要塞都市エリドゥでの戦いから一週間の時がたった。
その間、作戦に参加した生徒たちは積み重なった疲労を癒し、怪我の手当をしたり……リオとリンは揃ってユウカに説教されたりといろいろなことがあったが、概ね平和な時を過ごしていた。
因みに気を失うほどに限界を超えて戦っていたネルとトキに関してだが、直ぐさま手当を受けたおかげか、未だ傷は残っているものの日常生活を送るのに何ら不自由を感じない程度には既に回復しており、モモイたちは理外の存在を見るかのような何とも言えない表情を浮かべていたとか……
……何はともあれ、全員無事に動けるまで回復したということもあり……改めて彼女たちは、アリスが無事に帰ってきた事を祝うためにミレニアムの大会議室を貸し切りパーティーを開くことにしたのである。
「……どうして、私は呼ばれたのかしら。……場違いだと思うのだけれど」
「いや、それを言ったら俺のほうが場違いだろう」
若干二名ほど肩身が狭そうに端のほうで立っていたが、今回のパーティーの名実ともに主役であるアリスが駆け寄ってきて
「お兄様!リオ先輩!一緒に乾杯しましょう!」
と言ってそれぞれの手を掴んで引っ張っていく。……二人に、拒否権なんてものはなかった。
「お、よーやく来やがったな!ほらカオナシもリオもコップ持ちな!」
「え、ええ……」
ネルの勢いに押されて二人が飲み物の入ったコップを受け取った事を確認すると、モモイは満足げに頷き
「それじゃあ先生!かんぱいの合図お願い!」
「……えっ、私!?」
先生に丸投げする。
なんだか前にも同じ様なことがあった気がするなぁ……!とデジャブを感じながらも、先生は立ち上がりグラスを掲げる。
「えー、それじゃあ……いや、長々とした前置きはなしにしよっか!」
「アリスちゃんが無事に帰ってきたことを祝って──」
──乾杯っ!
「「「かんぱーいっ!!!」」」
◇◇◇◇◇
「ねぇ、リンくん。……リンくんは結局最後にちょっと出てきただけだけど、何をしてたの?」
皆が思い思いに楽しんでいた最中、唐突に先生はずっと抱いていた疑問を投げかけた。瞬間、周りにいた生徒たちは"気になる気になる!"といった様子で二人の会話に耳を傾ける。
「何って……アリスの監視「お兄様と一緒にゲームをしてました!」……監視と」
「リンくん、流石にその軌道修正は無理があるよ?」
「喧しい!自分で言うのもアレだけど、アリスのメンタルケアとかも兼ねてたんだよ!」
「うん、知ってる。アリスちゃんから聞いたし」
「おまっ……!……っ!」
おちょくられていると分かっていながらも事実であるが故に何も言い返せないリンは、"ンンッ!"と咳払いして話題が好ましくない方に逸れそうになるのを防ぐと、当時の自身のもう一つの役割について話し始めた。
「……俺とリオは、リオが一年のときから同盟を結んでるってのは知ってるな?」
「うん、アビドスで聞いたね」
「で、その同盟の内容ってのが……簡単に言えば、"アビドスやミレニアムを脅かす敵が現れた時、ひいてはキヴォトス全土に危機が迫ったときにお互い手を取り合って協力しましょう"ってもんだ」
「俺はリオの側についていた。んで、俺たちの視点からすると、相手は先生とアリスを取り戻そうとするミレニアムの生徒たちになるわけだ。……その上で、今回の先生たちのメンバーをよーく考えてほしいんだが……」
「……あ」
何かに気がついた先生に対して、リンはある種答えの分かりきっている問いを投げかける。
「なあ、先生」
──今回、俺の対処すべき相手はいたか?
「…………いない、ね」
……そう、
「えっと……じゃあ、始めからリンくんは戦うつもりはなかったってこと?」
「まぁそうなるな。リオ自身も、今回の事は出来る限りミレニアム内で抑えたいって考えてたみたいだし。……後はまぁ、保険として控えてたって感じだな」
「……保険?」
「……当時のアリスは不安定だった。結果的に今回は大丈夫だったが、もしアリスがまた暴れた場合に、Divi:sionが現れた場合に……或いはアビドスに現れたビナーみたいな全く違う脅威が訪れたときに、"全員ボロボロで戦えるやつがいません"なんてことになったら最悪だろ?」
「だからもしもの時の保険として、いざというときに万全な状態で戦えるやつがいるように、俺はアリスの様子を見つつ控えてたんだ」
"俺の能力なら、いざって時に安全な場所に逃がすこともできるしな"と、リンは言う。
(……まぁ、
(折角来てくれたユメとホシノには悪いことしたな……いや、
"また何か礼でもしないとな"……と思考を別方面に飛ばしていると、とてとてとアリスが駆け寄ってくる。
"どうかしたのか"と問えば、"ケイが話したいことがあるそうです!"とアリスは言う。
「ケイが……?まぁ、構わないが……」
……この場に、"ケイ"という名前に疑問を抱くものはいなかった。理由はなんてことはない、此度の騒動が一件落着したその日の内に、アリスから紹介されていたからである。
"しかし、一体なんの用だろうか。というか用があるほど
「……赤飛リン」
アリスの内に宿るもうひとつの人格、ある意味でアリス以上に今回の騒動の主要人物とも言える存在──Key改めケイの意識が浮上する。
……実を言うと、アリスからは彼女の名前とどんなやり取りをしていたかしか聞いておらず、先生たちが面と向かってケイと対面するのはアリスが暴走した時以来だったりする。
それ故、アリスともう一人を除いて彼女の為人を詳しく知るものはおらず……中には、彼女に対して表には出さずとも警戒心を抱く生徒もいた。
自身に向けられる視線に気が付きながらも、彼女は一切動じた様子を見せない。……が、何処か悩ましげな……いや、これはどちらかと言うと"認めるのは癪ですが"とでも言いたげな……?
「……認めるのは癪ですが*1、賭けはあなたの勝ちです。王女は……アリスは与えられた役目を放棄し、自らの歩む道を定めました」
「……賭けに負けた以上、約束は果たさなければなりません。でないとアリスに示しが付きませんので」
「あー……それについては保留で良いって言わなかったか?」
「言っていましたが、あなたはミレニアムの生徒ではないでしょう。頻繁に来る訳でもないのに何時までも残し続けられるのも面倒なので、こちらとしてはさっさと消費して欲しいんですよ」
「そうは言われてもな……」
困ったように──事実困ってはいるが──頭を搔くリンの様子に痺れを切らしたのか、ケイは──
「アリスに迷惑がかからない範囲であれば、
──唐突に、特大の爆弾を放り投げた。
「………いや、だから女の子が"何でも"とか軽々しく「駄目だよケイちゃん!」ぐえ」
「誰がケイちゃんですか」
「そーだよ!男は全員ケダマ?なんだよ!」
「それを言うならケダモノだよお姉ちゃん!」
「お前ら好き勝手言い過ぎだろおい……!」
注意しようとしたところを先生に遮られ、挙句の果てに好き勝手宣う双子にリンは切れた。具体的には能力発動用に持ち歩いてる空薬莢を指で弾き、能力でケーキと入れ替え………ようとしたけど食べ物がもったいないので能力は使わなかった。
結果、(ちょっと)神秘の込められた空薬莢が双子の額に当たり、子気味いい音を立てる。
「「いっっっっったぁ!!!?」」
「いだだだだっ!?あ、頭がザクロみたいにっ!?」
額を抑えて翻筋斗打つ双子を尻目に物凄く手加減をしたアイアンクローを先生にかましながら、"はぐらかしても納得しないよなぁ……"と頭を悩ませる。考えて、考えて……
「そうだ、アリスに決めてもらおう」
妙案が思い浮かんだと言わんばかりに、パチンと指を鳴らす。
「……はい?それはつまり、アリスに権利を譲渡するということですか?」
「そーいうこと。……まぁ正直今回の賭けについてはどっちが勝つのかが分かりきってたからなぁ、それで言うこと聞いてもらうのも乗り気しねぇんだよ」
「そうですか……貴方がそれでいいなら構いませんが。……いえ、ですが……」
「全然構わん。というわけで一旦アリスと変わってもらっても……いや、中で聞いてるか?」
「……聞いていますよ。……私にはアリスに聞かれないように制限を掛けたりする権限はありませんので」
そう言ってケイは目を瞑る。……"はい、はい"と相槌を打つ様子からしておそらく今、アリスと話をしているのだろう。
「はい……はい?いえ、流石にそれはちょっと……!」
「……え、何で今俺を見た?アリスは何を言ってるんだ……!?」
……途中、"もしかして自分はやらかしたのではないか?"と思うタイミングもあったが……何とかケイが軌道修正してくれたらしく、彼女は安堵の息を吐いていた。必至にアリスを説得しようとするその姿から、"案外悪い子じゃないのかな?"とケイの知らない所で彼女に対する認識が少し改められていたとかなんとか。*2
「それであれば、まぁ……ですがアリス、それは私だけでは収まらないのではないでしょうか?」
「……いえ、多分断られる事はないとは思いますが……はい、分かりました」
目を伏せ、開く。紅から青へ、ケイと入れ替わるようにアリスの意識が浮上する。
「……決まったか?」
「はい!……ただ、その……ケイへのお願いのつもりだったのですが……」
「言うだけならタダだから、言ってみな」
リンの言葉にこくりと頷きを返すと、アリスはこちらを見守っていた先生たちの方へと向き直る。
「アリスは、モモイと、ミドリと、ユズと」
アリスは、ゲーム開発部の名前を呼ぶ。
「ウタハ先輩と、ヒビキと、コトリと」
アリスは、エンジニア部の名前を呼ぶ。
「チヒロ先輩と、コタマ先輩と、ハレ先輩と、マキと」
アリスは、ヴェリタスの名前を呼ぶ。
「ネル先輩と、アスナ先輩と、カリン先輩と、アカネ先輩と」
アリスは、C&Cの名前を呼ぶ。
「ユウカと、ノア先輩と」
アリスは、ミレニアム生徒会の書記と会計の名前を呼ぶ。
「ヒマリ先輩と、エイミと」
アリスは、特異現象捜査部の名前を呼ぶ。
「そして、先生にリオ先輩、トキ、ケイ、お兄様──」
──みんなと一緒に、ゲームをしたいです!
「……その、だめ……でしょうか?」
何処か遠慮がちに、上目遣いでアリスは皆にお願いをする。そんな彼女の様子に彼女たちは顔を見合せ、再びアリスへと向き直り──
「「「やろうっ!一緒に!」」」
──もちろん、断るはずがない。
笑みを浮かべるゲーム開発部の顔を見て、周りの誰もが、もちろんアリスの内にいるケイも含めて誰一人として断らず受け入れてくれた事を理解した彼女は──嬉しそうに、破顔する。
「よーし!それじゃあ早速準備しよう!」
「部室から持ってくるね……!」
「あの、リオ会長……ここの大型モニターって使っても……」
「……構わないわ。今日は貸し切っているもの」
「……!ありがとうございます!」
手馴れた様子でゲーム開発部の面々は準備を進めていく。……普段なら窘める立場のユウカも、今回ばかりは何も言わずに見守っていた。
「人数多いし、やるならやっぱりパーティーゲームだよね!」
「幾つかのグループに別れて、1ゲームごとにメンバーを入れ替えてやる感じかな?」
「ゲーム本体とソフト、持ってきたよ……!」
「ありがとうユズ!……あ、カオナシも取りに行ってくれたんだ」
「ユズ1人じゃ流石に手が足りないだろうしな」
「そっか、ありがと!」
程なくして準備を終え、各々がコントローラーを握ったことを確認すると"ヨシ!"とモモイは頷いた。
「アリス!開始の合図を!」
「はい!それでは──」
◇◇◇◇◇
彼女達の勇者になる為の旅は、まだまだ始まったばかり。どのような道を歩むのか、それは誰にも分からない。以前の
……うん?私が誰かって?残念ながら、それはまだ話せないが……遠くない未来に会えるだろうさ。……話を戻そうか。
全てが順調にとは行かないかもしれない。……大変なことだってあるだろう。
だけど、大丈夫。彼女たちならきっと、どんな困難だって乗り越えていける。
……何故って?それは勿論、彼女たちには──
──頼れる
これにてパヴァーヌ編は完結となります。
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今後の予定としては番外編を幾つか挟み、エデン条約編へと向かっていきます。
本章ではリンの立場的に、所謂パヴァーヌ二章では物語の本筋に大きく関わることはなく、どちらかと言えば裏方としての行動が多くオリ主であるにも関わらずあまり描写されることはありませんでした。
※当初の予定ではリオとの会話の後にリン達と戦うシーンを入れようと考えていましたが、アリス覚醒が対アバンギャルド君で成し遂げられてしまったので無くなりました。代わりにリン、そしてちらっと出てきたユメホシには別の事をしてもらってます。番外編ではその辺を書いていこうかなと……と言っても1、2話程にはなりますが。
エデン条約編については、今のところ二章後半辺りからの描写を予定しております。一章(補習授業部編)は……ね、リン君が居ると妨害を物ともせずに能力駆使して試験会場に直接送って試験合格しちゃうので、残念ながら出禁です。
エデン二章後半、ウィッシュリストベースでアズサちゃん周り掘り下げ、エデン三章四章……かなぁ?