アンケート、ほとんど差異が無かったのでどうしようかと迷った結果──"もしもカオナシが銀行襲撃に参加してたら"というif番外編で書くことにしました。……だいぶシリアル味が強いお話になりそう。
書くタイミングとしては、アビドス編終了後になると思います。
先生達と合流しようと、カオナシとアズサが遠くで響く戦闘音を目印として歩き始めて早十数分。
……突如としてピタリと止んだ銃声と入れ替わるように、カオナシが持つ端末に先生から電話がかかってきた。
『もしもし、カオナシ?何とか無事に逃げ切れたよ』
"今から位置情報送るね"という先生の言葉と共に、ピロンと一つの通知音が響く。届いたメッセージを開き、先生たちの現在地を確認する。
『ここなら、何も無ければ二十分くらいで着くと思う。……なるべく早く向かうが、ちゃんと周りは警戒して、もし何か危険が及びそうだったら直ぐに逃げるようにって皆にも伝えておいてくれ』
"まぁ、態々言わなくても分かってるだろうが"──カオナシの忠告に、先生は電話越しに"わかったよ"と伝えると、電話を切った。
『アズサ』
「うん。待たせると悪いし、早く行こう」
名前を呼んだだけなのにすべきことを理解したように返事をするアズサに対して、"話が早すぎないか"と内心で苦笑するカオナシ。
しかし、話が早いことはいい事かとアズサを引き連れて先生たちの元へ向かおうとし──とある白い物が視界の端に映った。
『んっ?あれは確か……』
◇
程なくして、二人は先生たちを見つける──初めに送られてきた位置情報とはまた別の場所で。
……どうやら予想外の人物と出会ってしまい、やむを得ず移動したとのことであった。
「あっ、カオナシさんにアズサちゃん!」
"こっちこっち~!"と手を振りながら、ユメは大きな声で呼びかける。そんな彼女の様子をそばで見ていたホシノ達もまた、二人に気付き声を掛けたり、手を振っていた。
そんな彼女たちの元へとカオナシは近づくなり、紙袋を差し出す。
『みんな、これを』
「二人とも、はいコレ!」
『「……ん?」』
──全くの同タイミングで、ユメも一回り小さな紙袋を取り出したことで、二人は首を傾げた。
サイズこそ違えど、似た見た目の紙袋を目にし……まさかとは思いつつも互いの物を交換すると中身を確認した。
『「たい焼き……」』
どうやら、両チーム共に同じ屋台を訪れていたらしい。漂う香りからして、味自体は別のようではあるが……
『ハハッ』
「ふふっ」
まさかこんな偶然があるなんてと、二人揃って笑を零す。
『……味は?』
「私たちが買ったのはカスタードだよ。……そっちは?」
『王道のつぶあん』
「こっちでつぶあん食べてたのは……先生だけだね」
『なら良かった。俺達もカスタードは食べてないしな』
"良くないけど!?"──そう嘆く先生を置いて、カオナシとユメはお互いに受け取ったものを、同チームのメンバーへと配る。
「はい、先生」
「ありがとう……うぅ、だったら私もカスタードにしておけばよかったなぁ……って、そんな事は置いておいて」
「こんな所に留まっておく理由も無いし、早いとこ帰ろっか」
先生の言葉に対して頷きを返すと、皆は帰路へと着いた。
◇◇◇◇◇
──電車を乗り継ぎ、カオナシ達はアビドス高等学校へと帰ってきた。……ヒフミとアズサを引き連れて。
最初の内は、これ以上付き合わせるのも悪いし帰ってもらおうと思っていたのだが、ここまで関わったのなら最後まで見届けさせてほしいと懇願されたために、二人も一緒にアビドスへと訪れていた。
帰って来て早々、対策委員会の部室にて入手した書類の確認を行う先生たち。……読み進めていくうちに、段々と眉間にしわが寄っていき──やがて、我慢の限界に達したセリカが"バンッ!!"と机を強く叩く。
「なっ、何これ!?一体どういうことなのッ!?」
「──!!」
「現金輸送車の集金記録にはアビドスで788万円集金したと記されている。私たちの学校に来たあのトラックで間違いない」
「……でも、その後すぐにカタカタヘルメット団に対して"任務補助金500万円提供"って記録がある……」
「ということは、それって……」
「私たちのお金を受け取った後に、ヘルメット団のアジトに直行して任務補助金を渡したってことだよね!?」
アビドスを守るために払い続けていた借金の返済金が、守るべき学校に対する襲撃に使われていたという事実に、彼女たちは抑えきれぬ怒りを露にする。
「任務だなんて……カタカタヘルメット団に……?ヘルメット団の背後にいるのは、まさか……カイザーローン?」
「「「……」」」
「……なるほどねぇ、これは確かに、カオナシが私たちに迂闊に話そうとしなかったのも頷けるね。……現におじさんたちは、こんなにも怒ってる訳だし」
「で、でも!どうしてこのようなことを!?学校が破産したら、貸し付けたお金も回収できないでしょうに……」
「……それについては──」
"カオナシに答え合わせをして貰おうか"──ホシノのその言葉と共に、アズサを除く全員の視線がカオナシに向けられる。
疑念、不可解、当惑──答えの出ぬカイザーの思惑に対する解答を欲する彼女たちに対し、カオナシは腕を組み目を伏せていた。
時間としてはたったの数秒……しかし直ぐにでも真実を知りたい彼女らにとっては数分、数時間にも感じられる程に長く短い時間を経て──カオナシは瞼を開きユメたちへと一人一人順番に、その心情を確認するかのように目を向けていく。
それから再び、凡そ一分半の時を経て──カオナシはゆっくりと口を開いた。
『まず初めに、ひとつ訂正しておく。……既に幾人か気づいているかもしれないが、黒幕は厳密にはカイザーローンではない』
『真の黒幕は、その元締め──カイザーコーポレーション』
「「「──ッ!!」」」
"カイザーコーポレーション"──彼女達が対峙すべき、本当の敵。
その正体を遂に捉えた彼女たちは、全身の毛がぶわりと逆立つような感覚に襲われる。
大切な学校を奪おうとするカイザーに対する怒りの感情によるもの
……
ほんの一瞬、刹那にも満たぬ僅かな時間にカオナシから溢れ出した──黒く、仄暗い憎悪の感情
自分に向けられたものでないにも関わらず、己が生存本能を刺激する様な鋭利な殺意に彼女たちは呑まれていた。
……四名の人物を除いて
一人はヒフミ──彼女はそもそも、カオナシから発せられた殺意を感じ取れていなかった。悪意を向けられたことの無い一生徒でしかない彼女が気づける筈もなかった。
一人はアズサ──彼女は、ヒフミと違い、トリニティに転校する以前の境遇の影響で、悪意や殺意という感情になれていた。
残る二人は──ユメとホシノ。彼女たちは過去に一度、まだ
抱いた疑念はしかし……続くカオナシの言葉に遮られ、ぶつけられることは無かった。
『──奴らの目的についてだが……実を言うと、はっきりと"こうだ"と断定できている訳では無い』
「えっ、そうなんですか?」
『あぁ。アルたちから知らされたのは、あくまでも依頼主がカイザーコーポレーションである事しか聞いてないからな』
『だから今も、少しでも証拠を集めるためにアイツらには依頼を継続してもらっている訳だし』
「……でも、カオナシなら大方の予想はついてるんでしょ?」
"隠し事はしないって約束、忘れてないよね?"──ホシノの問に対し、カオナシは静かに首肯するとゆっくりと口を開く。
『……あくまでも今から話すのは予想であって真実じゃない』
──"だが、限りなく真実に近いとは思う"
改めて前置くと、彼はカイザーの狙いを語る。
『カイザーの目的、それは──』
『「アビドス自治区の敷地そのもの」』
カオナシとアズサの言葉が重なる。……どうやら先程までだんまりを決め込んでいた彼女は、彼女なりにアビドスが狙われる理由を考えていたようであった。
『何故狙うのか……新たな事業を立ち上げるためなのか、それとも俺たちでも知らない
「「「…………」」」
これ迄の話を聞いて……カイザーのこれ迄の行いから考えて、その可能性が脳裏を過ぎらなかった訳では無い。
だけど、もし……もしも、それが事実なのだとしたら──
「……アビドスは、数十年前からずっと……カイザーに狙われてたって事……?」
誰とも知れずに呟かれたその言葉に、彼女らは己が拳を握りしめる。……大切な場所を奪おうとするカイザーに対する怒りが頂点に達しようとしたその時──"パァン!"と、柏手の音が鳴り響く。
「「──ッ!!」」
聞き覚えのあるその音に──かつて、何度も耳にしたその音の発生源へと、ユメとホシノは勢い良く振り向いた。
視線の先には、手を打ち合わせた体勢でビクリと震えるカオナシの姿が目に映る。
『うおっ、どうした急に。……取り敢えず全員、今日はここまでにしておかないか』
「ど、どうしてよッ!今は少しでも多く対策を──」
『気持ちは分からなくもないが……これ以上は、ヒフミとアズサが帰るのが遅くなっちまうからな』
カオナシに言われ、部室内に備え付けられた掛け時計へと目を向ける彼女たち。
──気付けば、時間は17時を回っていた。……これ以上長引けば、門限に間に合わなくなる可能性がある。
流石にもう二人には帰ってもらった方が良いだろう、詳しい話はまた明日にしておこうと、ホシノ達も一旦落ち着きを取り戻すと、今日は解散することにしたのであった。
◇◇◇◇◇
「皆さん、色々とありがとうございました」
ぺこりと頭を下げるヒフミ。切っ掛けは不良から助けられたことで、そこからなし崩し的に変な事に巻き込まれてしまった彼女であったが、決してそれをホシノ達のせいだとは思っていなかった。
それどころか、少しでも彼女たちの力になれるようにと、カイザーコーポレーションが犯罪者や反社会勢力と手を組んでいるという事実上の証拠を、トリニティのトップであるティーパーティーに報告すると提案してくれた。
……しかし
「まー、ティーパーティーはもう知ってると思うけどねぇ」
というホシノの言葉に驚き固まるヒフミ。もし本当に知っているのだとしたら、何故アビドスの事を放置しているのかと困惑するが……残念ながら、彼女が思っている程世の中は甘くない。
仮に知らせたところで、これといった打開策が出る訳でもなし。……それどころか、かえってこちらがパニくる可能性もあると語るホシノに対し、ヒフミは疑問符を浮かべる。
「ほら、今のアビドスって廃校寸前じゃん?トリニティとかゲヘナみたいなマンモス校からのアクションをコントロール出来る力が無いんだよー……言ってる意味、分かるよね?」
「……サポートするという名目で悪さされても、それを阻止出来ない……って事ですよね」
"あうぅ……政治って難しいです"と悩ましげに顔を伏せるヒフミを横目に、アズサは小声でカオナシに話しかける。
「……カオナシって確か、ミレニアムでよく活動してるらしいけど……協力とかして貰えないの?」
『……間接的には既にサポートしてもらってる。アビドスに対してでは無く、あくまで俺個人に対するものっていう名目でだけど』
◇
駅までそれなりに距離がある為、カオナシが二人を送り届けることになった。そのため、ウタハから借り受けたバイクに最近増設されたサイドカーに、ヒフミとアズサは乗り込んだ。
「──これからも大変だとは思いますが、頑張ってください。応援しています!みなさん、またお会いしましょう!」
「……世の中は虚しいことばかりだけど、それでも諦めなければ道は開ける。……今日は殆ど一緒に行動出来なかったけど、私も応援してる」
「二人とも、ありがとう。今度はアズサちゃんも一緒に遊びに行こうね。……その時に、カオナシさんの事について教えてくれると嬉しいな」
ユメに続き、皆口々に"ありがとう"、"またね"と手を振りながら別れを告げる。
『それじゃあ、そろそろ出発するぞ』
全員が挨拶を終えたことを確認すると、カオナシはバイクを走らせた。
◇
──数刻後、駅へ到着した事を確認したヒフミとアズサはサイドカーから降りると、カオナシに向け礼をする。
『お礼を言うのはこっちの方だ……今日あったばかりのアイツらに、親身になってくれてありがとう。……っと、そうだ忘れるところだった』
カオナシはガサゴソと鞄の中を漁り、ある物を取り出すとヒフミに渡し──受け取った彼女は、驚愕に目を見開く。
「こ、これって!!」
「──アイス屋コラボの100体限定生産ペロロ様じゃないですかっ!?」
"いったい何処でこれを!?"と詰め寄るヒフミ。──何処で、と問われても……ブラックマーケットで偶然見つけたとしか言いようがない。
『先生から連絡があった後、合流しようと移動してる時に見つけてな。追われたり、アビドスの用事に付きっきりで、もしかしたら探す時間もなかったかもしれないと思ってたんだが……その反応を見る限り、案の定だったみたいだな』
人形を抱き締め、クルクルと回り全身で喜びを露わにするヒフミを目にし、無駄にならずに済んで良かったとホッと息を吐く。
……彼女なら、既に手に入れていたとしても同じように喜んでいたであろうが、カオナシは知る由もなかった。……そんなカオナシに対し
「カ、カオナシ……私の分は無いのか…?」
いつぞやの時みたいに、袖をクイクイと引っ張りながら訊ねてくるアズサ。
……まさかアズサも欲しがるとは露ほどにも思っておらず、カオナシは彼女の分の人形は……そもそもペロロ人形はひとつしか無かったため、買っていなかった。
その事を伝えると、アズサは──
「そう、か……」
と、無表情ながらもしょんもりとした様子を見せる。まさかここまで落ち込むと思ってなかったカオナシは大いに慌て、"また今度トリニティに行った時に人形買ってやるから、な!?"と宥める。
カオナシとの約束を取り付けたアズサはすぐ様調子を取り戻すと、"約束だから"と羽をパタパタとさせながら、改札を通って行った。
(……まさか、アズサがあそこまで感情を露にできるようになるなんてなぁ。……彼奴らも、アズサみたいにあのババアに縛られること無く学生生活を謳歌できるようになれると良いんだが──偽りの憎しみに囚われて……例え手を差し伸べても、掴んでもらえなければどうしようもない)
決して思うところがない訳では無い。しかしカオナシにとっての最優先はユメとホシノ、アビドスの生徒である。
──ユメは間に合わなかったが……せめてホシノには、借金に囚われずに少しでも長く学生生活を謳歌して欲しい
"その為にも今は先ず、アビドスの問題を優先して片付けないとな"──と、カオナシは改めて決意した。
「ありがとうございました!カオナシさん!……って、あれ?アズサちゃんは?」
『うん?アズサなら既に駅のホームに向かったぞ』
「えっ、そうなんですk……あわわっ、もう電車がすぐそこまで来てる!?」
慌ただしく駅へ向かうヒフミは改札を通り抜けた後に振り返ると、カオナシに向けて礼を告げるように"ぺこり"と頭を下げ、ホームへと駆けていった。
そんな彼女の様子を苦笑しながら、手を振り見送るカオナシ。……程なくして、電車が発車したことを確認した彼もまた帰路へ着く。
『……ん?ブラックマーケットで覆面水着団なる組織が銀行を襲撃?……大それたことをする奴がいるんだなぁ』
"一応、警戒はしておくか"──組織の正体を知らぬカオナシのぼやきは、アビドスの広大な砂漠へと──……
「やっぱり、カオナシさんは──」
"明日、ダメもとで聞いてみよう"──そんな……の呟きは、アビドスの広大な砂漠へと消えていった。
これにてブラックマーケット編は終了です。
黒幕の正体をついに知った対策委員会。
ここからどんどんと展開が移り変わっていきます、カオナシの正体がバレる日も近くなって参りました!いやはやどうなる事やら……