小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

41 / 115




二組の便利屋

 ──カタカタヘルメット団が壊滅した後、カオナシがヘルメット団の拠点から拝借したジュースを片手に、二組の便利屋は話し込んでいた。

 

「えっと……久しぶりね、カオナシさん」

 

 社長の"陸八魔アル"の言葉に続き、挨拶をする社員たち。

 

 "久しぶり、カオナシ"、"カオナシ、おっひさー!"、"お、お久しぶりです、カオナシさん……"

 

 ──と、挨拶のひとつとっても、それぞれ違った個性のある彼女達の名は"便利屋68"、裏社会でもそれなりに名の知れた組織──と言うには四人しか居ないのだが──である。

 

 ゲヘナ出身である彼女達と、主な活動拠点がミレニアムであるカオナシがどういう経緯で知り合ったのかは、いずれ語るとしよう。

 

 彼女達の言葉に続き、カオナシもまた挨拶を返す。

 

『あぁ、久しぶり……って言っても、最後に会ってからまだ二週間も経ってないけどな』

 

 仮面の下で苦笑いを浮かべるカオナシを視界に捕える便利屋68──彼女たちは今、平然とした表情を浮かべているが……内心冷や汗をかいていた。

 

 ──"頼むから、あの質問だけはしないでくれ"と

 

 ……しかし、彼女達の願いも虚しく、カオナシは疑問をぶつける。

 

『……で?何でここに居るんだ?』

 

 ただ単に疑問に思う──そんな雰囲気で訊ねるカオナシであったが、"ビクリ"と大きく震える人物を視界に捉え……その視線がアル一人に向けられた。

 

「え、えぇっ!?そ、それは──」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──時は遡り、便利屋68が依頼を受けた場面へと移る。

 

「──えぇ、その依頼承りました。……それでは、失礼致します」

 

 通話を終えたアルは、今時珍しいダイヤル式の黒電話の受話器を戻し、"やりきったわ、流石私!"と言わんばかりの表情を見せる。

 

「……随分と機嫌がいいね、社長。結構大口の依頼でも入った?」

 

 "フフン!"という心の声が聞こえてきそうな表情を見せるアルに向けて、課長の"鬼方カヨコ"が訊ね──続くように室長の"浅黄ムツキ"が言葉を投げかける。

 

「最近は猫の捜索願いとか、ちょっとした内容の依頼ばっかりだったもんねー」

 

 ──"それで?どんな内容の依頼なの?"

 

 ニマリと笑うムツキにアルは視線を向け──続けてカヨコ、そして平社員の"伊草ハルカ"を見据える。全員がこちらに意識を集中させていることを確認したアルは、右手を広げながら前にバッと突き出し、堂々と宣言する。

 

 ──"アビドス高等学校を占拠するわよ!"と

 

「アビドスって言うと……今は確か、街が砂漠に呑まれて殆どの人が出ていった場所だったよね。……何でまたそん、な……とこ──」

 

「人が少ないなら寧ろやりやすいじゃん!ちゃちゃっと占拠しちゃって、貰った報酬でおいしい、もの……を?」

 

「「………」」

 

 便利屋68の頭脳担当である二人は、少しの間考え込むようなしぐさを見せた後……次第に眉間にしわが寄っていく。その様を見たアルは、"何かやらかしちゃったかしら…?"と不安を覚え始める。

 

「……ねぇ社長。依頼主は本当に"アビドス高等学校を占拠しろ"って言ってたの?」

 

「え、えぇ……それがどうしたの?相手は少人数らしいし、万が一を考えてもいくらか傭兵を雇えば問題なく対処できると思うのだけれど……」

 

 何がなんだかわからないと言いたげなアルの様子を見て、普段はアルを煽ててその気にさせ、から回る様を見て楽しむムツキですら、"あちゃー……"と言わんばかりに手で目元を覆う。

 

 そんな二人の態度を見たアルは、つい先程までの自信満々な表情は何処へやら……一転して、オロオロとし始める。

 

「な、何よ!?アビドスってそんなにやばいところなの!?大丈夫よ私たちなら!不安だって言うなら傭兵を沢山雇って人海戦術で──」

 

「……あのー、アル様?」

 

「──攻めれば…って、どうしたの?ハルカ」

 

 先程まで黙りを決め込んでいた──と言うより、生来の内気な性格のせいで話に割込む隙を逃していた──ハルカが、おずおずと手を挙げる。

 

「多分ムツキ室長やカヨコ課長が言いたいのは、標的が危険っていうよりも──以前、カオナシさんが"アビドスに関する依頼は絶対に受けるな"って、言ってたから、だと…思うんですけど……」

 

「………えっ?」

 

 自身の方を見ながら固まり──直後、わなわなと震え出したアルを視界に捉えたハルカは、"わ、私なんかがでしゃばってすいません!死にます!"と謝罪する。

 

「別に謝る必要はないよ、ハルカ。多分社長は──」

 

「なななな、なっ……!」

 

 謝り続けるハルカを宥めながら、カヨコは視線をずらし──口をパクパクとさせる様を見せるアルを視界に捉える。

 

 

「なんですってぇぇぇぇ!?!?」

 

 

 "忘れてただけだから"──そんなカヨコの呟きは、白目を向いたアルの絶叫に掻き消された。

 

 

 ◇

 

 

 ハルカから言われた言葉を理解した瞬間、アルは慌てふためき、"い、何時!?いつそんなこと言ってたのよ!?"と詰め寄る。

 ムツキは笑みを浮かべ──若干の苦笑いも混じっているが──"これはこれで面白くなってきたかも?"と内心愉悦を覚え始めていた。

 

「アルちゃん、忘れちゃったのー?私たちがカオナシと運命的な出会いを果たしたあの日!すっごく真面目な雰囲気で言ってたのに~?」

 

「えぇ!?そ、そんなこと言ってたかしら……!?」

 

 アルは必死に思い出そうとして、腕を組み首を傾げながら考えるが、一向に思い出すことが出来ない。必死に思い出そうとするアルを見かねたカヨコは、助け舟を出す。

 

「まぁ……あの時は社長、"あのカオナシさんに会えた!"ってはしゃいでたからね、仕方ないよ」

 

「うぐぅっ……!」

 

 ……訂正、追い撃ちであった。

 カヨコからの悪意なき追撃を受けたアルは、胸を押さえてうずくまる。

 

「だ、大丈夫ですかアル様!?心臓が痛いんですか?今すぐ病院に……!」

 

「……いえ、大丈夫よハルカ……」

 

 "心配してくれてありがとう"と一言礼を言った後、都合五回、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。そんなアルの表情を見て、意識を切り替えたことを認識したムツキは改めて"依頼はどうするのか"と訊ねる。

 

「──依頼は受けるわ」

 

「……本気、なんだね」

 

「えぇ、相手は裏社会でも有名な組織だもの、下手に断ることもできないわ。……それに、関わるなとは確かに言われたけれど、"なんで関わったらいけないのか"は聞いてない」

 

「……言われた言葉に"はいそうですか"なんて盲目的に従うのは、アウトローである私たちにはふさわしくないもの」

 

 

 ──"だから、この目でアビドスの生徒を見極めるわ"

 

 

 アルは、キリッとした覚悟を決めた表情を見せながら、宣言した。

 

(──決まったわ!今の私、最っ高にアウトローっぽくなかった!?)

 

(──なーんて、考えてるんだろうなー♪)

 

 内心でドヤ顔を決めるアルに向けて、"流石ですアル様!"と尊敬の眼差しを向けるハルカ。そんな彼女たちを横目に見ながらカヨコは、"まぁ、カオナシと鉢合わせるとは限らないし、バレなければいいか"と現実逃避していた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

(──って考えてたけど、まさかこんな直ぐに鉢合わせるなんて)

 

 慌てふためくアルがそばにいることで、逆に落ち着きを取り戻す。……カオナシと敵対することを避けたいカヨコは、アルが変なことを口走ってしまう前に対処しようと前にでる。

 

「あー、カオナシ……事情については私の方から説明する。……っていっても、そう大した理由はないんだけど」

 

 首に手を当てながら前に出るカヨコを視界に捉えたカオナシは、理由さえ聞ければ誰でもよかったためアルから視線を外し、カヨコの方を向く。

 

(……まだアビドスの生徒がどんな存在かわからない以上、馬鹿正直に答えたらカオナシの逆鱗に触れる可能性がある。かといって嘘を言ってバレたらまずい……なら──)

 

 

「実は、ヘルメット団を壊滅させてほしいっていう大口の依頼が来てね。……依頼を受けた後に、標的がアビドスにいるってことがわかったんだ」

 

 

──真実のみで切り抜ける

 

 

 カヨコの意図に気付いたムツキは、フォローするように言葉を紡ぐ。

 

「くふふっ、そうなんだー!"久しぶりの大口の依頼だー!"ってアルちゃんが張り切ってたんだけどー……張り切りすぎちゃって、前に言われたことを忘れちゃってたみたいでさー」

 

 ムツキは肩をすくめながら、"まぁ、そういうところもアルちゃんらしいけどねー♪"と笑みを浮かべており、ばらされたアルは"張り切ってなんかないわよ!"と叫び──ハルカはそんな二人に向けて、オロオロと視線を忙しなく動かしていた。

 

 急に慌ただしくなった彼女たちのことを、カオナシはしばしの間じっと見つめ──程なくして、ため息をついた。

 

『そういうことなら別にいい。……因みにだが、その依頼を出した奴について教えてもらうことは?』

 

「……いえ、それはたとえカオナシさんであってもできないわ。流石に依頼主の情報をべらべらと喋るわけにはいかないもの」

 

 泰然と言い放つアルを見据えたカオナシは、"それもそうだな、無理を言って悪かった"と謝罪の言葉を口にし、立ち上がる。

 

「あら?どうしたの、カオナシさん?」

 

『……用は済んだからな、そろそろ帰る』

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 立ち上がったカオナシは、近くに止めてあったバイクに乗り去っていった。

 

「……とりあえず、何とかなったね」

 

「えぇ、そうね。……まさかカオナシさんがアビドスにいるなんて思わなかったわ」

 

 カオナシの姿が完全に見えなくなるまで視線を向けていた彼女たちは、目視できない距離まで離れたことを確認し、皆一様に安堵の表情を浮かべる。

 

「アルちゃん、この後はどうするの?──このまま依頼を受け続けるなら、その内カオナシとぶつかる事になりそうだけど」

 

「……まぁ、必ずしもそうとは限らないけどね。単にアビドスの生徒が危険だから、私達を関わらせないようにしようとして言っただけの可能性もあるし」

 

(……いや、カオナシはヘルメット団に向けて、"アイツらに害を為す奴が許せない"って言ってたし、その線も薄いか……)

 

「わ、私はアル様のご命令に従います!何なら今すぐにでもアビドスに特攻してきましょうか!?」

 

 三者三様の言葉を向けられ──しかし全員の視線が、"アル(ちゃん・社長・様)の決定に従う"と物語っていた。三人からの信頼を受け、アルは宣言する。

 

 

 ──"依頼はそのまま続けるわ"と

 

 

「まだ当初の目的である、"アビドスの生徒を見極める"ことすら出来てないもの。こんなところで引き下がれるわけないでしょう」

 

 アルの決意が固いことを確認した彼女たちは、頷き覚悟を決める。その時──

 

 

 ……グゥ

 

 

 とお腹の音が響き、音の根源──アルへと皆が視線を向けた。

 

「……とりあえず、何か食べに行きましょうか」

 

 ……最後まで締まらない、便利屋68であった。




お気に入り登録者数1800突破!ありがとうございます!

当キヴォトスの先生は ※あくまでも参考程度です。必ずしも結果通りになるとは限りません。また、オネエ、姉御の場合はイオリの足は舐めません

  • オネエ
  • 姉御
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。