おまたせしました、ちょっと今回は時間がかかってしまいました。
「な、何よこいつ……」
「……」
突如として現れた大柄なオートマタ。他とは明らかに異なる風格──そして、じとりとまとわりつく様な悪意を感じ取り、否が応にも警戒心を抱かされる。
『勝手に私有地に入り、暴れたことによるこれらの被害額。君たちの学校の借金に加えても良いのだが……まぁ、大して変わらないな』
『……うん?そこのお前は確か、例のゲマトリアが狙っていた……ふむ、面白いアイデアが浮かんだ』
初めはほとほと呆れ果てたと言った様子のオートマタであったが、ホシノを視界に収めると途端に悪辣な笑みを浮かべる。
悪意ある視線に、ホシノが不快感を抱いていると──オートマタの視線を遮るように、カオナシが前に出た。
「カオナシ…?」
『……』
『ん?その仮面……そうか、貴様がカオナシか!アビドスに居るという情報は得ていたが、態々貴様の方から来てくれるとはな、手間が省けた』
目の前に立つ存在に、"アビドスに居るという情報を得ていた"と告げられたカオナシはピクリと反応する。
"風紀委員相手には偽装できていたのに何故……"と思考したところで、"風紀委員相手に暴れ回ってしまったからこそバレてしまったのか"と、己の行動の迂闊さに嘆息する。
……しかし、反省すべきことではあるが今することでは無いと意識を切り替えると、改めて目の前のオートマタに目を向ける。
自分がアビドスを去った後に入学した後輩たちや、先生はオートマタの事を知らないようだが……己は、目の前の存在をよく知っている。
『……態々俺たちの前に姿を現すなんざ、迂闊すぎるんじゃないか?なぁ──』
──"カイザーの理事さんよォ"
後輩の前に立ち、目の前のオートマタ──"カイザー理事"と対峙するカオナシ。
彼の言葉を耳にした彼女達もまた、目の前の存在がアビドスを付け狙う怨敵であると知り、怒りの感情を露わにする。
しかし、カイザー理事は気にとめた様子もなく……それどころか、カオナシの後ろに立つ対策委員会に対して嘲笑を浮かべる。
『君達ならよく知っている相手の筈だが……カオナシに言われてようやく気付くとは、随分と愚かだな』
『……そうだな、少し訂正しておこう。正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ』
『今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている』
──カイザー理事は、くつくつと笑い声を上げる。
『それと、"迂闊すぎる"だったか?……その言葉、そっくりそのまま返してやろう』
『散々我らが事業の邪魔をしてきたこれまでの貴様であれば、今回の様な証拠が残りかねない行動は決してしなかったはずだ』
『……現に今までは、貴様だと分かっているにも関わらず、デジタル面でも、アナログ面でも一切の物的証拠が残されていなかったが故に、大々的に制裁を加えることが出来なかった』
『どれだけの報酬を提示しても決して依頼を受けようとせず、あまつさえ妨害ばかりする貴様を……忌々しく思ってはいたが、手腕については認めていたのだがな。……態々潜入に慣れていないであろうアビドスの生徒を引き連れるとは、絆されでもしたか?』
嘲笑う理事の言葉に対して、カオナシは仮面の下で苦笑いを浮かべる──"傍から見れば、絆されているように見えるのか"、と
……自分は元々アビドスの、幼馴染の、後輩の為に行動してきたのだから、絆されるも何も無いのだが……馬鹿正直に伝える事も出来ないため、"どうしたものか"と頭を悩ませていると──
「……勝手に話を進めないで。ここに来ようって言ったのは私達で、カオナシの責任じゃない」
「そうだよ、カオナシくんは私達の手伝いをしてくれただけ。……カオナシくんを悪く言わないで」
──先程まで後ろに立っていた幼馴染と後輩たちがカオナシの隣に立ち、カイザー理事へと非難の目を向けていた。
「長々と語ってたけど……要は貴方がアビドス高校を騙して、搾取した張本人ってことでしょ?」
「そうよ!ヘルメット団と……後、便利屋を仕向けてここまで私たちをずっと苦しませてきた犯人があんたってことなんでしょ!?あんた達のせいで私たちは……アビドスは……!!」
積怒の念のこもった瞳で睨めつける対策委員会であったが、理事は一切気に留めた様子もなく、鼻を鳴らして彼女達を見下す。
『……どうやら、自分たちの立場が未だに理解出来て居ないようだな』
『ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所。まず君たちは今、企業の私有地に不法侵入しているのだということを理解するべきだ』
「「──っ!」」
『それに、先程から話を聞いていれば、騙しただのと……』
『──
納得できない……納得、出来るはずがない。
……しかし、例え騙した上のものであっても、正式な記録の残された取引によってアビドスの土地がカイザーの手に渡ってしまったという事実を変えられないということを理解している彼女たちは、何も言い返せずに言葉を詰まらせる。
『ここに来たのは、大方私たちがここで何をしたか気になったと言ったところか?どうしてこんな砂以外何も無いような、寂れたアビドスの土地を買い取ったのか、その理由が知りたいのか?……良いだろう、特別に教えてやろう』
『──私達はアビドスの何処かに埋められているという、宝物を探しているのだ』
「……っ!」
「……そんなでまかせ、信じるわけないでしょ!?」
「それはそう。もしそうだとすると、このPMCの兵力について説明がつかない。……この兵力は、私達の自治区を武力で占領するため、違う?」
──数百、下手したら千にも達する兵数に、数多の兵器。
冷静に考えれば、宝探しに兵器など必要ないが……理事は、シロコたちの指摘を鼻で笑いながら否定する。
『ふん、たった六人しかいない学校のために、これ程の用意をするとでも?』
『冗談じゃない。あくまでこれは、どこかの集団……もしくは奴に、宝探しを妨害された時のためのものであって、君たちの為に用意したものではない』
『……それに君たち程度、いつでも、どうとでも出来るのだよ。……例えば、こんな風にな』
携帯を取り出して何処かに連絡をする理事の姿に、不穏な空気を感じ取るホシノたち。
『──残念なお知らせだ。どうやら、君たちの学校の信用が地に落ちてしまったらしい』
程なくして通話を終えた理事は、対策委員会の少女たちに嘲笑を向け──直後、アヤネが持ち出していた学校用の端末に一本の電話がかかってきた。
……このタイミングで掛けてきた相手には申し訳なく思いつつも、今はそれどころではないと応答を拒否しようとするが──
「……カイザーローン?なんで今……」
──相手がカイザーローンだと気付き、手を止める。
このタイミングに、先程の理事の言葉……嫌な予感を感じながらも応答する。
『──こちらカイザーローンです。現時点を持ちまして、アビドスの信用評価を最低ランクに下げさせて頂きます』
「えっ!?」
『変動金利を3000%上昇させる形で調整。それらを諸々適用した上で、来月以降の利子の金額は9130万円でございます。……それでは引き続き、期限までにお支払いをお願いいたします』
「ちょ、ちょっと待ってください!!そんな、急にどうして……!?」
突如として跳ね上げられた利率と返済額に目を剥くアビドス生たち。……まさかと思い、理事に目を向けると……案の定、自分たちを小馬鹿にしたように笑い声をあげる姿が目に映る。
『くっくっく……これでわかったかな?君たちの首にかけられた紐が今、誰の手にあるのか』
「……!」
「ちょっ、嘘でしょ!?本気で言ってんの!?」
「……そんな法外な金利、認められる筈がない」
『うん?……確か、先生と言ったか』
『──もちろん認められるとも、そういう規則なのだからな。それとも何だ、シャーレとやらの権限を使ってみるか?……いくら超法規的な権限を持つ組織とはいえ、たった一人で何ができる?』
「それは……」
『ふん、何も言い返せないか。……ふむ、これだけでは些か面白みに欠けるな』
『……そうだな、ついでと言ってはなんだが、7億円の借金に対する保証金も貰っておくとしよう。一週間以内に、我がカイザーローンに3億円預託して貰おうか』
『──この利率でも借金返済が出来るということを、証明してもらわねばな』
一週間以内に3億円……ただでさえ毎月の利息分を返すだけでも精一杯の状況なのに、そんな額を払えるはずがない。……仮に払えたとしても、来月からはこれまでの10倍以上の額の利息を支払い続けなければならない。
『……だが、私とて鬼では無い。貴様らにチャンスをやろう』
絶望に打ちひしがれている折に理事から告げられた"チャンス"という言葉──こんな奴の言葉に従いたくは無いが、現実的に考えて提示された金額を支払うことなど不可能と理解してしまっている彼女たちは、理事の言葉に耳を傾けざるを得ない。
『くっくっく、殊勝な心がけだな。……だが、残念ながらお前たちアビドスに対するものでは無い』
『──貴様だ、カオナシ』
『……なに?』
"今ここで殴ろうものなら、より不利な条件を突きつけられてしまう"と、アビドスに対する巫山戯た要求をするカイザー理事に対する激憤を必死に抑えていた最中に名指しされたカオナシは疑問符を浮かべる。
カオナシにとって……理事に伝えられた金額は確かに膨大だが、支払えなくはない。……その場合はホシノが在学中に借金を完済することはほぼ不可能となってしまうが、背に腹はかえられない。
……しかし、支払い以外で解決する方法があるのならと理事を見据え──
『──我が軍門に下れ、カオナシ。そうすれば保証金をなくし、利率も元に戻してやろう』
『……は?』「……え?」
──提示された条件に、唖然とする。
『……俺を恨んでるんじゃないのか?』
『もちろん、恨んでいるとも……忌々しいとさえ思っている。……だが先程も言ったように、貴様の能力、そして人脈については認めているのだよ』
『……』
『……まぁ、貴様はアビドスの関係者というわけでもないし、軍門に下りたくなければアビドスから手を引けば良いだけだがな』
『──貴様に、その選択肢を取ることが出来るのであれば、だが』
『……』
──裏切らないと約束したのだ。当然、アビドスを去るだなんて出来るはずがない。
……だからといって、理事の言葉を鵜呑みにする事も出来ない。
便利屋として、カイザーに苦しめられてきた人たちを何人も目にしてきた。……何度も、カイザーの悪辣な手口を目の当たりにした。
要件を飲んだところで、難癖をつけてまた法外な額を請求してくるに違いない。
……一時しのぎにしかならないが、支払いをした方がまだ何とかなるか?それとも──
(……いっそもう、此処で此奴らを潰してしまおうか)
不用意に現れてくれたおかげと言ってはなんだが、理事との距離はそう離れていない──自分なら、一瞬で距離を詰めれる。
平然と傘下を切り捨てるカイザーといえども、今この場で一番の権限を持っている理事を盾にすれば躊躇いは生まれるだろうし、その隙に周囲を囲んでいるPMCを処理していけばこの場は何とか凌げるか……そこまで考え、足に力を込めようとしたところで──
「……だめだよ、カオナシくん」
──ユメに右手を捕まれ、引き止められる。
「行っちゃだめ、ぜったいに……」
その言葉とともに、手をぎゅっと強く握り締められたことで……カオナシは、僅かに冷静さを取り戻す。
(……この場で、此奴らを潰したところで事態は好転しないか。……やるからには、全ての準備を整えて徹底的に、一回で全部ひっくり返さないとな)
『……少し、考える時間をくれないか?』
『……くくっ、良いだろう』
『──一週間だ。一週間以内に保証金を支払うか、軍門に下るかを決めるんだな』
苦悩した雰囲気を醸し出し、言葉を詰まらせながら頼み込むカオナシに気を良くしたのか、理事は笑いながら猶予を与える。
『ふふっ、ふはははは……!!』
『存外悪くない時間だったな。さぁ、お客様を入口まで案内して差し上げろ』
理事の指示に従い、PMC職員は道を開ける。
対策委員会の面々や先生が、先行きの見えぬ不安に足取りが重くなったり、私がどうにかしなければと決意する中──カオナシは一人立ち止まり、振り返る。
『カイザー理事……さっきあんたは、"この戦力は対策委員会のためのものじゃない"って言ってたよな』
『……この戦力──ビナーのためのものか?』
『っ!?貴様はあの存在だけでなく、その名も知っているのか!……お前は、まさかあのゲマトリアの──』
『……なんで知ってるのかは、そのうち分かる』
意味深に呟くカオナシ──良いようにやられたままで終われるかと、反逆の種を埋め込んだ彼は対策委員会の後ろに続き、帰路へと着いた。
アビドス編は佳境に入りましたね、最後のカオナシの言葉が物語にどのように影響するのか……ぜひ今後をお楽しみに!
P.S.大決戦ゴズのチケットを使い忘れました。