──ヘルメット団強襲作戦を成功させたカオナシ達は、対策委員会の部室へと戻ってきていた。
「それじゃあ改めて──お疲れ様ー!それと作戦成功を祝して、乾杯!」
『「「「「「「かんぱーい!(乾杯)」」」」」」』
ユメの音頭に続くように口を揃えていい、その手に持ったグラスを"カァン♪"と打ち鳴らす。
カオナシ達は今、ヘルメット団に関する問題が一時落ち着いたことを祝し、軽いパーティーを開いていた。
……と言っても、ジュースと少量のお菓子があるだけの簡素なものではあるのだが───それでもアビドス対策委員の彼女達は、楽しそうに笑みを浮かべていた。
その様子を少し離れた所で見ていたカオナシのもとに、両手にグラスとお菓子を持ったユメが近づいてくる。
「カオナシさん、お菓子とジュースありがとね」
『……別に礼は必要ない。砂漠に来ることになったから、念の為に持ってきておいただけだからな。…持って帰るのも大変だし、消費してくれるならそれで良い』
カオナシはなんてことの無いようにそう告げるが、ユメは"それでも"と続ける。
「……最近はずっと襲撃ばっかりで、こうしてゆっくり落ち着くことも出来てなかったから」
「でも、先生やカオナシさんが来てくれたおかげで、ヘルメット団についての問題が解決した。だから──」
──アビドスに来てくれてありがとう、カオナシさん
ユメはそう言って、カオナシに微笑みかける。しかしカオナシは、過去に犯した己の罪故にそのような事を言われる資格は無いと思い、再び"礼はいらない"と言おうと口を開こうとする。
『…………俺は──』
「あ、また"礼は必要無い"とか言うのは無しだよ?もし受け取らないなら、受け取ってくれるまで言い続けるから!」
──しかし、そんなカオナシの考えも、ユメの一言によって遮られてしまった。
『……それは困るな、互いにやらないといけない事はまだ有るだろうし……仕方ない、そのお礼については大人しく受け取っておくとするよ』
苦笑いを浮かべた様な雰囲気を出すカオナシの様子を見たユメは、"うんうん"と頷き──ふと思い出したように、カオナシに確認する。
「……ねぇ、カオナシさんはパーティーに参加しないの?」
『……?参加しているが』
「えっと、そうじゃなくて……皆のところに混ざらないの?」
"皆のところに混ざらないのか"──そんな疑問を受け、カオナシは押黙る。
再三言うが、カオナシは自身の犯した罪──大切な後輩であるホシノに傷跡が残るほどの怪我を負わせてしまったことに負い目を感じており、一時的に共闘したとはいえ自身には混ざる資格はないと思っていた。
(……本当は断るべきなんだろうが、そうしたらユメに無理矢理にでも引っ張られて連れていかれそうだしな)
もしそれで左腕を掴まれようものなら、義手であることがバレかねないと判断したカオナシは、大人しく皆のいる方へと歩みを進める。
──決して、こちらに向けてほにゃっとした笑顔を向けながら、手招きするホシノにつられた訳では無いと、誰にでもなく内心で言い訳をしながら
………………
──それからしばらくして、用意したお菓子もなくなったため、パーティーはお開きとなる。
片付けも終えた彼女たちは、今後のことについて話し始める。
「──火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね~。これで一息つけそうです♪」
"もうすでに、祝勝会を開いて一息ついちゃってますけどね"と、ノノミは笑いながら言う。
「ん、そうだね。これでやっと重要な問題に集中できる」
「そうね、先生とカオナシさんのおかげで、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!──ありがとう、この恩は一生忘れないから!」
セリカの言葉にピクリと反応した先生は訊ねる──"借金返済って何?"と
「「「「「「………」」」」」」
「──えっ、あぁっ!?」
先生に問われた彼女たち、とくに実際に口に出してしまったセリカは大いに慌てる。何とか誤魔化そうとするが、流石にはっきりと口にしてしまったものをなかったことにするのは無理があるというもの。
──特に、生徒を思い行動する先生に対して、"借金返済"という一学生が背負うにはあまりにも重いものを誤魔化すのは不可能であった。
責任ある大人としての表情を向ける先生に対し、セリカの言葉も次第に尻すぼみになっていく。
「──いいんじゃない、セリカちゃん。別に隠すようなことじゃあるまいしさ」
そんなセリカの様子を見たホシノは言う──"隠さなくてもいいんじゃないか"と
「だ、だからといって、態々話すようなことでもないでしょ!」
「確かにそうかもしれないけど、別に罪を犯したってわけでもないし───それに、先生とカオナシは私たちを助けてくれた大人でしょ~?」
"もうすでにバレてるようなものだし、今更隠し通すのも無理だよ"と、ホシノは窘めるように言う。
「ホシノ先輩の言う通りだよ、セリカ。先生は信頼していいと思う……カオナシも…うん……」
『そこははっきりと口に出してほしいんだが?』
そんなカオナシの言葉を聞き、"ん、冗談。見た目は怪しいけど、悪い人じゃないのは分かってる"と、微妙なフォローをする。
正体を悟られないように今の格好をしているとはいえ、ことあるごとに怪しいと言われてしまうカオナシは───"もうちょっと見た目変えようかな"と考えるくらいには、割とショックを受けていた。
「確かに先生たちは信頼できるかもしれないけど……でも、結局のところは部外者じゃない!」
「……そうだね。セリカちゃんの言う通り、先生たちがパパッと解決してくれるような問題じゃないかもしれない」
「──でも、この問題に耳を傾けてくれるような大人は、先生やカオナシさんくらいしかいないと思うの」
ユメは、納得できない様子のセリカを宥めるようにそう言う。
「ユメ先輩の言う通り、悩みを打ち明けてみたら、何か解決策が見つかるかもよ~?……それとも、何かほかにいい方法があるのかなー、セリカちゃん?」
ホシノにそう言われても、セリカは未だ納得がいかない様子で俯き、両手でスカートを握りしめる。
セリカとて理解はしているのだ、自分たちだけで解決するのが難しい以上、先生やカオナシに話すのも一つの手ではあるのだと。……しかし
「──っでも!二人はさっき来たばかりじゃない!今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった!?」
「この学校の問題は、ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん!なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……!」
「──私は認めないッ!!」
───そう言葉を残し、セリカは教室を飛び出して行ってしまった。そんなセリカを追いかけるように、ノノミも教室を出ていく。
部室内に気まずい雰囲気が流れる中、そんな空気を断ち切るようにホシノが口を開く──が、その内容は決して明るいものではなく
「えーっと、簡単に説明すると……既に察してると思うけど、この学校には借金があるんだ~。……まぁ、ありふれた話なんだけどさ」
「でも問題はその金額で──
『………んっ?』
「……厳密には、7億1052万円です」
シャーレから来た二人は、その金額に驚愕し目を見開く──しかし、その内心は全く違っていた。
──先生は、学生が抱えるにはあまりにも多すぎる金額に
──カオナシは、知っている金額よりも2億以上減っていることに
(──えっ、んっ?……なんで減って……俺間違いなく黒服にまだ払わないようにって頼んで……おっ?)
──想定外
……ただその一言に尽きる。カオナシとしては、借金完済の目処が立ってから振込を行ってもらうつもりだった。その為にこれまで行動してきて*1、もう間もなく金が貯まりそうという所まで来ていたのだ。
そんな中での、減額発言──混乱するなと言うのも無理がある。
(──いや、まだアイツが振込んだと決まったわけじゃない。ホシノ達が頑張って返済していったって可能性も──)
そんな願望を抱くが、直後に打ち崩される事になる。
「実は……まだ私が二年生の頃は、まだ9億以上の借金があったの」
「きゅっ!?……凄いね、二年間で2億以上も返済したんだ」
(……そうだ、あいつらは凄いんだ。だから減った2億もきっと──)
「……ううん、返済したのは私達じゃないよ。まだ私と先輩しか居なかった時に、アビドスの関係者から匿名で振込があったらしいんだ〜」
"その事実に気付いたのは、振り込まれてから一年過ぎた後何だけどね〜"と、続けてホシノは言う。
その顔には笑みを浮かべているが──ユメもホシノも、薄らと影が差していた。
(──もうアイツが振り込んだので確定じゃんね。…………何してくれてんだあの野郎ッ!!)
カオナシが黒服に向け、内心憤りを抱いている間も話は続いていく。
「…そんな人が居たんだね。……誰なのか心当たりはあるの?」
「それは──」
先生の疑問に応えるように、シロコが口を開こうとするが──
「──それについては、まだちょっと話せないかな〜」
"確定しているわけじゃないものを嬉々と話す訳にもいかないからね〜"──そう言って、ホシノは遮った。
「……そっか」
先生は話して貰えなかったことに、少しの寂しさを覚えるが──"まだ会ったばかりだし、何か話せない事情でもあるんだろう"と一人納得し、いつか話して貰えるように信頼関係を築いて行こうと決意した。
(──どうする?いっそもう話してしまうか?)
(……いや、
──先生が決意を固めている一方で、カオナシはそう結論付けていた。
二人がそんな事を考えている最中も、何故そんなにも膨大な借金を抱えることになったのかという事情説明は続いていく。
──数十年前、これまでも砂嵐が発生していたアビドスにおいても、例年とは比べ物にならないほど大規模な砂嵐が発生したこと
──それにより、学区は砂に埋もれ……その後も年々砂が溜まり続けていったこと
──その自然災害を克服するためにも多額の資金が必要だったが……片田舎の学校に巨額の資金を融資してくれるような銀行は見つからず、悪徳金融業者に頼らざるを得なかったこと
「──しかしその後も、毎年のように大規模な砂嵐が発生して町は砂に埋もれていき……残ったのは、膨大な借金だけとなってしまいました」
「そう、だったんだ……」
先生は、一学生達が抱えるにはあまりにも重たすぎるその事実に、なんといえばいいのか分からなくなってしまっていた。
『……』
先生と違い、アビドスを蝕む砂嵐の原因、悪徳金融業者の両者の存在を知っているカオナシは──内心に渦巻く憎悪の感情が表に現れてこないように、必死に無表情を貫いていた。
「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するのが精一杯で……。銃弾や補給品については、何とか毎月送られてくる物資のおかげで、これまで持ち堪えられていたというのが現状なんです」
「セリカがあそこまで神経質になっているのは、これまで誰もまともにこの問題に向き合おうとして来なかったから。……話を聞いてくれたのは、先生とカオナシが初めて」
「……まぁ、そういうつまらない話だよ」
「先生たちのおかげでヘルメット団に関する問題も片付いたから、ようやく借金返済に全力投球できるようになったの」
「そうそう。……もし委員会の顧問になってくれるとしても、借金の事は気にしなくていいからね〜、話を聞いてくれただけでも有難いしさ」
「ん、先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑は──」
''掛けられない"──そう言おうとしたシロコの言葉を遮って先生は言う──"そんな水臭いこと言わないで"と
「──ここまで聞いて、"はいそうですか"なんて引き下がれる分けないでしょ?……私も対策委員会の一員として、最後まで協力させて欲しいな」
そう言って先生は、対策委員会の娘達に笑顔を見せる。そんな先生を見た彼女たちは、しばしの間驚きの表情を浮かべた後
──よろしくお願いします、先生!
と、破顔した。
………………
そんな先生たちの様子を見ながら、カオナシは考えていた──"自分はどうするべきか"と
(本来なら、直接関与するのはここまでにして、後はこれまで通り裏でサポートを続けるべきなんだろうが……)
そこまで考えて、彼は投射された仮面の下で唇を噛む──本当にそれでいいのか?と自問自答しながら
……しかし直ぐに結論は出る──"無理だ"、と。
数年越しにアビドスを訪れ、大切な幼馴染や後輩達と接した時間が心地よ過ぎて……何よりも、ここまで必死に頑張ってきた彼女らを目にして、今更裏方に回るなんて選択肢を取ることは、カオナシには──リンには出来なかった。
もし正体がバレれば、怒られるだろう──もしかしたらそれだけでは済まず、蔑まれるかもしれない。それでも……もしそうなったとしても、その時は甘んじて受け入れよう。……それが、ホシノの顔に癒えぬ傷を負わせてしまった自身の罪なのだから。
そう結論づけたカオナシは告げる──"俺も協力しよう"と
「……いいの?カオナシはあくまでも依頼を受けてシャーレの仕事を手伝ってるだけで、先生と違ってシャーレ所属ってわけじゃないんでしょ?」
『確かにそうだがな、さっき先生も言っていたように、ここまで聞いて引き下がれるわけが無いだろう。…それに──』
──他人事だなんて思えないしな
そう言うカオナシの雰囲気はとても優しげで──その姿にリンの姿を幻視してしまったホシノはつい、"リン先輩……?"と口に出してしまいそうになるのを、グッと我慢する。
「──そっか〜、ありがとねぇカオナシ」
『気にしなくていい、俺がそうしたいからやるだけだからな』
『……ただまぁ、便利屋としての仕事もあるから常にって訳にはいかないが、そこについては勘弁してくれ』
「そんな、謝らないで!二人が協力してくれるってだけですっごく嬉しいんだから!」
「良かった……『シャーレ』が力になってくれるなんて、これで私達も希望を持っていいんですよね?」
「ん、そうだね。希望が見えてくるかもしれない」
………………
希望を見いだした彼女たちが居る部室の扉の前に、セリカとノノミは立っていた。
「……」
「……あの、セリカちゃん」
「分かってます、二人が悪い人じゃないって事は……」
「──っでも、今は良くても、7億もの借金を前にしたらきっとそのうちいなくなるに決まってる……!」
「変に期待しちゃうくらいなら、いっその事──ッ」
「……例えどれだけ皆が認めても、私は認めないから」
──そう言い残し、セリカはノノミを置いて部室の前から離れて行ってしまったのであった。
という事で、遂にアビドスの借金が減っていた事に気づいたリンでした。
更には本格的にアビドスに関わることに、身バレまでもう秒読みですね。
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当キヴォトスの先生は ※あくまでも参考程度です。必ずしも結果通りになるとは限りません。また、オネエ、姉御の場合はイオリの足は舐めません
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