先日、久しぶりに日間ランキング9位になりました!
読者様方、いつも読んでくださりありがとうございます!
それでは、本編へどうぞ!
──アビドス襲撃犯の黒幕が判明した翌日、いつもの様に対策委員会の部室へと足を踏み入れた先生。
"おはよう"と挨拶をするものの、返ってきたのはノノミと、そんな彼女に膝枕をしてもらいながら微睡んでいるホシノ──二人分の挨拶だけであった。
「……あれ?他の皆は?」
「他の皆さんですか?……んー、シロコちゃんはいつもみたいにトレーニングをしていると思います。アヤネちゃんは多分……勉強しに図書館に行っているのかと」
「黒幕への対処法については、カオナシが便利屋としての伝手を使って考えてくれてるみたいだからね~。こうしてのんびり出来るのは久しぶりだし、みんな思い思いに過ごしてるんだよ〜」
……もどかしい気持ちはあるものの、無暗に動くと返って自分たちの首を絞めかねない。
そのため、彼女たちは大まかな方針が固まるまでの短い間ではあるが、久しぶりにのんびりできる時間をつかってやりたいことをやっているらしかった。
先生やカオナシが来てから、アビドスの状況は大きく進展している。……先生はまだ理解はできる、だけど──
「……ほんと、なんでカオナシはこんなにもアビドスのために動いてくれるんだろうねぇ」
なんとなしにホシノの口から漏れ出たその言葉。……別にもう、カオナシに裏があって協力しているんだとか、そんなことは考えていない。
【──約束する。俺は絶対に、ホシノ達を裏切らない】
あの日の約束に、こちらを欺こうだなんていう意思は一切感じられなかったから。……それでもやっぱり、"なぜだろう"という疑問は尽きない。
"もしかしたら、カオナシは……"そんな考えが脳裏に浮かんでは、消えていく。
自身の犯した罪は決して消えない、消したいだなんて微塵も思ってもいない。それでも……許されないとは分かっていても、謝りたい。
もう一度だけでいいから──
(会いたいです、先輩……)
◇◇◇◇◇
一方そのころ、カオナシはというと──ユメに呼び出され、ある場所へと訪れていた。
『まさか、またここに来ることになるなんてな』
カオナシの目の前には、一つの扉。アビドス校舎内にある一室、そこに掲げられた表札には──"アビドス高等学校 生徒会室"と表記されていた。
"コンコンコン"と、ノックを三度……しかし、返事はない。指定された時間よりも少し早く来てしまったために、単にまだいないのか、それとも室内で眠りこけているのか……
真相はわからぬが、取り合えず中で待っていればいいかと、カオナシは扉を開き足を踏み入れた。
──少し離れたところから、己を見つめているものがいることにも気づかずに
◇
『……まだいないみたいだな』
教室内をぐるりと見渡す。宝探しで見つけた過去の先輩方が残した金属の箱や、ビリビリに破れ、補修されたアビドス砂祭りのポスターなど──その全てが、三人で過ごした楽しかった頃の記憶を想起させる。
彼はあるものに気付くと歩み寄り──目の前の写真立てを手に取った。
──写真には、"入学おめでとう!"という垂幕をバックにして、恥ずかしがるホシノを真ん中に、その左右をユメと己が挟むように立ちながら笑みを浮かべながら立っている姿が写っている。
その他にも、三人で初めて宝探しをしに行った時の写真や、他の学区へと遊びに行った時の写真など、色々な思い出の詰まったものが飾られていた。
その全てに対して、カオナシが懐かしさに駆られていると──"ガララッ"と音を立て、教室の扉が開かれる。
「お待たせ、カオナシさん」
『別に待ってはない、俺もさっき来たところだ』
「……写真を手に取って見てたのに?」
『……』
「ふふっ……ごめんね、別にからかってるとかそう言うのじゃないの」
図星を突かれて目をそらす。それ故に、カオナシは気づくことが出来なかった。
──ユメが、懐かしそうな顔で己を見つめている事に
「……ここはね、まだ私とホシノちゃん、後はリンくんだけしか居なかった頃の思い出が詰まった場所なの」
「偶に喧嘩しちゃうこともあったけど、それでも最後には仲直りして、また一緒に出かけたりして……本っ当に、毎日が楽しくてあっという間だった」
『……そうか』
カオナシは気付かない───否、気付けない。
彼が"赤飛リン"でなければ、ユメの話に聴き入ることはあれど、過去の思い出を振り返ることは出来ないために気付くことは出来たかもしれない。
しかし、カオナシにはユメが語る思い出を想起することが出来てしまう。それ故に──
──"ガチャリ"
と、ユメが後ろ手に扉の鍵を掛けた音にも気付けない。
「私とホシノちゃんはね、リンくんが裏切ってなかったって知ってからずっと居場所を探してるの。……黒服って人が何処にいるかが分かれば聞き出せるかもしれないんだけど、リンくんが居なくなったあの日からずっと連絡がないってホシノちゃんは言ってる」
『……そう、なのか?』
黒服とは"契約期間中は一切の干渉を禁ずる"という契約を交わしていたが、まさかそれ以降も連絡をしていなかったとは……、カオナシは黒服の意図が読めずに困惑する。
なお丁度この時、黒服はホシノに対してとある契約を持ちかけるために連絡しているのだが……今この場にいる彼が知る由もなかった。
「うん。……だから今は、少しでも情報が欲しくって……もし良かったら、カオナシさんにも協力して欲しいなって思って」
"既にアビドスの為に色々してもらってるのに、こんな事を頼むのも申し訳ないんだけど"──と、申し訳なさそうに苦笑しながらもユメは頼み込む。
自分自身の事を探して欲しいというその願いに、カオナシは複雑な心境を抱きつつ──まぁ、態々断らなくても良いだろうと、彼は了承した。
──その選択が、自分の首を絞めるという事にも気付かずに。
「本当に?……ありがとう、カオナシさん!じゃあ早速一つ、お願いしたいんだけど──」
──"カオナシさんの素顔、見せてくれないかな?"
初めて会った時のような、"仮面を外して欲しい"というものではなく──"素顔を見せて欲しい"という願い。……しかし、その願いは流石に聞き入れることは出来ない。
……ただ、頭ごなしに否定することも出来ないため、カオナシは自分と幼馴染の明確な違いを伝える事で、ユメ自身からお願いを取り下げさせようとする。
『……それがユメの幼馴染を探すのに、一体なんの関係があるんだ?』
『俺が君の幼馴染だと思っているなら、それはただの勘違いだ。……見ればわかるだろうが、写真に写ってる彼と、俺のヘイローは形が違う』
「……そうだね、カオナシさんの言う通りだよ」
"ユメの幼馴染と便利屋カオナシは別人である"というカオナシの言葉に対し、ユメは肯定を返した。
声を震わせるユメに対し、カオナシは──彼女の願いを拒絶する。
『……すまない、その願いには応えられない。……俺にもどうしても素顔を明かせない事情がある』
出来ることならば伝えたい。"赤飛リンはここに居る"と、大切な幼馴染の苦しみを払拭してあげたい。
……それでも、伝えることは出来ない。アビドスの借金も、自身の左腕のことも何も解決していない現状で、伝えることは出来ない。
「……そっか、私の方こそ無理言っちゃってごめんね?」
『いや、いい。……特にこれ以上何も無ければ、そろそろアルたちと次の襲撃依頼の偽装方法についての打ち合わせに行きたいんだが』
「………うん、いいよ」
ユメから許可を得たことで、カオナシは打ち合わせに向かう為に教室から出ていこうとし──
──"ガタッ"と、鍵の掛けられた扉に阻まれる。
『ん?……ユメ、扉に鍵が──ッ!?』
動きの止まった隙をつかれたカオナシは、扉に添えた手を掴まれて思い切り引き寄せられる。
不意をつかれてバランスを崩したカオナシは、そのまま足を払われ──ユメは仰向けの状態で床に転がされた彼の上に跨り、逃げられないように両手首を強く掴み抑え込んだ。
カオナシは何とかして逃げ出そうとするが……体勢が悪いのと、想像以上にユメの力が強いことで逃げ出せずにいた。
『グッ……!ユメ、急になに…を……?』
抗議の声をあげるカオナシは──ポタリと仮面を打つ滴の音に、言葉を詰まらせた。
顔を上げれば──そこには顔を悲嘆に歪め、ボタボタと涙を流すユメの姿が目に映る。
「ごめんね……やっぱり、我慢できないの。……ずっと探してた、リンくんが居なくなっちゃったあの日からずっと、ホシノちゃんと一緒に探してた……!」
「でも、見つからなくてっ!探しても探しても、目撃情報も何も見つからなくって……!!」
「もしかしたら、死んじゃったんじゃないかって……っそんな嫌な考えがずっと消えてくれなかったっ……」
抑えの利かなくなったユメは、これまで隠し続けてきた胸の内を吐露する。……目の前で涙を流すユメの姿を目にしたカオナシは、逃げ出そうとする力を無意識のうちに弱めていた。
「──そんな時に、カオナシさんと出会ったの」
「……確かに、カオナシさんとリンくんのヘイローは違う」
「でもね?カオナシさんと話せば話すほど、一緒に居れば居るほど、どうしても"もしかしたら"って考えが消えてくれないの」
「……その度に、胸がぎゅっと締め付けられて……悲しくて、寂しくて堪らなかったっ……!」
『──ッ!?』
カオナシから手を離し……胸を抑え、制服にシワが着くほど強く握りしめるユメの姿に、カオナシは大きく目を見開く。
直接協力することを決めて以降、ホシノが苦しんでいる様は目にしてきた。そのたびに自分の選択が大切な後輩を苦しめ続けているという事実に、カオナシは罪悪感を抱き続けてきた。
しかし、ユメはこれまでずっとホシノの傍で支え続けていた。──決して、自身の苦しみを表に出しては来なかった。
後輩であるホシノがあんなにも苦しんでいるのなら……ずっと一緒にいた幼馴染が居なくなって悲しみを抱かないなんて、そんな事あるはずが無いということくらい、少し考えれば分かるはずだった。
──自分だってビナーに襲われているユメを目にしたあの日、ユメが居なくなってしまうかもしれないと強い焦燥感に駆られたのだから。
『お、れは……』
自分の選択が、ホシノだけでなくユメをも傷付けていたという事実に──その事に気付かずに、呑気にユメとのやり取りを懐かしく思っていたという事実に、カオナシは強い後悔を抱く。
「……どれだけカオナシさんとリンくんの違いを考えようとしても、リンくんと過ごした日々が、カオナシさんはリンくんだって訴えてくるの」
「──だから、お願い。誰にも言わないからっ……カオナシさんがリンくんじゃないって言うなら、素顔を見せて…?」
ユメのしなやかな指先が、カオナシの仮面へと伸びていく。……最早彼に、抵抗する意志など残っていなかった。
仮面を外されても、立体映像投射装置により顔は隠されている。そのため、ユメは顔に直接触れることで確かめようとするが……その必要はないと、カオナシは遮った。
『……首元のチョーカー……それを外せば、投射してる立体映像は消える』
「っ!……これ、だよね」
留め具は後頸部にある為、少し手間取るが……程なくしてユメの手によりチョーカーが外される。
──立体映像は消え、これまで隠され続けてきた素顔が露になる。……以前よりも少し大人びた顔立ちになっているが、大切な幼馴染を見間違えるはずもない。
「──リンくん、なんだよね?……私の見間違いなんかじゃ無いんだよねっ…?」
確かめるように、露になった顔をぺたぺたと触りながらユメは訊ねる。……そんな彼女の問いに対して、リンは擽ったさを感じながらも、静かに首肯する。
「あぁ、俺は──っ」
リンの顔に、滴が一つ、二つと落ちていく。ポタリ、ポタポタとユメの眦から溢れる涙によって濡れていく。
──しかし、先程までの悲しみに暮れた涙では無い。彼女の涙は、安堵、歓喜に満ちたものであった。
「う、うぅうっ……!」
「……ごめんな、ユメ。……俺の身勝手な行動の所為で、二人を傷つけちまった」
「──っ!!」
溢れる涙を拭おうと伸ばされた手を掴み、ユメはリンを引き寄せ、その勢いで彼の上体は持ち上げられる。
「リンくん、リン゙ぐんっ──」
──"無事で…本っ当に良がっだよぉ……!"
ユメはリンのことを思い切り抱き締める。大切な幼馴染が目の前に居るという事実を確かめるように……これまで会えなかった分の時間を埋めるように、強く、強く抱き締める。
……そんなユメからの抱擁を、リンは拒むことなく受け入れた。大切な幼馴染が満足するまで、泣き止むまで、ずっと──
という訳で、遂にユメ先輩に正体がバレました。……ホシノちゃんはまだ先です。
小説を書き始めた当初は風紀委員との戦闘後を予定していたので、ほんのちょっとだけ前倒しになってます。……正体を知った上での今後の行動がどうなるのか……是非お楽しみに!