小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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ユメ先輩豆知識
・自分の命を粗末にするような言動をとる人物が近くにいると、例え初対面であっても止めに行く。
一度、自身が死にかけたこともあり、その言葉の重みはとても大きく……自罰的な考えを改めるきっかけになることもしばしばあるとか。



一杯のかけそばならぬ、一杯のラーメン②

 アルたちが席に着いてから少しして、注文した柴関ラーメンが運ばれてきた……のだが……

 

「ひぇっ、何これ!ラーメン超大盛じゃん!」

 

「ざっと10人前はあるね……」

 

「こ、これはオーダーミスなのでは……?こんなの食べるお金、ありませんよう……」

 

 彼女たちの言う通り、彼女たちの目の前に置かれたラーメンは並盛、どころか特盛と言われても無理があると思ってしまうほどに、山のように盛られていた。

 

 しかし、実際にラーメンを運んできたセリカはさもこれが普通であるかのように、大将に確認を取る。

 

「いやいや、これで合ってますって。580円の柴関ラーメン並!ですよね、大将?」

 

 セリカの言葉に同意するように、大将は腕を組みながら大きくうなずいた後、右手の親指を"グッ"と突き立てながら、いい笑顔で告げる。

 

「あぁ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」

 

「大将もああ言ってるんだから、遠慮しないで!」

 

 "それじゃ、ごゆっくりどうぞー!"──そう言ってセリカは、業務に戻って行った。そんな彼女の背中を便利屋68の彼女たちは目で追い……改めてラーメンへと視線を戻す。

 

「う、うわあ……」

 

「よくわかんないけど、ラッキー!いっただきまーす!」

 

「……ふふふ、流石にこれは想定外だったけど、厚意に甘えてありがたく頂かないとね」

 

「食べよっ!」

 

 取り皿にそれぞれラーメンをよそい、手を合わせて"いただきます"と食前の挨拶をした後にその手に持った箸でラーメンを掴み、"ズズズズズーッ"と麺を啜り──彼女たちはその美味しさに驚き目を見開く。

 

 "お、おいしいっ!"、"なかなかイケるじゃん!"と口々に感想を述べていると、隣の席から"スッ"と顔をのぞかせ、笑みを浮かべながらノノミが話しかけた。

 

「でしょう、でしょう?美味しいでしょう?」

 

「あれ……?さっきの水色の髪のお姉さんと一緒にいた……」

 

「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ!」

 

「えぇ、わかるわ。色んなところで色んなのを食べてきたけど、このレベルのラーメンはお目に掛かれないもの」

 

 ノノミの言葉にアルが同意するように頷く。すると、ノノミに続くようにアヤネが嬉しそうな表情を見せながら顔をのぞかせる。他にもシロコやホシノ、ユメも同じように顔をのぞかせており、気付けば席や学園の垣根を越えて語り合っていた。

 

「えへへ……私たち、ここの常連なんです。他の学校の皆さんに食べていただけるなんて、なんだか嬉しいです」

 

「初めてだとびっくりしちゃうよね。大将って優しいから、金額はそのままで、時々そんな風に普通よりも多い量を作ってくれたりするんだ~」

 

「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね」

 

「私、こういう光景を見たことがあります。一杯のラーメン、でしたっけ……?」

 

「うへ~、それを言うなら一杯のかけそばじゃなかったっけ?」

 

 ワイワイと年相応にはしゃぐ彼女たちを横目に、先ほどから無言を貫いていたカヨコは何かに気が付いた様子で、隣に座るムツキへとそっと耳打ちする。

 

「……ねぇムツキ」

「?なぁに、カヨコちゃん」

 

 カヨコは視線で、社長たちと話している彼女たちを見るようにとムツキに促す。

 

「──連中の制服……」

 

 向けた視線の先に映るのは──胸の位置に掲げられた"三角と太陽"が絵が画れた校章。

 それは紛れもなく、自分たち便利屋68が請け負った依頼の標的である、アビドス高等学校のものであった。

 

 アビドスに在籍する生徒がどのような存在であるかはカオナシに聞くことができていなかったため、自分たちの目で見極めようと決めていた彼女たちにとって、襲撃決行前に接触できたことは僥倖であった……の、だが……

 

「うふふふっ!いいわ、こんなところで気の合う人たちに出会えるなんて。これは想定外だけど、こういう予期できない出来事こそ人生の醍醐味なんじゃないかしら」

 

「アルちゃん、気付いてないっぽいねぇ……」

「……言うべき?」

「うーん……別に言わなくていいんじゃない?そっちの方が面白そうだし♪」

 

 "真実を知ったアルちゃんはどんな反応をするのかなー"と、のちに起こり得るであろう未来を楽しみにしながらラーメンを啜るムツキに呆れるカヨコ。

 

 ……しかし彼女もまた、"今教えたところでどうにもならないか"と判断し、せっかくの美味しいラーメンが伸びてしまう前に食べきってしまおうと箸を器へと伸ばした。

 

 

 ◇

 

 

 カヨコはラーメンを啜りつつ、アビドスの生徒たちへとちらりと視線を向けながら、思考を巡らせる。

 

(皆には昨日、カオナシがアビドスに関わらないようにって言ってたのは、生徒が危険だからそう言っていたんじゃないかって伝えてたけど──)

 

 ……自らの社長と談笑するその姿からは、どうも危険な感じは見受けられない。……あくまでも敵対しなければの話だが。

 

(……いくらヘルメット団が雑魚の集まりだったからとはいえ、10人にも満たない人数で学校を守り続けただけのことはある。全員それなりの実力者っぽいし……特にあの()()()()()()()()()()()、アレはかなりやばそう。……だけど、少なくともこっちから仕掛けなければ問題はなさそう…なん、だけど……)

 

 このまま依頼を遂行するということになれば、彼女たちと戦うことになるのは必然。……負けるつもりはないが、例えアルが雇った傭兵を最大限活用したとしても苦戦は必至。

 

(……いや、戦うことになったら多分、相手にしなくちゃいけないのは彼女たちだけじゃない)

 

 カヨコが思い浮かべるのは二人の人物。まず一人は──

 

(……噂には聞いたことがある。つい最近連邦生徒会のシャーレに着任した()()っていう人はかなりの戦術指揮能力を持ってて、即席のチームであの"災厄の狐"を退け、シャーレを奪還したとか。……その人物の容姿は確か、()()()()()()()

 

 先ほどから隣の席に座って社長とアビドスの生徒が談笑する様を、微笑まし気に見ている金髪碧眼の女性へと視線を向ける。

 

(……多分あの人がそうなんだろうね。だとすると、ただでさえ厄介なアビドスの生徒に、"災厄の狐"を退ける指揮能力が──っ)

 

 カヨコが思考を巡らせていると、その視線に気が付いたのか先生がこちらを見やり、ニコリと笑いながら小さく手を振ってきた。先生の様子に気が付いたムツキが手を振り返してくれたことで、咄嗟に自身も軽くお辞儀をすることができたため、変に怪しまれるといったことはないだろうと思いたい。

 

(はぁー……視線を向けたのは一瞬だったのに、いったいどんな観察眼、もしくは勘を持ってるっていうんだか……)

 

 呆れとともに、ため息をつきたくなる気持ちを抑えながら、もう一人の戦わなくてはならないであろう人物へと思考を移す。

 

 

 

(──昨日カオナシは、"アイツらに害を為す奴が許せない"って言ってた。……ってなると、直接か、それとも昨日のヘルメット団みたいに消耗したところを襲撃してくるかはわからないけど……少なくともアビドス側で私たちの前に立ちふさがってくることはほぼ確定)

 

 そこまで考えて、カヨコは今度こそため息をつきたくなる。

 

(先生はまだいい……というより、実力がまだはっきりとわからないから考えたって仕方ない。……だけどカオナシまで相手取らないといけないってなったら、こっちの勝ち目はほとんどないに等しい)

 

 ……カヨコがここまでカオナシのことを警戒する理由、それは──

 

(──あの風紀委員長と()()()()()()()()()()()()()ような人に、噂の先生の指揮やかなりの実力者ぞろいなアビドスの生徒も加わった状態で、どうやって勝てっていうのさ……)

 

「はぁー……」

 

 "本当に、厄介なことになった……"と、カヨコは翌日決行となったアビドス襲撃の依頼に対する諦念感に、ついにため息を吐いてしまった。

 

「どうしたのカヨコちゃん、ため息なんかついちゃって」

 

「……いや、何でもないよ」

 

 ムツキから心配の言葉を投げかけられるが、カヨコはそう言って誤魔化し──現実逃避するように、ラーメンを無心で啜り続けた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ラーメンを食べ終えた後、少し談笑したのち、少女たちは別れの挨拶を行っていた。

 

「それじゃあ、気を付けてね!」

 

「お仕事、うまく行きますように!」

 

「あははっ!了解!あなたたちも学校の復興、頑張ってね!私も応援してるから!」

 

 "じゃあね!"──そう言って、便利屋68と対策委員会の少女たちはそれぞれの帰路へとつく。

 

 

「ふぅ……いい人たちだったわね」

 

 結局、最後までアルは先ほどまで話していた生徒たちの正体に気付くことはなかった。流石にそろそろ伝えるべきだろうと、カヨコとムツキは互いに目配せをし、ムツキから伝えることにする。

 

「ねぇ、アルちゃん。さっきまで話してた子たちだけどさ」

 

「ん?彼女たちがどうしたの、ムツキ?」

 

 ムツキは意味深に一呼吸置いた後、"ニマリ"と悪戯っぽく笑みを浮かべながら、"あの子たち、アビドスの生徒だよ"とネタ晴らしをした。

 

 ムツキの言葉が理解できなかったのか、アルは"ポカン"とした表情を浮かべ、"あびどすの、せいと……?"と呟く。その後も何度か繰り返し呟き──

 

 

 

 

「なななな、なっ、何ですってーーーーー!!!???」

 

 

 ──ようやく理解が追い付いた彼女は、わなわなと震えながら白目を剥いて絶叫した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「なななな、なっ、何ですってーーーーー!!!???」

 

『ん?なんか聞き覚えのある声が聞こえたような……』

 

 アルの絶叫が響き渡るのと同時刻──カオナシは、セリカを騙した輩を絞め終えて柴関ラーメンへと歩みを進めていた。その際にどこか聞き覚えのある声が聞こえてきたため、そちらに意識を少し割いていたが……"気のせいか"と意識を切り替え、柴関ラーメンへと向かっていく。

 

 

 

 ──ガタッ、ガララッ

 

「いらっしゃいませ!……って、カオナシさんか。随分と遅かったわね?」

 

『……まぁ、野暮用でな。……先生たちは?』

 

「……?先生たちならもう帰ったわよ?」

 

『…………そうか』

 

 "……柴関ラーメン大盛一つ"──注文するカオナシは心なしか沈んだ様子であったと、のちにセリカは語っていた。




>風紀委員長と正面切って戦っても負けない ※勝てるとは言っていない



オリ主なのに、前話は名前しか出ておらず、今話もちょろっとしか出てないという……
早くユメホシに焦点が当たる部分まで話を進めたい。

次回は便利屋68の決断についてのお話、ユメやカオナシがいることで、どう変わるのか、それとも変わらないのか……ぜひお楽しみに

当キヴォトスの先生は ※あくまでも参考程度です。必ずしも結果通りになるとは限りません。また、オネエ、姉御の場合はイオリの足は舐めません

  • オネエ
  • 姉御
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