小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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 前話の何かが落ちた音について、義手だったり、銃だったりと色々と考察をしていただけたようで嬉しかったです。

 一話でまとめず、あそこで区切って正解でしたね。

 ………それでは、本編へどうぞ


対策委員会 VS 便利屋68③

 ──時は遡り、場面はホシノとハルカの戦場へと移る。

 

 

「カハッ──!!」

 

「うへぇ……結構頑丈だねぇ。おじさんでもヒヤッとする時もあるくらいには火力も高いけど……」

 

「──でも、その程度じゃおじさんには勝てないよ」

 

 

 似通った戦闘スタイルの者同士が戦う場合、外的要因、基礎スペック、経験や技術によって戦況は左右される。

 

 傭兵はシロコやセリカ達が近付けないように、ムツキの指示を受け戦闘中の為、外的要因には期待出来ない。……外的要因という意味では寧ろ、砂に塗れた足場はホシノに対して優位に働く、彼女のホームグラウンドであった。

 

 基礎スペックについては言わずもがな──キヴォトス最高の神秘を持つホシノはその神秘総量に付随して、火力・耐久力共に誇張表現なしに最強格のスペックを誇る。

 

 経験や技術は、ハルカも便利屋としてそれなりに修羅場は潜っているが……まだ一年生の彼女と三年生のホシノでは、文字通り年季が違う。

 

 

 故に二人の戦いは……いや、最早戦いとは言えないそれは、正しく蹂躙という言葉が相応しい様相を呈していた。

 

 

 ハルカとて弱いわけではない。現に今も、ホシノに蹴飛ばされてもすぐに立ち上がり、銃を構え吶喊しながら駆けて行く。

 

 自身へと諦めることなく向かってくるハルカに対し、ホシノは──

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あぁもう、鬱陶しいなぁッ!!」

 

 

 ──苛立ちを露にした。

 

 柴関ラーメンで出会った彼女たちに対して、ホシノは少なからず仲良くなれると、仲良くなれたと思っていた。……そんな相手が、自身の居場所を………先輩たちとの思い出が詰まった場所を奪おうとしている相手だったと知ったホシノは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そのくせして、どれだけ銃撃が直撃しようと、蹴られ、投げ飛ばされようと立ち上がって向かってくるその姿……アビドスを奪おうとする盗人のくせして、"絶対に諦めない"と言わんばかりのその目つきに、ホシノが激昂するのも無理はなかった。

 

 ……あの日から、戦場ではほとんどずっと隣に立っていたユメがそばにいないというのも、ホシノの精神状態を不安定にさせ、苛立ちを加速させる要因となっていた。

 

 

 終始圧倒している筈のホシノの方が焦りを抱いているというその不可解な状況に、ハルカは疑念を抱く。

 

 

「黒服といい、ヘルメット団といい、お前たちといい……!」

 

 ──()からもう、何も奪おうとしないで下さいよッ!

 

 

 ……気付けば、先程までのこちらを圧倒する威圧感は霧散していた。口調も変化し、表情を悲痛に歪め、眦に涙を溜める彼女はまるで……何か大切なモノを無くしてしまった、子供のようであった。

 

 そんなホシノを視界に収めたハルカは……駆け出す足を止め、銃口を下げながら、ゆっくりと口を開く。

 

 

「わ、私は……いえ、私達は──」

 

 ──アビドスを奪おうだなんて、考えていません。

 

 

「………は?何を、訳の分からないことを……」

 

「し、信じて下さいなんて言える状況じゃない事は分かっています」

 

 ……本当は、話すべきでは無い。元依頼主を騙す為には、本気のアビドスの生徒達と戦わなければならないということも理解していた。実際に、カオナシからもせめて戦闘が終わり、傭兵が帰宅するまでは口外しないようにと口止めもされていた。

 

 それでもなお──ハルカは自分の意思で、ホシノには……ホシノだけには伝えなくてはならないと判断した。

 

「理由は、詳しくお教えする事は出来ませんが……それでも、わ、私たちはっ!」

 

 喋りなれていないのか、話すことが苦手なのか……時折言葉に詰まりながらも話し続けるハルカに対して、ホシノは──

 

 

「もう、それ以上口を開かないでくれるかなぁ……!」

 

 

 ──と、怒りの感情を露にしながら銃口を突き付ける。

 

 ハルカの目を見れば理解できる……その意向がハルカだけなのか、彼女の所属する便利屋68のものなのか、それとも依頼主のものなのかはわからないがきっと、嘘はついていないのだろうと。

 

 しかし、だからこそ……自分たちは敵対するフリをしているだけだとでも言いたげなハルカの言動は───あの日の先輩を想起させるその言動は、容易く、ホシノの逆鱗に触れた。

 

 

「ハルカちゃん、だっけ?……アビドスを奪う気はないだとかさ、正直そんなことはどうでもいいんだよ。君がどれだけ何を言おうと、嘘かどうかなんてこの場で判断できるものでもないしさ?……全部、全部──」

 

 "お前たちをぶっ潰して、後で吐かせればいいだけなんだから"──その言葉と共に、()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()

 

 突如として目の前から消え去ったことに対し、ハルカは驚愕の余り目を見開き──直後、強い衝撃が彼女の背を襲い、たたらを踏まされる。

 

「あぐっ!?」

 

 振り返れば、そこには自身に向けてショットガンを構えるホシノの姿。硝煙が上がっていることから、銃撃を受けたのだとわかるが………それ以上に、これまでのどの瞳とも違う──冷たく鋭い目をしていたことに意識を奪われる。

 

 

「──ダメじゃん、ボーっとしてちゃ」

 

「ッ!?」

 

 

 直後、三発の銃弾が撃ち込まれる。咄嗟に銃を盾にしダメージを抑えようとするが……ショットガンによる拡散する銃撃は、その程度の防御では到底防ぎきることなどできない。

 

 先ほどよりも威力の上がった攻撃に顔をしかめるハルカに対し、ホシノはハルカが反撃のために構えた銃ごと腕を盾で弾き上げ、銃口を()()()へと突き付ける。

 

 

「残り四発──流石にこれは、受け切れないでしょ?」

 

 

 回避も反撃も間に合わない。既にホシノは引き金に指をかけており、ハルカに向けて銃撃が放たれるまで残り一秒にも満たない。

 

 ……それでもなお、ハルカは少しでも継戦時間を増やせるように、受けるダメージを軽減するために直撃を避けようと──身体を()に傾けた。

 

 そしてついに、強力無比な銃撃がハルカを──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───っぁ」

 

 襲うことは、なかった。……それどころか、ホシノは銃を手放し──彼女の足元に落ちたそれが、"ガシャン"と辺りに音を響かせた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ユメとカヨコが二人揃って視線を音の発生源へとずらすと、そこには───銃を手放し、立ち尽くすホシノの姿が目に映る。

 

(──まさか、ハルカが小鳥遊ホシノを……!)

 

 足止めどころか、見事ジャイアントキリングを果たしたハルカに感心するカヨコであったが……その関心も、どこか様子のおかしい二人を見て疑念へと変わる。

 

 

 ──距離を取ったハルカは、何故か困惑した表情を浮かべ……

 

 ──対するホシノは、見る見るうちにその端正な顔を青白く染め上げ、ガタガタと震え始める。

 

 

「いったい、なにが……」

 

「まさか……!ホシノちゃんッ!」

 

 その尋常ならざる様子に……気付けば辺りの銃声はピタリと止み、対策委員会も、便利屋68も傭兵も先生も──そして、カオナシも。皆例外なくホシノとハルカの方を見ていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──カオナシは屋上に陣取り全ての戦場を見渡していたが為に……ホシノの様子がおかしくなるその決定的な瞬間を、見逃してはいなかった。

 

 故に、気付いた……気付いてしまった。

 

(ハルカの心臓部に突き付けた銃口が……左肩に狙いがズレた直後に、ホシノは銃を手放した)

 

「まさか、あの日の事を……?だとしたら、俺は……俺の、した事は──ッ」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──あの日の光景が、ホシノの脳裏を過ぎる。

 

「はァっ……はぁ……!」

 

 裏切ったと思い込み、先輩を殺そうとしたこと。戦い、傷つけ、傷つけられ──そして、先輩の腕を奪った、あの日の事を。

 

「はァっ、はぁッハっ……ァあッ!!」

 

 腕が千切れ、血飛沫を上げる先輩の姿が……命の源たる血潮がだくだくと溢れ出し、今にも死んでしまいそうな先輩の姿が、ホシノの脳内にフラッシュバックする。

 

 ……ホシノはやがて立っていることもままならなくなり、膝をつく。瞳孔を広げ、大きく呼吸を乱すその様はあまりにも痛々しく……先ほどまでホシノと対峙していたハルカは"どうすべきか"と迷い悩む。

 

 自身の役割を考えるならば、今はホシノを戦闘不能にする絶好のチャンス。……少し前の自分であれば、躊躇うことなく銃弾を撃ち込むところなのだが……今のハルカには、目の前で今にも崩れ消えてしまいそうなホシノを撃つことはできなかった。……かといって、他に何をすべきなのかもわからない彼女は、ただ立ち尽くすのみであった。

 

 

 

 

 

(──違う、違う違う違うッ!相手は先輩じゃない……た、戦わないと、アビドスを守らないと……!)

 

 ホシノは自分に言い聞かせ、落としてしまった銃へと手を伸ばし──

 

 

「ヒッ……!」

 

 

 ──血痕の飛び散った銃身、そして……血濡れた己が手を目にした彼女は、その手を止める……血など、どこにもついていないというのに。

 

 すべては精神的に追い詰められた彼女の脳が見せる幻覚でしかない。……その事実に、ホシノは気付くことは出来ないのだが。

 

 

「あ、あああっ」

 

 

 ……彼女の精神状態は、あの日の真実を知ったときのように限界まで追い込まれていた。今のホシノは、何を仕出かすかわからない……そんな彼女を止めるのは──先輩である梔子ユメの役目であった。

 

 

「──ごめんね、ホシノちゃん!」

 

 

 ユメは、錯乱するホシノの首をその手で持つ盾で打ち付け、意識を奪った。……普段であればこの程度では気を失うことはないが、精神的に不安定となっている今のホシノには充分であった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 アビドスの最大戦力であるホシノが沈黙した今、便利屋68にとっては攻め立てる最大の好機である。……しかし、その場にいる誰もが動くことは出来なかった。

 

 丁度、その時──

 

 

 キーンコーンカーンコーン……

 

 

 学校のチャイムが鳴り響く。

 

「……あ、定時だ」

 

 17時を告げるチャイムを聞き、傭兵たちは銃を下す。

 

「今日の日当だとここまでね。後は自分たちで何とかして……って、聞こえてないか」

 

 "みんな、帰るわよ"と一言残し、傭兵たちは帰路につく。……それを引き留めるものは、誰もいない。

 

 

 ユメは気を失ったホシノを抱えると、校舎へと歩みを進める。

 

「あ、あのっ…私……!」

 

「……気にしないで、こうなったのは貴方のせいじゃない」

 

 ユメは心配そうにホシノを見るハルカに向けて、優しい表情を浮かべながら諭すように告げる。

 

(今は、早くホシノちゃんを休ませないと……)

 

「みんな!協力して!アヤネちゃんは──」

 

 ユメの指示に従い、対策委員会の生徒たちは駆け足で校舎へと戻って行く。……校庭に残されたのはアルたち便利屋68のみ。

 

「……どうする?アルちゃん」

 

「そうね……私たちも一度、帰りましょうか」

 

 "事情は、後でカオナシさんに聞きましょう"──アルの言葉に従い、便利屋68の少女たちも帰路へとつく。

 

「……」

 

「ハルカ?……帰るよ」

 

「……はい」

 

 

 

 対策委員会と便利屋68の戦いは──後味の悪いものを残したまま、終わりを告げた。




サブタイ別名「トラウマ」

 感想で銃を落としたのでは?と仰られていた読者様方、正解です。……ただし、落としたのはカオナシではなくホシノちゃんでしたが。

 ……アビドス編を書き始めた当初は、ここまでするつもりはなかったんですけどね。
 ヘルメット団との戦いの際に軽くトラウマを刺激するくらいで、その後にあの日の真実がバレてる!?って日記を見せられて内心で嘆くカオナシを書くくらいのつもりだったんです。
 ……ただ、アニメでハルカちゃんの心臓部に向けて撃ち込んでいるのを見てしまった結果今話で書くことになり、便利屋組の襲撃理由が変わったことで、ここまで悲惨なことになってしまいました。

 ……これ、曇らせってレベルで済ませていいのだろうか?

 ──というわけで、次回はカオナシがあの日の真実がバレていることを知ります。

 タグにある通り、曇らせのまま終わらせるつもりは微塵もないので、是非今後とも『小鳥遊ホシノの先輩』をよろしくお願いします。

当キヴォトスの先生は ※あくまでも参考程度です。必ずしも結果通りになるとは限りません。また、オネエ、姉御の場合はイオリの足は舐めません

  • オネエ
  • 姉御
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