小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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大人の責任

 学校に帰ってきた対策委員会の彼女たちは今──先程のカイザー理事の横暴極まりない要求に苛立ちを露わにしていた。

 

 "宝物をさがしている"等と宣っていたが、企業が求めるような石油などの地下資源が何ひとつとして存在しない事は、過去の調査で判明しているし……そもそもそんなものがあるのであれば、何世代も前の生徒会がカイザーなんかに金を借りたりしなかった。

 

 ……いや、カイザーの本当の目的についても気にはなるが、そんな事よりも先ず最優先で解決しなければならない問題がある。

 

 

「──今はそれよりも借金の方でしょ!3000%とか言ってなかった!?」

 

「保証金も要求してきましたし……あと一週間で、3億円だなんて……」

 

 

 ……月700万の利子ですら支払いがギリギリの現状、一週間で3億円も用意するだなんて到底不可能。……しかし、払えなければその時点でアビドスは廃校になってしまうため、一体どうすれば良いのかと頭を抱える。

 

 

「……あいつは、カオナシが軍門に下ればって言ってたけど……」

 

「──っダメですよセリカちゃん!カオナシさんだって、もうアビドスの仲間なんです!仲間を売るだなんて……」

 

「わ、分かってるわよ!もしカオナシが自分を犠牲にしようだなんて言い出したら、縛り付けてでも引き止めてやろうって言おうとしただけだから!」

 

「……っ」

 

 

 "仲間を犠牲にすることは出来ない"──思わず反応してしまったホシノに、ユメが大丈夫かと声をかけようとしたその時、険しい表情を浮かべたシロコが席を立つ。

 

 ……一人でPMCの施設に潜入し、カイザーの真の目的を暴こうと言うのだ。……しかし、そんな無茶無謀を望むものなど誰一人としていない。

 

 

「シロコちゃん、だめだよ」

 

「ユメ先輩、でもっ……」

 

「気持ちは分かるよ。……だけど、誰かが犠牲になることなんて、ここに居る誰も望んでないから」

 

「シロコちゃんだけじゃないよ。……ホシノちゃんにノノミちゃん、アヤネちゃん、セリカちゃん……もちろん、今は席を外してる先生やカオナシくんも」

 

「……例えアビドスを守れても、誰か一人でも欠けちゃったら意味が無いの」

 

「……ん、ごめんなさい……ちょっと自暴自棄になってた」

 

 

 ユメに窘められたシロコは、謝罪の言葉と共に席に着く。……一旦落ち着きを取り戻したが、残念ながら問題が解決した訳ではなく……絶望的な状況である事には変わりない。

 

 しかし、焦燥感と疲労に包まれた現状ではまともな解決策も思い浮かぶはずもなく……

 

 

「みんな疲れてるだろうし、とりあえず今日はこのへんにしておこっか」

 

「うへ〜、じゃあ解散解散〜。一回頭を冷やして、また明日集まって対策を考えよ〜」

 

 

 "先生やカオナシにはおじさんから伝えておくからさ"──ホシノに促され、シロコたちは帰宅するのであった。

 

 ◇

 

「はぁ…はぁ……ごめんねみんな、遅くなっちゃって……って、あれ?ホシノちゃんだけ?」

 

「遅かったねせんせ〜。……今日は色々あって疲れてるだろうから、みんなには先に帰ってもらったよ〜」

 

 

 部室まで走ってきたのか、息を荒らげながらもキョロキョロと室内を見渡す先生の様子にほにゃりと笑みを浮かべながら、ホシノは手を振る。

 

 

「そっか、それもそうだよね……ふぅ……ホシノちゃんは疲れてないの?」

 

「もちろん疲れてるよ〜……でも、誰かが残ってないと戻ってきた先生やカオナシが何時までも待ち続けちゃいそうじゃん?連絡係は必要かなって思ってね〜」

 

「……モモトークで良かったんじゃない?」

 

「…………うへぇ、そういうのは気付いても言わないのが優しさってもんだよ」

 

 

 揃って苦笑いをする二人。……そういえば、先程から姿が見えないな……と気付いたホシノは、カオナシの行方を訊ねた。

 

 

「カオナシ?ここに来る途中でユメちゃんと会って、何処かに連れてかれてたけど……あ、あの時会ったのは帰宅してたからか」

 

 

 "なるほど"と、手をポンと打ち合わせながら呟く先生に、"人の事言えないじゃん"と苦笑するホシノ……程なくして、自分もそろそろ帰ろうと席を立つ。

 

 

「それじゃあ先生、おじさんもそろそろ帰「待ってホシノちゃん」……うへ?どうしたのさ、そんな真面目な顔しちゃって」

 

「……ちょっと、話しておきたいことがあってさ」

 

 

 先生は懐から一枚の紙をとりだすと、ホシノへと差し出す。

 

 

「……え?これって……!」

 

 

 ──先生が差し出したのは、以前黒服から受け取った契約書だった。

 

 しっかりと鞄の中に入れていたはずなのにも関わらず、何故先生が持っているのか。……いや、それよりも──先生に気付かれてしまったという事の方が、ホシノにとっては重要であった。

 

 実は、内容はホシノ自身も()()()()()()()。少し前までは、如何な理由があろうとも黒服とは契約を結ぶまいと思っていた彼女は、受け取った後も書類に目を通していなかった。……内容次第では、大変まずいことになる。

 

 出来ることならこの場から逃げ出したいが、逃がしてくれそうな雰囲気では無い。

 

 ……アビドスの為に尽力し続けてくれた先生を押し退けて帰ることもはばかられる為、ホシノはやむを得ず話すことにした。

 

 

「今はユメ先輩も、皆もいないし……面と向かってっていうのも何だから……先生、ちょっとその辺一緒に歩かない?」

 

 ◇

 

「けほっ、けほっ……うわぁ、ここも砂だらけじゃ〜ん……」

 

 

 文句を言いながらも、どこか愛おしそうな目で辺りを見渡すホシノ。……その姿は、まるで後生の思い出として目に焼き付けているようで……

 

 

「……ホシノちゃんは、この学校が好きなんだね」

 

 

 抱いてしまった嫌な予感を振り払うように──隣を歩く少女の気持ちを確かめるように呟く。

 

 

「……今の話の流れで、本当にそう思う?うへ、やっぱり先生は変な人だね」

 

「えっ、やっぱりってどういうこと?ずっとそう思ってたの!?」

 

「あったりまえじゃ〜ん、こんな廃校寸前の学校に協力しようとする人なんて、物好きな変人でしかないでしょ。……もちろん、カオナシもね」

 

 

 突如として流れ弾の飛んでいったカオナシに内心で同情する先生を置いて、ホシノはぽつり、ぽつりと語りだす。

 

 

「砂漠化が進む前、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったって言われてるけど……そんな記憶も実感も、おじさんには全くないんだよねぇ……」

 

「最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つなくて……」

 

「……そんな場所だけど、先輩達と過ごした日々は……大変な事も多かったけど、それでも凄く楽しかったんだ」

 

「リン先輩は私の所為で居なくなっちゃったけど……それから何ヶ月か経って、シロコちゃんやノノミちゃんが来てくれて……翌年には、アヤネちゃんやセリカちゃんと会えた」

 

「ここにはみんなとの思い出が詰まってて……うへ、先生の言う通り、おじさんはここが好きみたい」

 

 

 ほにゃりと微笑むホシノは、本気でアビドスの事が好きなようで──それなのに、漠然とした不安が消えるどころか、じわじわと大きくなっていくことに焦燥感を抱く。

 

 

(なんで……どうしてホシノちゃんはここに居るのに、目を離したら何処かに行っちゃいそうって思うんだろ……)

 

「……先生、正直に話すよ」

 

 

 ……先生の脳裏に過ぎった不安を遮るように、ホシノは先程の契約書について語りだす。

 

 

「前に話したことがあったよね?……リン先輩を誑かした黒服に、私も契約を持ちかけられてたってさ」

 

「……ゲヘナ風紀委員会の襲撃があったあの日、実はおじさん、その黒服から契約を持ちかけられたんだ」

 

「っ!?……それ、他の皆には……」

 

「……言ってないよ。……そもそも、契約するつもりなんて端からなかったし」

 

「……え?」

 

「うへ、なんで驚いてるのさ。当たり前でしょ〜?……黒服なんかと契約を結ぶつもりは無いよ」

 

「その契約書は、捨てるタイミングがなかっただけ。……心配かけさせちゃってごめんね〜」

 

 

 そういうや否や、ホシノは先生の手から契約書を奪い去り──ビリビリと、細切れに破ってしまった。

 

 

「うへ〜、スッキリした〜」

 

「……さっきも言ったけど、心配かけさせちゃってごめんね。皆にはまた明日、ちゃんと話すよ」

 

「聞かされたところで困らせちゃうだけだろうけど、隠し事なんてないに越したことはないだろうしさ」

 

 

 "実際のところ、契約を結ぶ以外の方法は思いついて無いんだけど"──と、肩を竦めながら告げるホシノ

 

 当然、子供が自らの身を犠牲にしようだなんていうのを容認するはずがない……が、良い解決案が未だ思い浮かんでいない先生は──"きっと何か、方法があるはずだよ"と、漠然とした返答しか出来なかった。

 

 

「そうだね、奇跡でも起きてくれれば良いんだけど……」

 

 

 "……奇跡、かぁ"──と、自分の口に出した言葉を反芻する。

 

 

(もし、奇跡が起こるのなら、私は──)

 

「……さ〜てと、この話はこれでおしまい。契約は受けないって事で話もついたわけだし、そろそろ帰ろっか」

 

「じゃあ、また明日。先生──さよなら」

 

 

 手を振り帰路へと着こうとする彼女を前に、先程から抱き続けていた嫌な予感が段々と大きくなっていき──"ホシノ!"と、思わず大きな声で呼び止める。

 

 不意をつかれたホシノはびくりと身体を震わせ、振り返る。──視線の先には、真剣な眼差しで己を見つめる先生の姿

 

 

「私が大人として、どうにかする!カオナシや皆だって居る、だから……!」

 

「……うへへ、私、そんなに元気なさそうだったかな?……うん。ありがとう、先生」

 

 

 何処まで行っても、どんな状況になっても生徒のことを第一に考えてくれる先生に感謝の言葉を述べながら、ホシノは改めて帰路に着く。

 

 

 ──彼女が振り向くことは、もう無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──翌日、まだ日も登りきらぬほどの時間に、対策委員会の部室に人影が一つ

 

 一通の手紙と、一枚の書類を手にした少女──小鳥遊ホシノの姿があった。

 

 

「……みんな、ごめんね。やっぱり、この方法しか思い浮かばなかったよ」

 

「借金については私が何とかする。……先輩のおかげで既に結構減ってるし、私が黒服の元に行けば負担はもっと減らせると思うから」

 

「……私が居なくなっても、先生やカオナシがいる。私がいなくなれば、アビドスのどこかにいるらしいリン先輩も戻ってきてくれるかもしれない」

 

 

「──私がいなくなっても、みんななら大丈夫って信じてるから」

 

 

 手紙と書類を、見つけやすいように机の上に置いたホシノ。……後ろ髪を引かれる思いを振り払って、彼女は部室を出ていこうとし──

 

 

「──ッ!?」

 

 

 "ガララッ"と、扉の開く音と共に現れた人物の姿を目にした彼女は、驚愕のあまり目を見開いた。

 

 視線の、先には──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──どこに行こうってんだ、ホシノ』

 

「かお、なし……?どうして、ここに……っ」

 

 

 ──彼女の行く手を遮るように、扉の前に立つ、カオナシの姿があった。




ここが分岐点、この先をどう進めていくか、いくつか候補があるんですよねぇ……

……最終的には一つのENDに収束するので、あくまでも過程の分岐ってだけですけど




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