──アルから"伝えたいことがある"という電話を受け取ったカオナシは、重要な話ということであれば万が一盗聴されてはまずいだろうと、便利屋68のオフィスへと訪れていた。
カオナシはオフィスに訪れて早々、何かの機械を懐から取り出して操作し始める。
「……カオナシ、何をしているの?」
『ん?盗聴器が隠されてないか確認してるだけだが……うん、無さそうだ』
カオナシは"念の為ジャミング装置も起動しておくか"と、また別の装置を操作する。
『──よし、準備出来た。……それじゃあ改めて、伝えたいことについて聞こうか』
◇◇◇◇◇
『──なるほど?だから昨日はあんなところにいたのか』
便利屋68から話を聞いたカオナシは、得心がいったかのように頷くと黙り込んでしまった。
いくら依頼を投げ出すことにしたとはいえ……たとえ知らなかったとはいえ、元は約束を破り、あまつさえアビドスを襲撃しようとしていた事を知ったカオナシは、もしかしたら怒っているんじゃないか……とアルは内心ビクビクと怯えていた。
……しかし、大切な便利屋68の仲間であるハルカが悩みながらも己の胸の内をさらけ出してくれた──その勇気を目にしたアルもまた、便利屋68の社長としてここで引く訳には行かないと、凛とした表情でカオナシを見据える。
『色々と言いたいことはあるが……先ずは』
──ありがとう
……しかし、そんな予想とは違い、自分たちへと礼を言いながら頭を下げるカオナシを視界に捉えた便利屋68の少女たちは"ポカン"とした表情を浮かべていた。未だ状況を飲み込めていない彼女たちを置いて、カオナシは口を開く。
『俺たちみたいなのにとって、信用・信頼は依頼を受ける上で何よりも大事な事だ。……依頼の内容を反故にするって言うのは、今後の仕事にも多大な影響を及ぼしかねん』
『それなのに、アイツらを傷付けたくないって思って、俺に教えてくれたことが嬉しかったんだ……本当に、ありがとう』
カオナシは、改めて礼をすると共に頭を下げる。
流石にいたたまれなくなったアルからの、"顔を上げてちょうだい"という言葉を聞き、カオナシはゆっくりと顔を上げる。
「カオナシさんも知っているとは思うのだけれど……私達は常に、依頼主に縛られないように成功報酬しか受け取らないようにしているの。今回の依頼は私たちの信条に反したからこうしただけよ。……だから、そこまでお礼を言われるとかえって申し訳なくなってしまうわ」
◇◇◇◇◇
『そういえば、前にヘルメット団の基地で"大口の依頼で来た"って言ってたよな。……アビドス襲撃の依頼もそいつからか?』
「えぇ、そうよ」
「……補足しておくと、ヘルメット団の襲撃は、私たちの実力を試すためのテストみたいなものだね」
カオナシの質問に対してアルが頷き、カヨコが補足を行う。……少し考えこんだ後、カオナシは"依頼主について教えてくれないか"と、以前は教えてもらうことができなかったことについて改めて訊ねる。
「えぇ、構わないわ。……私たちにアビドス襲撃の依頼主、それは──」
──カイザーコーポレーションよ
アルから告げられた──これまでヘルメット団を嗾け、便利屋68へと襲撃依頼を出したアビドス襲撃犯の黒幕の正体を知ったカオナシは──
『……』
ただただ無言で顔の前で組んだ手に額をのせ、俯いていた。……俯くだけであった。
てっきり激昂でもするものだと思っていた彼女たちは、不気味なまでに静かに、何も言わないカオナシを不審に思い声をかける。
「カ、カオナシさん?大丈『ハァーーー………』──夫……?」
"大丈夫"──と、アルが心配の言葉を投げかけようとした時、同時にカオナシは長く、深くため息を吐く。……自身の中に溜め込まれたナニカを吐き出すように。
『……すまん、少し自分の中で整理するのに時間がかかった』
"さて、どうしたものか……"と呟くカオナシは、冷静さを保っているように見えたが──その声も、握りしめた手も、何かを堪えるように震えていた。
「ねぇ、カオナシ」
『……なんだ』
カヨコはカオナシに問いかける。……否、それは最早問いかけではなかった。
初めて会った時から、今日に至るまで──何かとアビドスを気に掛けるような言動を取っていたカオナシに向けて、彼女は半ば確信をもって告げる。
──カオナシって、アビドスの関係者だよね
『………』
カヨコの言葉を受け、カオナシは沈黙する。……普段、違うのであれば即座に否定するカオナシが黙り込んだことで、彼女たちはカヨコの言うことが真実であると悟る。
「えっ?……そ、そうなんですか?」
(えぇっ!?そうなの!?)
「あ、やっぱり?……もちろんアルちゃんも気づいてたよねぇ♪」
「え、えぇ!もちろん気付いてたに決まってるじゃない!」
((あ、この反応は絶対に気付いてなかったやつだね))
困惑、驚愕、納得──色々な感情が混在し、露わとなっている中でもなお、カオナシは沈黙を貫いていた。
「……なんでそう思ったか、理由を一つ一つ説明してあげようか?」
『……いや、みなまで言わなくt「まず一つ目」──おい待て今俺が言う流れだっただろうが』
"ふふっ、冗談だよ"──と、からかい混じりに笑みを浮かべるカヨコに対し、呆れの感情を抱きながらカオナシは再度溜息を吐くと、他言無用で頼むと前置きをしてから、自身の正体を伝える。
『はぁ……カヨコの言う通り、俺はアビドスの関係者──ユメの幼馴染で、ホシノの先輩だった……元アビドスの生徒だよ』
◇◇◇◇◇
カオナシの正体を聞いた後は、改めて依頼、及び依頼主についてどう対応していくかという議題へと移り変わる。……アルとしては、カイザーからの依頼は断るつもりであったが、カオナシの思惑はそうではなかった。
『まず前提として──アビドス襲撃の依頼は継続して欲しい』
「えぇ、りょうか──はい?」
……てっきり、カオナシからも"依頼を断って欲しい"と言われると思っていた。しかし、彼の口からこぼれた言葉はその真逆である"依頼の継続"。
初めは何を言っているのか理解出来なかったアルは──告げられた言葉の意味を理解した瞬間、怒りの表情を露わにしてカオナシの胸ぐらを掴み、引き寄せた。
「──私の聞き間違いかしら?……今、"依頼を継続して欲しい"って聞こえたような気がするのだけれど」
『いや、聞き間違いじゃない……今からしっかりと理由を話す。その後は煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わんから、先ずは話を聞いてくれ』
「……ふざけた理由だったら承知しないから」
アルは手を放して席に着く。カオナシもまた、乱れた服装を正しながら席につき、姿勢を正す。
『まず先に言っておく───今から話すことは、すべて便利屋『カオナシ』から便利屋68への依頼と考えてくれ。……可能であれば受けてほしいが、危険が及ぶようなものが多いからな……無理強いはしない』
「……私たちは金さえもらえればどんな依頼でも請け負う何でも屋よ。危険かどうかなんて気にしなくていいわ」
"あの子たちに協力したいって気持ちは、私たちも同じだもの"と、笑顔で告げるアルに続けて他の三人もまた頷くのを確認したカオナシは、ハルカが用意してくれたお茶を一口飲んでから一つづつ語り始める。
◇一つ目、依頼の継続理由について◇
『これについては至極単純──お前たちが断ったところで、どうせ別の奴らが依頼を請け負うだけだから。だったら、このまま継続してもらった方が方針を練りやすい』
「……それに、"協力者である私たちが依頼を続けることで、相手から自然と情報を得られるから"……でしょ?」
『そうだ。……
──"流石だな、カヨコ"
──"……別に、このくらい普通でしょ"
カオナシとカヨコは互いを見据えながら、"フッ"と静かに笑みを浮かべる。
(……一発目から思ってたよりもまともな理由が出てきたわね。……これじゃ私、早とちりしてカオナシさんに突っかかっただけになるじゃない!)
"それに、なんか二人ともすっごくハードボイルドっぽい事してるし!"と、内心羨ましがるアルを置いて、話は続いていく。
◇二つ目、アビドスの生徒のレベルアップ◇
「レベルアップってどういうこと?」
『……アビドスを付け狙うカイザーコーポレーションには、系列企業として"カイザーPMC"っつう民間軍事会社がある。ホシノ達は個々の戦闘力も十分に高いし、長いことヘルメット団と戦ってきたことで小数で多数を相手取るのには慣れてるかもしれないが……統率の取られた軍隊とド三流の暴力組織じゃ天と地ほどの差がある』
『だから少しでも、実力者との戦闘経験を積んでもらおうと思ってな。……キヴォトス内でも上澄みの便利屋68が相手なら、いい経験になるだろ?』
「ふーん?つまりカオナシは私たちに踏み台になれっていうんだ?」
"流石にその言い方は悪意がないか?"と、カオナシは仮面の下で苦笑いを浮かべる。──咄嗟に否定しないのは、ムツキの言葉は自身をからかうために向けられた言葉だと気付いていたから。
特に慌てた様子のないカオナシに対し、ムツキは"ちぇっ、つまんないのー……"と膨れる。
「……まぁ、アルちゃんが雇っちゃった傭兵が無駄にならずに済むし、ちょうどいっか!」
◇三つ目、便利屋68のレベルアップ◇
「えっと……私たちも、ですか?」
『あぁ。……実を言うとな、カイザーどもは所詮
「……んん?どういうこと?カイザーが黒幕なのよね?」
アルは、先ほどまでカイザーに対する作戦を練っていたにも拘らず、前哨戦だと言ってのけるカオナシに対して疑問を投げかける。他の面々も疑問を抱いた様子でカオナシのことを見据えており、そんな彼女たちに向けて彼は説明を行う。
『確かにカイザーは黒幕だ。……だけど、ラスボスは他にいる』
──そいつをどうにかしないと……たとえ借金を返せても、やがてアビドスは砂に埋もれて滅びることになる
『いや、場合によってはキヴォトスそのものが砂に呑まれるかもしれん』
唐突に告げられた"キヴォトスが滅びる"という発言を耳にしたアルたちは、突如として肥大化したスケールに困惑する。
"いったい何の冗談か"と言いたくなるが……ふざけた様子が微塵もなく、至極真面目な様子で告げるカオナシを見て、真実なのだと悟る。
『これが、さっき前置いた"危険が及ぶ"依頼につながる。……そいつを撃破するためには、少しでも多くの実力者が必要なんだ……可能であれば協力してほしいが、さっき言ったように無理強いは「カオナシさん」──』
「全部本当のことなのよね?……なら、教えてちょうだい」
強い意志を持って、アルはカオナシを見据える。ムツキやカヨコ、ハルカはいいのかと視線を移すが──三人の目を見たカオナシは、無粋だったなと笑みを浮かべた。
『ありがとう、みんな。それじゃあ改めて伝えようか──キヴォトスに訪れる厄災について』
◇◇◇◇◇
──『音にならない聖なる十の言葉』と己を称する新たな神、
──神名十文字の一角、アビドスに巣食う砂漠化現象の元凶、
──そして
『あの
◇◇◇◇◇
語り終えたカオナシはお茶を飲んで一息ついた後、改めて"協力してくれるか?"と訊ねる。彼女たちの答えは──当然Yesであった。
「──えぇ、もちろんよ!神殺しなんて、最っ高にアウトローじゃない!」
「くふふっ♪いいねぇ、面白くなってきたじゃん!」
「笑い事じゃないけどね……でもまぁ、やるからには私も協力するよ」
「わ、私も……皆さんの生活を脅かすような奴は、私が全部壊します……!」
アビドスを守るために協力してくれる彼女たちに向け、カオナシは机に叩きつけんばかりに頭を下げて、改めて礼を言う。
「別に気にしなくていいわ。カイザーの依頼よりも、カオナシさんの依頼の方が受けたいって思っただけだもの。……あ、そう言えば一つ気になったことがあるのだけれど」
「どうして彼女たちと戦うのが私たちのレベルアップにつながるのかしら?聞いた限りだと、かなり強いみたいではあるけど……一応こっちには傭兵もいるわけじゃない?」
人数差もある中で自分たちのレベルアップに繋がるということは、それだけアビドスの生徒は強いのか──そんな問いに対して、カオナシは
『あぁ、そこについては心配しなくていいぞ。……といっても、俺もアビドスに戻ってきたのは最近だし、正確な実力が把握できてるわけじゃないが』
──少なくともホシノは、ゲヘナで言う
と、なんてことのないように告げる。ゲヘナ出身である彼女たちにとって、
「なななな、なっ、何ですってーーーーー!!!???」
──アルが白目を剥いて絶叫するのは、必然であった。
◇◇◇◇◇
大企業にも、厄災にも毅然と立ち向かおうとするのにも関わらず、一介の風紀委員長にビビり散らかすアルのことを見てカオナシは笑っていた。
(まぁ、ヒナって強いしなぁ。……特にアルたちにとっては身近な脅威なわけだし、そんな反応になるのも仕方ないか)
『そうそう、依頼料の支払いは──』
『「成功報酬のみで」』
『──だろ?わかってる』
『ただまぁ、情報料としては少ないかもしれないが、後で高級すき焼きセットと焼肉セット送っとくわ。……傭兵雇って金欠だろ?』
『じゃあ、そろそろ俺は帰るわ。明日はよろしく頼む』
自身に向けて手を振るアルたちへと手を振り返しながら、便利屋68のオフィスを出て、カオナシは帰路へとつく。
『──にしても、アビドス襲撃犯の黒幕もカイザーだったとはなぁ……』
──
『ゴキブリみてぇに色んなとこから出て来やがって、鬱陶しいにも程があるだろ。……そういえば、ユメにクソみたいな噂を教えて危険にさらしたのも、カイザーだったな』
アルたちの前では表に出さないようにと抑え込んでいたカオナシは今、不気味なまでに抑揚のない声色で呟く。
彼が抱いていた感情は──……
アルちゃん達には、依頼に従うふりをしつつ情報、及び証拠を集めてもらうことに。いわばスパイみたいなものですかね。
やったねアルちゃん!アウトローっぽいことができるよ!
次回はようやくユメホシを出せる!
当キヴォトスの先生は ※あくまでも参考程度です。必ずしも結果通りになるとは限りません。また、オネエ、姉御の場合はイオリの足は舐めません
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男
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女
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オネエ
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姉御