小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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何気にサブタイを考えるのが大変です……


私がアビドスを──

 "カツ…カツ…カツ…"と、僅かな明かりのみが灯る廊下に足音が響く。

 

 その者の手には銃が一つ──"ギリリ"と強く握り締める様は、今にも溢れ出しそうな感情を必死に押さえ込んでいる様子であった。

 

 ……程なくして目的の場所に辿り着いたのか、その者は歩みを止め──招き入れるように、目の前の扉が開かれる。

 

 視線の先には、全身黒ずくめの、右目に当たる箇所の発光部から顔全体に罅割れが走る異形の男──黒服と呼ばれる者が一人

 

 

「──こうしてお会いするのは一年……いえ、一年半ぶりでしょうか」

 

「……如何されました?そんなところに立っていないで、どうぞ中へ」

 

「暁のホル……いえ」

 

 

 ──"小鳥遊ホシノさん"

 

 

 来訪者──小鳥遊ホシノは、黒服に名前を呼ばれたその瞬間

 

 

  ドォンッ!!

 

 

 ──一切の躊躇いなく、発砲した。

 

 硝煙に視界が遮られ、黒服の姿が見えなくなる。……室内で風も吹かないため、鬱陶しそうに、仕方なく手で振り払うと──無傷のまま椅子に座る黒服の姿が目に映る。

 

「……いきなり発砲されるとは思ってもいませんでした。……まさか、たった一発で障壁が砕けてしまうとは……流石はキヴォトス最高の神秘の持ち主と言うべきでしょうか」

 

「チッ……」

 

 感心した様子で手を叩く黒服に対し、舌打ちを返す。彼の正面には白い金属片がバラバラと散っており……見覚えのあるそれに、ホシノは僅かに反応を見せる。

 

 "何故お前がこれを?"──そんな疑問が脳裏に湧き上がるが……今の彼女にとっての最優先事項は他にあった。

 

「さて、それでは早速「先輩は」──如何なさいました?」

 

「……先輩は今、どこにいる」

 

 契約を持ちかけようとする言葉を遮って告げられた彼女の問いに対し、黒服はとぼけた様子で言葉を紡ぐ。

 

「ふむ……先輩、とは…?」

 

「──ッ!とぼけるな!!リン先輩は何処にいるッ!!」

 

 怒りと殺意に囚われたホシノは、感情のままに再び銃口を突き付ける。

 

 "一発しか耐えられない障壁なら、何度も撃ち込めばいい"──そう結論づけた彼女は引き金に指を添える。

 

 

「クックック……冗談ですよ。……リンさんの居場所についてでしたね、勿論存じ上げていますとも」

 

「……ただ、残念ながらお教えする事は出来ません」

 

 

「っ……今この状況で撃たれないとでも思ってるの?」

 

 今にも撃たれかねない状況にも関わらず口を開こうとしない黒服に対し、ホシノは苛立ちを募らせる。

 

 ようやく先輩の手掛かりを得られると思って会いたくもない黒服の元へ訪れた彼女にとって、黒服の言動──否、存在そのものが彼女の神経を逆撫でるものでしかなかった。

 

 "先輩の居場所を吐かないのであれば、これ以上話すことはない"と、ホシノは銃の引き金を引──

 

 

「──リンさんがどこで何をしているか……誰にも情報を漏らさないという契約を結んでいるんですよ」

 

 ──"小鳥遊ホシノさん、例え貴方であろうとも"

 

 

 ……ピタリと、引き金を引く手が止まる。

 

「……は?それって、どういう……」

 

 話さないのではなく、話せない──それも、先輩と結んだ契約に縛られて。

 

 "何故、どうしてそんな事を?"という疑問が彼女の脳内をぐるぐると駆けずり回るが、答えは出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………否、答えに辿り着くことを無意識のうちに恐れ、避けていた。

 

 しかし、黒服がホシノの心情を配慮する道理は何処にもなく……無情にも、彼女の逃げ道を断つ一言を放つ。

 

「どういう、ですか……()()()()()()()()()()()が、一番よく分かっているのではないですか?」

 

「──ぇ」

 

 ……分からない、分かりたくない。……それでも、彼女は考える事を止められない。

 

 黒服との契約は既に切れてるはず、なのに未だに私達のところに戻ってきてくれない──ただの一度も、連絡すら一つも無い。

 

 "何故"、"もう気付いている筈だ"、"そんな筈ない"、"現実を受け入れろ"──ぐちゃぐちゃに乱れた彼女の思考は、目を逸らす事を赦してはくれず………やがて、彼女は一つの結論に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──先輩はもう、会いたくないんだ」

 

(借金が減ってたのは、アビドスやユメ先輩の為であって、そこに私は含まれていない。……何で私、気付かなかったんだろう……)

 

(……当然だよね、勘違いで殺そうとした私なんかに、腕を奪った後輩なんかに会いたいなんて、思う筈が無かったんだ……)

 

「ううん……私にはもう、後輩を名乗る資格なんて……っ」

 

 

 ……既に、彼女の黒服に対する殺意は霧散していた。──彼女の胸中を占めるのは、過去の己の行いへの後悔と罪悪感のみ。

 

 銃を下ろし俯くホシノ──ポタリ、ポタリと溢れる涙が地面を打つ。

 

 ……どれだけ後悔しようとも、過去は変えられない。どれだけ会いたいと思っていても……先輩が会うことを拒絶しているのであれば、自分にはもうどうすることも出来ない。

 

 ──"もう私には、会う資格もない"

 

 悪循環の坩堝に嵌ってしまった彼女の思考は、悪い方向へと流されていた。

 

 ◇

 

「……どうやら、契約を結べそうな状態では無いようですね」

 

「本来であれば、お教えする事は出来ないのですが……ここまで御足労頂いたお礼として、彼が今いる自治区についてくらいはお教えしても大丈夫でしょう」

 

 黒服は傍にある端末を自分の前へと移動させると、カタカタと操作を始める。……既に居場所は知っているが、体裁を取って今調べているように見せ──暫くしてパタリと端末を閉じる。

 

「小鳥遊ホシノさん、リンさんの現在の居場所についてですが──」

 

 

 

 ──"彼は今、アビドス自治区に居ます"

 

 

 

「……え?アビ、ドスに……?」

 

(なんで今になって?…会いに来て……ううん、そんな筈ない)

 

 理由は分からない……たまたま立ち寄っただけなのか、それとも何か目的があって訪れたのか。

 

 会いたい、会いたい、会いたい……会って、謝りたい。……でも、先輩はきっと私なんかと会いたくない筈で……なら、どうして──……

 

「……あぁ、そっか。先輩が今アビドスに居るのは──」

 

 

 

 

 

 

 ──"私が、学校から離れているからなんだ"

 

 

 

 

 

 

(先輩はきっと、何処かから私が学校に居ないって情報を得てユメ先輩に会いに来たに違いない。……先輩がいなくなってからずっと、私がユメ先輩のそばに居たから会いに来れなかったんだ)

 

(──私がずっと、先輩たちの邪魔をしてたんだ)

 

 もしかすれば、自分が居なくなれば先輩はアビドスに戻ってきてくれるかもしれない。……しかし、皆は自分が勝手に居なくなることを許してくれはしないだろうし、優しいユメ先輩はきっと心を痛めてしまう。

 

 ──それに、先輩の腕を奪った責任を果たさずに、学校や後輩たちを守る事から逃げ出す事は許されない。

 

(幸いにも、今の私は三年生だ……学校を襲う黒幕についても判明してる)

 

(……だから、卒業するまではこれまで通り戦い続ける。カイザーも、卒業までにどうにかする。──シロコちゃん達にかかる負担を出来るだけ減らしてから、私はアビドスから離れよう)

 

(……借金についても、別の自治区でお金を稼いで毎月送るようにすれば……そうしたら、皆に迷惑をかけないで済むかな……)

 

 ──考えうる限り、最悪一歩手前の結論へと至ってしまったホシノ。

 

 

 

 

 ……そんな彼女の携帯に、"ピロン♪"と一つの通知音が響いた。

 

 "一体誰からだろう"とモモトークを開く──差出人は、奥空アヤネ

 

 後輩からのメッセージを確認するホシノからは、読み進めるうちに次第に表情が抜け落ちていく。

 

 程なくして読み終えた彼女は踵を返して目的の場所へと向かおうとするが……"お待ちください"と引き止められる。

 

 一刻も早く向かいたい彼女は黒服の言葉を無視して退室しようとするが、鍵が掛けられているのか扉が開かない。

 

 ……壊して無理矢理開けることも選択肢として浮かんだが、それよりも早急に要件を済ませた方が良いだろうと黒服へと向き直った。

 

 ◇

 

 苛立ちを隠そうともしないホシノを目にし、"随分と嫌われてしまっていますね"と……二人の関係性を知る者がこの場にいれば、"今更何を当たり前のことを"と間違いなく言われるであろうことを考えながら、肩を竦める。

 

 しかし、このような事をしている間にも着実にホシノの怒りが沸点へと近づいていることを悟った黒服は、さっさと要件を済ませてしまおうと一枚の紙を取り出した。

 

「……それは?」

 

「……こちらは、本日ご提案させて頂こうと思っていた契約の内容が記された書類になります。お急ぎのようですのでこの場で契約を結んでくださいとは言いませんので、持ち帰って目を通していただけ、れば…と……そこまで嫌そうな顔をしなくても……」

 

 どれだけ好条件な内容であろうと、先輩を誑かした黒服と契約を結ぶなど真っ平御免な為、出来ることなら書類の受取自体を拒否したい。

 

 それ故に、思わず顔を顰めてしまうホシノであったが──"今はまずみんなの所に行くのが最優先だ"と意識を改め、渋々書類を受け取った。

 

「……扉は既に開いていますよ」

 

 書類を受け取るや否や、ホシノは踵を返し──皆が居るであろう柴関ラーメンへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩が戻ってくるまで、私がアビドスを守らないと」

 

 ──一人呟く彼女の瞳に、光は灯っていなかった。




前話のユメ先輩との温度差で風邪引きそう……

アビドス3章見て、よりホシノちゃんに幸せになってもらいたいという思いが強くなったのにもかかわらず、苦しめなければならないというこのジレンマ。

でも必要なことなんだ、許しておくれホシノちゃん……
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