便利屋『カオナシ』豆知識
・ラーメン、及び甘味に目がない。その為、主な活動拠点はミレニアムにも関わらず、度々ゲヘナやトリニティなどの他学区でも散見されることがある。
──先生とカオナシが、アビドスへの協力を決めた翌日
「「……あ」」
セリカと先生は、アビドスの街中でばったりと出くわした。
先日、ヘルメット団の件についてもひと段落ついて明るい雰囲気になっていたときに、急に訪れた先生たちが協力を申し出てくる事実に納得がいかないからという理由で教室から飛び出してしまったセリカ。
彼女は、善意で申し出てくれた先生へあのような態度をとってしまったことに対する罪悪感や、"もしかしたら裏があるんじゃないか"という不信感など、色々な感情が複雑に絡み合った結果、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。
対して先生はと言うと、昨日のことについては然程気に留めた様子もなく──強いて言うなれば、"ぽっと出の大人が協力するなんて言っても信じづらいだろうし、今は少しずつ信じてもらえるように頑張ろう!"と考えているくらいだった。
そんな彼女たちの間には無言の空気が漂っていたが、そんな空気を崩すように
「おはよう、セリカちゃん」
と、先生は笑顔で挨拶をした。あまりにも自然に挨拶をしてくるものだから、元来真面目な生徒であるセリカもつい"おはようございます"と言ってしまい──数秒後、ハッとした表情を浮かべる。
「な、何が"おはよう"よ!馴れ馴れしくしないでくれる!?私、まだ先生たちのこと認めてないから!」
「──うん、知ってる。ぽっと出の大人が協力するって言っても、簡単に認めてもらえるだなんて思ってないよ。……だからセリカちゃんには、ちゃんと私のことを見極めたうえで判断してほしいな」
突き放そうと強く言っても、そんな風に大人な態度で──先生にそのつもりはないが──あしらわれてしまったセリカは、意地を張って先生を突き放そうとしている自分のことがみじめに思えてきてしまう。しかし、一度反発してしまった以上、引っ込みがきかなくなった彼女は、なおも突き放そうとして──
「セリカちゃんは、今から学校に行くの?」
──先生の言葉に遮られる。
「……別に、先生には関係ない──って、さっきから何でちゃん付けで呼んでるのよ!馴れ馴れしいわよ!」
「え~?昨日からちゃん付けで呼んでたよ?」
「──うっ、ぐぅ………はぁ、もうこの際ちゃん付けで呼ぶのはいいわよ……」
昨日は色々とありすぎて、ちゃん付けで呼ばれていることを気に留めていなかったセリカは、今更やめさせるのも無理かと諦め、ちゃん付けで呼ぶことについては妥協する。
「ありがとう、セリカちゃん。……それで、学校には行くの?行くなら一緒に行こうよ」
「……なんで私が先生と一緒に学校に行かなくちゃいけないのよ。それに、今日は自由登校日だし、別に学校に行かなくてもいいのよ」
「あれ、そうだったんだ…じゃあ、セリカちゃんは今からどこに行くの?」
「……それを先生に言う必要が──って、いい年した大人がそんなキラキラした目でこっち見ないで!虫唾が走るんだけど!」
セリカがどこに行くのか気になった先生は期待に満ちた視線を向けていたが、セリカに"虫唾が走る"と言われた先生はショックを受け、シナシナになってしまった。
「むしずがはしるって……わたしまだにじゅうだいだもん……」
そんな先生を見たセリカは、流石にちょっと言いすぎちゃったかなと反省する。
「……別に教えてもいいけど、絶対に、ぜったいに!ついてこないでよ!」
そう念を押したうえで、自分は今からバイトに行くのだと先生に教える。
「そっか、バイトに……偉いねぇ、セリカちゃんは。引き留めちゃってごめんね、いってらっしゃい」
セリカがバイトに向かうところだったと教えてもらった先生は、一言謝った後に手を振って、学校へと一人歩いて行った。そんな先生の後姿を見るセリカはぽつりと
「……なんなのよ、あの先生。……わけわかんない」
──そう一言残し、バイト先へと走っていった。
………………
「──大将、おはようございます!」
「おう、おはようセリカちゃん。今日も元気いっぱいだねえ」
先生と別れたセリカは、バイト先──柴関ラーメンに来ていた。
先生と話していた事で、出勤時間ギリギリとなってしまったセリカは急いで更衣室に向かおうとして──
「───んっ?」
──ある人物が視界の端に映り、立ち止まる。
ギギギ…と音が聞こえてきそうな様子で首を回し、その人物の方に顔を向けると、そこには──
「…………え?」
『……お?』
──ラーメンを啜るカオナシの姿があった。
『あぁ、セリカか。おはよう』
カオナシは、"よっ"とでも言わんばかりに手を挙げるが……自身の方を見てわなわなと震えるセリカを視界に捉え"どうしたんだろうか"と、首をかしげる。なお、その間もカオナシはラーメンを啜るのをやめない。
「なっ……」
『……?』*1
「なんっ……!」
『……なん?』*2
「なんであんたがここにいるのよ───ッ!!!」
紫関ラーメンの店内に、セリカの絶叫が響き渡った。*3
「セリカちゃん、あまり店内で騒がないようにな」
………………
──セリカの絶叫が響き渡る少し前
「いらっしゃい」
『……一名で』
「はいよ、カウンター席でいいかい?」
『問題ないです』
柴大将の案内に沿って、紫関ラーメンに訪れた客──カオナシは席に着く。
これまでは万が一にもバレてしまうことを恐れてくることができなかったが、黒服のやらかしで借金の返済が一部既に行われているという事実を知り、また対策委員会に本格的に協力することを決めたこともあって、久方ぶりに紫関ラーメンに訪れていた。
ラーメンと甘味をこよなく愛する彼にとって、特に一番大好きであった紫関ラーメンを食べられないという日々は、割と彼の精神にストレスを与えていた。どうせこれから先長いことアビドスにいることになるんだし、なら久しぶりに柴大将の作るラーメンを食べに行こうと………まぁ端的に言うなれば、彼は開き直っていた。
「注文は?」
『紫関ラーメンの……大盛、トッピングにもやし追加で』
「紫関ラーメン大盛、トッピングにもやし追加ね、今はお客さんもいないし、すぐできるからちょっと待っててな」
『……はい』
(まぁ、久しぶりだしな……自腹だし、大盛を頼んでもいいだろ)
それから少しして、カオナシの前にラーメンの入った器が差し出される、が──
『──多くないか?』
カオナシの目の前にあるラーメンは、大盛*4というよりかは特盛*5くらいの量があり、また、煮卵とチャーシューが通常よりも多くトッピングされていた。
「すまんな、手元がくるってちょっと量が増えちまったかもしれん。料金はそのままでいいし、もし食いきれなかったら『いや、出されたものはちゃんと食い切る』──そうかい」
そう一言残すと、大将は仕込みの続きを始める。その様を横目に見ながら、ラーメンを視界に収める。
とろりとした半熟の煮卵に、しっとりと味のしみ込んだチャーシュー。
熱々のラーメンの上にのせられてなおその瑞々しさを損なわぬ野菜に、パリッとした四角い海苔。
醤油の香り漂う黄金色に輝くスープの中で、己こそが主役であると存在感を放つ、見るだけでモチモチ感が伝わる中太のストレート麵。
久方ぶりの好物を目の前にし、辛抱堪らんと言わんばかりに割り箸を割り──手を合わせて"いただきます"と告げた後、ラーメンを啜る。
がっつくあまり、まともに冷まさずに一気に啜ってしまい、その熱さに悶えかけるが何とか耐えて噛み締め──
『──はぁ~、うっまぁ……』
つい思わずといった感じに、"美味い"という言葉があふれ出る。
(──懐かしいなぁ、この味も……頼んだ量よりも多くなるラーメンも)
実はカオナシがまだアビドスにいた頃も、今回のようなことが度々あった。人情味あふれる柴大将は、アビドスのために日々頑張る生徒たちに、"せめてここでは何も気にせずいっぱい食べてほしい"という思いで注文された内容よりも多い量のラーメンを提供していた。
そのことを思い出し懐かしい思い出に浸っていると、柴大将が仕込みの手を止めこちらに話しかけてきた。
「──久しぶりのうちのラーメンはどうだい、リンくん。美味いだろう?」
『えぇ、やっぱり大将のラーメンが一番美味いです』
「そうかい、そいつは嬉しいねぇ」
そんな会話をしながらも、カオナシは食べる手を止めない。次はチャーシューと一緒に食べようと箸を伸ばし──
『………………んっ?』
──その手を止める。
「ん?どうした?」
『……いま、なんて言いました?』
「?……"そうかい、そいつは嬉しいねぇ"って言ったが、それがどうしたんだい?」
『いや、もうちょっと前』
「もうちょっと前って言うと──"久しぶりのうちのラーメンはどうだい、リンくん。美味いだろう?"……か?」
『………』
柴大将の言葉を聞いたカオナシは、ゆっくりとその手に持つ箸を置き、両手で頭を抱え──
『──やっちまった』
──そう、小さくつぶやいた。
………………
「へぇ、シャーレの手伝いねぇ……俺でも噂には聞いたことあるな、そんなすごいところで働いてんのか」
『働いてるってよりかは、そこの先生からの依頼を受けて一時的に仕事を手伝ってるって感じだけどな』ズルズル
『……なぁ大将、いつから気付いてたんだ?』ズルズル
「いつからか……リンくんが店の扉を開けたときには気付いてたぞ」
『……マジで?俺だってわかる要素一つもなくないか?顔は仮面を投射して隠してるし、何ならヘイローだって偽装してんだけど』ズルズル
「んなもん雰囲気よ、俺が常連のことを間違えるわけないだろ?」
『えぇ、なにそれ……ユメにも久しぶりに会った直後にバレかけたんだけど、俺ってそんなにわかりやすい?』ズルズル
「まぁ、分かる人には分かるんじゃないか?……あとさっきから気になってたんだが、食べるか喋るかどっちかにしないか?」
『………ズルズル』
「いや食べ続けるんかい。……まぁ、それだけ夢中になってくれるのは料理人冥利に尽きるけどよ」
そう言って柴大将は、尚も手を止めずにラーメンを啜り続けるリンを見て苦笑いを浮かべる。久しぶりの好物を前にして、手を止めるという選択肢はリンにはなかった。*6
その後しばらくラーメンを食べ進め──一時、手を止める。
『なぁ、大将。……俺がリンだってことはアビドスの皆には黙っててくれないか?』
「……そいつはどうしてだ?」
『……まぁ、俺にも色々と事情があってな、今は知られるわけにはいかないんだよ。……ちゃんと時が来たら俺から伝えるから、その時までは秘密にしておいてくれ』
"頼む"──と、リンは柴大将に向かって頭を下げる。そんなリンを見た大将は、少し考えこむ様子を見せた後、"ちゃんと伝える気はあるんだな?"と確認する。
『あぁ、それについては約束する』
「……そうか、なら俺からは何も言うことはないな。…まぁそもそも、客の秘密を勝手にばらしたりするつもりなんざはなからなかったけどな!」
はっはっは!と笑いながら柴大将は告げる。その様をみたリンは、"やっぱ大将にはかなわねぇな"と苦笑いを浮かべていた。
………………
その後少ししてセリカが出勤してきて、先ほどの絶叫につながる。
『なんでって言われてもな……ラーメンが食べたくなったからとしか言いようがないな』
"ラーメン好きだし"──そう言いながらもラーメンを啜り続けるカオナシ
流石にそう言われては、先生のように来るなとも言いづらい……カオナシは純粋に客として訪れているわけだし、余計に。
「……そういうことなら仕方ないけど、食べたらすぐ帰ってよね」
『俺まだお替りするつもりなんだけど』
「……えっ、まだ食べるの?」
そう言ってセリカはカオナシの目の前にあるラーメンの器に目を向ける。すでにほとんど空になっているとはいえ、器のサイズ的に特盛くらいはあったはず……それなのにも関わらず"まだお替りする"というカオナシに、セリカはつい、ありえないものを見るかのような視線を向けてしまうが是非もなし。
「ほらセリカちゃん、そろそろお昼時でお客さんも増えてくるから、早く準備してきてな」
驚愕の余り、セリカの周りに宇宙が漂っていたが、大将の言葉で持ち直して更衣室へと改めて向かっていった。
それから数秒後、カオナシの携帯が音を立てる。カオナシは大将に一言断りを入れてから電話に出る。
『──もしもし、先生。なんかあったか?』
『……今何処に居るかって?柴関ラーメンだけど、それがどうした?』
『──ん、何?"皆で昼飯食べに行こうって話になって、どうせなら俺も誘おうと思ってた"って?……そうか、それはタイミングが──え、柴関ラーメンに行こうって話だからちょうど良かった?そこで待ってて?』
『……俺がもうすぐ食べ終わるかもって事は考慮されてないのか?……まぁ、どうせおかわりするつもりだったし別にいいけど』
『別に逃げも隠れもしねぇよ。……言っとくけど、投射した仮面で顔隠しながら食べてるから俺の顔は見れんぞ?……露骨に残念そうな声出すな、やっぱそういうつもりだったのか……』
『来るなら早く来いよ、あんまり遅いと帰るからな。……じゃあ、切るぞ』
そう言ってカオナシは先生との通話を終える。直後、着替えたセリカが更衣室から出てくる。
「お待たせ、大将!……って、カオナシは今電話してたの?」
『あぁ、ちょっとな』
「そう、今はまだ他のお客さんが来てないから良いけど、お客さんが来たら控えてよね」
『分かってる』
カオナシの返答を聞き、"なら良し!"と一言残して、セリカは仕事の準備に取り掛かりに行った。
(──あ、先生たちが来るって伝えといた方が良かったか?)
『……ま、別にいいか』
そう一人結論づけたカオナシは、後一口分残っていたラーメンを啜り、舌鼓を打った。
まさかの柴関ラーメン一話で終わらず。まだもうちょいかかりそうなので二話に分けます。
……いやぁ、まさか一番初めに身バレするのが柴大将になるだなんて、予想外だったなー(棒)
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当キヴォトスの先生は ※あくまでも参考程度です。必ずしも結果通りになるとは限りません。また、オネエ、姉御の場合はイオリの足は舐めません
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