小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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前回の風紀委員との戦いについて
・当初の予定だと、ユメ先輩や対策委員会も戦闘に参加予定でした。……ただ、ユメ先輩が大切なものを守る為に戦うイメージはできても、報復するために戦うのはなんか違うなって思ったのでボツになりました。
 ……結果、カオナシの負担が相対して大きくなっています。



ゲヘナ風紀委員長

 ──便利屋とゲヘナ風紀委員会の戦闘は終了した。

 

 

『はぁ……まさかカオナシが居るだなんて、本当に予想外でした。……いえ、仮に居たとしても、これだけの戦力差をたった数人で覆されるだなんて……』

 

『カオナシを巻き込んで……いや、違いますね。民間人を巻き込んでしまったことが、私達の敗因ですか……』

 

 

 カオナシの手によって、構成員の大半を打ちのめされた風紀委員は、自分たちの不甲斐なさに意気消沈していた。

 

 "これでは、ゲヘナ風紀委員会はヒナ委員長以外は寄せ集めと言われようとも否定出来ない"──そんな悲観が、風紀委員の──特に、イオリの胸中に渦巻いていた。

 

 

 ……否、理由はそれだけでは無い。本来であれば守護すべき民間人に危害を加えてしまうという、正義を司る組織に有るまじき行為を働いてしまったというのも、彼女らの消沈に拍車をかけていた。

 

 

『無断で兵力運用した上に、本来の目的も果たせずじまい。更には民間人へ危害を加えてしまったなんて……もし知られてしまえば、取り返しのつかないことに……!』

 

 

 通信機越しに頭を抱えるアコ──周りの見えなくなった彼女は、イオリとチナツが青ざめている事に気付かない。

 

 

「……アコ、誰に知られたら取り返しのつかないことになるの?」

 

『誰にって、それはもちろんヒナ委員長に……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……え゙っ?』

 

 "ギギギッ"と、錆び付いた螺巻を無理矢理回すが如く、ゆっくりと振り向く。

 

 ──視線の先には、敬愛する風紀委員長の姿が

 

 

『ヒッ、ヒヒヒヒヒヒヒナ委員長!?ど、どうしてここに……!?出張中だったはずでは!?』

 

「出張はもう終わった。ここに来たのは………カオナシから連絡を受けたから」

 

『そんな……い、いつの間に連絡を……』

 

 

 一番知られなくなかったヒナに早くもバレてしまったという事実に、アコは項垂れる。

 

 そんなアコを置いて、イオリはふと疑問に思った事について訊ねる。

 

 

「あの、委員長……?さっきカオナシから連絡を受けたって言ってたけど、知り合いなの?」

 

「……言ったことなかった?……時折、どうしても手が足りない時に手伝ったりしてもらってるのだけど」

 

(((……初耳ですけど!?)))

 

「後はそうね……二、三週間に一回くらいのペースで組手をしてるわ」

 

 

 "ゲヘナ最強と組手をしている"──本人から聞いてもなお耳を疑うような情報を齎された風紀委員は、先程までの純粋な恐怖に混じり、理解の及ばぬものを見るような畏怖の目をカオナシに向けていた。

 

 

 ……そんな中で、一人だけ

 

 

(……だから、あんなにも強かったんだ。……ううん、それで納得しちゃ駄目だ)

 

(私も、もっと強く──)

 

 ◇

 

「うへ、それにしても派手にやったねぇ、カオナシ」

 

 

 "アヤネちゃんに呼ばれて急いできたけど、出る幕なかったな〜"と、欠伸をしながら近づいてくるホシノ。彼女に続くように、対策委員会のメンバーもやってくる。

 

 カオナシは、ホシノたちの方へと顔を向けようとして──"バッ!!"と、右目部分を抑えながら反対方向へと顔を逸らした。

 

 

(──やばい、仮面壊れかけてんの忘れてたッ!!……下手したら目元だけでホシノに正体がバレかねん……!)

 

 

 もしかしたらバレないかもしれないが……ユメという前例がある以上、なるべく不安要素は排除しておいた方がいい。……大将?あの人は例外である。

 

 ……兎にも角にも、急いで隠さねばならぬとカオナシは立体映像投射装置を操作する。

 

 

「どうしたの〜?右目なんて抑えて」

 

『……爆発に呑まれた時に仮面が一部砕けちまってな』

 

「……うへ、こんな状況でも顔を隠そうとするなんて、ほんと筋金入りだねぇ……」

 

 

 "怪我とか、もっと気にすべきことがあると思うけどな〜"と、肩を竦め呆れ返るホシノと、苦笑する先生たち。……そんな彼女たちから少し距離を取ったヒナは──

 

 

「……そう、貴方は」

 

 ──"まだ、伝えていなかったのね"

 

 

 ──ポツリと、そう呟いた。

 

 

「……?ヒナ委員長、今何か……?」

 

「……いいえ、何でもないわ。チナツは負傷者の手当を、イオリはチナツの手伝いをしておいて」

 

『あのー…ヒナ委員長?私は「アコは私が戻るまで反省文を書いて謹慎していなさい」……はい、すみませんでした……』

 

 

 ヒナに叱られ、反省文を書く為に通信を切ろうとするアコに対して、先生は待ったをかける。

 

 

「ねぇ、どうして貴方たちはアビドスに来たの?」

 

『……それは、便利屋68を捕らえる為に』

 

「たった四人の為に、これだけの人数を引連れて?」

 

 

 先生に詰められ、言い淀む。……今回はカオナシというイレギュラーがいた為に想像以上の被害を被ったが、確かに普段であれば便利屋68だけの為にここまでの兵力運用はしない。

 

 

「アコ、先生達には何故こんな事をしたのかを知る権利がある。……貴女の口から、しっかりと説明しなさい」

 

「……アコが話せないというのなら、私が話しても良いけれど」

 

『……いえ、これ以上ヒナ委員長のお手を煩わせる訳にはいきません。……私の方から説明致します』

 

 

 ……ただの説教であれば、寧ろアコにとっては御褒美と言ってもいいかもしれない。……しかし、軽蔑された果てに、敬愛するヒナ委員長から関心を向けられなくなるのは耐えられない。

 

 それ故に……アコは苦虫を噛み潰したように顔を歪めながら、ポツポツと今回の凶行に至った理由を語り始めた。

 

 

『……きっかけは、ティーパーティーでした──』

 

 ◇

 

『──と、言う理由です』

 

 

 アコ曰く──便利屋68を捕らえるというのは建前で、本来の目的は"シャーレの先生"という、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び、トリニティとのとある条約が締結されるまで隔離をする事が目的であったとのこと。

 

 

『最悪の可能性としてシャーレの先生と敵対する可能性も考えての戦力でしたが……民間人に被害を加える意図は有りませんでした』

 

 

 "本当に、申し訳ありません"──通信機越しではあるが、深く、深く頭を下げてアコは謝罪する。

 

 

「私からも改めて──事前通達無しでの無断兵力運用、他校の自治区で騒ぎを起こしたこと」

 

「この事については私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドス対策委員会に対して公式に謝罪をする」

 

「今後、ゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することは無いと約束する。どうか許して欲しい」

 

 

 ヒナ自身には咎は無い。……しかし、組織の長として、部下の不始末に対する責任を果たすために、彼女もまた深く頭を下げる。

 

 

「……アビドスへの不義理な行動については許すよ」

 

「でも、どれだけ謝っても大将さんのお店が元に戻ることはない。……だから、大将さんにちゃんと謝って、大将さんが許したなら私達からはもう何も言わないよ」

 

「……えぇ、もちろん。……罪の無い民間人に危害を加えてしまったことについては、後日改めて謝罪の品を持って本人に謝りに行かせてもらう」

 

「……なら、私からはもう何も言うことは無いかな?皆も良いよね?」

 

 

 アビドスの代表として対応したユメの言葉に、ホシノ達は頷く。

 

 ……大将の店を壊されたことについては、カオナシが既に戦闘を終わらせてしまっていたことで鬱憤をぶつける先が無くなっていたため、モヤモヤとした気持ちが残っていない訳では無い。

 

 しかし、既にボロボロになっている風紀委員達に追い打ちをかけるほど非情にはなれず……また、ユメの言う通り後は大将が直接対応すべきことである為、納得することにした。

 

 

「……カオナシくんも、それで良い?」

 

『あぁ……俺の方こそついカッとなってやり過ぎたし、これ以上責め立てるつもりは無い。……ユメの言う通り、後は大将の判断に任せる』

 

「ありがとう。……チナツ、負傷者の手当は終わった?」

 

「はい、最低限ではありますが……」

 

「そう。……なら、全員引き連れて先に帰還して」

 

「えっと、委員長は……?」

 

「……私は先生とカオナシに対して、少し話があるから」

 

 

 唐突に指名された先生は──"ん、私?"と首を傾げヒナを見る。

 

 自分に目を向ける彼女の瞳は真剣な色を帯びており、余程大事な用事なのだろうと察した先生はヒナの元へと歩みを進め、カオナシもまた先生の後ろに続いた。

 

 ◇

 

「──それで、話って何?」

 

 

 ヒナに連れられ、対策委員会から少し距離を取った後、先生は早速話を切り出す。

 

 ……本当ならゆっくり話をしたいが、今のアビドスは借金の返済だけでなく、カイザーへの対策を立てたりなどやることが山積みであり……またいつカイザーがアビドスに害をなそうとしてくるかも分からないため、時間を無駄にできる余裕もなかった。

 

 

「そうね、私もあまり長い時間ゲヘナから離れているわけにもいかないし……早速本題に入りましょうか」

 

「……カオナシと一緒にいるのなら既に知っているかもしれないけれど──」

 

 ──"カイザーコーポレーションのこと、知ってる?"

 

「──っ!」

 

 

 "カイザーコーポレーション"……勿論、知らないはずがない。アビドスが借金をしているカイザーローンの親元であり、アビドス襲撃の黒幕。

 

 温厚な先生ですら決して良い感情を持たぬ相手の名が出てきた事に驚愕しつつも、すぐに気を取り直すと"……良く知ってるよ"と頷きを返す。

 

 

「……そう、なら話は早い」

 

「これはまだ"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"も、ティーパーティーも知らない情報だけど」

 

「……一応、カオナシに頼まれていたことでもあるし、丁度いい機会だから伝えておく」

 

「……アビドスの捨てられた砂漠……あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでる」

 

「『……』」

 

 

 ……またもやカイザーコーポレーション……アビドスに巣食い、"幼馴染と後輩たち / 子供たち"に悪意の手を伸ばす薄汚い企業に、二人は揃って顔を顰める。

 

 

『……それは、アコが言ってた"この辺り一帯に立ち退き命令が出ている"っていうのに関係しているのか?』

 

「えっ!?それほんと!?」

 

 

 カオナシから齎された新情報……ここはアビドス自治区のはずだが、立ち退き命令が出ているだなんて話は一度も聞いたことがないし、そもそも対策委員会の皆が出すとも思えない。

 

 "いったい誰が出したのか"──新たに浮かび上がった疑問に対する明確な答えは……残念ながら、この場にいる誰も持ってはいなかった。

 

 

「……申し訳ないけど、はっきりとした答えは出せない。……でも、カイザーコーポレーションが関係している可能性は十二分にあると思う」

 

「そっか……教えてくれてありがとう、ヒナ。後は大将に直接聞いてみるよ」

 

「気にしないで、元々カオナシにも頼まれていたことだから」

 

「……それじゃあ、私はそろそろ帰らせてもらう」

 

 

 ヒナは軽く頭を下げたあと、踵を返してゲヘナ学園への帰路に……つこうとし、何かを思い出したようにピタリと足を止めた。

 

 

「……カオナシ、明日は確か組手を行う日だったと思うけど、やめておく?」

 

『……そうだな、貴重な機会を無駄にはしたくないんだが……流石にちょっと体力を消耗しすぎたし、出来れば別日に調整して貰えるとありがたい』

 

『……それに、明日はそっちも治安維持に割ける労力が少なくなってるからそれどころじゃなさそうだしな』

 

「……それもそうね。日付の変更については、今回迷惑をかけたお詫びとしてどこか都合のいい日を見繕っておく」

 

 

 "それじゃあ、また"──そう言い残すと、ヒナは改めてゲヘナ学園への帰路についた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「あっ!先生たちが戻ってきましたよ〜♪」

 

「ん、随分話し込んでたみたいだけど、何を話してたの?」

 

 

 戻ってきた二人に向けて、早速シロコが会話の内容について訊ねるが……立ち話で伝えるような内容でもない為、"後で話すよ"と会話を切りあげ、自分たちの学校へと歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その最中、何か気になることがあったのか、ホシノは少し距離を置いていたカオナシに近づき疑問を投げかけていた。

 

 

「……ねぇカオナシ、ひとつ聞きたいことがあるんだけどさ」

 

 

 ──"ゲヘナ風紀委員会との戦闘の時、リン先輩は来てなかった?"

 

 

『…………いや、来てなかったぞ』

 

「……そっか、変な事聞いちゃってごめんね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……最初は単に、黒服が自身を翻弄するために嘘をついている可能性も考えていた。

 

 しかし、あの戦闘跡を見た時……過去の記憶と比べて規模は桁違いだが、ホシノは僅かに混じる先輩の面影を見出していた。

 

 

(……先輩は、大切なものを傷つけられることに対して大きな怒りを抱く人だったから。……柴関ラーメンが爆破されて、報復しにこないなんて有り得ない)

 

(それに、カオナシに問いかけた際の間の置き方……やっぱり、先輩はアビドスに来てて、風紀委員会との戦闘の際に共闘してたんだ……)

 

 

 ……ホシノの考えは、全てただの憶測でしかない。……しかし、焦りや後悔に包まれた彼女の思考は──"そうだ、そうに違いない"と決めつけ、思い込んでしまっていた。

 

 

 

 

 ──以前であれば僅かにでも脳裏に過っていたはずの、"カオナシの正体がリンでは無いか"という考えすら、無意識に排除してしまう程に。

 

 

 

 

 カオナシが誤魔化したのは、先輩に頼まれたからか……もし頼まれたのなら、一体なぜそのような事を?

 

 

(先輩は、やっぱり……)

 

 

 深みに嵌りかけた彼女の思考は──いつの間にかすぐ側まで来ていた、もう一人の先輩によって遮られた。

 

 

「ホシノちゃん、どうしたの?……眉間に皺がよってるよ〜?」

 

 

 "可愛い顔が台無しだよ〜!"と、ユメはホシノの顔を両手で包み込むと、もにもにと撫でくりまわし始める。

 

 ……しかし今は帰宅の最中、こんな事をしていると勿論足が止まってしまうわけで……

 

 後輩たちに迷惑を掛ける訳にはいかないと、ユメに苦言を呈そうとしたその時──先輩が、自分のことを真剣な眼差しで見つめていることに気が付いた。

 

 

「……何か悩みがあるなら、一人で抱え込まずに教えてね?」

 

「…………うへ、わかってますよ。……約束しましたから」

 

 

 ホシノの言葉を聞いたユメは、"ならばよし!"と顔から手を離すと、ホシノの手を掴み隣を歩く。

 

 ホシノは、そんな先輩の気遣いに対して感謝の気持ちを抱きつつ──

 

 

(……ごめんなさい、ユメ先輩。……これだけは先輩にも言えないです)

 

 

 ──内心で、打ち明けられないことに対して謝罪する。

 

 もしかしたら、気付いているかもしれないけれど……余程の事がない限り、無理矢理聞き出そうとはしない先輩の優しさに甘えながら、ホシノは先輩の手を握り返した。




※便利屋68の面々は、ヒナが現れた瞬間に脱兎のごとく離脱しました。
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