小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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ただいま

 ──巨体が崩れ落ちる。ヘイローが破壊され、全身の装甲は余すとこなく砕け散り、内部構造も滅茶苦茶に破壊されたビナーはピクリとも動かない。

 

 本来であれば跡形もなく消え去ってもおかしくないような一撃を受けながらも、ギリギリ原型を保てているのは……ひとえに、リンが直前で攻撃に回す神秘の量を減らしたからである。

 

 三万メートルという高度からの一撃など当然これまでただの一度も放ったことは無かったが……辺り一帯に被害が出ることは、想像に難くなかった。

 

 

 

 ──何よりも、例えビナーを倒したとしても自分がボロボロになってしまってはユメやホシノに心配をかけてしまうと思った彼は、一部の神秘を再び自身の肉体への保護へと回したというわけである。

 

 

 

 なおこの時、リンは後輩たちの心配は全く……と言っては語弊があるが、差程心配はしていなかった。

 

 幼馴染や後輩がシールドを貼っていることは落下中に確認できたし、直撃ならまだしもただの余波で二人のシールドが破れる程やわではないだろうと彼は信じていたが故に。

 

 

 そのお陰、と言うべきか……当初の予定よりも肉体にかかった負荷が少なく済んだ彼は、ビナーから十分に距離を取ってから神秘を込めた銃弾を足元にばら撒くと──柏手を打つ。

 

 

 

 セリカ、ノノミ、シロコ──そして、ユメとホシノ

 

 

 

 後方支援のため距離を置いていたアヤネを除き、最後までビナーの足止めを買って出てくれた彼女たちを砂の中から順番に転移させる。

 

 

「……うん、良かった。みんな無事だな」

 

 

 衝突の直前……ユメとホシノはシールドを後輩たちも含めてギリギリ包み込めるくらいに縮小し、余剰分の神秘を全てシールドの耐久力をあげること、もしくは二重三重に展開することに使用していた。

 

 流石と言うべきか……そのお陰で、目の前に立つ彼女たちは目立った傷を負っていなかった。

 

 

「無事は無事だけどさぁ……間一髪だったよー……正直、ビナーが放ったレーザーよりもやばかったかも?」

 

「……すまん、余波くらいなら大丈夫だと思ったんだが……やっぱ高度三万メートルからはやりすぎたか」

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 

 

 

 "高度三万メートル"──その言葉を聞いたユメの目がスっと細まる。

 

 

 

 

「ねぇ、リンくん……私たち、()()()()()()って聞いてたんだけど?

 

「…………あ゙っ

 

 

 

 元々聞いていた一万メートルですらどうしてもと言うから渋々許可したというのに……その三倍?気温だってマイナス50度近くはある、明らかに人が生存することが不可能な極限環境に生身で赴いたと?

 

 "ゴゴゴゴゴ……"と聞こえてきそうな程の怒気を滾らせながら、ユメは凄みのある笑みを見せる。……もちろん、目は笑っていない。

 

 リンはダラダラと冷や汗を流しながら目を逸らす。……彼は今、ビナーと対峙した時以上に焦りを抱いていた。

 

 詰め寄る幼馴染に対し、リンは後退ろうとして……その足を止めた。

 

 

「……そう、だよな……幾ら自分では大丈夫だって思ってても、周りが心配しない訳じゃないもんな」

 

「…………」

 

 

 "悪かった"と頭を下げる幼馴染を前にして、ユメはその足を止める。

 

 ……幼い頃からリンとずっと一緒にいた彼女は、彼の行動原理の根底にはいつも──"誰かのために"という事があるのは理解していた。

 

 実際にそんな彼にいつも助けて貰っていた自分が文句を言えたことでは無いと理解していても、それでもやっぱり無茶だけはして欲しくないと思ってしまうのは仕方の無いことだろう。

 

 

 

 ──それだけ、ユメにとってリンは大事な存在なのだから。

 

 

 

(でも、きっとリンくんはいざその時がきたら無茶するんだろうなぁ……)

 

「…………はぁー……気付いてくれるようになっただけ良しとするべきなのかなぁ……」

 

 

 ユメは深く深くため息を吐く。……約二年、会えない期間があったけれど……二年前より強くなってもなお変わらぬその優しい心根に、嬉しいやらもどかしいやら、複雑な気持ちを抱いてしまう。

 

 

(ビナーの攻撃も凌げるようになったけど……もっともっと、強くならないと駄目だよね)

 

「……今回は仕方なかったってことで許してあげるけど、なるべく無茶はしないでね?」

 

「ああ、分かった」

 

「……なら今回は許してあげる。──でもホシノちゃんたちは許すかなっ!?」

 

 

 

「………って、あれ?」

 

 

 

 若干のおふざけを含めながらユメが振り返ると──"くぁ…"と大きく欠伸をするホシノの姿が目に映った。

 

 目をくしくしと擦りながら眠気に抗うホシノ。色々と張りつめていたものが無くなったおかげと言うべきか……今の彼女は普段以上の睡魔に襲われていた。

 

 

「ホシノ先輩、良ければ私がおんぶしましょうか?」

 

「んー……いや、ノノミちゃんも疲れてるだろうし大丈夫だよ」

 

 

 "ありがとね"と、眠気混じりのふにゃりとした笑みを浮べながらも断りを入れた彼女は、とてとてとリンの側へと近づいていく。

 

 ホシノはそのままリンの手を引いてしゃがませると──そのまま彼の背にしがみついた。

 

 

「私は先輩に背負ってもらうからさ……先輩はみんなに心配をかけさせた罰ってことで甘んじて受け入れてね〜」

 

「……そうか……それは断れないな」

 

 

 彼は断ることなく、ホシノを背負ったまま立ち上がると──タイミングよく、遠くからこちらへと向かってる幾人かの人影が見える。

 

 

「みなさーん、ご無事ですか〜!」

 

「あ!アヤネちゃん!」

 

「ん、アヤネたちも無事みたいで良かった」

 

 

 先陣を切って走ってくるのは、対策委員会の仲間である奥空アヤネ。ビナーに向けて放たれた最後の一撃を遠目から見ていた彼女は、セリカたちの無事を確認するとホッとした様子で息を吐く。

 

 その後も、アヤネに続いて先生たちも此方へとやってきた。皆口々に"お疲れ様"、"凄かった"などと労りと褒め言葉を投げかけていく。

 

 

「お疲れ様。良かったね、カオn……リンくん」

 

「お疲れ様先生……無理して下の名前で呼ばなくてもいいんだぞ?シャーレには同じ名前の七神行政官もいる訳だし」

 

「……確かに最初はそう思ってたけど、せっかく名前がわかったんだし、やっぱり名前で呼びたいなって思ってさ」

 

「そうか……先生がそうしたいなら俺がとやかく言う筋合いもないな」

 

 

 

「──ありがとな、先生」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 

 

 リンは改めて先生に礼を告げると、辺りを見渡す。──視線の先には、学園の垣根を越えて互いを称え合う生徒たちの姿。

 

 アビドスを、大切なものを守る為に力を貸してくれた彼女たちへと、彼は感謝の念を抱きながら──"ありがとう"と、静かに頭を下げた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「それじゃあ、帰ろっか!」

 

 

 ユメの言葉をきっかけとして、彼女たちは帰路へ着く。……ホシノはリンの大きな背で揺られながら、どこか懐かしい温もりに微睡んでいた。

 

 気を抜いてしまえば直ぐにでも眠ってしまいそうだけれど……それでもこれだけは眠ってしまう前に伝えなければと、言の葉を紡ぐ。

 

 

 

 ──一度は伝えたかもしれないけれど……あの時自分は泣いてしまっていたから、改めて。

 

 

 

「……せんぱい」

 

「……?ホシノ、起き──」

 

 

 体重の掛かり方から、てっきりもう寝ているものだと思っていたリンは背負っているホシノへと顔を向けようとして──

 

 

 

 

「──おかえりなさい」

 

 

 

 

 静かに耳元で囁かれた言葉に、彼は振り向こうとする動きを止めた。

 

 ……そういえば、あの時は自分の所為で泣かせてしまったホシノを宥めるのに必死で言えてなかったなと、リンは優しく笑みを浮かべながら告げる。

 

 

 

 

「あぁ……ただいま、ホシノ」




これにてアビドス最終決戦は終了です。

後二、三話くらいかな?後日談とかを書いたらアビドス編は完結となります。


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