小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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サブタイ別名「守るために」


総力戦-ビナー-②

 ──ビナーとの戦闘は、熾烈を極めていた。

 

 二年前以上に耐久力を増した装甲は生半可な攻撃を寄せ付けないが……それでも、決してダメージを与えることができないわけではない。

 

 特にホシノを筆頭とするキヴォトス最上位勢の火力は凄まじく、ヒナは空を飛び回り撹乱しながら着実に装甲を砕いていき、ホシノやネルなどの近距離主体の者はリンの能力によってビナーの傍へと転移し、高火力の一撃をもって容易くその強固な装甲を破壊する。

 

 そうして砕けた箇所は当然他の部位と比べて攻撃の通りも良くなるため、そこをシロコたちが突くことで修復を阻害しつつ的確に損傷を広げていく。

 

 各々が各々の役割を果たそうと尽力しており、一見すれば生徒たち側のほうが優位に立っている戦況は──其の実、見た目ほど優位に立っているというわけでもなかった。

 

 

≪■■■■■■■!!≫

 

 

 ──咆哮とともに、ビナーを中心として砂嵐が巻き起こる。巨体を覆い隠すほどの砂嵐を前に攻め続けるわけにもいかず、離脱を余儀なくされる生徒たちの表情は険しかった。

 

 程なくして砂嵐は収まっていき──先程まで負っていた損傷が嘘のように消え去ったビナーの姿が露となる。

 

 

「……やっぱり回復しやがるか」

 

 

 先のリンに負わされた、致命傷と言っても過言ではないレベルの損傷ですら即座に修復してみせたビナーを見ていた彼女たちに驚きはない。しかし、それはそれとして……"あまりにも、厄介すぎる"という感情が彼女たちの胸中に渦巻く。

 

 異常なほどの修復速度、エネルギーの消費が激しいであろうことは想像に難くなく、このまま削り続けていればいずれは修復も間に合わなくなるかもしれない……が、いつ訪れるかもわからないその時を待っていられるほど、余裕があるわけでもない。

 

 高い耐久力と高度な自己修復能力を両立するビナーを打破するには、修復能力を攻略するか、修復する間もないほどの高火力の一撃で持ってヘイローを破壊する必要があった。

 

 

「ねーリン先輩、さっきのは出来ないの~?」

 

「……出来ないわけじゃないけど、あいつの警戒心が高すぎるせいでさっきほどの威力は出せん」

 

「そっかぁ……神様を名乗るだけはあるって訳だねぇ……」

 

 

 傍へと降り立ったホシノは悪態をつく……が、特に慌てた様子は見せない。──なぜならば、この停滞し始めた状況を打開する術を既に知っているから。

 

 

「とりあえず、例のモノが届くまでは現状維持かな〜?……先輩」

 

「場所は」

 

「うーん……じゃああの小さいメイド服着てる娘の近くで!」

 

「よし、ちびメイドの近くだな」

 

「オイ誰だ今ちびメイドつった奴!?」

 

 

 にへらと笑みを浮かべる後輩の要望に従い、リンはホシノをビナーの背部で跳ね返った銃弾と入れ替え転移させる。……怒声が聞こえてきた気がするが、リンは知らんぷりをした。

 

 "ズガガガガガァンッ!!!"──と破砕音を響かせながら背を駆け上がっていく彼女たちに気を取られた隙をついて、舞い散る破片を対象として能力を発動。破損箇所へと拳を二度、三度と叩き込んでいく。

 

 さも当然のように発生する白閃により──リンのボルテージが加速度的に上昇していく。

 

 

「──ハハッ」

 

 

 殴れば殴るほどより洗練されていく己の神秘に思わず笑みをこぼしてしまうが、決して冷静さは失わない。周辺の砂が動き始めた事により再び砂嵐を巻き起こす気であることを察したリンは、ビナーの傍にいるものを片っ端から能力で転移させていく。

 

 

「おーい、カオナシー!」

 

 

 全員を転移させあとは自分だけとなったその時、先生が大きな声で呼びかけてきた。

 

 先生のいる方向へと視線を向けた彼は、相手が何を望んでいるかを察するとにんまりとあくどい笑みを浮かべ──"パァン!"と、柏手を打つ。

 

 入れ替えを行った直後、また先の焼き増しのように砂嵐がビナーの体躯を覆い隠すが……先程までとは違う点が一つ。

 

 砂嵐に覆われたビナーの頭上で、ほんの一瞬光が灯る。

 

 

 ──直後、耳をつんざくほどの轟音とともに砂嵐が吹き飛ばされ……爆炎が、ビナーを覆い隠した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「……わーお」

 

 

 かなりの距離があるにも関わらず、熱が伝わってくるほどの爆発に……指示を出した先生でさえ、思わず声を上げてしまう。

 

 ムツキ、ハルカ、そしてC&Cのアカネが所持していた爆弾をこれでもかと詰め込んだカバンと、リンの位置を入れ替えてもらったのだが……

 

 

(もうちょっと減らしても良かったかもしれないなぁ……)

 

 

 "でも、これだけやれば流石のビナーも"……そこまで考えた直後──ゾクリと背筋を伝う悪寒に、先生の警戒心が跳ね上がる。

 

 ……否、先生だけでは無い。皆が同様に嫌な予感を覚えた様で、今も尚爆炎に飲まれたままのビナーへと険しい目を向けていた。

 

 

『先生!ビナーのエネルギー反応が急速に上昇──っ!?』

 

 

 時間にして十二秒、突如として吹き飛んだ炎の先に見えるのは──こちらに向けて鎌首をもたげ、口腔内に光を溜め込み今にも"アツィルトの光"を放とうとする機蛇の姿

 

 既に臨界点に達しかけていた光は──アロナの警告も虚しく、対策委員会に向けて解き放たれた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──光が、迫る。幸い爆発に巻き込まれないようにと距離は取っていたため、放たれた直後に為す術なく喰らうことは無いが……それでも、後二、三秒もすれば光に飲まれることは火を見るより明らかであった。

 

 自分の能力であれば、何人かは逃がすことは出来るかもしれない……しかし、全員を逃がすことは不可能。誰を逃がすか、誰を残すかを取捨選択しなければならないが、誰かの犠牲を是とする選択肢を選ぶことなど出来ようはずもない。

 

 

(どうする、どうすれば全員が助かる……!)

 

 

 迷っている間も、岩をも一瞬で溶かす程の熱線が今にも仲間の命を奪わんと迫り来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その時、一人の仲間が前に出た。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──二年前、私が一人で噂を確かめに行こうとしなければ……もし二人と一緒に出かけていれば、リンくんとホシノちゃんが二年間も離れ離れになってしまう様なことにはならなかったかもしれない。

 

 "でも、それだけじゃなくて"──庇うように前に出た、梔子ユメはずっと後悔を抱いていた。

 

 

(もし私が、もっと強ければ……せめて自衛できるくらい力があれば、意識を失いさえしなければ、ちゃんと事情を説明できたはずだった。……大好きな二人が、仲違いしてしまうことはなかったはずだった)

 

 

 ……ずっと、ずっと後悔し続けていた。ホシノちゃんよりも強くなろうってリンくんと二人で約束しておきながら……誰かと争うことが、誰かを傷つけてしまうことが怖くて、恐ろしくて……いつもいつも、二人に守られてばかりだった。

 

 自分の弱さが恨めしかった。──大切な人が居なくなってからようやく気付いた自分が、何よりも憎らしかった。

 

 

(お互いにある程度気持ちの整理がついてからは、ホシノちゃんに無理を言って一緒に訓練に付き合ってもらったなぁ……)

 

 

 ……今でも、ホシノやリンと比べれば攻めるのはまだまだだし、火力も足りなくて二人みたいにビナーの装甲を一人で傷つけることは出来ないけれど──

 

 

「──それでも、私は!」

 

 

 盾を構え──この場にいる味方全員を囲うほどの巨大なシールドを展開しながら、ユメは叫ぶ。

 

 

「──守ることに関してだけは、ホシノちゃんにだって負けないからッ!!」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 命を奪わんとする"アツィルトの光"と、仲間を守護する盾がぶつかり合う。

 

 熱線を真正面から受け止めるユメの守りは──微塵の揺らぎも、綻びも見せはしない。

 

 

「……ユメ」

 

 

 別段、何か用があったわけではない。……にも関わらず、幼馴染の頼もしい後ろ姿を目にしたリンは無意識に彼女の名前を口にしていた。

 

 邪魔をしてはいけないと咄嗟に口を噤むが、既に声が耳に届いていたユメは振り返る。──目に映った彼女の表情は自信に満ち溢れていた。

 

 

「ねぇ、リンくん──私、強くなったでしょ?」

 

「……あぁ、見違えるほどにな」

 

 

 二人は揃って笑みを浮かべる。今はまだ戦闘中だと言うのに、ユメにいたっては今も尚熱線を防いでいる最中だと言うのに……そんな様子を微塵も感じさせないほどに、穏やかな空気が二人の間に漂っていた。

 

 

 ──(幼馴染)はもう、守られるだけの存在じゃない。

 

 

「頼むユメ……俺たちを、守ってくれ」

 

「……!もちろん、任せてっ!!」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 光が、次第に弱まっていく。掃射が終わり、巻き上がった砂煙が晴れると、そこには──傷一つない、対策委員会たちの姿があった。

 

 

≪……!?≫

 

 

 流石のビナーでも、渾身の一撃を無傷で凌がれたとあっては平静を保つことは出来なかったらしい。

 

 動きの止まった隙をつき、四方八方に散らばった彼女たちは無数の銃弾を浴びせかける。

 

 ……ユメに触発されたのか、生徒達の銃弾には先程までとは比べ物にならないほどの神秘が込められており、一人一人が着実にビナーの装甲を砕き、ダメージを蓄積させていく。

 

 しかし、ビナーとてやられっぱなしではない。

 

 ……散らばったということは、守りの手が届かない者が必然的に出てきてしまうということに他ならず、少しでも敵の数を減らそうとしたビナーは再び"アツィルトの光"を掃射する体勢に入る。

 

 

 ──ギリギリまで、狙いは悟らせない。

 

 

 そうして損傷箇所を修復しつつ攻撃を耐えながら限界まで溜め込んだエネルギーを、最大の怨敵且つ、己を挑発するようにちょこまかと動き回るリンに向けて解き放たんとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……が、光は終ぞ放たれることは無かった。

 

 

『先生!急速にこちらに向けて接近する反応ありです!所属は──ミレニアムです!』

 

『軌道確認……約1秒後、ビナーと接触します!』

 

 

 ──アロナの言葉通り、パワードスーツに身を包んだ乱入者が現れる。

 

 

「ったく……ようやく来やがったか」

 

 

 そのまま乱入者はビナーの顎下へと到達すると、進行方向を直上へと90度変更──ビナーの顎目掛けて、いつの間にやら持っていた身の丈程の巨大なハンマーを叩きつけた。

 

 ……既に放つ瞬間であった光の掃射を止めることが出来なかったビナー。無理矢理に閉じられた口腔内で溜め込まれたエネルギーは暴発し──ビナーの内部をぐちゃぐちゃにかき乱すように、衝撃が走る。




最後にでてきた子は、過去編でミレニアムとの関わりを持たせた時点でここで登場させることは確定してました。

それとホシノちゃんがアツィルトの光を防ぐために前に出なかったのは、リンがアビドスを離れてからのユメの努力を誰よりも近くで見ていたから、ユメならば大丈夫だと信じていたから任せたという訳です。
リンは幼馴染であるが故に、どうしても昔の感覚が抜けていませんでしたが……それも、今回で無くなりました。なのでこれからは、頼れるところはじゃんじゃん頼っていきます。




以下オマケ(ヒナちゃん空を飛ぶ)

「うぇえっ!?そ、空飛んでないアレ!?」

「なにあれ、どうなってんの…?いくら羽があるからって、風紀委員長が空飛べるなんて聞いたことないんだけど?」


 翼をはためかせ、空を翔るゲヘナ最強の姿を目にした便利屋68は戦慄の声を上げる。

 今も尚視線の先で、ビナーの対空射撃をバレルロールで華麗に回避しながら"終幕・デストロイヤー"による弾幕を浴びせかける空崎ヒナ。味方である今は頼もしいが、この戦いが終わればまたいずれは彼女に追われる事になるアル達は複雑な心境を抱いていた。



※ヒナちゃんが空を飛べるようになっているのには、オリ主である赤飛リンが関わっています。ヒントはリンの得意なこと、次話の前書きで答えを書きます。
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