……正直、二話に分けても良かったかもしれないと思いました。
また砂嵐か……と彼女たちは距離を取りながらも、警戒心を露わにする。先程までは身を隠す度修復されていたため煩わしいという感情の方が大きかったが……今のビナーは損傷を修復することは出来ない。
……にも関わらず、焼き増しの用に生徒たちを砂嵐で遠ざけるという行動。機蛇の厄介さを理解している彼女たちは──"目の前の存在が無駄な行動を取るはずがない"と険しい目でビナーを見据えていた。
『このままビナーの行動を待つ理由もないわ。……トキ』
「了解しました、命令を遂行し──」
"邪魔なのであれば、吹き飛ばせばいい"──再び腰だめに芭蕉扇を構えて振りぬこうとしたその時──砂嵐の向こうにあるビナーの影に、変化が訪れた。
◇◇◇◇◇
忌々しい、何故我が命題の邪魔をする?
ただの人の身でありながら、何故我が機体を傷付ける?
忌々しい、忌々しい、忌々しい
……しかし、今のままでは先に命尽きるのは──
…………
……今のままでは勝てぬというのならば、今よりも、もっと、もっと──
◇◇◇◇◇
──影が蠢く。同時に背筋が凍るような悪寒を覚えた彼女たちは何もさせまいと即座に行動に移るがしかし……その時には既に、ビナーの目的は果たされていた。
≪■■■■■■■■■■■ッ!!!≫
咆哮とともに、砂嵐は弾け飛ぶ──再びあらわとなったビナーの損傷は修復されていない。……だが、明確に先程までの機蛇とは違う点が一つ
「……あれは……羽、でしょうか?」
「ん、どちらかと言えば翼だと思う。……飛べるとは、思えないけど」
ノノミやシロコの呟きの通り、ビナーの背部には──体躯と同じ、純白の機翼が展開されていた。片翼につき優に50mはありそうな程の巨大な翼……しかし、ビナーの巨体を支えるには心許ないそれに、空を飛ぶためのモノではないとあたりをつけた彼女たちはより一層警戒心を高める。
"いったい、何のために"──抱いた疑問は、すぐに解消されることとなる。
「──ユメ、ホシノッ!!」
「「──ッ!?」」
──機翼に、莫大なエネルギーが集中する。ビナーは背部にあしらわれた翼の内側をリンたちに向けて大きく広げ──次の瞬間、無数の熱線が撃ち放たれた。
一つ一つは"アツィルトの光"に及ばないが、一つ一つが"アツィルトの光"に匹敵する程の威力を持ったそれは、明確な殺意を持って豪雨の如く彼女たちへと降り注ぐ。
時間にして約十秒ほど、その間に撃ち込まれた熱線の数は──優に、千を超えていた。
咄嗟にユメとホシノの二人がかりでシールドを展開したおかげで凌ぎ切ることはできたが、いくら防御に優れた彼女たちであってもそう何度も耐えられるものでは無い。
"もしこのまま立て続けに撃ち込まれれば、いずれ誰かが命を落としてしまうかもしれない"
──明確な命の危機を感じ取った彼女たちに緊張が走る。
(……これは)
──遠隔からの補助に徹していたリオは気付いた。
『全員、聞こえてるかしら』
「リオちゃん、どうしたの?」
『ちゃん付けは…………いえ、今は余計なことを言っている場合ではないわね』
『よく聞いてちょうだい。──今のビナーは、先程の無数の熱線を撃つことはできないわ』
「「「……!」」」
予想でも、希望的観測でもない。──明確な確信を持って告げられたその言葉に、彼女たちは目を見開いた。
一体どういうことなのか……リオの言葉に従い、リンたちはビナーの機翼へと目を向け──視界に映る光景に、得心する。
機翼は無数の熱線──仮称"アツィルトの光雨"を短時間で放ったことにより陽炎が生じる程の熱を帯び、オーバーヒートを起こしていた。
「……なるほど。あれだけの攻撃、当然なんのリスクもなしに撃ち続けれらるわけが無いよな」
「でも、何時までも大丈夫とは言いきれない」
「そうだねぇ、短い時間であんな大きな変化を遂げたビナーだし、即座に冷却する術を編み出しても不思議じゃない」
「あぁ、つまりは今この瞬間が──」
「「「「──ビナーを打破する、千載一遇の好機!」」」」
◇◇◇◇◇
ドォンッ!!
──響く一発の銃声を合図として、彼女たちは行動を開始した。
「──まずは、ビナーの翼を奪うよ」
幾ら"アツィルトの光雨"を直ぐに放つことが出来ないとはいえ、もし次放たれようものなら防ぎ切れるという確証は無い。そのため彼女たちは、ビナーの機翼を破壊することを第一目標として行動する。
「それじゃあ、行ってくる」
「アビ・エシュフ-β、発進します」
「よーし、おじさんたちも行こっか〜」
右翼はヒナ、左翼はアビ・エシュフに乗り込んだトキが担当し、ホシノを筆頭としたアビドス対策委員会は並行して進めるとある作戦のために、ビナーが逃亡できないように駆動部分を破壊するという役割を与えられる。
「はぁ……なんであたしが迎撃担当なんだよ。……まぁ、やるからには徹底的にやるけどなァ!!」
残るネルを筆頭とするC&C、便利屋68、ゲヘナ風紀委員会は、確実に迎撃してくるであろうビナーの攻撃を撃ち落とし、作戦の要となる人物たちの邪魔をさせないようにする。
『ちょっと前に出すぎじゃないですか!?』
「……リーダーは恐らく、攻撃する間も与えない程攻撃し続ければいいと考えているのかと」
「脳筋過ぎない……?でも、あれを見せられたら確かにって納得せざるを得ないか」
視線の先では、迫り来るヒナやトキを撃ち落とさんと展開した銃器を、ビナーの周囲を漂うAMASを足場にしながら片っ端から破壊していくネルの姿。ビナーは辛うじて破壊から免れた銃口を向けるも、空を飛んでいる二人を撃ち落とせるほどの弾幕は当然張れず容易に掻い潜られてしまう。
「凄いですね、私たちも負けていられません!」
「ん、心強いけど任せっきりじゃいられない。──アビドスは、私たちの大切な場所だから」
「……よーし、それじゃあおじさんもいっちょかましちゃおっかなー」
そう言って、ホシノは一発分だけ弾を込めながら銃口を突きつける。……何かを感じとったのか、ビナーは向かってくるヒナやトキから視線をずらしホシノへと砲口をむけようとしたが、今度は正面から迫る二人からの圧が大きくなった為にほんの一瞬ビナーに迷いが生まれた。
その隙を逃さず──ホシノは、引き金を引いた。
◇◇◇◇◇
二年前のあの日、先輩の腕を奪った私の
……それでも結局、手放すことは出来なかった。……一度手を汚してしまったのなら、シロコちゃん達が手を汚さすに済むように私が全てを請け負うべきだと……そう、思ったから。
──それこそが、罪を犯した私のすべき償いだと思っていた。
……でも、先輩はこんな私を赦してくれた。──大切な後輩だと、言ってくれた。
先輩にとっては至極当たり前の事だったのかもしれない。……それでも私は、その言葉が本当に嬉しかった。
だから、私は償いの為ではなく──
(──みんなの幸せを守るために、この引き金を引こう)
ちらりと、日が落ち始め暗くなり始めた空に瞬く、一際眩い輝きを放つ光に目を向けたホシノ。……再びビナーを見据えると──ありったけの神秘と想いを込めた銃弾を、撃ち放った。
◇◇◇◇◇
ドゴォッッ!!!!!
轟音とともに、ショットガン特有の広範囲かつ──凡そショットガンとは思えないほどの長射程の一撃がビナーを襲う。
ホシノの渾身の一撃は、ビナーの全身を覆う強固な装甲──そのうちの約三割を消し飛ばした。
≪──ッ!!!??≫
砕かれるどころの話ではない、跡形もなく自分の装甲を消し飛ばされたことに──ビナーは己の失策を悟った。空を翔る人間を無視してでも、展開する銃器を破壊する人間を無視してでも、地を駆ける小さな人間を全力で排するべきだった……如何な手を使ってでも、攻撃の手を止めさせるべきだった。
……しかし、後悔してももう遅い。ホシノの一撃は装甲を消し飛ばすだけでは飽き足らず、剥き出しとなった駆動部や回路をも修復不可能なほどに破壊しており……ビナーはその場から動くことすらままならないほどの損傷を負わされた。
「……流石ね、小鳥遊ホシノ」
「なるほど、あの方が……リンさんが自慢げに話されるのも頷けますね。……まぁ、私も負けていませんけど」
──そこへ迫るは、二対の翼。ゲヘナ最強の風紀委員長とミレニアム生徒会長の懐刀は、悶え苦しむ機蛇の両翼を堕とさんと全身全霊の一撃を叩き込む。
「──逃がさない」
「──
"一点集中"──下からすくい上げるように"終幕・デストロイヤー"から放たれたレーザーを彷彿とさせる一斉掃射と、刃渡り2mを超える大剣による大上段からの唐竹割りが炸裂──ビナーの機翼を引き裂いた。
──翼が堕ち、砂埃が辺りに舞う。機翼という矛も、装甲という盾も失い、ホシノの一撃により半身不随を起こし逃げ出すことすら不可能となったビナーの頭上、その遥か上空で──一つの星が、輝きを放つ。
◇◇◇◇◇
高度三万メートル、気温はマイナス50度に達する程の極限環境にて──リンは直下にいるビナーのことを静かに見据えていた。……と言っても、実際に見えている訳では無い。ただ、"あぁ、そこにいるんだな"と彼は見えずとも何となく感じ取っていた。
作戦開始と同時に銃弾を空へと撃ち放ち、入れ替わりを駆使することで生身では到底到達不可能な高度へと達した彼は、全身を神秘の膜で覆うことで己の身を保護しながら時が来るのを待ち続ける。
──全ては、ビナーを打破し大切な人たちの幸せを掴み取るために
地上では今もユメやホシノ達が戦っている。……共に戦えないことにもどかしさを感じるが──今はただ、皆を信じて待ち続ける。
──程なくして、その時はやってきた
リンはより厚く神秘で己を包み込む。纏う神秘が輝きを放つその様はまるで──……
◇◇◇◇◇
ゾクリ
ありもしないはずの身の毛がよだつ感覚を覚えたビナーは、周りにいる全ての人間を無視して空を見上げると……一筋の光が、己へ向けて迫る光景が目に映る。
地上から見上げるその様はまるで──天を駆ける、流星の如く
……しかし、星にしてはおかしな点が一つあった。その輝きは周囲の星々と比べて青白く……なによりも、先程から"ドンッ……ドンッ……"という何かを叩くような、もしくは強く踏みしめるような音が響いていた。
先程のホシノのこともあってか、ビナーは自身が抱いた警戒心に従い正体を確かめる為にじっと光を睨みつける。
──答えは、すぐに訪れた
己へと迫り来る光……その中に人影が映るのと同時に、進化し続けたことによりAIでありながら生物に近しいレベルにまで至った生存本能が最大音量で警鐘を鳴らす。
星の正体は、梔子ユメの幼馴染であり──小鳥遊ホシノの先輩、赤飛リン
彼は空を蹴り、重力の手助けも得ることで加速に加速を重ね続け、ビナーとの距離を急激に縮めていく。
もうほんの数秒も掛からずにビナーの元へ辿り着くであろう彼の現在の速度は──"秒速2000m"
二年前のホシノとの戦闘時に繰り出した銃弾との入れ替えによる超速の蹴撃をも超えるその速さはやがて、神秘による青白い光だけでなく熱による赤い光を放ち始めた。
──残り、一万メートル
"この場から逃げなければ"──生まれた生存本能がビナーに逃亡を促すが、あとほんの数秒もあれば直撃するであろうリンの攻撃から半身不随を引き起こした状態で逃れることは不可能であり……ならばせめて直撃は免れようとビナーは足掻く。
──残り、八千メートル
何とか修復が間に合った口腔内の砲口にエネルギーをチャージ、"アツィルトの光"での迎撃を試みる。
……しかし忘れてはならない、ビナーの敵は──決して、リンだけでは無い。
「言ったろ、迎撃担当だろうがやるからには徹底的にやるって」
「──あたしが"それ"を見逃すわけねぇだろッ!」
ビナーの開いた口元に、二丁のSMGが差し込まれる──同時に、発砲。全弾撃ち尽くす勢いで放たれたそれは、せっかく修復し終えた砲口を著しく破壊する。
──残り、六千メートル
……アツィルトの光はもう放てない、時間的に修復も間に合わない。残された迎撃手段はミサイルや機銃による一斉掃射しか残されていないが……今更、その程度でどうにかできるとも思えない。
しかし抵抗せねば生き残ることは到底不可能──ビナーは全身の砲門を開き、内蔵してあるミサイル及び銃弾の全てを打ち尽くす勢いで迫り来る宿敵へと撃ち放とうとするが……
「ん、邪魔はさせない」
「リン先輩の邪魔はさせませんよ〜!」
「やらせるわけないでしょ!」
『そうはさせません!』
──展開したそばから、シロコ達対策委員会の手によって破壊されていく。辛うじて破壊を免れた砲門から放つミサイルも……全て、総て撃ち落とされる。
──残り、四千メートル
ビナーにはもう……最早、迎撃する手段は残されていない。逃げられるとは思えないが、それでも逃げなければ課せられた使命を果たすことなく終わってしまう。
まともに機能しなくなった自らの下部を、ほんの僅かに残っていた爆薬を内部で起爆し切り離す。体積も減ったことで少し身軽になったビナーは、この場からの離脱を試みるが──
「「
突如として両脇に展開された極大のハニカムシールドが、ビナーを挟み込み逃げ出そうとする機蛇の動きを阻害する。
見れば抑えているのは矮小な人間二人のみ……なのに、動けない。
一体どうなっているのか、圧倒的な体格差があり、足元も砂漠ということで踏ん張りが効かないはずなのに……万力のように固定されたビナーの機体はその場から微塵も移動することが叶わない。
──残り、二千メートル
ユメとホシノ、シロコたち対策委員会以外のメンバーは巻き添えを喰らわぬために、既にこの場から離脱した。
シロコたちはビナーが逃げ出さないようにと、ユメとホシノを後ろから支え……二人は後輩たちを間もなく訪れるであろう衝撃から守る為に、シールドを前面にのみ集中させることでより強固なものとする。
ビナーは──己へと迫り来る流星を見上げることしか、出来なかった。
残り──
「
リンは身に纏う神秘を自壊しない最小限に、残る神秘を総て右手に集約させ───ビナーの顔面へと、叩き付けた。
──ゼロメートル
「─
◇◇◇◇◇
赤飛リンの全身全霊の一撃は──白き稲妻の祝福と共に、ビナーへと襲い掛かる。
その一撃は大気を揺らし、大地を鳴動させ……遥か遠くにあるアビドスの市街地へと己の存在を知らしめるかのように衝撃が走り抜けた。
幾ら打撃方面への耐性を得ようと、衝撃を逃がし、吸収するような特殊な装甲を得ようとも……度重なる攻撃により消耗したビナーに、耐えられる道理なし。
逃し切れぬ衝撃はビナーの内部を駆け巡り、直撃した箇所に至っては赤熱し、砕け、融解し……そして、消え去っていく。
何故、何故、何故……何故、こうなってしまったのか。
最早雄叫びをあげることすら不可能となったビナーは自問自答を繰り返すが、人の心が理解出来ぬ機蛇では答えは出ないまま、"バキバキ…バキリ……"とビナーの全身に亀裂が走りそして──
パキンっ
──と、ヘイローが砕けた軽い音は……直後に響くまるで隕石でも落下したかのような轟音により、掻き消されたのであった。
サブタイ別名②「小鳥遊ホシノの先輩」
⇒モデルは流星〇条×拳骨〇突
トドメをどうするかを考えた時に思い浮かんだのが、本作過去編「宝探し④」にて三人で見上げた流れ星だった。そこから生み出された対巨大、対人外専用の必殺技。──タメも隙も大きいため、直撃させるには誰かの助けが必要。
※初めは過去のホシノ戦で見せたように、銃弾がもう間もなく当たるという瞬間に能力を使用して入れ替わり、渾身の一撃でトドメ……というのを考えていたが、誰かを頼ることを覚えたリンが一人でも出来るような技をトドメに使うのはどうかと思ったので没になった。
あと今回採用した方のが、徐々に速度を上げていくため身体にかかる負担が銃弾との入れ替わりよりも少ないというのもある。
話を書く上で励みになるので、感想や評価などなどお待ちしております|´-`)チラッ