そして気づけばもう、星10に色が着くまであと少しという所まで⋯⋯!
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聖園ミカによるアリウス生を率いたクーデターは無事に終幕を迎えた。
幾ら戦闘技術ばかりを教え込まれていたアリウス生とはいえ、最大戦力たるミカが戦闘開始前に何処へともなく消えてしまったのだ。……生徒の力を最大限発揮させることの出来る先生の指揮能力があれば、鎮圧は容易かった。
「まさか、ミカさんがクーデターの首謀者だっただなんて……」
「……ごめんね、ナギちゃん」
全てが片付いた後で事の真相を知った桐藤ナギサは、もう何がなんだかといった様子で眉間を揉む。
「セイアさんもセイアさんです。……生きていたのなら、どうして教えてくれなかったのですか」
「それは……すまない、言い訳のしようもない」
「……まぁ、良いです。セイアさんの暗殺に失敗していたことをアリウス分校の生徒たちが知ればまた襲われていたかもしれませんし、少しでも情報が漏れるのを防ごうとしていたと考えれば理解は出来ます」
紅茶を一口飲み、はぁ……とため息を一つ。
「私自身、言われのない罪で補習授業部の方々を退学に追い込もうとしたのです。ですから、お二人を無責任に責める権利があるとは口が裂けても言えません。……まぁ、アズサさんは本当にアリウスのスパイとして転校してきたようですが……書類を用意したのはミカさんですし、彼女は二重スパイとして寧ろこちらを助けようと動いてくれていたそうなので」
ティーカップをソーサーに置き、ナギサは二人を見る。
「……ヒフミさんや、他にも多くの方々に迷惑をかけてしまいましたから、後日改めて謝罪をしなければなりませんね。……もちろんその時は、三人で行きますよ」
「うん」
「ああ、分かっているとも」
三人は無言になる。……幾らお互いに謝って仲直りしたとはいえ、事が事だ、気まずい空気が流れるのも仕方がないだろう。
「……ねぇ、ナギちゃん、セイアちゃん。……アリウスの子達は、どうなるのかな」
「それは……」
「……他校へ侵入しての戦闘行為だからね、罰せられるのは免れないだろう」
「……そう、だよね」
ミカの顔に影が射す。……セイアを殺してしまったと思っていたが故に"もう行くとこまで行くしかない"と半ばヤケになっていた為にトリニティへの侵入を手引きしたミカだったが……本当なら、クーデターなんて起こすつもりはなかったのだ。
彼女がアリウスと関わりを持ち始めた原初の理由は、決してそんなものではなく──もっと、優しい気持ちに溢れたもの
──"アリウスの子達とも、一緒にお茶会をしたい"
ただそれだけの、優しさに満ちた思いをきっかけとして関わりを持ったからこそ……自分が手引きをしたとはいえ、彼女らがただ罪人として扱われてしまうことに心を痛めていた。……
「……だから、アリウス分校との戦闘は
「「……え?」」
お茶菓子を摘みながら、なんてことのないように告げられたセイアの言葉に、二人は揃ってキョトンとした表情を浮かべる。
「いや、いやいやいや……流石にそれは無理があるってセイアちゃん!だって私、思いっきりクーデターをしようとして……」
「クーデター?ふむ……私とミカはただ、意見のすれ違いから口論に発展し、キヴォトスの住人らしく銃を使って喧嘩をしたに過ぎないはずだが?」
しらばっくれた様子で"喧嘩"だと言い張るセイア。……普通こういったことは起こした側の自分が言うものじゃないの?いや、言うつもりなんてないけどさ……と、困惑するミカを差し置いて、セイアは言葉を紡ぐ。
……ナギちゃん?当日置いてきぼりにされたことを思い出して拗ねてるよ。
「無論、周りは信じないだろう。……君も、自分は罰を受けるべきだと思っているのかもしれないが──君の
「……っ!」
「……なに、心配することはない。今の私にはもう
どうかしたのだろうかと、ティーカップに口をつけながら首を傾げるセイア。
「セイアさん、今なんと……?」
「うん?何って……アリウス分校の為に動く者がいると……」
「いやそっちも気になるけどさ?そうじゃなくって、それよりもっと前の……」
「……?……ああ、未来が視れなくなったということかい?」
「そうだよ!?どうして平然としてるの!?」
「どうして……と言われてもな、私にとっては最早無用の長物だったからとしか言いようがないのだが……」
「無用!?セイアちゃんの唯一のアイデンティティなのに!?」
「それは流石に聞き捨てならないぞミカ、もっと色々あるだろうこのふわふわな毛並みの尾とかキュートな狐耳とか色々と」
一切気にとめた様子のないセイアの振る舞いに、私たちの方がおかしいのだろうかとミカとナギサは首を傾げる。……いや、そんなことないはずだ、聞いた話だがセイアの未来視はそれこそ物心ついた頃からあるもので……
「……本当に、大丈夫なんですか?」
「ああ、何も問題は無いとも。何せ最近は、
健康になったことをアピールする為か、シュッシュッと中々にどうに入ったシャドーボクシングを披露する百合園セイア。……君、そんなにわんぱくだったっけ?ふっ、今までは身体が精神に着いて来れなかっただけさ。
「諦めなければ悪い未来も変えることが出来るというのを目の前で見せつけられてしまったからね。それで彼に感化されて私も頑張ってみた結果、決して楽な道程とはいかないが、覆す事は不可能では無いということが証明された。……まぁ、色々と条件はあるみたいだけれどね」
「……先が見えないのは皆同じさ、だから人はより良い未来を掴み取ろうと足掻くんだ」
「人は皆先の見えない暗闇の荒野を突き進む旅人だ。今までの私は、ゴールラインが示されていたと言うだけの話」
「皆が当たり前のようにやっている事だ。……なのに、私一人だけ"できない"なんて喚くのは、格好がつかないだろう?」
笑みを浮かべるセイアの姿からは、やはり気負った様子は見られない。
「……私は未来をただ夢見るのではなく、自らの意思と選択で掴み取ることを決めたんだ。心配してくれるのは有難いが、過保護になる必要はない」
"今の私は、ミカと喧嘩できるくらいには強いぞ?"と笑いながらセイアが言えば……二人にはそれ以上、もう何も言うことは出来なかった。
◇◇◇◇◇
(……未来を掴み取るのを諦めない、か)
「……ねぇ、ナギちゃん、セイアちゃん。……私ね、やっぱりアリウスの子達とも一緒に、お茶会したいなぁって思うの」
「ミカさん?急に何を……」
「……ナギサ、今は聞いてあげようじゃないか」
「セイアさんまで……いえ、そうですね」
前に話した時は"無理だ"と否定された、聖園ミカの原初の願い。その優しさに満ちた夢見がちな願いを、二人は静かに聞き届ける。
「実は私、何度かアリウスの自治区に足を運んで、支援したりしてさ……私の前ではゲヘナ憎し!っていう側面を多く見せてたけど、今にして思えば過去に迫害したトリニティを恨んでない訳が無かったんだよね」
「それに気付かずに"じゃあ一緒にゲヘナを潰そう!"ってさ、ほんと、バカだよね。……それで友達を傷付けてちゃ、なんの意味もないのにさ」
「……でもね、恨まれてるって分かってても、やっぱり諦めきれないの」
「アリウスの子達は、ずっと戦うことばかりを教えられてきた。綺麗な服も、美味しいお菓子も知らずに今も生きてる」
「アリウスを迫害したトリニティの私たちが言うのはおかしいって分かってる。……でも、それでも私は」
──もっと自由な、
「……これが、私の願い。……叶えられるかな?」
なんて、不安の入り交じった笑みを浮かべなもミカは、自身の抱いた夢を今一度二人に語る。
セイアとナギサは二人顔を見合わせて……
「……ミカさんの言葉通りであるのなら、やはり難しいと言わざるを得ないでしょう」
「……あはは、だよね「ですが、不可能とは言いません」……え?」
諦めたように笑うミカの言葉を遮り、ナギサとセイア、ミカの友たる二人は言葉を紡ぐ。
「ナギサの言う通りだとも、何せ私たちには、道を違えても仲直りできたという前例がある。険しい道のりにはなるだろうが、諦めない限り決して可能性は消えない。……それは、私自身が身をもって証明しているからね」
「それと、実は先程、先日捕らえたアリウス分校の生徒のひとりがこのような事を言っていたと報告がありました」
──聖園ミカは無事なのか、と
「……え?」
「正直耳を疑いました。改めて聴取を行っていた正義実現委員会の方が訊ねたら、"トリニティもゲヘナも嫌いだが、美味しいものを食べさせてくれたミカは別"だと言っていたようです」
「もちろん、全員が全員そうではないけれどね。……だが、君の行いは決して全てが無駄だと言うわけではなかったんだ」
「……!」
……視界が歪む、眦から零れ落ちた雫が頬を伝う。
「今は難しいだろう、アリウスの生徒たちに
──君が諦めなければ、いつかその願いは叶う
「預言の大天使たる私が保証しよう。……まぁ、枕詞に"元"とつくがね」
「……そっか、セイアちゃんのお墨付きなら安心だね」
「……ここは笑うところなんだが……冗句というのは難しいな」
「お二人とも、私を忘れないでくださいね?」
「もちろん忘れたりなんかしないよっ!あ、そうだセイアちゃん、昨日の夜にいた仮面の人だけどさ──」
彼女たちは、未来を夢見て語り合う。未だ溝の深いアリウス分校と何れ和解するその時を、夢見て、掴み取るために知恵を絞る。
一朝一夕で叶えられる願いではないことは重々承知、しかしてそれが諦める理由にはなりはしない。
「そういえば前に、アリウス自治区で見かけたことがあるんだよね。……なんでいたんだろ?」
「ああ、それはだね……」
「……どうしてセイアさんが知ってるんですか?」
「うん?本人から聞いただけだが?」
「……なんで私がおかしいみたいな表情をされなくてはいけないんでしょうか」
……時折話が逸れるのもまた、友達同士であるからこそ。
◇◇◇◇◇
「……どうやら、聖園ミカのクーデターは失敗に終わったようだな」
「アズサちゃんもトリニティに寝返ったそうですし……うう、やっぱり人生は辛いことばかりです……」
「………」
「……そうだね、あの男も居たみたいだし、厳しい戦いになるかも。……だとしても、私たちのやることに変わりはないけど」
闇夜の中で悪意が胎動する。……何れ来たる、復讐を為すその時を待ちながら
「ああ、
その復讐心が、植え付けられた偽りのものだと知らずに。……恐怖に支配された彼女達に、疑う術は残されていない。
「エデン条約に乗じてユスティナ生徒会の
──"赤飛リンを殺す"
「……奴は一筋縄ではいかない、トリニティとゲヘナが集うその日まで、徹底的に準備を……どうした、姫」
「…………」
「……私達に、そのような選択は許されていない」
会話を断ち切ると、リーダーと呼ばれる女子生徒は他のアリウス生に作戦決行の為の準備を進めるよう命じる。
月明かりすら遮るような曇天の空を見上げながら、彼女は何を思うのか。それは誰にも……彼女自身にも、分からなかった。
Vanitas vanitatum et omnia vanitas.
──彼女達の元に、未だ光は差し込まない。
という訳で、セイアちゃんは既に予知夢を手放し代わりに直感を得ています。クズノハとの会合は済です。
次回からはアビドストリニティ混合夏イベの予定です
その後、エデン三章へ
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