小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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下準備

「……リンくん、カイザーの所に行くのはダメって言ったよね?ホシノちゃんまで連れていこうなんて……それとも、何か考えがあるの?」

 

 

 ──暗に、考え無しの発言だったのであれば、例えリンであっても容赦はしないと告げるユメ。……当然、考え無しに言うはずもない。

 

 

「ちゃんと考えてるし、他の選択肢があるならそっちを選んでた。……実際、少し前までは今回話す作戦は最後の手段として用意してたものなんだがな……あの屑の巫山戯た要求の所為で、元々考えてた方法が今の状態だと使っても意味がなくなっちまった」

 

「……だから最低でも、保証金は無くさないといけない。そのためにも、カイザーには直接アビドスに手を出してもらう必要があるんだ」

 

「だけど、さっきも言ったように無理強いをするつもりは「先輩」──……」

 

 

 "無理強いをするつもりはない"……そんなリンの言葉を遮ったホシノの瞳は──"先輩を信じている"と、雄弁にものがたっていた。

 

 正直に言うと、自分が黒服の元に赴く分には差程忌避感はない。……ただ、先輩が黒服のところに行くのは物凄く、それはもう拒否反応が出てしまいそうになるほど嫌なのだが……今回は自分も一緒に行くのだから、いざという時は無理矢理にでも連れ帰れば良いという考えが、ホシノの心に余裕を生み出していた。

 

 

「ありがとう、それじゃあ改めて説明していくぞ。まずは──」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「──と言った感じで、俺とホシノが離れている間は、皆には協力者と一緒にアビドスを占領されないように守ってほしい」

 

 

 時折投げ掛けられる疑問点に答えながら、リンは作戦について語り終えた。

 

 ……正直に言えば、いくら他に仲間を募ってくると言えども不安はある……そもそも、協力してくれるような人が居るのかどうかも定かではないし。

 

 ……しかし、誰一人として作戦に対して否を唱えるものはいなかった。

 

 

 ──二人がいない間は、私たちがアビドスを守る。……それすらできないんじゃ、後輩として、仲間として顔向けできないから。

 

 

 先程リンがホシノに対して告げた、"互いに助け合う"という言葉は、後輩であるシロコ達の覚悟を決めさせるには十分であった。……武装の充実した軍事組織?戦力差が数十、数百倍もある?

 

 

 ──"それがどうしたというのか"

 

 

 私たちの大切な場所を奪おうとする奴は、大切な仲間を傷つける奴は……ヘルメット団、大企業、デカグラマトン──如何な存在であろうと、決して許しはしない。

 

 ──そんな共通の思いが、対策委員会の絆をより強固なものとしていた。

 

 ◇

 

「それじゃあ、俺と先生は出掛けてくる。皆は明日に備えてゆっくり休んでいてくれ」

 

 

 決行は明日、それまでにリンと先生は紡いだ縁を元に、協力者を得なければならない。……アヤネたちも協力を申し出てくれたが、アビドスの生徒が今この状況で他校の自治区に赴くようなことがあればカイザーが勘づく可能性もあるため、頼むことは出来なかった。

 

 

「時間に余裕があるわけじゃないし、二手に別れよっか」

 

 

 先生はゲヘナとトリニティ、何方に向かうかをリンに問うが──返ってきた答えは"何方も先生に行ってほしい"であった。

 

 

「俺は他のところに協力を仰いでくる。……それに、他にも色々と準備をしないといけないからな、だからそっちは先生に任せる」

 

「わかった、そういう事なら任せて」

 

 

 二人は互いの目的を定めると、学校を後にし──……

 

 

「「リンくん!/リン先輩!」」

 

 

 ……ようとしたところで後輩と幼馴染に呼ばれ、足を止める。すわ何事かと振り返った彼に対して、二人は元気良く──"いってらっしゃい!"と声をかけた。

 

 思わずきょとんとしてしまったリンであったが、向けられた言葉に含まれた意味を理解すると笑みを浮かべ──"いってきます"と手を振りながら、目的地へと向かっていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──トリニティ総合学園敷地内

 

 

 先生はブラックマーケットにて知り合った女子生徒──ヒフミに対してアビドスの現状を伝えていた。

 

 ……正直に言うと、荒事と無縁そうな彼女を巻き込むことに対して、今でも引け目を感じてはいる。……しかし、それでもなお協力を仰がなければいけない理由があった。

 

 

【……先生】

 

【どうしたの?】

 

【以前にも伝えたことがある、アビドス砂漠に潜んでいるデカグラマトン──ビナーが近々、現れる可能性がある】

 

【……っ、それは】

 

【勿論、冗談なんかじゃない。……最悪の場合、カイザーとの戦闘中、もしくは戦闘終了後に現れる可能性がある】

 

【だから、出来るだけ多くの生徒の協力を得る必要があるんだ。……生徒を第一に考えてる先生には酷だと思うが、説得を頼みたい】

 

【……分かったよ】

 

 

 因みに言うと、ビナーの件はユメとホシノからシロコたちに伝えてもらっている。……初めは不用意に不安を煽るべきではないと考え、またカイザーの件に集中して欲しかったために伝えないでおこうとしていたが、それ以上になんの心構えもなく対峙する方が危険だと思い直したための判断であった。

 

 

 一方、話を聞いたヒフミはと言うと──僅かな逡巡すら見せずに、先生からの頼みに対して了承を返す。

 

 

「えっと、頼んでおいてこういうのもおかしいと思うけど……本当にいいの?ヒフミちゃん」

 

「はいっ!アビドスの皆さんには良くして頂きましたし……それに、お友達が大変な状況だと聞いて、黙ってなんかいられませんからっ!」

 

「……と言っても、私に出来ることは限られてますけどね」

 

 

 あはは……と苦笑する彼女であったが、直ぐに意識を切り替えると"ティーパーティーのナギサ様に掛け合ってみますね"と告げ、すぐさま行動に移る。

 

 ぺこりと一礼した後、駆け足で学校へと向かっていく彼女に対して先生は大きな声で"ありがとう、ヒフミちゃん!"と礼を言い、彼女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 

「……私も、覚悟を決めないとね」

 

 

 ──先生は次なる目的地、ゲヘナ学園へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……友達、か」

 

 ──二人の会話を物陰に隠れて盗み聞いていた少女がいた事には、最後まで気づくことはなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──ゲヘナ学園玄関口前

 

 ゲヘナ風紀委員長である空崎ヒナに会いに来た先生は、銀鏡イオリによって足止めされていた。

 

 

「どんな要件かは知らないけど、ゲヘナの風紀委員長にそう易々と会えるわけないだろ?」

 

 

 "風紀委員長は忙しいんだ"と、取り付く島もない様子で先生を追い払おうとする彼女。先日の一件で余計な仕事を増やしてしまったことに対する負い目を感じていた彼女は、明らかに厄介事を持ち込もうとする先生に帰ってもらうためにはどうすべきかと思考を巡らせ──ふといいことを思いついたと言いたげな様子で、ひとつの提案をする。

 

 

「そうだな、じゃあ土下座して私の足でも舐めたら───ひゃんっ!?」

 

 

 "取り成してやってもいいぞ"……というイオリの言葉は、最後まで紡がれることはなかった。

 

 ぬるりと足を伝う感触に変な声を出してしまった彼女は視線を下へとずらす………認識する隙すら与えぬほどに、流れるような無駄のない手つきで靴と靴下を脱がし、更には綺麗に纏めて横に置いた先生が、己の足を舐めていた。

 

 流石にそこまではしないだろうと思っていた彼女の思考は、驚きと戸惑いが混じり合い真っ白になる……が、直後に再び訪れたぬるりとした感触と擽ったさに、"ハッ"と意識を改める。

 

 

「ちょっ、何s……んっ、おいっまだはなしが……ぁっ」

 

 

 その後もイオリは、バカ、ヘンタイ、歪んでる……と、今も尚自分の足を舐め続けている大人を止めようと罵詈雑言を浴びせ続けるが、先生は止まらない。

 

 

 ──大人としてのプライド?そんなものを捨てるだけでアビドスの皆を助けることが出来るのなら、一切の躊躇いもなく投げ捨てますが何か?

 

 

 シロコたちが助かる確率を少しでもあげるためには、ゲヘナ最強と名高いヒナの協力を得ることは必須事項。それ故、彼女と面会出来るまで舐め続ける気概を持っていた先生の元に、近付く人影が一つ。

 

 

「てっきり、カオナシが来るものだと思っていたのだけど……そう、先生が来たのね」

 

 

 ──目的の人物、空崎ヒナが自ら現れた。

 

 

「……自分の望みのために膝をつく姿なら、これまで何度も見てきた。でも、子供(生徒)のために跪く先生(大人)の姿を見たのは初めて」

 

 

 ほんの僅かに、よく見なければ分からないほどに小さく笑みを浮かべたヒナは問う──"私に、何をしてほしい?"と

 

 ……しかし残念ながら、先生は跪いているという訳ではなく……

 

 

「いや、その、委員長……先生は跪いているんじゃなくて、その…足を、舐め……っ」

 

「……?」

 

 

 今、何か変な単語が聞こえてきたような気が……不思議に思ったヒナは、先生の姿がより捉えやすい位置へと移動した。……移動、してしまった。

 

 

「んぁ、ひなふぁん!」

 

 

 ──視界に映るのは、イオリの足を舐める先生の姿

 

 

「……?……………ッ!!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声にならぬ悲鳴を上げ、顔を真っ赤に染めあげる空崎ヒナ。ゲヘナ最強である彼女を短時間で二度も驚愕させた人物として、先生の名が語り継がれる日が、いつか来る……かもしれない。





↓以下オマケ↓



「……あ、言い忘れてたけど、黒服はカイザーとは別の組織の人間?だからな」


 作戦についての説明中、先程のユメの言葉を訂正する為にしれっと告げられた"黒服はカイザーの所属ではない"と言う言葉についてシロコたちは疑問を抱くが、再度問うことはなかった。……正直、カイザー所属であろうとそうでなかろうと彼女たちには関係なく──"会ったら、取り敢えず全力でぶん殴ればいっか"というのが、対策委員会及び先生の共通認識及び結論であった。

 そんな彼女たちの内心を察したリンは、ビナーに対抗するために……他にも色々と手を貸してもらっているため、擁護のひとつでもした方が良かったかもなと思いはしたが……思うだけで、口に出すことはなかった。


(……彼奴がホシノに契約を持ちかけたことには変わりないし、擁護する必要ないな)








「……?何故か悪寒が」

「風邪か?」

「……いえ、この身体で風邪をひくことはないはずですが」


 "誰か噂でもしているんでしょうか?"──実験器具の置かれた一室にて、首を傾げるまっくろくろすけがいたとか、いなかったとか……
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