小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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気付けば8000字を超えてました。
正直区切っておけばよかったかなって思ってます……



指切りげんまん、嘘ついたら──

 ──便利屋68との戦闘が終わり、ホシノを仮眠室に寝かせた後……対策委員会に所属する生徒たちと先生、そしてカオナシは、部室へと戻って来ていた。

 

 戦闘開始前までの賑やかな雰囲気はどこにも無く、皆一様に沈黙し、沈んだ表情を浮かべる。

 

 ……しかし、このままでは埒が明かないと、先生は疑問に思っていた事を訊ねる。……対策委員会の顧問として彼女らの力になる為にも、知っておかなくてはならないと判断して。

 

「……ねぇ、みんな。ホシノちゃんはいったいどうしちゃったの?」

 

「……分かりません。あんなに取り乱した先輩、私は入学してから一度も見た事が無いんです」

 

「私もよ。……先輩たちは何か知ってるの?」

 

 先生の疑問に真っ先に答えたのは一年であるアヤネとセリカであったが、どうやら二人はホシノがああなってしまった原因については心当たりが無いらしい。

 

 質問を引き継ぐように先輩たちに問い掛けるセリカにつられて、先生とアヤネはユメ達の座る方へと目を向けると──何かを言い淀む様子を見せる、シロコとノノミの姿が目に映る。

 

「それは……」

 

「ん、知ってはいるけど……」

 

 二人は、"言っても良いんだろうか……"と言いたげに顔を見合わせた後、先輩であるユメへと視線をずらす。

 

 皆の視線が──カオナシを除き──ユメへと集中する。彼女は少しばかりの間、考え込むように瞼を閉じ……やがて、決意したように顔を上げる。

 

「うん。何があったのか、何が原因でああなったのか、私は知ってる」

 

「……ごめんね?アヤネちゃん、セリカちゃん。……二人にもいずれ話すべきだとは思ってたんだけど、最近はホシノちゃんの発作も落ち着いてたから、タイミングを逃しちゃってて……」

 

 "それに、無闇矢鱈と話せる様な内容でも無かったから……"と、頭を下げるユメに対し、二人は"そうだとしても、教えて欲しかった"と言いたげに、何処か納得がいかないような表情を見せる。

 

「先輩の言い分は理解出来ます。でも……」

 

「……私達だって対策委員会の一員です。……ホシノ先輩が苦しんでるなら、私達だって力になりたい」

 

 覚悟を秘めた二人の瞳に、ユメは驚きの表情を浮かべた後──すぐさま、嬉しそうに破顔する。

 

「ありがとう、二人とも。……先生も、ありがとうございます」

 

 大切な後輩であるホシノを気にかけてくれた事に礼を告げ、ユメは過去に何があったのかを語りだそうとする。……ちょうどその時、"ガラガラ"と音を立て、部室の扉が開かれる。

 

「……その必要は無いよ、ユメ先輩」

 

 聞こえてきたその声に、皆が扉の方へと視線を向ける。……そこには、未だに少し顔色は悪いものの、しっかりと意識を保ちながら自身の足で立つホシノがいた。

 

「ホシノちゃん、大丈夫なの?まだ休んでた方が……」

 

「ううん、大丈夫。……みんなもごめんね、戦いの最中にあんなに取り乱しちゃって」

 

 "いやぁ、恥ずかしいねぇ……"と、後ろ首に手を添えながら部室に足を踏み入れたホシノは空いた席へと向かっていき、"よっこいしょっ"と深く座り込む。

 

「……さて、おじさんがどうしてあんな風になっちゃったかを知りたいんだっけ?……前もって言っておくと、楽しい話でもなければ結構長くなるけど、それでも──って、聞くまでも無さそうだね」

 

 部室内にいる皆が、一切茶化さず真剣な面立ちでホシノを見据える。

 

「いやぁ、おじさんもいい後輩を持ったよ。……お茶でも飲みながら聞いていってよ。──酷く最低な、私の犯してしまった罪の話をさ」

 

 ホシノは姿勢を正すと、ゆっくり、ゆっくりと……かつての楽しかった日々を思い出すように……自分の罪を懺悔する様に語りだす。

 

「……おじさんにはね、ユメ先輩の他にもう一人、先輩がいたんだよ」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ホシノは語る──入学した日、二人の先輩が歓迎会を開いてくれたこと。初めて指名手配犯を捕まえに行ったこと。組手をして、良いようにあしらわれたこと。何度も何度も宝探しをしたこと。ラーメンを食べに行ったこと。満天の星空に流れる流星を一緒に見たこと。他の学区に三人で一緒に遊びに行ったこと。一緒にお昼寝をしたこと。先輩が書いていた日記を見ようと、ユメ先輩と一緒に襲い掛かったこと。ユメ先輩と喧嘩をしてしまった時に、先輩が仲を取り持ってくれたこと。先輩が山のようなお菓子を食べ尽くしたら、何故かオープン前の水族館のチケットを貰ったこと……オープンしたら、一緒に行こうと約束したこと。

 

 微笑みながら語るホシノを見れば、嫌でもわかる。ユメとそのもう一人の先輩と過ごした日々は──彼女にとってかけがえのない、色褪せることのないとても大切な日々だったということが。……それなのに──

 

(ホシノちゃん、凄く悲しそうな眼をしてる……)

 

 過去の思い出を語るホシノの眼差しは、"寂しい、悲しい"という想いに塗られており……よく見れば、握りしめた手もまた、何かを堪えるように小さく震えていた。

 

 "今すぐにでも慰めてあげたい"──先生として……いや、一人の大人として、これ以上子供が辛そうにしているのを見ていられなかった。

 

 ……それでも先生は我慢する。ホシノの方が辛いに決まっている、そんな彼女が話してくれる……その勇気を無碍にしないためにも、今はただ静かに話を聞こうと自分に言い聞かせる。

 

 

「……あの時はまだ三人だけだったし、時々"たった三人だけでこの先やって行けるのか"なんて、不安になることもあったけど……」

 

「そんな時はいつも、ユメ先輩とリン先輩が、励ましてくれた。ずっと、ずっと一緒に居ようって約束して……後輩が入ってきたらもっと賑やかになるねって、三人で楽しみにしてたんだ……」

 

 

 

 

 

 ──あの時までは

 

 先ほどまでの、悲しくも楽し気に思い出を語る様子は鳴りを潜め……今のホシノは、己の罪に押しつぶされ、罪悪感と悔恨の情に苛まれているかのように、顔を歪めていた。

 

「……さっき、"ユメ先輩と喧嘩をしてしまった時に、先輩が仲を取り持ってくれた"って言ったよね?……その翌日、先輩たちがどっちも出かけてて私一人しか学校にいなかった日。……遠くで煙が上がっているのを目にしていやな予感を感じ取った私は、廃墟になった市街地に向かったその先で──怪我をして意識を失ったユメ先輩の目の前で、ある男と契約を結んでいるリン先輩を見つけたんだ」

 

「……これまでのことは……ずっと一緒に居ようって約束は、全部、全部、全部全部全部全部……噓だったんだって、止めようとしたユメ先輩が邪魔だから傷つけたんだって思った」

 

「裏切られたのが悲しくて、恨めしくて、憎くて憎くて憎くて──殺してやるって、私は銃口を突き付けて……その後はもう殺し合いだよ、お互いに傷つけ、傷つけられられての繰り返し」

 

「……もしかして、以前やんちゃをしてついてしまったと仰っていたその頬の傷も……?」

 

 

 ついといった様子で洩らしたアヤネの疑問に対し、ホシノは静かに頷き──仲間想いなセリカが激昂する。

 

 

「なによそいつ、信じらんない!先輩たちを裏切って、女の顔に傷までつけて──ッ!!」

 

 "もし見つけたら私がとっちめてやるわ!"と憤るセリカに対し、ホシノは苦笑しながら"その必要は無いよ"と告げる。

 

「な、なんでよ!確かに私はそいつとは直接会ったこともないけど──」

 

 なおも憤りを隠そうとしないセリカを宥めるように……いや、大切な後輩に、これ以上先輩の事を悪く言ってほしくなくて、ホシノは遮るように己の罪を告白する。

 

「……おじさんの方が、もっと酷いことをしたんだ。……ううん、酷いなんてものじゃない、だって、私は──」

 

 

 

 ──先輩の腕を、奪ってしまったんだから

 

「………えっ?」

 

「……先輩は戦い方が上手くてさ、攻撃を当てるには何とか懐に入り込む必要があったんだ。先輩に教えて貰った技術で距離を詰めて……あの時は殺す気で戦ってたから、心臓部分に銃口を突き付けて……っ」

 

 

 呼吸が乱れそうになるのを、必死に抑え込みながら語るホシノの姿はあまりにも痛ましく……後輩や先生が"もうそれ以上言わなくていい"と止めようとしても、彼女は"大丈夫"と言って語るのを辞めない。

 

 

「──先輩から突き放たれた鉄筋を避けようとした結果、狙いが逸れた私の銃撃は左肩に着弾。……私の目の前で、先輩の腕は千切れ飛んだ」

 

 

 想像以上に重たい過去に、先生たちは何を言っていいのか分からなくなってしまった。……黙り込む皆の様子を見たホシノは少しでも場の空気を和ませようと"先生たちが気にする事はないよ"と口にするが、逆効果であった。

 

 ……そんな中でもいの一番に口を開いたのは──一年生、黒見セリカ

 

 

「なんで──」

 

「?」

 

「──なんでっ!そんなやつの為に、ホシノ先輩がこんなにも苦しまなくちゃいけないのよ!裏切っただけでも許せないって言うのに…!ホシノ先輩も、そんな奴の事なんて早く忘れちゃえば「それは無理だよ、セリカちゃん」──どうしてよっ!」

 

 

 怒りを露わにするセリカの言葉に被せるように、"無理だ"と告げるホシノ。……それでもなお鎮まることの無いセリカであったが、続くホシノの言葉に絶句する。

 

 

「先輩はねっ……」

 

 ──私達のことを、裏切ってなんかいなかったんだよ……!

 

 

 "もう一人の先輩は、ホシノ達を裏切っていなかった"──抑えきれなくなった感情のままに、涙を零しながら告げられた真実に、事情を知る者たちは悲痛な表情を浮かべ、知らぬ者たちは驚愕に目を見開いた。

 

 

「……全部、全部勘違いだった。先輩が結ぼうとしていた契約は、私達を守るためのもので……ユメ先輩を傷つけたのは、そもそもリン先輩じゃなかった……!」

 

「──なのに私はっ!先輩を殺そうとしたっ!!疑って、裏切ったって決めつけて……っ!」

 

 強く握り締めた手からは血が滲み、彼女がどれ程後悔しているのかが見て取れる。

 

 

「……後は、さっきも言った通り殺し合いを──いや、今思い返せば、先輩にはそもそも私を殺す気なんてなかった……私が一方的に殺そうとしてただけだね。……その果てに、私は先輩の左腕を奪ったんだ」

 

「……ううん、それだけじゃない。私は先輩が生まれ持った能力さえも、この手で壊してしまった」

 

 

「真実を知ったのは、先輩が居なくなった一年後。……後悔したところでもうどうしようも無いほどに、時間が過ぎた後だった」

 

「……酷い話だよね、先輩は何も悪くなかったのに。……そんな事をする様な人じゃないって、分かってたはずなのにさ」

 

 自虐的な笑みを浮かべながら語る彼女の瞳は──暗く、暗く、澱んでいた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 程なくして、ホシノは語り終えて一呼吸置いた後、"うへ、暗い話はこれでおしまいにしよっか"と手を打ち合わせ、笑顔を見せる……が、その笑みはぎこちなく、誰がどう見ても無理をしているのは明白であった。

 

 ……しかし、先生も、アビドスの生徒たちも、わざわざ蒸し返すような非情な事はしない。ホシノの意思を尊重し、いつも通りの雰囲気を出そうと努める。

 

 その後は、"今だけは、気になったことがあるなら答えれる範囲で答えてあげるよ"というホシノの言葉に従い、幾つか気になった事を先生たちは訊ねることにした。

 

 

 

「……ホシノちゃんはさ、どうやってその先輩が裏切ってなかったって知ったの?」

 

「うん?……あぁ、そういえば話してなかったっけ」

 

 ホシノは自分の鞄から、丁寧に包まれた"ボロボロになった、水色のノート"を取り出す。ホシノ曰く、このノートこそが先輩が裏切っていなかったという証拠らしい。……ノートを目にしたカオナシがピクリと震えたが、誰も気づかなかった。

 

「これはね、リン先輩が書いてた日記帳なんだ。……シロコちゃんが拾ってきてくれなかったら、おじさんは今でも先輩を恨み続けてたかもしれない」

 

「……先輩がいた時は頑なに見せて貰えなかったのに、居なくなっちゃってから見れるだなんて、皮肉なもんだよね」

 

 

 

 先生はホシノに許可を取り、日記を見せてもらう事にした。決して傷付けることが無いようにと、丁寧に頁を捲っていく。

 

(……読み進めるほど、リンくんって子がどれだけアビドスの事が大好きだったのか、ユメちゃんやホシノちゃんの事を大切にしていたのかが伝わってくる)

 

 ……伝わってくるからこそ、互いが互いを思いあっていたはずなのに、ほんの僅かなボタンの掛け違いでここまで大きく拗れ、今もなお苦しんでいるという事実に胸を痛める。

 

 

 

「……途中から出てくる、この黒服ってやつがリン先輩って人を誑かして契約を結ばせたやつ?」

 

 セリカの言葉を肯定するように、ホシノは身に宿る激情を抑え込みながら静かに頷く。

 

「そうだよ。……実はおじさんも、以前は契約を持ちかけられてたんだ」

 

 これについては、シロコやノノミも知らなかったらしく先生達と同じように驚愕しながらホシノを見る。

 ホシノ曰く、先輩が居なくなってからの一年間は一切の音沙汰がなかったらしい。

 

「それって……」

 

「うん。……多分だけど、先輩があいつを牽制してくれてたんだと思う」

 

 "おじさんはその事にも気付かずに、陰ながら黒服の魔の手から守ってくれていた先輩を恨み続けてたって訳だよ"と悔恨に顔を歪め、下唇を噛みながら下を向く。

 

「あの、ホシノ先輩……」

 

「ん?どうしたの?セリカちゃん」

 

 何かを言いたげに口を開いては閉じを繰り返すセリカに、ホシノは"何か気になる事でも有るんだろうか"と、なるべく普段通りの態度を取るように意識をしながら、首を傾げる。

 

 少しして意を決したセリカは──勢いよく、"バッ"と頭を下げた。

 

「──ごめんなさい、ホシノ先輩!」

 

「私、何も知らずにホシノ先輩にとって大切な人の事を侮辱した!本っ当に、ごめんなさいっ!」

 

 急に告げられた謝罪の言葉に、ホシノは"ポカン"とした表情を浮かべ……少しして、"別に謝る必要は無いんだけどなぁ"と苦笑する。

 

「セリカちゃんは、おじさんの事を思って怒ってくれたんでしょ?……なら、謝る必要なんてどこにもないよ」

 

 "寧ろ、セリカちゃんがあんなにもおじさんの事を思ってくれてるって知れて感激だよ〜"と、セリカに近づき抱き締める。……普段であれば"鬱陶しい!"と振り解こうとする彼女であっても、今はそのような事をする気にはなれず、甘んじて受け入れた。

 

 

 

「あの、ユメ先輩を傷付けたのはリン先輩ではないとの事でしたが……では、一体誰が?」

 

 アヤネの疑問については、ホシノではなく自分から説明した方が良いだろうと、実際に目にして対峙したユメが口を開く。

 

「前もって言っておくね?……今から私が話す事は、あまりにも荒唐無稽過ぎて信じ難いかもしれない。でも、全部本当の事だから」

 

 皆が真剣な面差しで自分を見つめている事を確認した彼女は、語る。

 

「私はあの日──巨大な、機械仕掛けの白い蛇に殺されかけたの」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──数刻後

 

 語り終えたユメを見つめる先生たちの瞳には、"驚愕"、"困惑"、"積怒"等の色が灯る。……ただし、誰の目にも"疑念"の色は無く、全員がユメの言葉を信じているという事が見て取れる──ユメが誠実に、後輩たちと接してきた証左であった。

 

 

「──許せないッ!そのカイザーの銀行員がまだ居たなら、私がぶん殴ってやったのに!」

 

「……知らなかったです、アビドスにそんな存在がいただなんて。……もしかして、日記に書かれている"キヴォトスを危機に陥れるかもしれない存在"というのが、その白い蛇なのでしょうか?」

 

「多分、そうなんだと思う。……リンくんはアレをどうにかするために、黒服って人と契約を結んだんじゃないかって私とホシノちゃんは考えてるの」

 

 

 仮に借金を返済できたとしても、それ以上に解決しなければならない問題があると知ったセリカたち。

 

 ……普通であれば心が折れかねない様な現状を目の当たりにしてもなお──彼女等は悲観に暮れた様子は見せなかった。……それどころか、より決意に満ちた目を見せていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ユメちゃんたちは、その白い蛇についてどのくらい知ってるの?」

 

 今後の対策を立てるためにも、アビドスのどこかに潜んでいるであろう存在についての情報を得ようと先生は訊ねるが……ユメもホシノも、困ったように眉を顰める。

 

「実は私達も、日記に書いてあることと……後はどんな攻撃をしてくるか位しか分からないの」

 

 ユメ曰く、あの日から白い蛇の目撃情報は一切なく、情報を集めようにも集められなかったらしい。

 

「もしかしたら旧校舎とかの方だったら過去の文献とかが残ってるかもしれないけど……」

 

 "砂に埋もれちゃって、探すのも難しいんだよねぇ"と、肩を竦めながらホシノは語る。

 

「それに、借金の返済とか、先輩の残したものを探すので忙しかったからね〜……どうしても、調査に時間を割く余裕がなかったんだよ」

 

「……ん?残したもの?」

 

「………うへ、言葉の綾ってやつだよ」

 

 "情報って言った方がいい?"と、何かを隠すように誤魔化すホシノに疑念を抱くが……そう大したことでもないだろうと、先生は思考の隅へと追いやった。

 

 "私の方でも調べておくよ"──そう伝えようとした矢先、先程まで一切口を開かなかったカオナシが言葉を発する。

 

 

『……俺は、その白い蛇について知っている』

 

 ──唐突に告げられたその言葉に、この場にいた全員が驚きのあまり目を見開く。

 

「───ッ!」

 

「な、なんでアンタが知ってるのよ!」

 

 セリカの疑問に追従する様に、降って湧いて出た情報源であるカオナシへと皆が詰め寄る。……なんなら先生はカオナシの襟を掴んで"ぐわんぐわん"と揺らしていた。

 

『落ち着け』

 

 バヂィンッ!!*1

 

「あいったぁッ!!?」

 

 ◇

 

 白い蛇──ビナーについて、知る限りの事を教えた直後

 

『……皆に謝っておかないといけない事がある』

 

 言うや否や、カオナシは地に膝を付け、両手を揃えて頭を下げる……俗に言う、土下座の体勢になった。

 

 唐突なその行動を目にし、驚き固まるホシノ達を置いてカオナシは謝罪の言葉を口にする。

 

『──俺は今日、便利屋が襲撃してくることを知っていた。……正確には』

 

 ──襲撃を依頼したのは俺だ

 

「なっ……!」

 

『……昨日、便利屋68社長のアルから話したい事があるって連絡があった。向かった先で聞かされたのは、"自分たちが襲撃の依頼を受けたこと"。──そして』

 

 "その依頼を断ろうとしていること"──アビドスを襲撃してきた彼女たちが元は断ろうとしていたという事実に、先生たちは開いた口が塞がらない。

 

『……使えると思った。アル達が依頼を続行してくれれば……内通者になってくれれば、こっちは依頼主の情報を秘密裏に、且つ真正面から得ることが出来る』

 

『──それに、ユメは身をもって知っているだろうが、ビナーは生半可な力じゃ倒せない』

 

『……だから、キヴォトスでも上澄みの実力者なアル達をぶつける事で、少しでも力を付けてもらおうと()()()()()()()()()()()

 

 "誰にも言わずに"──事前に聞かされていた先生は、カオナシが自身のことを庇おうとしているのだと悟り、咄嗟に否定の言葉を述べようとする。……しかし、先生の言葉を遮るように、カオナシは謝り続ける。

 

『……俺の勝手な行動で、皆を──ホシノを傷付けた』

 

 

 ──本当に、すまなかった

 

 床に頭をこすりつけて謝るカオナシに、僅かばかりの怒りは残ってはいるものの、あくまでも自分たちの為を思っての行動だったと……一番の被害者であるホシノが許すならと、皆が視線を向ける。

 

 皆に見つめられたホシノはカオナシへと近づき、しゃがみ込む。

 

「カオナシは、私達のためを思って行動した。……その言葉に嘘は無い?」

 

『……あぁ』

 

「そっか。……じゃあ、カオナシがおじさんのお願いを聞いてくれるなら許してあげる」

 

 "許す"──目の前の後輩から告げられたその言葉に、カオナシは驚き顔を上げる。

 

『……いいのか?』

 

「うん、別におじさんはカオナシに怒ってないしね」

 

 "ああなったのは、全部おじさんのせいだし"──周りに聞こえぬよう小さく呟かれたその言葉は、カオナシの耳にだけ届いた。咄嗟に否定しようとするものの、続く言葉に遮られてしまった。

 

 

「おじさんからのお願いは──私達に隠し事をしないこと。それと──」

 

 ──私達を裏切らないこと

 

 

「……隠し事はしないでって言ったけど、カオナシの正体については無理に明かさなくていいよ。カオナシが教えたいって思った時に見せてくれれば、それでいい」

 

「……だから、それ以外のことについてはしっかりと教えて、隠さないで。……私達を、裏切らないで」

 

 右手小指を差し出すホシノ。逡巡したのち、カオナシも同じように小指を差し出し、ホシノの指に絡めながらはっきりと告げる。

 

 

 

『──約束する。俺は絶対に、ホシノ達を裏切らない』

 

*1
デコピン




カオナシ『全部バレてるやん……!』
・大切な後輩であるホシノの心を傷つけてしまったこと対する罪悪感に苛まれ、"バレる前に距離を置いた方がいいんじゃないか、その方がホシノをこれ以上傷付けずに済むんじゃないか"とか考えてたら、急に黒服が処分したはずの日記を出され、正体を隠しているせいで静止することも出来ずに目の前で全員に読まれると言う公開処刑を敢行された。ホシノちゃんとは別の意味で情緒がぐちゃぐちゃになった。
 ……残(念でもないし)当(然)である。


【補足】
・もし日記を見つけていたのがシロコじゃなかった場合
ノノミ⇒シロコと同じような行動をとる。本編のようにやがて全員知る。
ユメ ⇒ホシノに見せる、二人だけの秘密。
ホシノ
【中身が見えてしまった場合】
 読み進め、受け入れられずリンの部屋を漁る。そして裏切っていなかったという事実を受け入れ絶望。一人で抱え込もうとするが、ユメ先輩に気付かれる。

【見えなかった場合】
 そのまま捨てる、燃やす、拾わない。故に、真実を知らぬまま恨み続けるが、原作開始後どこかのタイミングで必ず知ることになる。……恨み続ける期間が長いほど、知った際の反動は大きくなる。



ホシノちゃんの一人称が途中『私』ばっかりなのは仕様です。おじさんの皮が剥がれ、素のホシノちゃんが出てきちゃってるだけです。
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