小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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今回は次の展開への導入的な話なので、最近と比べるとちょっと短めです。



虫の知らせ

 ──時は遡り、ホシノが黒服の元へと向かっている最中

 

 カオナシは便利屋68との打ち合わせのために、柴関ラーメンへと訪れていた。

 

 

「いらっしゃい、カオナシくん。今日は何にする?」

 

『そうですね……今日は柴関ラーメンでお願いします』

 

 

 注文をサッと終わらせると、カオナシは店内をぐるりと見渡す。まだ開店して間もないためか、自分以外は一組しか客がいなかったためすぐ気づくことが出来た。

 

 目当ての人物達が座る席に近づくと、彼は机の上に四人分のインカムを置いて通り過ぎると、カウンター席へと向かっていった。

 

 ◇

 

「えっ、カオナシさん?」

 

 

 てっきり自分たちと同じ席に座ると思っていたアルは、机に置かれたインカムに目を向ける。

 

 "これってそういう事よね?"と、改めてカオナシに目を向ければ、チラリと振り返り耳につけた同じものをコンコンと叩く姿が目に映る。

 

 その動作を合図として、便利屋68の少女たちはインカムを身に付けた。

 

 

『……聞こえるか?』

 

「えぇ、ちゃんと聞こえてるわよ」

 

 

 足を組み、目を伏せながら静かにアルは言葉を紡ぐ。社長としてのカリスマ性を醸し出している彼女の内心を占めるのは──歓喜の感情であった。

 

 

(さっすがカオナシさん、分かってるわね!通信機器を使用した密談、まさにアウトローだわ!)

 

 

 ニヤけそうになる口角を必死に抑えながら、早速アビドス襲撃の偽装について話をしようと口を開き──柴大将に出鼻をくじかれる。

 

 

「はいよ、柴関ラーメン四つ。熱いから気を付けてな」

 

「……?あの、大将さん?私たち、まだ来たばっかりで注文はしていないのだけれど……」

 

 

 ……アルの言う通り、彼女らはカオナシよりほんの僅かに早く訪れたばかりであるため、まだ注文をしていなかった。

 

 疑問符を浮かべる彼女らに対して、大将は笑みを浮かべながら伝える。

 

 

「何か重要な話をするんだろ?なら、先ずは腹拵えして頭に栄養を回さないとな。……既にカオナシくんから料金は貰ってるから、気にしなくていいからな」

 

 

 お腹は空いていたものの、先ずは話を終えてからの方が良いかと思っていた矢先に目の前に差し出されたラーメンの香りに、皆一様に"ゴクリ"と唾を飲む。

 

 聞いた限りだとカオナシからの奢りらしいが……"良いんだろうか?"と視線をずらせば、既にカオナシはラーメンを啜っていた。

 

 話をしようとした矢先に食べ始めていたカオナシに若干イラッとしつつも……折角のラーメンが伸びてしまっては勿体ないと、箸を手に取った。

 

 

 ──"決して空腹感に負けた訳では無い"

 

 

 ……誰にでもなく内心で言い訳の言葉を連ねながら、彼女たちもまたラーメンを啜り始めた。

 

 

 ──数刻後

 

 

「はいよ、バニラアイス四つな。……食べ終わった器は下げてもいいかい?」

 

「えぇ、お願いするわ」

 

 

 ラーメンを食べ終えた二組の便利屋は、食後のデザートのアイスクリームを食べながら打ち合わせを開始した。

 

 ◇

 

『先ずは事前に聞いてた内容について改めて確認させてもらいたいんだが──先日の襲撃については、黒幕には予行演習だと伝えた。……間違いないか?』

 

「えぇ、あっているわ」

 

『なるほど……ってなると、次の襲撃の際には、前以上に傭兵を雇って真正面から仕掛けるか……もしくは搦手を使わないと奴らは納得してくれなさそうだな』

 

「他には最新式の装備を配備するっていう方針もあるね〜」

 

「私としては、人数を増やしすぎると統率が取りづらくなるし、ムツキが言うみたいに武器を新調させた方がまだ戦場を操作しやすいと思うんだけど」

 

「でも、最新式の武器を使う場合、予想外の被害が出る可能性もあるわよね?……事前に傭兵に話を通しておくのはダメなのかしら」

 

『ふむ……悪くは無いが、傭兵の中に奴らの手先が紛れ込まないとも限らないからな。信頼のおける相手以外に話を広げるのは辞めておいた方がいい』

 

「そうだね。傭兵たちには悪いけど、黒幕には本気で襲撃してるって思わせなくちゃいけないし」

 

「て、敵を騙すには先ず味方からとも言いますからね……」

 

 

 二組の便利屋は着々と方針について話を進めていく。規模、装備、作戦、決行日時──順調に決まっていたかに思われたが、ふとカオナシが"あ、そういえば……"と呟いたことで、話が中断される。

 

 

「んー?どうしたのカオナシ、なにか気になることでもあった?」

 

『いや……資金周りについてどうしたものかと思ってな。俺は稼ぎの殆どを預けてるんだが、諸事情で一定の額が貯まるまで下ろせないようにしちゃってるし……』

 

『最終的にはアルたちに依頼料とは別に使用した額は経費として全額払うつもりだけど、今使える金はアルたちも多くないだろ?』

 

 

 "短期依頼を2~3件受けて、ちゃちゃっと資金稼ぎでもしてくるか?"と、思案するカオナシであったが……"フフン"と自慢気な顔を見せるアルを視界に捕らえ、首を傾げる。

 

 

「あまり見くびらないでもらえるかしら?傭兵の百や二百くらい、簡単に雇えるわよ」

 

『いや、そんなに雇わなくてもいいけど……そんなに金持ってたか?……やばい事に手ぇ出してねぇよな?』

 

「あっはは!だいじょーぶだよカオナシ!真っ当に……とは言い難いけど、別に私達がやばい事して稼いだお金じゃないからっ」

 

『……なら良いんだが』

 

 

 若干腑に落ちないところもあったが、懸念事項であった資金面についても解決したため話を次の段階へ進めようと──

 

 

「ねぇ、さっきから外が騒がしくない?」

 

 

 ……進めようとした時、今度はカヨコによって遮られる。耳を済ましてみると、店内に流れる音楽もあって聞き取りづらいが、確かに騒がしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それも、まるで大人数が隊列を組んで行進してきているような、そんな物々しい音が段々と近づいてきている。

 

 

「ん?どうしたカオナシくん」

 

 

 剣呑な雰囲気を感じとったのか、厨房から顔を出し近づいて来る大将に対し、人差し指を立て静かにしてもらうように合図をする。

 

 

(……嫌な予感がする。……あの日、ビナーに襲われているユメを目にした時ほどじゃないけど、大切な何かが手から零れ落ちてしまいそうな──ッ!?)

 

 

 ──その時、店の外から小さく"ポンっ"と、気の抜けてしまうような音が聞こえてきた。

 

 あまりにも小さすぎる音に、最初は気のせいだと思いたかったが……続けざまに響く何かが飛来してくるような音が段々と大きくなってきたことで、予感が確信に変わった。

 

 

『──全員伏せろォ!!』

 

 

 鬼気迫る様子のカオナシの声を聞き、彼同様に外へと意識を向けていた便利屋68は咄嗟に物陰に身を隠した。

 

 ……修羅場を何度も潜り抜けてきた便利屋たちは反応できた。

 

 

 ……しかし、どれだけ優しかろうと、どれだけ周りに気を配れようと──どこまで行っても一般市民でしかない柴大将が、反応出来るはずもなかった。

 

 

『大将、ごめんっ!』

 

 

 状況を飲み込めず動きの固まった大将の様子に気付いたカオナシが、側まで近づいてきていた大将の手を掴み引き寄せながら、身につけていたコートを被せる。

 

 そのまま自身の後ろに移動させると、庇うように前に立ち──

 

「まて、リンk──」

 

 

 

 

 ──直後、多くの思い出が詰まった柴関ラーメンは、爆発に飲み込まれて消え去ってしまった。

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