「やぁ先生、こうして面と向かって顔を合わせるのは初めましてかな?」
「私は百合園セイア、君も知っているミカやナギサと同じティーパーティーの一人であり、前任のホストでもある」
「君は知らないだろうがかつての私は"預言の大天使"とも呼ばれていてね。……そう、私は予知夢という形で未来を垣間見ることが出来たんだ」
「……ああ、過去形だ。残念……でもないが、今の私は以前のように未来を夢に見ることはできない。……うん?"つらくないのか"って?」
「……いや、別に。逆に訊ねるが先生、毎晩悪夢を見ずに済むようになるのが嫌だと思うかい?……そういうことさ」
「それに最近は私が見た夢を覆されることが多くてね、こうなってくると最早予知夢ではなくただ毎晩悪夢を見せてくるだけの……失礼、あまり良くない言葉が出そうになってしまった」
「……とにかく、私にはもう不要なものだったのさ。友人と喧嘩するのにも役立たないしね」
「……っといけない、話が逸れてしまったね。さて、どこまで話していたか……」
「……そう、私はかつて未来を見ることが出来た。白洲アズサがスパイとしてトリニティに転校してくることも、ミカの制御を超えてアリウスの生徒たちが私を殺そうとする未来も……ミカが裏切り者として、"魔女"と後ろ指を指される未来も。……これについては私が頑張って阻止しようとしているが、残念ながらまだ確定してはいない。……が、これはまあ今は関係ないか」
「先生を今日ここに呼んだのは他でもない、その私が見た未来について忠告をしようと思ってね」
「白洲アズサはアリウスとトリニティの二重スパイという曖昧な立場から、正式なトリニティの生徒になった。ミカが招き入れたアリウスのクーデターは先生たちの尽力によって阻止された」
「……けれどこれで全て終わりなんてことはないという事を、先生は理解しているはずだ」
「エデン条約の締結日、トリニティとゲヘナが一堂に会するその時に、アリウスは攻勢に打って出てくるだろう。……残念ながら事前に防ぐ事は不可能だ。元凶を叩けば或いは防ぐ事は出来るかもしれないが、それでは根本的な解決には至らない」
「……私たちは知らなければならないんだ。アリウスに渦巻く怨嗟と恩讐を、知らずして真に和解することはできない」
「……どうなるかは、私にも分からない。……
「……少々話しすぎてしまったようだ。……すまないが、その質問にはまだ答えることができなくてね」
「ここまで長々と話したが、私が先生に伝えたいことは一つだけだ」
「──いずれ来る、避けることの出来ない未来への覚悟を持って欲しい。そして願わくば、より良い未来を」
「……二つになってしまったが、よろしく頼むよ、先生」
◇◇◇◇◇
「けほっ、けほっ……」
(これが、セイアちゃんの言ってた……)
先生は数日前にセイアと交わした会話を思い出していた。またリンから可能な限り被害を減らすために動くということも聞いており……初めは音だけが響いていた事から恐らく最初の内は彼らが防いでくれていたのだろうという事も理解していた。
そのお陰で事前にアロナバリアを張ってもらうことで怪我を防ぐことは出来たが……今の状況を見るに、相手のが上手だったのだろう。……覚悟はしていたこととはいえ襲撃が起きてしまったという事実に、思うところがないとは言えなかった。
「先生、ご無事ですか!?」
「心配してくれてありがとう、ヒナタちゃん。私は何とか無事だけど、他のみんなは……?」
「他の皆さんは怪我はしていますが、直前に響いた大きな音で警戒をしていたおかげか大事には至っていません」
「そっか……良かった」
ほっと胸を撫で下ろす。……安心するにはまだ早いが、今はとにかく生徒達に大事がないことに安堵していた。
「先生!」
するとそこへ、駆けてくる生徒が二人。正義実現委員会の羽川ハスミと剣崎ツルギが辺りを警戒しながら先生の元へと近づいてくる。
「良かった、ご無事のようですね」
「うん、みんなは大丈夫?」
「はい、私たちは「ハスミ」──ッ!?」
「構えろ、敵だ」
"大丈夫です"と言うハスミの返事は、委員長であるツルギの警告によって遮られる。……即座に先生を庇える位置に立ち臨戦態勢を取るのは流石トリニティの主力部隊と言うべきだろう。
「ツルギにハスミか……兵力をこっちに回して。これより交戦に入る」
視界に映る生徒はトリニティでもゲヘナでもない。……しかし、ツルギ達は目の前の生徒たちが身に付ける校章に見覚えがあった。
「あれは、アリウス分校……!」
数にして優に二桁は超えている。周辺地域には厳戒態勢を敷いていた中で、いったいどうやってこれ程の兵力を悟られることなく用意したのか。……考えても分からない筈の方法に、シスターフッドのヒナタだけは思い至る。
「まさか、地下から……?古聖堂の地下にある、あのカタコンベから……!?」
「……成程、つまりこの状況はアリウスの仕業という事ですね。……まさか、本当に攻めてくるとは」
「……?……まぁ、恨むならあんた達のご先祖さまを恨みなよ」
一触即発の雰囲気漂うその状況で、ツルギはハスミに指示を出す。
「ハスミ、お前は先生を連れて離脱しろ。暴れるのは、私がやる」
「ツルギ……分かりました、先生を安全な場所にお連れ次第、周辺地域の安全確保に努めます」
「頼んだ」
「……行かせるわけないでしょ」
──正義実現委員会と、アリウススクワッド"戒野ミサキ"率いるアリウス生徒の戦いが幕を開けた。
◇◇◇◇◇
一方、ヒナの足止めを命じられていた槌永ヒヨリの率いる部隊は今
「……終わりね」
「うぅ……まさかこんなにも一方的にやられてしまうなんて……このまま爪を剥がされ鞭で打たれ、拷問されて情報を吐かされてしまうんでしょうか……」
「……いや、そこまではしないけど」
ゲヘナの紛うことなき最強戦力である空崎ヒナに上を取られ、空中からの一斉掃射により部隊は既に壊滅状態となっていた。
……いくら優れた歩兵であっても、優れたパイロットの搭乗する最新鋭の戦闘機に敵うか?と言われたら、まぁ……うん、無理だよねという話である。
……一応、ヒヨリも頑張ったのだ。率いた他の生徒達が時間を稼いでいる間に死角に回り込み、ヒナを撃ったりもしていたのだが……
【……そこね】
【どうして頭に当たったのに効いてないんですかぁ!?】
全っ然効いた様子がないんだもの。何かもう可哀想になってくるっていうか……ね?
"もうダメですぅ、おしまいですぅ……あ、でも取り調べって確かカツ丼っていうものが食べれるんですよね?食べた事ないですけど、きっと美味しいんでしょうねぇ……"と、心が読めるものがいるとしたら若干緊張感にかける絶望感をヒヨリが抱いていたその時
「──ッ!」
──アリウスの生徒たちとは正反対の方向から、ヒナに向かって無数の銃弾が放たれた。
「っ……あれは、何?」
死角から放たれた銃弾を空中で回避したヒナの視界に映るのは、
「では、私の役目は終わったみたいなので、失礼しますねぇ……」
「……っ、まちなさい!」
その隙を逃さず、ヒヨリは物陰に身を隠し……無事、ヒナを相手に逃げ果せるのだった。
◇◇◇◇◇
再び場面は戻り、正義実現委員会と戒野ミサキ率いるアリウスが対峙する戦場。
「くっ、いったいなんですか、あれは……!?」
そこにもまた、ヒナのところに現れたのと同じ青白い人型が居た。
数は数十……いや、百は居るだろうか。一撃一撃の威力が高く、そして幾ら撃ってもまるで手応えのない不気味な存在が、離脱を図る先生たちの道を塞ぐ。
あまりに不可解なそれ等は、果たして自分達とおなじ"人"なのだろうか?……そんな疑問に答えるのは、シスターフッドの若葉ヒナタであった。
「あれは、まさか……」
「シスターヒナタ……?まさか、あれの正体をご存知なのですか?」
「……はい、あの姿、以前本で見た事があります。……あれは、"聖徒会"の服装です」
「聖徒会……?」
「はい。……あれは、私たちシスターフッドの前身──」
──"ユスティナ聖徒会です!"
◇◇◇◇◇
また別のあるところでは、巻き込まれた住人たちを逃がそうとするリンの前に、一人の少女が姿を現す。
「誰だお前、アリウス……じゃないな、あまりにも身綺麗過ぎる」
髪も肌も全身真っ白な、陶器を思わせる不自然なまでに白い少女を前に、リンは警戒心を顕にする。
「……流石だ、我を打ち倒せし英雄よ。……其方から感じる気迫、以前よりも更に増している」
「は?……何を言って──ッ!?」
姿形が記憶からかけ離れ過ぎているが故に気づかなかった……もし自分がヘイローの形を認識出来なければ、未だ気づくことはできなかった。
「そのヘイロー……お前は、まさか──ッ!?」
自らの正体に、名を伝えずとも辿り着いてみせた目の前の存在に──少女は満足気で、しかして獰猛な笑みを浮かべ、己が
「我が名はビナー。……嘗ての我が神体を損壊せしめた其方に問う」
「──其方の名は、なんと言う?」
擬人化ビナー「お名前教えて♪」
赤飛リン「ハァ?」
※擬人化のタグを追加しました