──何故、カオナシがこの場に現れたのか……時は、前日に遡る。
「先生、リ……じゃなかった、カオナシくん借りてくねっ!」
カイザーに吹っかけられた膨大な保証金への対応案について先生と相談をしようとした矢先、正面から歩いてきたユメに手を掴まれ、有無を言わさずにカオナシは連れていかれた。
(……リ?ってなんだろ……)
◇
……あれよあれよという間に校門を潜り抜け、二人は生徒会室へと入っていった。
慌てた様子だったため、何も聞かずにここまで来たが……いい加減理由を教えて欲しいとカオナシは訊ねる。
『どうしたユメ、そんなに慌てて。……何かまずいことでもあったか?……もしかして、ホシノの事か?』
「っうん。……何かを隠してるみたい何だけど、なんだか嫌な予感がして……」
ユメが言うには、風紀委員会の襲撃があったあの日から様子がおかしいとの事。
「最初は、もしかしたらリンくんの事にホシノちゃんも気付いたのかなって思ったんだけど……それにしては、なんだか思い詰めてるみたいで」
「それにね?今日部室に戻った後、アヤネちゃん達の"仲間を犠牲にして解決しても意味がない"って言葉を聞いたホシノちゃんが一瞬、思い詰めた様な顔をしてたから……」
……思い当たる節がない訳では無い。実際にカオナシも、あの日からホシノに違和感を抱いていた。
(何処かで、見た事があるような……)
……何かを思い出そうとしたその時、生徒会室の外から"コツ、コツ"と二人分の足音が響いてくる。
咄嗟に息を潜めた二人の耳に聞こえる声……どうやら、ホシノと先生が話をしているらしかった。
初めのうちは和やかなものだったが……やがて話の内容は、契約についてへと移り変わる。
……最終的には契約書を破り捨てたホシノであったが、それがただの"ふり"であることを二人は察し──
『……あぁ、そうか。……そういう事か』
顔を抑えて俯くカオナシは……リンは気付いてしまった。ホシノは──
『……自分を犠牲にして、問題を解決しようとしているんだ』
「──ッ!?」
……一人で抱え込み、二人に相談せずに一人で何とかしようとし、結果として二人を傷付けてしまった過去の自分を見ているようで……そして、同時に理解した。
(……残される側っていうのは、こんなにも辛いのか)
過去の自分の行いのあまりの軽率さに、舌を噛みちぎってしまいたくなるほどの嫌悪感を抱く。……自分が居なくなっても大丈夫?……冗談じゃない──
『大丈夫なわけが無いだろう……なんの相談も無しに一人で犠牲になられて、それで事態が好転したとしても……!』
『そんなこと、誰も望んでないことくらい……お前が一番理解しているんじゃないのかっ』
……自分でも、何を言っているんだと思う。一体どの面下げて言っているのか、自分にそんな資格があるのか……それでも、言わなければなならない。
如何なる罰も、後で甘んじて受け入れよう……今はただ──大切な後輩に、自分と同じ過ちを決してさせぬ為にと、言の葉を紡ぐ。
『……ホシノに、俺と同じ轍を踏ませるわけにはいかない。後輩たちに、ふたりと同じ思いをさせるわけにはいかない』
『……ユメに二度も、失う辛さを味合わせるわけにはいかない。……だから頼む』
『──ホシノを止める為に、俺に力を貸してくれ』
思いを口にし、決意を固めたリンは頭を下げて頼み込み──ユメは、そんな彼へと距離を詰める。
「……顔を上げて、リンくん」
両肩を掴まれ、彼は顔を上げる──目に映る幼馴染は笑みを浮かべながら、真っ直ぐに己を見つめていた。
「もちろん、協力するよ。ホシノちゃんが犠牲になることなんて、絶対に許さない」
『……ありが──』
「お礼なんて必要ないよ。私にとっても、ホシノちゃんは大切な後輩だもん」
『……そうだな』
「『
◇◇◇◇◇
「……そっか、見られちゃってたんなら仕方ないか」
ホシノは諦めたようにため息を吐く。……しかし、その諦めはカオナシが望んだものでは無かった。
「カオナシ……私が居なくなったあと、みんなの事をお願いしてもいい?」
『……』
「借金については、私が黒服と契約を結べばかなり減らせると思う。……みんなは怒るかもしれないけど、もうこれしか方法が無いからさ」
「……嬉しかったよ、カオナシがアビドスのことを好きだって言ってくれて。……そんなカオナシになら、みんなを任せられr『断る』………え?」
頭を下げようとする彼女の言葉を遮って、カオナシは彼女の願いを拒絶する。
何故と問うホシノ──"アビドスを裏切らないと言う言葉は嘘だったのか"と目を細めるが、彼は一切動じない。
『あぁ、約束したな。……だからこそ、その願いは聞くことは出来ない』
『ユメの為にも、シロコたちの為にも……何より、ホシノのために』
──否、ここに居るのは彼一人だけでは無い。
「『
二人は心を鬼にして、ホシノの前に立ち塞がる。
もし仮に、彼女が思い止まることなく戦闘となったとしても……大切な後輩を誤った道へと進ませぬ為に──そして今一度、先輩としての責務を、果たすために。
◇◇◇◇◇
「……なん、でっ……ユメ先輩も、居るんですか」
「なんで?……そんなの、ホシノちゃんを止める為に決まってるでしょ」
ユメは、静かに怒りを露わにする。過去にリンに対して説教していた時とも違う──普段の温厚な彼女からは想像も出来ないほどの怒気に、ホシノは無意識のうちに竦み上がる。
「私ね、今すっっっっごく怒ってるの。……誰もホシノちゃんが犠牲になるなんて望んでないこと、分からないなんて言わないよね?」
「それは……でも……」
「でも?……ねぇホシノちゃん」
「──そんなに、私達は頼りないの?」
ユメの言葉を、ホシノは首を横に振って否定する。
頼りない……?そんな事、微塵も思ったことは無い。頼れるからこそ、私は後のことを皆に任せて──
「私が……私も、リン先輩みたいにアビドスの為に……それが、先輩の腕を奪ってしまった私がしなければいけないことなんです」
「──そうしないと、リン先輩がアビドスに戻って来れないから……」
『……!』
──ホシノはぽつりぽつりと話し始める。
ゲヘナ風紀委員会の襲撃があったあの日、黒服に呼び出され──そこで、リンが今、アビドスに居ると聞かされた事
それなのに、何故戻ってこないのかと考え──
「──私が、アビドスに居るからだと気付いたんです」
「……当然ですよね。腕を奪った私なんかがいる場所に、戻りたいなんて思うはずがないんです。……戻ってきてくれるはずが、なかったんです」
『ち…う』
「だからっ、私が居なくなれば……先輩は戻ってきてくれるんじゃないかってっ……そうしたら、ユメ先輩もまた、リン先輩と一緒に居られるじゃないですか」
『違うっ』
「……私を信じてくれたみんなには申し訳ないと思ってます。……でも」
「私が居なくなった方が、みんなはもっと幸せに──」
『──そんな訳無いだろうッ!!!』
俯くホシノの懺悔を遮り、カオナシの怒声が響き渡ると共に──"バキリ"と、何かの砕ける音が聞こえてきた。
◇◇◇◇◇
ぱらぱらと……白い破片が散っていくのが、俯いた彼女の視界に入り込む。
(これ、カオナシが付けてる仮面の……)
『赤飛リンが姿を現さなかったのは、決してホシノに会いたくなかったからじゃないっ』
『
「……またホシノを傷つけてしまうんじゃないかって、恐れていたからだ」
……カオナシの声色が変わる、機械で加工されたものから──聞き覚えのあるものへと。
「……ぇ」
あの日から一年以上の時が経っているとはいえ、忘れるはずがない──聞き間違えることなど、あるはずがない。
わなわなと手足が震え、呼吸が荒くなる。……それでも確かめなければと、ホシノは恐る恐る顔を上げ──その瞳を、大きく、おおきく見開いた。
「ごめんな、俺にもっと早く、打ち明ける勇気があれば………いや、それよりも先ずは──」
──以前よりも少し大人びた顔立ちとなっているが、見間違えるはずがない。
「……久しぶりだな、ホシノ」
真実を知ったその時から、ずっと、ずっと会いたくて、謝りたくて……しかし、嫌われてしまっているだろうと、会うことを恐れていた──
「……リン、せんぱい…?」
──ユメ先輩と同じくらい大好きだった……もう一人の先輩が、ホシノの目の前に立っていた。
感想お待ちしております|´-`)チラッ
それと、前話の後書きで書いていた分岐については、アビドス編終了後に書く……かもしれません。別ルートとして話を書くか、こんな分岐がありましたよっていう風に書くかはその時次第ですね。