……大切な
ゲーム開発部が、エンジニア部が、ヴェリタスが、C&Cが、生徒会が……そして、先生が。今この場にいる、増援メンバーを除く全ての奪還作戦参加者が驚愕に目を見開く。
何故って?それは勿論……目的の、未だ囚われの筈の少女が目の前に居るからだ。
ましてやアリスは、アリスを取り戻す為にミレニアム生徒会長"調月リオ"に力を示す為の戦いに参戦すると言っているのだ。……うん、まるで意味がわからない。
自分達は幻術にでも掛けられているのだろうか?いやでも、頬っぺた痛いしなぁ……とお互いの頬を抓りあいながらフリーズしていた双子は、全くの同時に「ハッ!」と誰よりも早く再起動を果たした。*1
「あ、あああアリス!?ど、どうしてここに!?」
「それも気になるけど、今は先ず逃げよう!?理由は分かんないけどアリスちゃんも戻ってきたんだし、また連れてかれちゃう前に──」
"逃げよう"、というミドリの言葉は
「それは出来ません。……アリスには、まだやらなくちゃいけないことがあります」
他でもない、アリスによって遮られた。
「アリスも、モモイ、ミドリ、ユズ……みんなと同じです。……アリスも同じように、
「じゃないと、アリスは──」
──"胸を張って、みんなの仲間だって言うことが出来ません"
「そんな事ない……!アリスちゃんは「分かってます」……!」
「みんなとっても優しいので、こんなアリスでも受け入れてくれることは、よく分かってます。……ずっと、見てましたから」
「……だからこそ、アリスは今ここで逃げ出す訳にはいかないんです。……アリスが本当の意味でみんなの仲間になる為にも、アリスが本当の意味で、勇者になる為にも」
「それに、お兄様とリオ先輩にも伝えないといけないことがあるので……やっぱりアリスは、逃げることは出来ません」
「アリスちゃん……」
彼女の心境に、一体どのような変化があったのかは分からない。……けれど今の彼女が、リオに連れて行かれたあの日の彼女と違うことは、理解できた。
ならば、やるべき事ははっきりしている。聞きたいことは色々あるが、当初の予定通り先ずはこの場を切り抜ける事を最優先に。
先生はアリスの存在を踏まえて再度作戦を練り直そうとして──当の彼女が、じっとこちらを見ている事に気がついた。
「どうしたの?アリスちゃん」
「……先生、少しわがままを言っても良いですか?」
「……もちろん、構わないよ。何か、やりたい事があるんだね?」
アリスはこくりと頷くと、モモイ、ミドリ、ユズ……それから、この場に集う自身のために駆け付けてくれた一人一人に目を向ける。
「今から一分間、アリスに準備する為の時間をください」
"何の"、と問うものは誰一人としていなかった。この場に集う全員が、アリスのお願いに──"任せて"、と頷いていた。
「いくよ、みんな!」
直後、先生の指揮にて再度最適な配置に割り振られた生徒達は、一分という短いようで、けれど疲労の溜まった彼女らに取っては長い時間を稼ぐ為、AMAS、或いはアバンギャルド君へと駆け出す。
「──ありがとうございます。アリスは、皆と出会えてよかったです」
その頼もしい仲間たちの背に向けて感謝を告げて、アリスは
◇◇◇◇◇
──時は、アリスが手紙を読み終えたところまで遡る。
アリスは丁寧に封筒に戻して懐に仕舞うと……振り返り、リンの目を真っ直ぐに見つめ、口を開く。
「……お兄様、もしアリスがまた、みんなを傷付けそうになったら……その時は、アリスのヘイローを壊してくれますか?」
「……頼まれずとも、俺達は初めからそのつもりだ」
「……ありがとうございます、お兄様」
「……礼を言われるような事じゃない」
「いいえ、アリスにとっては、もしダメでも止めてくれる人がいるのは、とても心強い事ですから」
「……ごめんなさい、お兄様」
「………何で謝る」
「…………アリスのせいで、お兄様には酷い事をさせてしまうかもしれないからです」
「…………そうか」
「………」
「………」
「………お兄様」
「………何だ」
「……………いってきます」
「………」
返ってくる言葉はなく、しかし確かに頷いたことを確認すると……アリスは満足気に笑みを浮かべた後、目を瞑る。
……深く、深く、はるか遠くの水底へと沈んでゆくように……自分の奥底へと、意識を沈ませてゆく
「……いってらっしゃい」
沈みゆく意識の中、はっきりとは聴き取れなかったが……それでもアリスの胸には、ポカポカとした暖かな気持ちが、宿っていた。
◇
深く、深く落ちてゆく。夢を見るように微睡む意識は、次第に目覚めるように鮮明になり……軈て瞼を開けば、自身と瓜二つの姿をした少女の姿が目に映る。
「来たのですね、王女よ。使命を全うする覚悟は出来ましたか?」
「………」
「……?」
何も言わずにただじっと己を見つめる
「──いやです!アリス、王女なんかになりたくありません!」
「……………は?なにを、い「アリスは!!!」」
──みんなと一緒に!勇者になりたいです!!!!!
「……そんな事、許されるはずがないでしょう。王女よ、貴女は名もなき神々の王女として──」
「知りません!誰が何の目的でアリスを作ったのか何て、アリスには関係ありません!」
「アリスはアリスです!……アリスが魔王となるべくして生み出され、魔王になる事を望まれたのだとしても!アリスが、魔王として世界を支配する力を持っているというのなら──」
ほんの数刻前までとは打って変わった、強い覚悟の秘められた瞳がKeyを射抜く。
「──アリスはその力を、大切な人たちを護るために使いたいです!」
Keyの言葉をひたすら遮り、只々自分の伝えたい事を、我儘を言う子供のように大きな声でアリスは叫ぶ。
「だから、Key……いいえ、ケイも「やめてください!」……っ!」
「……王女よ、あなたはあの者たちに"名前"という不必要なプログラムを書き込まれ、本来の目的と本質を乱されているに過ぎません。王女に、私たちに名前は必要ない……!」
俯いていたKeyは顔を上げ、苦々しい表情を浮かべアリスを見やる。
「私は、王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、あなたが戴冠する玉座を継ぐ
「あなたは"王女"であり、私は"鍵"。それが私たちの存在意義であり、果たすべき目的です……!」
「あなたは勇者ではない!そして、私も──」
(……?私は、一体何を言おうとして)
不意に出た言葉に疑問を抱く。"私も"もなにもないはずだと。理由のわからぬ不快感に眉をひそめるKeyに対し、アリスは──
「ええ、アリスは
──自ら、否定の言葉を綴る。
「アリスは、アリスがなんのために作られたのかを知りません。……アリスには、先生たちと出会う以前の記憶がありませんから。……でも、だからといって
「きっと、
アリスは受け入れるように目を伏せる。無名の司祭が何者なのかは知らない、けれどその者たちの手によって、アリスはキヴォトスを滅ぼす"魔王"となるべくして生み出されたのだろう。
アリスは……否、
「お兄様は言っていました。──"過去は消えない"と」
「アリスは勇者と言うにはまだまだ未熟、証である光の剣を手にしただけの……言ってしまえば、見習いのようなものです」
「そしてアリスは……その勇者としての力を使って、大切な
「……アリスは、モモイを……みんなを、傷つけました」
胸元をぎゅうっと握りしめ、アリスは変えられぬ過去に後悔を抱く。……どれだけ願っても、どれだけ祈っても……過去の罪は消えはしない。
「でも──」
けれど──
「今を、そして未来を!変えることは出来ます!」
──"今"の選択によって、先の"未来"を少しでもより良いものへと変えることは出来るはずだと、少女は叫ぶ。
「お兄様は、そしてゲームの主人公たちは言っていました!"力は力、それ以上でも以下でもない。どんな力であっても、使い方次第で善にも悪にもなりうる"と!」
「アリスは、勇者としての力でみんなを傷つけてしまいました」
「だから、今度は──」
伏せていた目を開き、アリスは
「──アリスは、魔王としての力を使って!」
──
「……ッ!!」
「だから、ケイ、あなたも!」
一歩、アリスは前へと踏み出す。後ずさるようにして一歩足を引いたケイへと詰め寄り──手を握りしめ、引き寄せる。
「生まれなんかに囚われず、悪いことを強要する生みの親の言うことなんて聞かず、やりたいことをやっていいんです!」
「ケイのやりたいことが世界を滅ぼすことだというのなら、アリスは止めません。……いえ、守るために止めはしますが!」
「でも、そうじゃないのなら……他にやりたいことがあるのなら、ケイもそれをしていいんです!」
「もし、ケイが自分のしたいことが分からないのなら!」
"アリスといっしょに、探しに行きましょう!"──と、ケイに微笑みかけた。
◇
「わ、たしは……」
強く握りしめられた手を見つめる。ここが深層意識であるからこそ……何物にも遮られない
「……私は、"Key"です。王女を補佐するために生み出された"鍵"です」
斯くあるべしと、自分は作り出された。そうあるべきだと思っていたし、その考えは今も変わらない。……そう簡単に、変えられるようなものじゃない。
「私は、王女のように簡単に考えを改められません」
「………」
「私に与えられた役割は……あなたを補佐すること。……私の役割は──」
──
「……!ケイ……!」
一人は破顔し、一人は照れたように目をそらす。しかしすぐに面を上げると、まっすぐに相手の目を見つめ返す。
「改めて教えてください、王女……いいえ、
ケイは問う。──"あなたは、何を望みますか"
「アリスは──」
アリスは答える。──"
「もちろん、ケイも一緒です!」
「……分かりました。であれば私は、アリスが勇者になれるようにサポートしましょう」
「ありがとうございます!では早速、モモイたちを助けに……ああっ!」
急に声を荒げるアリスに首をかしげながらケイは"いったいどうしたのか"と問う。
「アリス、ここから出る方法がわかりません……!」
「……はぁー」
呆れたように長い溜息を吐いた彼女は、アリスに意識を浮上させるための方法を伝えようとして……その前に、伝えなければならないことがあったなと思い至る。
「アリス、あなたは先程"魔王としての力を使ってみんなを助ける"と言っていましたが……」
「……あっ!アリス、力の使い方も知りません……!」
二度目の溜息。"うわーん!"と泣くアリスに対して"やれやれ"と頭を抑えながらも……ケイは、アリスを見放したりはしなかった。
「時間もあまりないでしょうから、今回は私が補助します。……が、アリスの意識が表に出ている間はアリスが宣言しなければ使えないので、起動するためのキーワードだけまずは伝えておきます」
「……!つまり、必殺技名ということですね!」
「………………まぁ、それでいいです」
ワクワク、キラキラと期待の籠った眼差しを向けられたケイは"んんっ"と咳払いをし……自分たちに宿る力の名を、アリスに伝える。
「アリス、あなたに宿る力の名は──」
◇◇◇◇◇
「稼働を開始します!プロトコル──」
……けれど、"今"の選択によって、先の"未来"を少しでもより良いものへと変えることは出来るから。
だから、例え
※原作との相違点
アリスはパヴァーヌ二章ではKeyの事を突き放していた。しかし本作では、自分の意思は貫きつつも、彼女に与えられた役割を否定はしなかった。
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