小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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ビナー戦は全部書ききってから投稿しようと思ってたんですがね……我慢できませんでした。

今回はちゃんとプロットも組んであるので、これ以上今話については変更はないだろうということで投稿することにします。


総力戦-ビナー-開幕

 遠目から見てもわかるほどの巨大さ、その存在感に……対策委員会の少女たちは視線の先にある機蛇が、アビドスの退廃を加速させる砂嵐を生み出し続けた元凶だと悟る。

 

 今はまだ、まるで目が覚めたばかりのようにその場に佇むビナーであるが……いつ、動き出してもおかしくはない。彼女たちは市街地を戦場にするわけにはいかないと、空崎ヒナを筆頭とするゲヘナ風紀委員会、そして美甘ネル率いるC&Cと合流しつつ、ビナーの下へ駆け出していった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 かつて己を死の間際へと追いやったデカグラマトン──ビナーが目の前にいる。

 

 今この場において誰よりも危険性を理解し、その身を持って味わっているユメにとっては、一種のトラウマと言っていい存在。

 

 いずれくるとはわかっていた、幼馴染からも前もって聞かされてもいた……いつ遭遇しても大丈夫なように、力をつけてきた。……けれどいざ前にすると、恐怖を完全に拭い去ることはできず、盾を構える手が震えてしまう。

 

 

大丈夫だ、ユメ(大丈夫ですよ、ユメ先輩)

 

 

 それでも今は、あの日と違って──この場には、信頼できる仲間がいる。

 

 リンとホシノは隣に立ち、震えを抑えるようにユメの手を優しく握る。……根拠なんてどこにもないけれど、この世界で最も信頼できる二人が"大丈夫"というのなら──

 

 

「……そうだね」

 

 ──私たちなら、絶対に勝てるっ!

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「──よし」

 

 

 幼馴染の震えが収まったことを確認したリンは、一歩前に出る。

 

 ──否、彼だけではない。先輩である彼に追従するように、後輩であるホシノも一歩前へと踏み出した。

 

 

「ホシノ」

 

 

 リンは後輩の名前を呼ぶと、あるものを手渡す。──それはどこにでも転がっている、ありふれたただの石ころ。

 

 ……しかし、一定以上の神秘操作を可能とするものであれば、それに彼の神秘が込められていることを感じ取ることができる。

 

 ──当然、過去にリン本人から手解きを受けていたホシノもまた、容易に気づくことができる。

 

 先輩が今から何をしようとしているのか理解したホシノは訊ねる──"どこに向かって投げます?"

 

 

「──ビナーの頭上」

 

「了解です」

 

 

 了承の意を示すとともに、ホシノは盾を手放しながら右手を大きく振りかぶり──全力で、渡された石を投与する。

 

 

≪──?≫

 

 

 自身へと迫りくる飛来物にビナーは気づくが、迎撃する素振りは見せない。……所詮はただの石ころであるし、そもそも当たるような軌道でもない。

 

 ホシノの投げた石は一切の妨害を受けることなく突き進み……やがて、ビナーの頭上へと到達する。

 

 ……その瞬間──

 

 

 

 パァン!

 

 

 

 ──柏手の音が、アビドスの砂漠へと響き渡る。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ……突如として、何者かの反応が己の頭上に現れた。先程の音、そして対象から感じ取れる神秘……覚えがある。

 

 

「久しぶりだな、クソ蛇」

 

≪──ッ!?≫

 

 

 ──ありもしないはずの、全身の総毛が立つ感覚がビナーに走る。覚えがある?……そんな言葉で済ませていいものではない!

 

 今己の頭上にいるのは、二年前に我が機体に甚大な損傷を与えた──ッ!!

 

 誰がいるのかを理解したビナーは、一刻も早く敵手を振り落とそうと身を捩ろうとするが……その行動を取るには、すべてが遅すぎた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「──お前がユメの命を奪おうとしたあの日から、ずっと、ずっと準備をしてきた」

 

「ただの現象、でも間違いなくお前と戦う上で必須となるであろうあの白い稲妻を我がものとするために……死に物狂いで試行錯誤を繰り返し続けた」

 

 

 開かれたその眼から覗く瞳が、金色の光を宿す。ゲヘナ風紀委員会との戦闘時に見せたその瞳に名付けられた名は──"ホルスの瞳(Eye of Horus)"

 

動体視力を上昇させるこの技は、強敵との戦闘時やなるべく早く戦闘を終わらせたいときに好んで使われるが……本来の用途は、別にある。

 

 

 

 ──その真価は、とある現象の発生確率の上昇

 

 

 

 ビナーの頭上に立つリンの右手に、膨大な量の神秘が集まっていく。可視化されるほどに凝縮し、圧縮された神秘はやがて──周囲を照らすほどの、青白い光を放つ。

 

 

「逃げんなよ。……お前のために、お前のことだけを思って鍛え続けて……ようやく、一つの技って言える出来になったんだ」

 

「だから──全身で、余すことなく味わいやがれ」

 

 

 大切な幼馴染を殺そうとしたビナーへと、リンはありったけの殺意を込めて──その拳を振り下ろす。

 

 

 

【どうやら例の現象は、打撃との誤差0.000001秒以内に神秘が衝突した際に発生するようです】

 

【……いつまでも現象と呼び続けるのも不便ですね。なにかいい名称は……ふむ、これが良さそうですね】

 

【白く光った神秘が稲妻の如く迸る、かの現象の名は──】

 

 

 

 

 

 

「──白、閃ッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 裂帛の気合が込められた怒声に呼応するように、打撃が衝突するその瞬間──空間は歪み、白き稲妻の祝福が齎される。

 

 ──威力にして、2.5乗。まさに必殺と言っても過言ではないリンの一撃は──

 

 

 

 

≪■■■■■■■ッ!!!??≫

 

 

 

 

 ──轟音とともに、凡そビルの三倍ほどはくだらない大きさを誇るビナーの巨体を、砂の大地へと叩きつけた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「えっ、ちょっ、まっ、えぇッ!?!?」

 

 

 目を疑うような光景に、セリカは驚愕のあまりまともな言語能力を失ってしまっていた。……否、セリカだけではない。この場にいる誰もが……あのヒナやネルでさえもが、少なからず驚愕に眼を見開いていた。

 

 ……しかし、それも仕方のないことだろう。なんせあれだけの体格差、巨体を揺るがすだけでも十分驚愕に値するものを、リンは拳一つで地に伏せさせたのだから。

 

 舞い上がった砂の波をやり過ごし、文句を言ってやろうという考えすら何処かに行ってしまうほどの衝撃に唖然とする中……ユメとホシノだけは、さすが先輩(さすがリンくん)と腕を組みながら頻りに頷いていた。

 

 目に見えてわかるほどの大きな損傷を負ったビナーの様子に、"もしかしてもう終わったのだろうか"という空気が漂い始めるが……未だに、ホシノを筆頭とするキヴォトスの最上位勢は戦闘態勢を解こうとはしなかった。

 

 なぜならば──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──依然として、ビナーのヘイローは光を灯したままであったが故に

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 一方、ビナーに大打撃を与えた張本人であるリンはというと……足場を失ったことで宙に放り出されながら、抱いた違和感に顔をしかめていた。

 

 

(……想定よりも損傷範囲が少ない。……それだけじゃない、拳を叩きつけた際のあの感触……衝撃を逃された?)

 

 

 ただ硬いだけではない、まるでゴムを殴りつけたかのようなその感触に、ビナーもまた二年前のときから進化していることを悟った彼は──早くも修復を始めているビナーに追撃を加えるため、能力を発動する。

 

 

「──ッ」

 

 

 破損し、飛び散った外殻との入れ替わりを行い、ビナーの背に降り立った彼を囲うように……砕けた装甲の下から、数多の銃器が展開された。

 

 自傷することすら厭わぬほどに無数に撃ち込まれる銃弾を、リンは咄嗟に柏手を打つことで離脱し回避し対策委員会の傍へと降り立つ。

 

 

「すまん、仕留めきれなかった」

 

「いやー、むしろ残してくれてよかったよ。……だって、私もユメ先輩を殺そうとしたあいつに色々とぶつけたいものがあったからさ」

 

「……そうか、ならよかった」

 

 

 ──巨体が持ち上がる。既に損傷の七割を修復したビナーは、その眼に憤怒の色を宿しながらリン唯一人を睨みつける。

 

 ……"仕留めきれなかった"とはいったが、もとよりあれだけで終わるとは思っていない。その程度の存在であるのなら、偶然とはいえ二年前に発生した白閃でビナーはその機能を停止しているはずなのだから。

 

 

「うへぇ……機械のくせにいっちょ前に怒ってるの?リン先輩しか眼中になさそうなその目……傷つくなぁ……」

 

 

 軽口を叩きながらも、ホシノは最終調整と言わんばかりに体をほぐしていく。……アビドスの存続がかかっていることはわかっている、自分の考えが不謹慎だとも理解している。

 

 それでも──

 

 

 

「偽物とはいえ、神様を名乗るくらいなんだからさ。しっかりしてくれなきゃ困るよ」

 

「──久しぶりのリン先輩との共闘、ちゃんと楽しませてほしいな」

 

≪■■■■■■■ッ!!!≫

 

 

 

 ホシノの挑発に呼応するように、ビナーの咆哮がアビドスの砂漠へと響き渡った。




サブタイ別名「白閃」


以下オマケ(合流し、ビナーに向かっていく際のやり取り)

「ねぇ、君たちってもしかして……」

「あん?……あぁ、アンタが先生ってやつか。カオナシから話は聞いてるよ」

「あ、やっぱりカオナシが呼んだ子なんだね。……ごめんね、こんな危険なことに巻き込んじゃって」

「……別に謝る必要はねぇ。元々そう言う約束だったからな」

「約束?」

「そうだ……つっても、あたしたちが直接って訳じゃねぇけどな」


 ネル曰く──二年前、リンがまだアビドスにいた頃に同盟を結んだ生徒がミレニアムに居るらしく、その人の命令で助太刀に来たとのことであった。

 どこか怒りを抱いた様子に、無理してきてくれたのかな……と改めて謝罪の言葉を口にしようとしたが、どうやら怒っている理由は先生が思っているものとは違うらしい。


「ったく……そういう事はあたしにもちゃんと伝えろっての」

(……あ、この子カオナシと同じ戦闘狂だ)


 ……戦意に満ち溢れた獰猛な笑みを浮かべる彼女を目にした先生は、スっと口を閉ざしたのであった。
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