小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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※今回、文章内でモザイク処理をかけているところがあります。
コピペで見れる事をご存知の方もいるかもしれませんが、ネタバレになるのでオススメはしません。もし見る場合は自己責任でお願いします。
後、感想には明記しないように配慮をお願いします。



蹂躙

 "やれるもんならやってみろよ"──その言葉と共に、カオナシは懐から手のひらサイズの金属製の棒状の物を取り出すと、思い切り捻じった。

 

 瞬間、元の大きさに対して"明らかに釣り合ってないだろ"と思わずツッコミを入れたくなるほどに、その体積を増やす。

 

 

 ──全長約2mの棍、それが、カオナシの獲物であった。

 

 

 銃社会のキヴォトスで近接武器を使用するという無謀さに、風紀委員達は嘲り笑う。……先程まで警戒し続けていたイオリですら、拍子抜けしたような表情を見せ──すぐ様、カオナシの脅威を思い知る事になる。

 

 クルクルと、感覚を確かめるように……まるで曲芸でも演じているかのように棍を回しながら──

 

 

ホルスの瞳(Eye of Horus)

 

 

 ──カオナシが何かを口ずさんだその瞬間、壊れた仮面から覗く右眼が金色に染まる。

 

 カオナシの変化に僅かな警戒心を抱きつつも……"そんな物で何が出来る!"と、一人の風紀委員が銃口を突きつけたその瞬間──カオナシの姿が掻き消えた。

 

 

 ──驚愕に目を見開くイオリに向けて、一陣の風が吹く。

 

 

 "まさか!?"と背後へ振り返ると、そこには──銃を構えた風紀委員をその手に持つ棍で殴り付け、更には振り抜いた際の風圧で後ろに立つ十数人を巻き添えにし、吹き飛ばすカオナシの姿が目に映る。

 

 

「……うそ」

 

(──全然、見えなかった……!)

 

 

 間違いなく、カオナシは自身の真横を通っていた。……それにも関わらず、一切反応出来なかったというその事実に気付いた彼女は、悔しさのあまり血が垂れるほど強く唇を噛む。

 

 

(あの瞬間、もしもあいつの狙いが私だったら……私は何も出来ずに倒されてた)

 

 

 カオナシにはそのつもりは無かったかもしれない……しかし当のイオリは、まるで"自分なんか何時でも倒せる"と言われているようで──

 

 

「──舐めるなァッ!!」

 

 

 ──激昂したイオリは銃を構え発砲、六発の弾丸がカオナシ一人に向けて放たれる。

 

 スナイパーライフルという単発式の銃でありながら、一瞬にして六発の弾丸をカオナシの逃げ道を塞ぐように放つ彼女は……なるほど確かに、空崎ヒナには及ばないとはいえ、ゲヘナ風紀委員の上澄みに位置するだけのことはある。

 

 未だ振り抜いた姿勢のままのカオナシ、誰もが"当たる!"と確信したその銃弾は──

 

 

 ギギギギギィンッ!!!

 

 

 ──無情にも、カオナシによって叩き落とされてしまう。

 

 盾や障害物を利用して凌ぐのであればまだ分かる、先程のような目にも止まらぬ速さで躱されるのも、悔しいが有り得なくはないと思っていた。

 

 ……しかし、全ての銃弾を弾くのは話が違う。甘く見積っても、幅5cm程しかない棍で弾くなんて、的確に弾道を読み取らなければ先ず不可能。

 

 まるで息をするように自然に振るわれたその絶技を目にし、他の風紀委員達が只々唖然とする中──イオリだけが、その技に込められた弛まぬ修練の道程を感じ取っていた。

 

 "いったいどれだけの修練を積めば、その領域に到れるのか"──思わず足を止めてしまった彼女の思考を遮るように、更なる絶望が風紀委員会を襲う。

 

 ◇

 

「……ん?何あれ?」

 

 

 隊列を組み、待機している風紀委員の後方部隊、彼女たちの頭上に一つの影が差す。

 

 見上げた視線の先には一つの鞄と──溢れ出すほどに詰め込まれた爆弾の山。

 

 

「マズッ!!全員退h──」

 

 

 警告を遮るように──臨界点に達した爆弾が弾け、爆炎が後方部隊を呑み込んだ。

 

 ◇

 

「な──ッ!?」

 

 

 カオナシに意識を集中していた風紀委員達は、遥か後方で巻き起こった爆発に驚愕する。

 

 "まさか、他にも仲間がいたのか!?"──そんな彼女らの考えを肯定するように、今度は部隊の右側で狙撃と共に爆発が巻き起こり──左側から、新たな襲撃者が現れる。

 

 

「死んでください死んでください死んでください!」

 

 

 物騒な言葉を連呼しながら現れたのは──便利屋68所属、伊草ハルカ

 

 ……カオナシに気を取られ、本来の目的であったはずの便利屋68の存在を忘れてしまっていた風紀委員達は、難なく不意打ちを許してしまった。

 

 度重なる衝撃に、ゲヘナ風紀委員会は体勢を立て直すまもなく、着実に数を減らしていった。

 

 ◇

 

 ……自分は、アコやチナツと違って戦うことしか出来ない。……にも関わらず、"ヒナ以外の風紀委員はどうとでもなる"と言われ続ける日々。

 

 悔しくて、悔しくて、悔しくて──少しでも足を引っ張らないようにと、修練を重ねてきた。……重ねてきた、つもりだった。

 

 しかし、今の自分はどうだ?……カオナシにいいようにあしらわれ、仲間が次々と倒されていく様を見ていることしか出来ない……この場にいる風紀委員の中で自分が一番強いにも関わらず、足止めすら叶わない。罠に掛けられ……相手にしてすら貰えない。

 

 どうする事も出来ず、悔しさに打ちひしがれてしまったイオリ──彼女が持つ端末に、着信音が響く。

 

 今回の作戦立案者である、ゲヘナ風紀委員会の行政官──天雨アコからの通信であった。

 

 

『ようやく繋がりましたね、イオリ。あれ程通信には直ぐに出るようにと──』

 

「……アコちゃん、ごめん」

 

『……はい?一体何が──ッ!?』

 

 

 唐突にイオリに謝罪され、疑問符を浮かべながら通信機越しに戦場を見渡したアコは、驚愕に目を見開く。

 

 便利屋達が──カオナシが暴れ回った戦場は、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図という言葉が相応しい様相を呈していた。

 

 カオナシが銃を使っていたのであれば、ここまで悲惨な状態にはなっていなかったかもしれない。……現に便利屋68は殆どの物資を使い果たし、継戦能力を失いつつあった。

 

 しかしカオナシの獲物は銃では無い。故に弾切れとは無縁であり──それどころか、風紀委員の所持する爆薬や迫撃砲を活用されてしまう始末。

 

 体力の続く限り延々と戦い続ける……弾切れという弱点が存在しないが故の、惨劇であった。

 

 ……とはいえ、カオナシも無事という訳ではない。

 

 

『ハァー……ハァー……』

 

(やべぇ、最初っから飛ばしすぎた……)

 

 

 常に縦横無尽に戦場を駆け抜け、ヘイトを稼ぎ続けた彼の体力と神秘は底を尽きかけていた。

 

 それでも……ヘイローが明滅し始めてもなお、戦意を滾らせるカオナシの様相はまさに、【鬼】と呼ぶに相応しかった。

 

 ……不幸にも意識を失う事が出来なかった風紀委員は、得体の知れないものを目にしたように恐怖に顔を歪め、へたり込んでしまう。

 

 見かねたアコは、更に後方で待機していた別働隊へと支持を出そうとするが……

 

 

「無駄だよ、アコちゃん。……別働隊も既にやられちゃってる」

 

『そんな……!相手は便利屋68だけではないんですか!?……まさか、アビドスの生徒が?それとも、例のシャーレの先生が指示を?』

 

 

 "未だ未知数なところが多い先生であれば仕方がない"……そんなアコの予想を、イオリは否定する。

 

 

「……違うよ、アコちゃん。確かに相手は便利屋68だけじゃないけど、この場に先生はいない」

 

『……なら、誰が』

 

「……カオナシさんです」

 

 

 ──イオリから引き継ぐように、チナツがやってきてアコの問いに答えた。

 

 

「チナツ、無事だったんだ……」

 

「無事、と言って良いのかは分かりませんが……何故か、あまり攻撃が来なかったので……」

 

 

 互いの無事を確認し合う二人、満身創痍ながらも少し心に余裕が出来た二人は、総指揮官であるアコに判断を仰ぐ。

 

 

「アコ行政官、私たちは『有り得ません……』──え?」

 

『カオナシがそこに居る?一体なんの冗談ですか……?』

 

『確かに、シャーレの業務を手伝っているという情報は得ています。……ですが!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──あいつは今、ミレニアムに居るはずなんです……!』

 

 

 アコから齎された情報に、先程まで戦っていた二人は愕然とする。

 

 "ならば今もなお暴れ回っているあいつはなんなんだ"と困惑する二人であったが……こちらの会話が聞こえていたのか、答えは当の本人から告げられた。

 

 

『はぁー……どうやら、偽装は上手くいってるみたいだな……』

 

「……偽装?」

 

『あぁ……ある奴らに俺の現在地を悟られないように細工をしてたんだが……お前らを騙せるくらいなら上等だろ』

 

 

 カオナシの言葉が本当なのであれば、今ここに居る彼はやはり本物で、ミレニアムにカオナシがいるという情報自体が嘘だということになる。

 

 

『……つまり、私はまんまと貴方に出し抜かれたと?』

 

『勝手に偽の情報を真だと思い込んだだけだろ、お前ら相手に用意したものじゃねぇ。……ってか、やっぱりヒナの指示じゃなくて、お前の独断専行だったのか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──あいつが、民間人を巻き込むような作戦を良しとするはずが無いからな』

 

「「『……は?』」」

 

 

 "民間人を巻き込むような"──まるで実際に巻き込まれた人がいるかのような言い草に、アコ達は唖然とする。

 

 

『で、出鱈目を言わないでください!この辺り一帯は既に立退き命令が出ているはずでしょう!?民間人がまだ残ってるなんて、そんな事ある筈が……!』

 

『……立退き命令?訳の分からんこと言ってんじゃねぇよ』

 

『お前達が壊した柴関ラーメンは営業中だった。客は俺とアルたちしか居なかったが、大将が居たんだぞ……!』

 

『それになぁ、あの店は大将が屋台時代からコツコツと積み上げてようやく持った店なんだっ!多くの人に愛されてた店なんだよ!!それをよくも……!!』

 

 

 血が滲む程強く握り締められたカオナシの手は、ふるふると震えていた……その震えには、疲労や怒りによるものも含まれているのだろう。

 

 ……しかし、一番多く占めていたのはそのどちらでもなく──"何故大将の店が壊されなければならなかったんだ"というやるせなさであった。

 

 先程まで鬼のように暴れ回っていたカオナシの変化を目にした彼女たちは、彼の言葉が真実であると悟る。

 

 

 "私たちは、取り返しのつかないことをしてしまった"──風紀を維持すべき筈の自分たちが仕出かした事の罪の大きさを自覚した彼女たちに……既に戦意は残されていなかった。

 

 

『……お前達にどんな目的があってこんな事をしたのか、今更興味はねぇ……』

 

 "ただ、報いを受けろ"──その言葉と共にカオナシは棍を振り下ろし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──駄目だよ、リンくんっ!」

 

 

 ──軌道を遮るように前に出てきた人物を目にし、ピタリと動きを止めた。

 

 

『……そこをどいてくれ、ユメ』

 

「……どかないよ」

 

 

 眦に涙を溜めながら、盾すらも投げ出し……両手を広げ、まるで庇うように立ち塞がるユメを前にしたカオナシは"何故庇うのか"と問う。

 

 

『そいつらは大将の店を壊したんだぞ……ユメも知ってるだろ、あの店は──』

 

「……もちろん知ってるよ、この子たちが大将さんのお店を壊したのも、直接聞いた」

 

『なら、なんで……!』

 

 

 "そこまで理解しているのなら邪魔をしないで欲しい"、"傷付けたくないから、どいて欲しい"──そんな思いを込めてユメを見るが、引いてくれない。

 

 壊れた仮面の下で顔を歪めるリンへと、ユメは一歩、また一歩と近づいて行く。

 

 

「だって……これ以上は、リンくんが戻れなくなっちゃうから」

 

『──ッ!!』

 

 

 手を伸ばし、リンの頬に手を添えながら、ユメは涙を流しながらも微笑みかける。

 

 

「リンくんは優しいから、小さい頃からずっとお世話になってた大将さんのお店が壊されたのが許せなかったんだよね?」

 

「……私も同じ。リンくんを爆発に巻き込んで、大将さんの大切なお店を壊したのは許せない」

 

「……それでも、これ以上はダメだよ。……風紀委員の皆は、既に十分に報いを受けてるから」

 

「あと、大将さんからリンくんを止めてあげて欲しいって頼まれてるからね!」

 

 

 ユメとて、決して怒りを抱いていない訳では無い。……それでも、その怒りを呑み込み抑えようとする彼女を前に、リンは棍を手放した。

 

 

『……そうか、店を壊された張本人がやめろって言うなら、これ以上やるのは却って迷惑になっちまうな』

 

「うんうん!分かってくれて良かったよ〜!」

 

 

 先程までの恐ろしさは何処へやら、本当に同一人物かと疑いたくなる程の変化に、イオリ達は愕然とする。

 

 

(((なんというか、猛獣と猛獣使いみたい(ですね)……)))

 

『……何か失礼なこと考えてないか?』

 

「「『いえ(いや)、まったく』」」

 

 

 腑に落ちない様子のカオナシは、"そういえば"と何かを思い出したように呟くと、ユメへと視線を落とす。

 

 

『ユメ、止めてくれてありがとうな。……それと、他の人が居る時はカオナシって呼べって言っただろ』

 

「あうっ…ごめんねー…」

 

 

 決して踏み越えては行けない一線を越える前に止めてくれたことに対して礼をしつつ……半分くらいは自分の所為とはいえ、あっさりと本名を出したユメの額に"ぱちんっ"と軽くデコピンをしながら窘める。

 

 ユメに対して優しげな雰囲気を醸し出していたカオナシは──"グルン"とイオリ達に顔を向けると態度を一変させ、"俺の名前については誰にも言うなよ"と釘を刺す。

 

 ……彼女らに、拒否権はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いったい、何がどうなってるのかしら?」

 

「……うへぇ〜、おじさんも今来たばっかりだから分かんないや。……先生やシロコちゃん達は分かる?」

 

「「「「「……いや、まったく」」」」」




『──』
・眼に神秘を集中させることで、動体視力を向上させる技。これが無いと連続縮地での戦闘難易度が跳ね上がる。
※極端に言うと、使わないとONE〇IECEの杓死、使えば剃になる
・目と脳がめっちゃ疲れる、本来は短期決戦向け。
・実は本来の用途は別にあり、然るべき時にモザイクが取れる。


銃弾はじきについて
・ホシノとの戦いの後、"後輩に出来て俺に出来んはずがない!"と只管に修練を重ねた結果会得した。……単なる負けず嫌いによるものである。……後かっこいいから。
 ただし、ホシノは死角から放たれたものに対しても対応できるが、カオナシは視界に捉えたもののみ。……視界に捉えたものについては、カオナシの方が精度は上。
 ユメの場合は、盾で逸らし弾いた上で敵に当てる。※対策委員会 VS 便利屋68① 参照


目にも止まらぬ速さによる移動
・皆さんご存知「縮地」によるもの。ホシノと比べて遥かに耐久力が劣る(※比べる相手が悪い)カオナシは、格上相手にどう戦うかと悩みに悩み──"当たらなければいい"という結論に至った。元は能力を用いて実現していたものを、左腕を失ってからは縮地で行うように。The、脳筋。

……ただし、最上位勢は直感で合わせて来たりするから困る。byリン


ユメ先輩セラピー
・リン&ホシノ特攻。
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