「いってらっしゃい、リンくん、ホシノちゃん」
「「
──日が昇り始めた頃、学校で寝泊まりをしていたリンとホシノは、同じく学校で寝泊まりしていたユメを筆頭とした対策委員会のメンバー及び先生に見送られて、学校を後にした。
◇◇◇◇◇
『理事、カオナシが小鳥遊ホシノを連れて来ました』
『……武装は?』
『見たところ、カオナシが背負っているスナイパーライフルのみです。小鳥遊ホシノは何も持っていません』
『そうか。……ようやく、諦めたようだな』
喜悦に満ちた様子で、部下からの連絡を受け取ったカイザーPMC理事は"黒服の元へと案内するように"と指示を出す。
『くくっ……ハ、ハハハハッ!!これでアビドスの生徒会は事実上の消滅を迎えたというわけだ!守ろうとした結果、却って首を絞めることになるとは……如何にキヴォトス最高の神秘を持っていようと、所詮はただの子供、実に愚かだな』
アビドスを繋ぎ止めていた最後の楔であるホシノが去ったことで、自治区を維持する組織は存在しなくなった。……ならば、我々が何をしようと咎めることが出来るものはもう居ない。
それでもなお、残った生徒たちは抵抗してくるであろうが……たった数人の子供がいたところで、我々の敵では無い。
『さて、アビドスを真に我がものとする為に──ゴミ掃除を始めるとするか』
己が栄光への道筋を思い浮かべ、理事はほくそ笑む。アビドスは既に手中に落ちたも同然、散々邪魔をしてきた対策委員会を手玉に取っていることに対して悦に浸る理事は──
(──さて、あいつは上手い具合に勘違いしてくれてるかね)
──数時間後、己が……己こそが手玉に取られていたという事実に憤慨する事になるとは、この時は露ほどにも思っていなかった。
◇◇◇◇◇
一方その頃、リンとホシノはバイクに跨り黒服の研究室を目指していた。……初めはカイザーPMCの兵士が黒服の元へと案内するため、護送車へと乗るようにと指示を出していたのだが、その際にリンが"自分も黒服に用があるから、序に連れていく"と断りを入れる。
命令に従うしか能のないオートマタはその提案を拒否しようとしたが、すると今度は"なら今回の話はなし"とホシノが帰ろうとする。
流石にそれは困ると、オートマタは理事へと指示を仰ごうとするが……"何故か"通信が一向に繋がらない。
このままでは目的を達成できない可能性が出てきたことで、次第に兵士たちの間に焦りが生まれ始めるが……武力行使はできなかった。
──先日の一件から二人の危険度を身に染みて味わっていた兵士たちは、そのような選択肢を取ってしまえば十機にも満たない自分たちは返り討ちにあうと、理解していたが故に。
『……なら、お前たちが乗る護送車で、俺たちのバイクの前後を挟むようにしたら良いんじゃないか?そうすれば、理事の"黒服の元へと案内しろ"って命令も果たせるだろ』
『……一理あるか。万が一にも逃げ出したりは──』
『するわけが無いだろ。……黒服の指示で連れてきたのに、なんでそんな事する必要がある』
『……そうか、ならいい』
オートマタは、理事の指示に可能な限り従うために提案を受け入れた。……理事から、カオナシがこちら側の人間の可能性があると事前に聞き及んでいたことも、彼の提案を受け入れる後押しとなっていた。
……そのような事実は微塵も存在しないのだが、戦闘用に作り出された兵士たちが知る由はなかった。
◇
「……はぁ、守るって言ったのにみんなに任せきりにしなくちゃいけないなんて……」
"気が重いなぁ……"とため息をつくホシノは今、正体を隠すために再びカオナシとしての装いに身を包んだリンにしがみついていた。
『……今更だけど、なんでサイドカーあるのに使わずに二人乗りしてんだ?』
「…………うへぇ、それはまぁ……ねぇ?」
"そんな事よりも……みんなは大丈夫かなぁ……"と露骨に話を逸らしながらも、より強くぎゅっとしがみついてくる後輩。先輩であるリンは投射した仮面の下で苦笑しながら、逆に問い掛ける。
『あいつらなら大丈夫だってことは、俺よりもホシノのがよく分かってるだろ?』
「それはそうだけどさぁ……ううん、でも先輩の言う通り、信じるしかないよね……」
『そうだな、俺たちはみんなを信じてやるべき事をするだけだ』
少しでも早くみんなの元へと戻るために、二人はオートマタが運転する護送車にもっと速度を出すようにと急かしながら、バイクを走らせるのであった。
◇◇◇◇◇
──所変わって、アビドス高等学校。対策委員会を少女たちは、必ず攻めてくるであろうカイザーPMCとの戦闘に備え、武器の整備を行っていた。
そんな中で彼女たちに混ざり、手に持った紙をペらりと一枚捲っては考え込み、タブレットに打ち込んでを繰り返す先生。
「先生、さっきから何してるの?」
「……ん?あぁごめんねシロコちゃん、邪魔だったかな?」
「そういう訳じゃない、ただ何を見てるのか気になっただけ」
整備の手を止め、近づいてきたシロコに先生は紙の内容を見せる。
「……これは、他校の生徒情報?」
「うん。……カオナシの方で協力を漕ぎ着けた生徒の情報がまとめられた資料だよ。カイザー相手の防衛戦の際に、誰をどこに配置するかの判断は私に一任されてるからね、判断材料の一つとして二人が学校から出ていく前に受け取ったものを確認してたんだ」
「そっか。……こんなにも、アビドスに力を貸してくれる人達が居るんだ」
「そうだね。……きっと、カオナシはこういう日が来た時の為にずっと準備をしてきたんだろうね」
「……ん、諦めなくてよかった」
"それじゃあ、私もの準備の仕上げをしてくるね"──と、シロコは皆がいる場所へと戻っていく。
「……シロコちゃん」
「ん?」
「……いや、やっぱり何でもないかな。……引き止めてごめんね?」
微笑む彼女の目尻に、ほんの僅かに溜まる滴。先生は気が付いたが……それを態々、指摘することは無かった。
──"プルルルルッ"
「……あれ?大将さんから電話?」
……最終調整がまもなく終わるという頃、ユメの携帯が音を鳴らす。
◇◇◇◇◇
──二人がアビドスを発ってから、1時間と23分が経過した。
『先生!アビドス市街地に向け、多数の反応の接近を検知しました!数は約五百、戦車や軍用ヘリも数十機ほど見受けられます!』
「……住民の皆さんの避難状況は?」
『凡そ避難済みです!……一部残られている方々もいますが、その方たちは全員──』
先生がいつも肌身離さず所持している、先生にしか扱えぬタブレット型のオーパーツ──"シッテムの箱"。
その画面に映るは、一人の少女。システムの管理者でありメインOSの彼女は、先生にしか知覚することが出来ない不可思議な存在。その役割は──
「それは良かった。……厳しい戦いになると思うけど、サポートよろしくね、
『はいっ!このスーパーAI、アロナにお任せ下さいっ!!』
──先生が、先生としての役割を果たすために全面的な補助を行う事。……その補助には勿論、戦闘時の指揮を円滑に行えるようにすることも含まれる。
一度に適用できる人数に限りはある、しかしその制限があっても尚お釣りが来るほどに──先生の類稀なる指揮能力が何倍にも膨れ上がり、また指揮を受ける生徒のポテンシャルが120%以上発揮される事となる。
「──さぁ、いこうか」
──私の生徒たちの大切な場所を奪おうとする悪い大人には、出ていってもらわないとね。
71話目にして初アロナァ!ですよ!
……ここまでアロナちゃん、名前だけしか登場してなかったってまじ?
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