……お前らがわざわざ、敵対までする必要はなかったんじゃねぇのか?」

 

「いえ……場合によっては彼女のヘイローを破壊しなければならない、と言うのは変わりませんから」

 

「……お前らが罪を背負う必要はねぇだろ」

 

「……リオ様は、それが上に立つ者の責任だと仰っていましたので。……私はリオ様のメイドとして、最後までお付き合いするだけですから」

 

「……そぉかよ。……ったく、お前……っつか、お前ら全員なんつーか……」

 

 

 ……そこまで口にしたところで、急に瞼が重くなる。……限界を迎え、超え、さらに無理を重ね限界を迎えた彼女の身体が疲労を訴え、意思に反して無理矢理目を閉じさせようとしてくる。

 

 ちらりと先程まで戦っていた後輩の方を見れば、彼女は既に意識を落としているようで……

 

 

(……これ以上はもう体が動かねぇか。……悪いな先生、そっちに行く事は出来なさそうだ)

 

(後は、任せ…た……ぞ………)

 

 

 睡魔に身を任せ……美甘ネルもまた、眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、凄い怪我だね……二人とも、頑張ったんだね」

 

「うへ……早く運んで手当してあげましょっか、先輩」

 

「うん。……みんな、大丈夫かなぁ」

 

「……大丈夫ですよ、きっと」

 

 

 覆面を被った正体不明の二人はそこで会話を区切り、意識を失ったネルとトキを担いでその場を後にするのであった。




という訳で、ネル先輩が意地を見せて勝利を掴み取りました。……最後にチラッと出てきた二人は、一体誰なんでしょうね?

【トキの神秘操作技術】
基本技能の一つによる配分調整により、身体の一部に集中させて物理攻撃の威力を上昇させることができる。しかしまだまだ練度が低い為、かなりの集中力と時間が必要で普段の戦闘ではろくに使い物にならない。
ただし今回は昂る感情によるブーストの結果、即座に拳に集中させることができた。普段は無理だし、アビ・エシュフに乗って戦った方が断然強い。
彼女の強さは搭乗者(パイロット)としての強さ、今後()()()で神秘操作を用いる事は基本的に無いだろう。
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