小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

52 / 115

 読者様方、お待たせいたしました。
 なんだかんだ、一週間近く間が開いたのは初ですね。……もう一つの小説投稿日を含めたら開いてるのは三日間ほどですけど。

 新しいゲームを始めるとどうしてもそっちに意識を割いてしまうのは、自分の悪い癖ですね。マルチタスクできるようになりたいものです。

 ただ、小説を書くことはかなり楽しいと思っているので、エタるつもりは一切ないです。毎日少しずつは書き進めているので、今後ともよろしくお願いいたします。


 ──前置きが長くなりましたが、本編へどうぞ



カオナシの左腕

「──それでは、対策会議を始めさせて頂きたいと思います」

 

 カオナシが日記バレし、ホシノ達に対して土下座を敢行した翌日、いつも通りにアヤネの音頭を合図として会議が始まった。

 

「事前連絡として──本日は、カオナシさんは便利屋68の皆さんの所へ行かれるとの事でしたので、終わり次第の合流となります」

 

「……あれ?そのような事言ってましたっけ?」

 

 事前に聞かされていなかった彼女らに向けて、先生が"実はね…"と今朝あった事を伝える。

 

「学校に来る途中、便利屋のムツキちゃんに会ってね──」

 

 ◇

 

【あ、先生じゃん!おっはよー!】

 

【おはよう、ムツキちゃん】

 

 "こんな所で会うなんて奇遇だね~!"と、抱きつこうとした矢先、自身の名前を呼ばれていた事に気づいた彼女はピタリとその動きを止める。

 

【……ふーん?私の名前、もう知ってるんだ】

 

 "もしかしたらアルちゃんたちの事も知られてそうだね"と僅かばかりの警戒心と、"流石噂の先生"と関心が入り交じるムツキであったが──苦笑いを浮かべる先生を視界に捉え、首を傾げた。

 

 訊ねてみると、どうやらカオナシから聞いたとの事だった。彼女は得心がいったかの様に"なるほど"と頷いた。

 

【ちなみにだけど、どこまで聞いたの?】

 

【全部、かな?】

 

【全部かー……】

 

 "つまりは、私達がカオナシにお願いされて襲撃したって事も知ってるって事だよね?"という問いに先生が頷いたのを確認した彼女は、ため息をついた。

 

【はぁー……これじゃあ私達の悩み損じゃん。……ねぇ、先生?カオナシって何処にいるの?】

 

 仄かな苛立ちを感じさせる笑みを浮かべるムツキに戦慄を覚えながらも、先生は"わからない"と伝える。

 

 

【……ほんと?嘘ついてない?】

 

【ほんとほんと。……学校に来れば流石に会えると思うけど──】

 

 疑いと揶揄い混じりの眼差しを向けてくる彼女に苦笑しつつ、"ムツキちゃんも一緒に学校に行く?"と提案しようとした丁度その時

 

 

【おはようございます、先生──と、あれ?確か便利屋の……】

 

【ムツキか、どうしてこんなところに?】

 

 噂をすればと言わんばかりに、カオナシが現れる。……また隣にはアヤネが居り、先生は"珍しい組み合わせだね"と、横に立つムツキが"ギラリ"と目を光らせたことに気付かないふりをしながら二人を見やる。

 

 

【学校に向かう道中で偶然お会いしたので、今日の会議であげる議題のことについて事前に意見をお聞きしていたんです】

 

 "便利屋の皆さんの元依頼主については教えてくださいませんでしたけど"とジト目を向けてくるアヤネに対して、カオナシは"仕方ないだろう……"とため息を吐く。

 

【アヤネはともかく、他の奴らに教えたら一切の躊躇なく襲撃しかねないだろ?……いくら依頼主の正体がわかっていても、証拠がなければ言い掛かりと言われてこっちが不利になるからな】

 

【それはっ……否定、できませんね……】

 

 

 アヤネは普段の先輩たちの言動を思い浮かべ、否定する余地のないという事実にカオナシから目を逸らす。……そんなやり取りを続ける二人の元へとムツキは近づいていき──

 

【──メガネっ子ちゃん、ちょっとカオナシのこと借りてくねっ?】

 

 カオナシの左腕を"グワシッ!"と効果音が聞こえてきそうなくらいに、思いっきり掴んだ。

 

【……ふーん?なるほどなるほど】

 

 "ハルカちゃんが言ってた通りだね"と誰の耳にも届かぬほどに小さく呟きながら、ムツキはカオナシを引っ張っていこうとする。その有無を言わせぬ態度に、カオナシは抵抗する間もなく何処かへと連れて行かれそうになったが、寸での所で気を取り直して引き留める。

 

【ちょっと待ったムツキ、急に何処に連れてこうって【説明責任】──】

 

【……あるよねぇ、カオナシ?】

【……はい、あります】

 

 笑みを見せながら──しかし、不釣り合いなほどに笑っていない瞳で見つめられたカオナシは、哀愁を漂わせながらムツキに連れていかれた。

 

(……カオナシさんって、あんな風になるんですね)

(……カオナシって、あんな風になるんだ)

 

 ◇

 

「──そういうわけで、カオナシはムツキちゃんに連れられて行っちゃったんだ」

 

 先生から伝えられたカオナシの行く先に納得しつつ、皆は一様に──"カオナシさんってそんな風になるんだ"と思った。

 

「っていうか、カオナシって私たちのことを直情径行気味な人間だって思ってたわけ?」

 

 不満げに顔をしかめるセリカであったが、少しして先輩たちのこれまでの言動を思い浮かべ──割と否定できないかもと目を逸らした。……自身の事は棚にあげながら。

 

「とりあえず、カオナシの処遇については後で考えるとしてー……」

 

 "今日の議題について、アヤネちゃんお願ーい!"とホシノに促された彼女は頷きを返す。

 

「はい。……本日の議題は、セリカちゃんを攫ったヘルメット団の黒幕についてです。先日の戦闘で手に入れた戦略兵器の破片を調査した結果──」

 

 

 

 

 

 

 

 

(うーん……普段の言動と言い、一人で決めて行動しちゃうところと言い、今回の怒られて縮こまっちゃうところと言い──)

「……やっぱりカオナシさんって、リンくんっぽいよね?」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

『──へっくしッ!』

 

 くしゃみの音が辺りに響く。"誰かに噂でもされてるか……?"とムツキに連れられ、便利屋68オフィスの扉前に立ったカオナシは現実逃避気味に思考を逸らすが……

 

「ほらカオナシっ、そんなところでボーっとしてないで早く入った入った!」

 

 ──と、ムツキに背中を押されたことで、観念したのか大人しく扉を潜りオフィス内に足を踏み入れた。

 

 

「いらっしゃいカオナシさん、よく来たわね」

 

 "そこに座ってちょうだい"と手で指し示された椅子へと歩みを進め、席に着くと同時に、"そ、粗茶ですみません"と飲み物を持ってきてくれたハルカに対して一言礼を告げて受け取る。

 

「それじゃあ、私達が帰ったあとのことについて教えて貰えるかしら」

 

 カオナシは"わかった"と首肯し──受け取ったお茶で喉を潤わしてから、先日のアビドス襲撃の事の顛末を語りだした。

 

 ◇

 

「……そう、彼女は落ち着いたのね」

 

 "よかったわね、ハルカ"と、ホシノが取り乱す様を目の前で目撃した少女へとアルは笑みを浮かべ、ハルカは頷きを返す。

 

 少し前までは自身を救ってくれたアルを妄信していた彼女が、他者を気に掛けることができるようになったという事実に、それなりに付き合いの長いカオナシは改めて喜色を仮面の下で浮かべた。

 

 

 その後は今後の対応について少し話をする。

 

 ……特に、次にカイザーから襲撃の依頼があった場合は事前に対策委員会側へとカオナシから伝達し、またお互いに懐に踏み入れるようなことにだけはならないようにしようという案には、満場一致で可決された。

 

『それじゃあ、今回の件については俺の方でみんなに伝えておく』

 

 カオナシはオフィスを出て学校に向かうために、席を立とうとし……"ちょっと待ってくれるかしら?"というアルに引き留められ、再び席につく。

 

 ……カヨコとムツキが自身の側に寄ってきていることを不思議に思いつつ、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 

「単刀直入に聞かせてもらうわね?……カオナシさんの──」

 

 ガチャン

 

「──左腕のことについてなのだけれど」

 

 

 嫌な予感を覚えたカオナシは、即座にその場から離脱しようとするが──直前にカヨコによって手錠を嵌められ逃走を阻止される。

 

 ……普通の手錠程度、神秘を操作して瞬間的に力を込めれば引きちぎる事は出来なくも無い。

 

 しかし、もう片方がカヨコの左手首にはめられているせいで、下手に外そうとすれば彼女を傷つけることになってしまうという結論にカオナシは至り──僅かな躊躇いが生まれてしまった。

 

 "どうすべきか"という一瞬の逡巡は、実力者である便利屋68にとっては十分な隙であった。

 

 あれよあれよという間にカオナシはそばに寄ってきていた二人に肩を抑えられ、無理やり席に座らされる。

 

『……っしてやられたな、立案はカヨコか?』

 

「まぁ、そうだね。カオナシは一定以上の仲の相手を傷付け兼ねない行為に躊躇いを覚えるのは知ってたから。……私がその中に含まれてるっていうのは、ちょっと恥ずかしくもあるけど」

 

 眉を顰めるカオナシと、静かに笑みを浮かべるカヨコという対比が生まれる。

 

 

『……確かに有効ではあるし、実際に俺は拘束されてる訳だが──流石に、絵面が宜しくないだろこれは』

 

「……それは言わないで」

 

 付けられた手錠を見せつけるようにカオナシは右手を掲げ、カヨコは僅かに頬を染めながら視線を横にずらした。

 

 ……そんな微妙な空気を払拭するように、アルは"んんっ!"と喉を鳴らすと、改めてカオナシへと左腕のことについて訊ねる。

 

 

 "何故そんなにも気になるのか"と訊ね返すと、アルは自身のそばに経つハルカへと顔を向ける。……ハルカは僅かに躊躇いを覚えながらも、意を決して口を開く。

 

 

「以前、カオナシさんの腕を思い切り掴んでしまった時……左側だけ、まるで金属みたいに硬かったのを思い出しまして……」

 

「今回ホシノさんの向けた銃口が、私の左肩に逸れた直後に取り乱されたので……も、もしかしたら何か関係があるんじゃないかと思ったんです」

 

 

 ハルカに告げられたその内容に、カオナシは"気の所為じゃないのか?"と誤魔化そうとするものの──ムツキからも"今日私が腕を掴んだ時も硬かったし、気の所為じゃないと思うよ"と援護射撃が飛んで来た事で口を閉じる。

 

(……仮に今腕を見られても、腕を投射してるから見た目だけなら誤魔化せる。左腕が硬いってのも、神秘操作による技術だって言って実際に右腕側でもやってみればいいんだろうが──)

 

 そこまで考えて、カオナシはため息をついた。……今ここで誤魔化してしまった場合、どこかのタイミングでホシノ達にこの事を伝えられる可能性がある。

 

 何れは正体を明かすつもりとはいえ、不本意なタイミングでバレるのは……特に、義手を付けていることを知られてしまうのは避けたいカオナシは、今教えて口止めした方がまだ安全かと判断する。

 

『……教えるから、一旦拘束を解いてくれないか?』

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 多少の迷いはあったものの、アルたちはカオナシの拘束を外す。

 

 ──拘束を解かれた彼はグルリと肩を回した後、コートを脱いで椅子に掛ける。……左腕は普通に存在している。

 

(……あれっ?別に何もおかしい所なんて無いじゃない)

 

 内心首を傾げるアルを置いて、カオナシは腕時計を外し──直後、先程まで存在していた筈の腕が無くなり、代わりに義手が現れた。

 

「な──ッ!!」

 

 予想していなかった訳では無い……しかし、改めて突き付けられた、"本来在るべき所に腕が無い"という事実に、彼女らは絶句した。

 

 

 ……通常、キヴォトスに住まう住人は銃撃に対して強い耐性を持っている。

 

 実際、便利屋として危険な現場に赴くこともそれなりにある彼女たちであっても、多少の傷跡はあれど──身体の一部が欠損するほどの怪我を負っている人物は、これ迄ただの一度も目にしたことは無かった。

 

 ましてや、相手がそれなりに友好を深めている人物であったという事も、その驚きに拍車をかけていた。

 

 

 

「ねぇ、カオナシ。その腕ってもしかして……」

 

 "小鳥遊ホシノがやったのか"──という問いは口には出されなかったが、話の流れ的に察することは出来る。

 

 故にカオナシは、事前に"こうなったのは決してホシノの所為ではなく、全ての責任は自分にある"と前置き、あの日の事を"他言は決してしない"と契約を結ばさせた上で、彼女らに語る。

 

「──あの日、俺は……ユメとホシノの思いを踏み躙った」

 

 ◇

 

 カオナシの過去を聞いた彼女らは、なんと言えば良いのか分からず、一様に黙り込んでいた。

 

 ……カオナシが過去に取った行動に思うところがない訳では無い。特に、大切な人達に事情を話さずに一人で犠牲になろうとしていたと聞いた時は、"何をしているんだ"、"残される側の気持ちは考えなかったのか"と、仲間を大事にするアルはつい怒りのあまり頬を叩き、胸ぐらを掴んでしまった。

 

 

【──ッ!!】

 

【ア、アルちゃん!?】

 

【何でそんな事したのよッ!!それだけあの子たちのことを大切に思ってるなら分かるはずでしょ!?残された側がどれだけ辛いかなんて──ッ!】

 

【あまつさえ、裏切った様に見せて嫌われようとしたですって?──ずっと一緒にいた人が裏切ったからといって、そう簡単に割り切れる筈が無いじゃないッ!!!】

 

 

 先日知ったその事実を改めて突き付けられたカオナシは、悔恨に顔を歪めながら──"そうだな……俺は、本当に最低なヤツだよ"と返すことしか出来なかった。

 

 

「……ごめんなさい、カオナシさん。ついカッとなってしまったわ」

 

『いや、謝らなくていい。俺が悪かったのは事実だし、アルが怒ったのもそれだけホシノの気持ちに寄り添ってくれたって事だからな』

 

『……それじゃあ、俺はそろそろ帰るぞ。今日はヘルメット団の使用していた戦略兵器の入手ルートについての証拠集めをしに行く事になるだろうし、彼奴らを待たせる訳にもいかないからな』

 

 カオナシは席を立ち上がり、オフィスを後にした。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 "過去の行いに後悔するのは、アビドスの問題を片付けてからだ"と意識を切り替えたカオナシ。……対策委員会の部室前に立つと、"ブラックマーケットを調べてみよう"という声が聞こえてきた。

 

 ガララッ

 

『やはりブラックマーケットか……いつ出発する?俺も同行しよう』

 

「カオナシ院」

 

 カオナシの言葉に即座に反応したシロコ。二人は暫しの間無言で見つめ合い──徐に互いに右手を差し出すと、"イェイ"とハイタッチした。

 

 

 その後は、若干呆れた視線を向けられたりもしたが……すぐに意識を切り替えると、思い立ったが吉日と言わんばかりに皆一斉に準備を初め──準備が終わるや否や、ブラックマーケットへと歩みを進める。

 

 

 

 

 ──対策委員会が、アビドス襲撃の黒幕の正体を知る日は近い。




カオナシ
・敵対している者相手であれば、作中のような隙を晒すことはまず無いのだが……身内判定をした相手への警戒心が薄くなりがち。
 カオナシを拘束したり、仕留めたりするなら、まずは懐に入り込めるほどに仲を深めてからでないと難しい。……打算ありきで近づこうとしても、そもそも警戒心を払拭させる事は出来ないのだが。



 今話はもともと「ブラックマーケット①」というタイトルを予定していたのですが……ブラックマーケットにはまだ行けなかったです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。