小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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核心に迫る

 ──風紀委員会の襲撃があった翌日、アヤネとセリカ、先生は柴大将が入院している病院へと訪れていた。

 

 

「こんにちは、大将。お見舞いに来ました」

 

「大将、大丈夫?」

 

「やぁ、セリカちゃん。それにアヤネちゃんも、こんな早い時間からありがとうな」

 

 

 ……因みにだが、柴大将は別に大きな怪我を負っているとかではない。……庇われたとはいえ、爆発に巻き込まれたが故に大事をとって入院しているだけである。

 

 

「てか、俺よりもカオナシくんは大丈夫なのか?俺を庇ったせいで怪我とかしてなければ良いんだが……」

 

「あぁ、カオナシなら大丈夫ですよ。……まぁ、怪我はあまりなかった分、体力の消耗が激しかったみたいで帰った後は泥のように眠ってしまいましたけどね……」

 

「そうか……カオナシくんには、申し訳ないことをしちまったなぁ……」

 

 ◇

 

 大将の無事を確認できた先生は、改めて()()()()()を投げかける。

 

 

「大将、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

 

「ん?おう、俺に答えれることならなんでも聞いてくれ」

 

 

 大将から許可を得た先生は、先日浮上した新たな疑問──"柴関ラーメン周辺一帯の退去命令"についてを口にする。

 

 "退去命令"──その言葉を耳にした大将と、対策委員会の反応は対象的であった。

 

 大将はあっさりと、"あぁ、その事か……"と静かに目を伏せるのに対し──

 

 

「た、退去命令ってどういうことですか?アビドス自治区の所有者は、アビドス高校の筈です……!」

 

「そうよ!冗談だとしても言っていいことと悪いことがあるわよ!いくら先生とはいえ──」

 

 

 アヤネとセリカは、そのような話は聞いた事がないと……セリカに至っては、先生に掴みかかろうとしていた。

 

 ──そんな二人の様子を目にし、確信する。

 

 退去命令はアビドス高校が出したものでは無い。……しかし、現にアビドス自治区に位置する筈の柴関ラーメンの周辺一帯には退去命令が出てしまっている。

 

 それが意味する事は、即ち──

 

 

「……そうか、君たちは知らなかったんだな」

 

「何年か前……アビドスの生徒会が借金を返せなくて、建物と土地の所有権が移ったんだ」

 

 

 ──アビドス自治区は、既にアビドス高校の管理下から離れているという証左であった。

 

 

「実は、ちょっと前に退去通知を受け取っていてな……もうすぐお店も畳む予定だったから、予定がちょっと早くなっただけだ」

 

「……折角入ってくれたのに、バイト出来なくなっちゃってごめんな、セリカちゃん」

 

「そんな……!」

 

「う、嘘!?アビドスの自治区なのに!?じゃあ今は一体誰が……!?」

 

 

 ……出来れば、当たっていて欲しくはなかった。しかし、現実から目をそらしていたらアビドスの現状を変えることは出来ないため、状況を飲み込めていないアヤネとセリカに対して申し訳なく思いつつも、先生は確信へと迫る問いを投げかける。

 

 

「大将、退去命令を出したのはもしかして──カイザーコーポレーション、じゃないですか?」

 

「「!?」」

 

「うーん、そんな名前だったような気もするが……悪いな、はっきり覚えてねぇや」

 

 

 残念ながら大将は覚えていなかったが……これまでの状況から推測して、カイザーコーポレーションか、もしくはその系列企業が関係しているのはほぼ間違いない。

 

 ──これまで当たり前に存在していると思っていたものが、実は既に自分たちの手から離れている。

 

 先程まで困惑していたアヤネとセリカもまた事の重大さに気付くと、自らに出来る行動を取り始めた。

 

 

「セリカちゃん、先生。お二人は先に学校に戻っていてください。私は確認したいことがあるので、ちょっと別のところに寄ってから行きます」

 

「ま、待ってアヤネちゃん!正直まだ状況が把握しきれてないけど……私も一緒に行くわ!」

 

「では、先生は先に戻っていてください!私達も直ぐに戻りますので!」

 

「……分かったよ。私も伝えたいことがあるから、待ってるね」

 

 

 ──互いに今成すべきことを定めた彼女たちは、目的を果たす為に行動を開始する。

 

 

「大将!まだ引退とか考えないでよ!分かった!?」

 

「お、おぉ……何か良く分からんけど……そうだな、柴関ラーメンが好きだって言ってくれるお客さんの為にも、引退はまだしないさ」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「あれ、先生?思ったより早かったですね☆」

 

「ノノミちゃんの方こそ」

 

 

 アヤネとセリカと別れ、一足先にアビドス高校に辿り着いた先生は、校門前で箒を片手に舗装された箇所に積もった砂を払っているノノミと出会した。

 

 ……大人数で行くと病院側にも迷惑がかかってしまうため、お見舞いには行かなかったノノミであったが……彼女にとっても柴関ラーメンは馴染みのある店。何度もお世話になっている大将の事が心配で、じっとして居られなかったため掃除をして気を紛らわしていたとの事であった。

 

 そんな彼女に大将の無事を伝えると、安心した様子でホッと息を吐く。

 

 

「それは良かったです。落ち着いたら、シロコちゃんやホシノ先輩、ユメ先輩と……後はカオナシさんと一緒に、お見舞いに行くとしましょう」

 

「……そうでした、カオナシさんには大将を庇って下さった事について、改めてお礼を言わないとですね☆」

 

「そうだね。……もしかしたら、お見舞いに行く前に退院しちゃうかもしれないけどね」

 

 ◇

 

 ──一方、その頃

 

 

「ん?」

 

『……お?』

 

 

 ロードバイクに乗って登校していたシロコは、同じくバイクに乗って学校に向かっていたカオナシと出会した。

 

 

「目が覚めたんだ。……もう動いても大丈夫なの?」

 

『あぁ、ちょっと無理しすぎて体力と神秘を消耗しすぎただけで、怪我自体は殆ど負ってなかったからな』

 

「そっか。……みんな心配してたから、後でお説教される事を覚悟しててね」

 

 

 ──シロコから告げられた"説教"という言葉に、カオナシは過去何度もされた事を思い出し、仮面の下で苦い顔を浮かべる。

 

 出来れば今すぐにでも踵を返してシャーレに戻りたいが……無茶をしてしまったという自覚はある為、"甘んじて受け入れるしかないかぁ"と諦観の念を抱きながら、バイクをシロコに合わせて併走させる。

 

 

「……そういえば、どうしてカオナシは無理してまで風紀委員と戦ったの?」

 

『ん?……あれだけの人数が残った状態で指揮官のアコが来ると面倒──』

 

「そうじゃない」

 

 

 ……てっきり、"どうして自分たちが来るまで待っていなかったのか"と聞かれているのかと思ったが、どうやらシロコの望んだ答えではなかったらしい。

 

 

「カオナシが柴関ラーメンの為にあそこまで無茶する理由が分からなくって。……あ、別に悪いとは言ってないから誤解しないで」

 

 

 シロコが不思議に思うのも仕方がない。彼女たちからしてみれば、カオナシはあくまでも協力者というだけであり──意識を失うギリギリの状態になるまで無茶をするという彼の行動には、どうしても違和感を抱かざるを得なかった。

 

 一方、問われたカオナシはというと──照れ臭そうに後ろ首に手を添え……"誰にも言うなよ?"と前置いてから、ボソリと呟く。

 

 

『……アビドスが好きになっちまったんだよ。……それに、大将には何度もお世話になってたからな。彼処はアビドスに住む人達の色んな思い出が詰まってるし……壊されたのが、許せなかったんだ』

 

 

 "アビドスを好きになった"──常に仮面で顔を隠し、コートで体型を隠し……何もかもが不明なカオナシから告げられた理由は、見た目に反してあまりにも単純なものであった。

 

 思わずキョトンとした表情を見せるシロコは、徐々に口角を釣り上げていき──ニヤニヤとした表情を浮かべてカオナシを見る。

 

 

「ん、アビドスを好きになったなら仕方ない。……みんなに教えたらきっと喜ぶ」

 

『おい、誰にも言うなって言ったばかりだよな?何でスマホ取り出した?』

 

「大丈夫、モモトークで書き込むだけだから」

 

『何も大丈夫じゃないが?……おい待て逃げんじゃねぇ!』

 

 

 ロードバイクを漕いで学校へと向かうシロコと、バイクを走らせ追いかけるカオナシの追走劇は……既に学校の側まで来ていたために、シロコの勝利で終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「なによこれ、こんな事って……!」

 

「……急いで先生たちに知らせましょう、セリカちゃん!」

 

 

 

 アビドスに迫る魔の手は、想定以上に深く根付いていて──

 

 

 

『ふ、ふはははは!そうか、あの忌々しい便利屋はアビドスに居たのか!!』

 

『……いい加減、対策委員会とやらも鬱陶しく思っていたところだ。……纏めて潰してやるとしよう』

 

 

 

 ──大人の悪意が、少女達へと襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、カオナシくんはアビドスが好きなんだ〜!…えっへへ、嬉しいなぁ♪」

 

「カオナシさん、アビドスを好きになってくれてありがとうございます☆」

 

『……結局全員にバラしてんじゃねぇか!』

 

「いひゃい……」

 

 

 

 互いを思うが故に……思いも虚しく、すれ違いは段々と大きくなっていき──

 

 

 

「うへ、そっかぁ……カオナシはアビドスの事をそんなにも好いてくれてたんだね〜」

 

(……なら、おじさんが居なくなった後も安心だね)

 

 

 

 ──少女は一人、アビドスを去る覚悟を決めてしまうのであった。




ゲーム本編をやっていた方は、あれ?と思った部分があるかもしれません。

「私がアビドスを──」にもあった通り、現段階ではホシノちゃんは退部・退学する事を考えていません。なのでシロコちゃんが退部・退学届を発見することもありません。

……今はまだ、ですけどね。
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