小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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「……赤飛リン。─────」
「……そうか、情報提供感謝する」

「あの、お兄様……」
「……こっちの事は気にしなくていい。アリスはアリスのすべき事を……自分の想いを、リオにぶつけてこい」


「大丈夫、ちゃんと受け入れてくれるさ」


本当の目的

「……この先でリオが待っている」

 

 

 要塞都市エリドゥに無数に存在するビルのうちのひとつの前で立ち止まったカオナシは告げる。……結局ここまで彼はアリスを連れ去る素振りを見せず、そのまま柏手を一つ打ち鳴らすといなくなってしまった。

 

 "結局リンくんとは一度も戦うことはなかったけど、一体何をしていたんだろう?"──そんな疑問を抱きながらも、先生たちはビルの中へと足を踏み入れた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 最上階へとたどり着いた先生たちを招き入れるように、自動扉が開く。

 

 無数のモニターに囲まれた管制室、或いは監視室と呼ぶに相応しい大部屋で、要塞都市の主たる彼女は一人背を向け立っていた。

 

 

「……来たのね」

 

 

 そう言って振り向いた彼女の瞳を見て、先生はこれまで抱いていた違和感に対して、ようやく合点がいった。

 

 調月リオ、彼女がアリスに向けたその視線には……敵意も、害意も込められていなかった。

 

 あるのは3つ、使命感と罪悪感、そして──安堵

 

 ……聞きたいことは山ほどある。事実、今も口を開こうとして……一人の少女が一歩前に歩み出たのを目にし口を閉ざす。

 

 答えは後にしよう。今はただ──

 

 

「リオ先輩に、伝えないといけないことがありますから」

 

 

 ──二人(リオとアリス)の対話に耳を傾ける。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「言いたいこと……そうね、あなたには私に不満をぶつける権利があるわ。恨み言も、あるでしょう」

 

 

 受け入れるように目を伏せる。アリスはリオに何を伝えようとしているのか……先生たちが静かに二人を見守る中──

 

 

「……うらみ、ごと?……どうして、アリスはリオ先輩にうらみごとを言わなければいけないのでしょうか?」

 

 

 ──当のアリスは、心底不思議そうに首をかしげていた。

 

 これには流石のリオも驚いたのか僅かに表情を崩し、アリスに問いかける。

 

 

「何故って……私は、私たちはあなたのヘイローを壊そうとしていたのよ?」

 

「……そうですね、ですがアリスは、リオ先輩たちの選択を間違ったものだと思いません」

 

 

 アリスは真っ直ぐにリオの目を見て、自身の抱いた思いを述べる。

 

 

「あの時のアリスは、また誰かを傷つけてしまう可能性がありました。……他の誰がなんと言おうと、他ならないアリス自身が、そう思っていました」

 

「そんな中で、リオ先輩たちは──」

 

 

 ──"アリスがみんなをこれ以上傷つけてしまうことがないように、連れ出してくれました"

 

 

「連れ出した後も、お兄様はアリスが自分の事を責めすぎないように、気を紛らわそうとしてくれていたのだと、今なら分かります。……リオ先輩やトキが、本来であれば食事が不要な筈のアリスのために、ご飯を用意してくれたのも知っています」

 

「リオ先輩たちは、みんなを守るのと同時に……アリスの、心を守ろうとしてくれました」

 

 

 "だから、恨む理由なんてないんです"と、アリスは微笑む。

 

 

「そ、れは……違うわ、だって、私たちはあなたのヘイローを……」

 

「……それはアリスがもう、どうしようもない程に暴走してしまって取り返しがつかなくなった場合に、ですよね?」

 

「……!どうして、それを……」

 

「……手紙を、読みましたから」

 

 

 "手紙"──その言葉を聞いた彼女は今度こそ、目を見開いた。

 

 

「て、がみ……?……待ってちょうだい、同盟者があなたに見せた手紙は、才羽モモイが書いた一通だけのはずよ」

 

 

 二人を除く全員の視線がモモイに集中する。まさか全部知っていたのか?というより手紙ってなに?と言いたげな視線が突き刺さる中……当のモモイは"知らない知らない!"とブンブンと首を横に振る。

 

 

「いや、手紙は確かにカオナシに渡してもらうように頼んだ……っていうか()()したけど……!会長たちがなにを考えてたかなんて全然知らないって!」

 

 

 この慌てよう……嘘はついていないようだと特に付き合いの長いミドリとユズは真っ先に気がついたが*1、ならどういうことだろうとアリスを見た。

 

 

「……?いえ、手紙は二通ありましたよ?一つはモモイからで、もう一つはリオ先輩から……」

 

 

 話が噛み合わない。一体全体どういうことだと脳裏に疑問符が浮かぶ中……誰よりも早く"ある可能性"に考えが至ったのは、リオだった。

 

 

「……まさか!」

 

 

 慌てた様子で近くの引き出しを開ける。無い、そこにあるはずのものが……書いたはいいものの、言い訳がましいだろうと後日処分しようとしていた"手紙"が、どこにもない。

 

 直後脳裏によぎるのはある男の姿。彼が持っていったか、もしくはトキが取り出して彼に渡したか……ピースピースと脳裏で煽ってくるカオナシを、リオは脳内で引っ叩いた。普通に躱された。……つかつきりおはちょっぴり泣いた。

 

 

「ん、んんっ……そう、読んでしまったのね」

 

「はい。……なのでアリスは、リオ先輩たちに感謝こそすれ、恨んだりなんてしていないんです」

 

 

 "読んでなくても、恨みはしませんでしたが"と、アリスは笑みを浮かべる。

 

 

「アリスは、リオ先輩たちの選択を間違っているとは思いません。安全マージンをとるのは司令官として大事なことだと、アリスは理解しています」

 

「そのうえで、ギリギリの時までアリスが自分のことを制御できるようになると信じてくれていたことを、アリスは嬉しく思います」

 

「ありがとうございます。あの日、不安定だったアリスを連れて行ってくれて。またモモイたちを傷つけてしまう前に連れ出してくれたことを、アリスは感謝しています。……それと、ごめんなさい。アリスが未熟なばっかりに、リオ先輩やお兄様たちを悪役にしてしまいました」

 

「……あなたが謝ることではないわ。結局のところ私たちは……いいえ、私は……先生たちと違ってあなたのことを、信じ切ることができなかったのだから」

 

「……アリスは、それでいいと思います」

 

 

 そこで一旦。会話が途切れる。……けれどそれは、決してお互いに何を話せば良いか分からないからという訳ではなかった。

 

 ……リオは待っているのだ。アリスが迷い、悩みながらも選んだ答えを、調月リオは待っている。

 

 彼女の思いを汲み取り、アリスは思いの丈を伝えるために、言の葉を紡ぐ。

 

 

「リオ先輩とお兄様のお陰で、アリスはケイとお話することが出来ました。アリスが何を目的として作り出されたのかを知りました」

 

「アリスは"名もなき神々の王女"であり、世界を破滅に導く存在だそうです。……アリスは、魔王となるべくして生まれた存在です」

 

 

 "勇者"に憧れる彼女が、自分の事を"魔王"だと言う。そのことに対してゲーム開発部の面々が"そんなことない!"と声を荒げるよりも前に……アリスは大切な友達(仲間)の方へと振り返り、笑みを浮かべる。

 

 "アリスは、大丈夫です"──声を出さずとも伝わってきたその気持ちに悲観的な感情が一切含まれていないことを悟った彼女らは、アリスのことを信じ見守ることにした。

 

 

「この魔王としての力を、アリスはアリスの望むままに振るうことが出来ます」

 

「なので、アリスは」

 

 

 モモイ達が自分のことを信じて口を閉ざしてくれた事を確認したアリスは、改めて前を向き、すぅ……と、大きく深呼吸。

 

 リオの視線を正面から受け止め、アリスは自らの意志を、決意を、大きな声で宣言する。

 

 

「アリスは、この力を──」

 

 

 

 

 

 

 勇者として仲間と歩むために、大切なものを守るために使います!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「………」

 

 

 アリスの想いを、決意を真正面から受け止めたリオは

 

 

「……アリスはアリス、ね。……ええ、あなたの言うとおりだったわ」

 

 

 よく見なければわからないけれど……確かに彼女は、微笑んでいた。

 

 気づいた人がどれだけいたかは分からない。例え気づいていたとしても……誰かが何かを言う前に、リオはミレニアムの生徒会長として、アリスたちに対しての裁定を下す。

 

 

「あなた達は、無謀とも言えるほどの戦力差を前にくじけることなく戦い、覚悟を力を示してみせた」

 

「そして、アリス。あなたは内に宿る人格を制御──」

 

 

 "いえ、この表現の仕方は正しくないわね"と首を横に振り、改める。

 

 

「──内に宿る人格と和解し、自らの力を制御してみせた」

 

「私たちはあなたが暴走し、ミレニアム、ひいてはキヴォトスに害をなす可能性があったから隔離をしていたけれど……今のあなたであれば、暴走することは無いでしょう」

 

 

 リオはアリスの目を見て、この場に居合わせた超法規的機関シャーレ所属の先生を証人に据えて

 

 

「ミレニアム生徒会長としての権限を持って宣言します。……天童アリス」

 

 

 

 

 ──あなたを、ミレニアムの生徒として正式に認めるわ

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 告げられた言葉を反芻し、噛み締め……滲む涙が溢れるその前に

 

 

「「「アリス(アリスちゃん)っ!」」」

 

 

 モモイ、ミドリ、ユズ……アリスにとって初めての、大切な友達(仲間)に思い切り抱きしめられた。

 

 もう二度と離したりしないと、決して一人になんかしないと強く、強く抱きしめられたアリスは──

 

 

「モモイ、ミドリ、ユズ……!」

 

「アリス、無事帰還しましたっ……!」

 

 

 ──涙を頬に伝わらせながらも、満面の笑みを浮かべていたのであった。

*1
それはそれとして後で問い詰めようと考えている




モモイの手紙にはただ一言

また一緒に冒険に行くよ!

と、書かれていました。

アリスに傷つけられた張本人でありながら、アリスを責め立てるでもなくただ当たり前のように彼女のことを仲間(友達)として受け入れてくれてるのだと知ったアリスは、続けてリオの手紙を読み、リオたちの計画を知りました。
そこにはアリスのヘイロー破壊について確かに記載されていましたが、それも最早取り返しがつかなくなった時に限ること。なるべくアリスが暴走したりせずに済むように、必要以上に自罰的にならないように彼女のメンタルを維持する為にはどうしたら良いかという案が事細かに書かれていました。
誰もが自分が立ち上がれることを信じている、或いは疑いは持ちつつも、悪いようにはならないように、なるべく良い結末を掴めるようにと案じ計画を練ってくれている。
その事を知った彼女は、ケイと向き合う決意を固め──といった流れです。



次回、時計じかけの花のパヴァーヌ編エピローグ

結局戦うことがなかったリンくんが何をしていたのか、今回どんな役割を担っていたのかが明かされる予定です。
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