小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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改めて、自己紹介を

「おはようございます……って、だ、誰ですか貴方は!?」

 

 

 数刻後──日もしっかりと昇り切ってから暫くした時に登校してきたアヤネは、見知らぬ男性が部室にいたため、思わずと言った様子で大きな声を上げる。

 

 ……目の前の人物は"静かにするように"と人差し指を立てながら口元に添えるが、当然聞く耳は持たない。

 

 もしやカイザーの手先か──そこまで考えたところで、はたと気づいた。

 

 

「ユメ先輩?それに、ホシノ先輩まで……」

 

 

 見知らぬ男性の膝を枕にしたり、肩にもたれかかったり……信頼しきった様子で寝息をたてる先輩たちの姿に、驚きの声を上げる。

 

 

「んぅ……あ、アヤネちゃんおはよ〜……」

 

 

 "ふぁ……"と、欠伸をしながら、ユメは目を覚ました。起こしてしまった事については申し訳なく思いつつも、ホシノの頭を撫でている先輩に"その男性は誰なのか"と問う。

 

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ〜、みんなが揃ったら紹介するから楽しみにしてて!」

 

「……分かりました。念の為聞いておきたいんですけど……味方、ですよね?」

 

「──もちろんっ!」

 

 

 なにがどうなっているのか、未だ状況を飲み込めぬアヤネであったが……先輩達が信頼しているのなら一先ずは大丈夫だろうと、なるべく音を立てないように書類整理をして全員が揃うまで待つことにした。

 

 

「私も手伝うよ、アヤネちゃんっ」

 

「ありがとうございます。……それでは、こちらの書類を──……」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ユメが目を覚ましてから30分程の時が経った頃、ようやくアビドスの生徒と先生が揃った。

 

 その際に一悶着あったが、それについては割愛する。

 

 まだカオナシは来ていないが、そろそろ借金についての対策会議を始めようと席に着く先生たち。未だ己の膝を枕にして眠りこけるホシノにも起きてもらおうと、男性は肩を揺する。

 

 

「ホシノ、そろそろ起きろ」

 

「んぁ……せんぱい?なんでよこになってるんですか?」

 

「俺の膝を枕にして転がってるからそう見えるだけだぞ」

 

「あぁ、なるほど……」

 

 

 ホシノは仰向けになると、手を伸ばして男性の顔をぺたぺたと触り始める……未だに、後輩たちに気づいた様子はない。

 

 

「うへへ……ゆめじゃ、ないんですよね?……めがさめたら、せんぱいがいなくなってるなんてことは……」

 

「あぁ、夢じゃないし、居なくもならない。……だから起きろ、みんな待ってるぞ」

 

「…………みんな?」

 

 

 寝ぼけ眼で顔の向きを変えけ……ようやく、先生たちの存在に気がついた。

 

 

「おはようございます、ホシノ先輩。……その、そちらの男性に対して"先輩"って仰ってましたけど、いったいどういう……?」

 

「うへ?……えっ?」

 

 

 初めのうちはまだ状況が飲み込めていない様子で目をしぱしぱさせていたが、視線を交互にずらしていると次第に今の自分の状態への理解が追いつき始めたようで、段々と顔が赤みを帯びてゆき……"ボンッ"と、一気に真っ赤に茹で上がった。

 

 恥ずかしさのあまり、飛び起きるように勢いよく上体を持ち上げ──

 

 

「「──ッたァ!?」」

 

 

 "ガツンッ!!"──とホシノと男性の額が勢いよくぶつかった。

 

 余りにも大きく痛々しい音とともに走る痛みと衝撃に、二人は揃って頭を抑え悶える。

 

 ……いくらキヴォトス最高の神秘の持ち主と、類稀なる神秘操作能力の持ち主と言えど、緩みきった状態ではなんの意味もなさなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ユメが用意してくれた氷嚢を額に当てながら、二人もまた皆と同じように席に着いた……のだが──

 

 

「ねぇ、なんか距離近くない?」

 

 

 セリカの問いに、"そうかなぁ?"と首を傾げるホシノ。他の皆は適切な距離を保って席に着く中………二人の間は、たったの10cmしか空いていなかった。

 

 ……ちなみに言うと、男性の位置は別におかしくはない。ホシノの座る位置が近すぎるだけである。

 

 申し訳程度に開かれたその隙間に、"いっそもうくっ付いてしまえば良いのに"と先生が温かい目を向けている間も、"ススス…"とホシノは距離を詰めていた。

 

 このままスルーしようにも気になって仕方がないし、かといって何時になく幸せそうな先輩に離れてくださいとも言いづらく……セリカたちは最後の手段として、ホシノの右隣に座るユメにどうにかしてもらおうと目配せをし──ユメは"OK!"とハンドサインを出す。

 

 

「ホシノちゃん──私の隣も空いてるよっ!」

 

((違う、そうじゃない))

 

「先輩が距離を詰めてくれても良いんですよ?」「わかった!」

 

((何もわかってない……!))

 

 

 全くもって役に立たなかった先輩に、一年組は頭を抱える。"もうそのままでいいや"……と諦め、彼女たちは会議を始める──

 

 

「まだカオナシさんは来ていませんが、そろそろ会議を……いえ、まず先に、其方の方について教えていただいても良いでしょうか?」

 

 

 ──その前に、先程ききそびれた正体不明の男性について、改めて訊ねることにした。

 

 先輩達の反応からして悪い人ではなさそうだが……それでも、気になるものを放置したままでは会議に身も入らない。

 

 先程ホシノが発した"先輩"という言葉は、間違いなく男性に向けられたものだった。……思い当たる節は一つだけあるが、憶測でものを語って"違いました"では相手に対しても失礼であり、それなら本人に直接確認してみれば良いとの判断であった。

 

 視線で促された男性は、こくりとひとつ頷きを返すと席を立つ。

 

 

「そうだな……既に何人か勘づいているかもしれないが、()()()自己紹介をさせてもらおうか」

 

 

「俺の名前は赤飛リン、元アビドスの生徒であり──ユメの幼馴染兼、ホシノの先輩だ」

 

 

『みんなにとっては……カオナシとしての印象が大きいかもな』

 

 

 自己紹介の最中、首元に再度装着したチョーカーを操作し、便利屋カオナシの面とヘイローを投射した、見知らぬ男性改めリン。

 

 彼女たちのよく知る人物の正体が、以前ホシノやユメに聞いたもう一人の先輩であったという事実に、シロコたちは驚愕に目を見開く。男性=赤飛リンは予想出来ている者も中にはいたが、カオナシ=赤飛リンとは……先生を除き、想像出来ていなかった。

 

 

「……先生は気付いてたみたいだな」

 

「まぁ、何となくね?……みんなの為に色々考えて行動したり、風紀委員会のみんなが来た日を境にユメちゃんの呼び方が"カオナシさん"から"カオナシくん"に変わってたから」

 

「……言われてみると、確かに……最近は色々ありすぎてスルーしてた」

 

「そうですね〜、襲撃やら保証金やらで気にしてる余裕がありませんでしたから。……でも、どうして今まで隠し続けてたんでしょう?」

 

「……いえ、寧ろ今回の場合は"何故今このタイミングで正体を明かすことにしたのか"という方のが大事かと思います」

 

 

 ノノミやアヤネの疑問に追随するように、後輩たちの視線が集中する。……しかし、今回正体を明かした理由は安易に話せるものでは……少なくとも、自分だけの判断で話していいことではない。

 

 ──それでも、彼女たちには知る権利がある。リンはチョーカーを再び外すと、ホシノへと視線を向けた。

 

 初めは伝えることに対して僅かに躊躇いを見せる彼女であったが……覚悟を決め、席を立つ。

 

 リンに対して訊ねたにも関わらず、ホシノが立ち上がったことに怪訝な表情を見せるシロコ達に対して──"皆に、謝らないといけないことがある"と告げる。

 

 

「……みんなにはさ、以前に"黒服"って奴から契約を持ちかけられてたって伝えてたよね?」

 

「確かに言ってたわね…………って、まさか!?」

 

「うん、セリカちゃんの予想してる通りだと思う。……風紀委員会の襲撃があったあの日、私は黒服に呼び出されて、そこで契約を持ちかけられたんだ」

 

 

 それからホシノは、先日に先生に語ったことを……自分がつい先程まで契約を結ぶつもりでいた事も含めて、全てを明かすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ん、先輩はバカ」

 

 

 ──ホシノの独白を聞いたシロコの第一声は罵倒であった。

 

 

「うへぇ、開口一番でそんな……」

 

 

 "いや、言われても仕方がないようなことをしたけどさ……"と、萎びた様子で肩を落とすホシノ。……しかし、ノノミも、アヤネも、セリカも誰一人容赦はしなかった。

 

 馬鹿だの独りよがりだのと、容赦なく浴びせられる言葉に加え、頬を抓られたりして揉みくちゃにされても、ホシノは何も言い返すことはなかった。

 

 

 ──ホシノ先輩が犠牲にならなくてよかった

 

 

 そんな思いがひしひしと伝わってきたから……自分が皆に大切に思われていて、誰ひとりとして犠牲になることを望んでいなかったという事を改めて実感した彼女は、自分の愚かさと後輩たちの気持ちを蔑ろにしてしまった事への謝罪と礼を告げる。

 

 

「ごめんね、みんな……ありがとう」

 

 

 ──その瞳に、薄らと涙を浮かべながら。







以下オマケ


「それはそれとして、後でお説教ですよ〜☆」

「……うへぇ!?ここは許す流れなんじゃないの!?」

「許すわけないじゃないですか!また同じ事をしないように、釘を刺しておかないといけないですからね!」

「ん、勿論カオナシ……じゃなかった、リン先輩も」

「そうね、そもそもカオ……リン先輩が二年前に一人で抱え込んだりしなければ、ホシノ先輩も真似しなかったかもしれないし」

「……無理して名前で呼ばなくても」

「「「「話をそらさないで(ください)」」」」」

「…………」
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